コマツの情報システム部門を前身とするクオリカは、これまでコマツのITシステムを開発から運用まで幅広く担当してまいりました。業務の内容は、基 幹システムはもとより、研究開発、エンジニアリング、製造、営業、サービス、品質管理、アウトソーシングなどあらゆる領域にわたっています。

また、流通・サービス業様向けの各種ソリューション(外食産業、小売業、人材派遣業向けのシステム)のITコンサルティングから運用・ 保守まで一貫したサービスの加え、情報システムやネットワーク基盤の企画、設計、構築およびデータセンターでのホスティング、ハウジング、システムオペ レーションなど、情報システムに関するアウトソーシングサービス全般をご提供しております。

近年、鋳造業界において、海外に拠点(工場)を設立されるお客様が増えています。特にCAE(*)をご利用されているお客様からのニーズに合わせ、 時間や場所を問わずに解析結果等のデータを共有が行えるようにしていく必要がありました。また、お客様の大事なデータ(資産)を自然災害から保護すること も新たな課題として挙がってきています。こうしたニーズにこたえるため、社内サーバー上での利用ではなく、ネットワークのアクセスが良く、堅牢なデータセ ンター経由でCAEを提供する方法が求められるようになりました。

一方、CAE本来のパフォーマンスである「解析計算の高速化」は、お客様からは常に要求される事項であり、処理速度の速いサーバーを準備で きることも重要な要素でした。当社では、3次元CADデータ(STL)を独自のインターフェイスで取込むことで短時間で簡単に解析モデルを作成し、各種鋳 造プロセスにおける溶けた金属の湯流れ、および凝固のシミュレーションを行う「JSCAST」というCAEパッケージソフトを提供していますが、このソフ トウェアのためのデータセンターとサーバーへの高度な要求を満たす解決策として、クラウドの利用検討が始まりました。

* CAE: コンピュータ エイデッド エンジニアリングの略:コンピュータ技術を活用して製品の設計、製造や工程設計の事前検討の支援を行うこと

クラウド導入にあたって重視したポイントは、価格、スケーラビリティー、そして海外展開の容 易さでした。検討の結果、AWS のコストパフォーマンスは数あるクラウドサービスベンダーの中でも、非常に優れていました。料金体系についても、利用量に応じた従量課金制となっており、 状況に応じてスケーラブルに仮想マシンをカスタマイズできることも大きなポイントとなりました。

技術的な面では、オンプレミスと同等の性能で当社の「JSCAST」というCAEを提供できるかどうかを最も重視しました。AWS では Amazon EC2 で HPC インスタンスが提供されており、高性能な仮想マシンを安価に利用可能でした。また、世界各地のリージョンを利用することができるため、状況に応じた環境構 成を図ることで、パフォーマンスを最適化することができると判断いたしました。

導入にあたっては、サービス初期段階において AWS サポートの方から手厚くフォロー頂き、AWSのソリューションアーキテクト等による技術的な支援も AWS 導入の大きな要因となりました。

今回のシステムは、以下のプロセスで本番環境の構築に至りました。

  • 解析計算用の Amazon EC2 インスタンスの選定
    まずは、オンプレミスと同等の解析計算速度を実現できる Amazon EC2のインスタンスタイプの選定からはじめました。AWS では様々な用件に応じたインスタンスタイプが提供されているため、複数のインスタンスタイプで動作検証を実施した結果、現状とほぼ同等のパフォーマンスを 発揮できる HPCインスタンスを選定することができました。
    テスト段階では、インスタンスの作成・削除は簡単に行うことができ、AWS Management Console の利便性の高さを強く感じました。
  • セキュリティ及びネットワーク構成の決定
    お客様のデータが安全に転送・保持される仕組みが非常に重要となるため、Amazon VPCに注目しました。Amazon VPCを利用することで仮想的なエクストラネット環境を構築でき、社内ネットワークとシームレスな環境にインスタンスを作成することが可能となりました。 現在では、中国を含む様々な海外拠点からも、安全にCAE環境を利用することができています。
  • お客様環境からのAWSリソース制御方法の確立
    最後の課題となったのが、お客様環境からどのようにしてインスタンスを制御するかという点でした。これに関しては、AWS の各機能をプログラマブルにコントロールできるAPIを活用し、お客様自身が「使いたいときに、使いたいだけ」サービスを利用できる仕組みを構築しまし た。IAM(AWS Identity and Access Management)というAWS の利用者権限管理の機能を組み込むことで、サービス提供者である弊社とお客様の間で、コントロールできる範囲の線引きをすることができ、セルフサービスで ありながら、適切な管理も可能な環境を構築できています。

 

 

 

「クオリカ株式会社様 システム構成図」

 

実際に利用してみて、AWS のメリットは以下の3点だと感じました。

迅速かつ低コストで利用できる

用途に応じたインスタンスタイプを選べるうえ、運用状況に応じてスケールさせることが簡単に実行できる

API、SDK など開発者にとって有効な機能が提供されている

今回、AWSクラウドを使った環境で当社サービスの初年度料金設定を行ったところ、従来と比べて60%以上のサービス料金引き下げを実現す ることができました。お客様にも初期投資コストを抑えてご利用いただけるようになったのは、システムコストを削減することができた当社だけでなく、お客様 にとっても大きなメリットとなりました。

ハードウェアの調達が不要になったので、サービス開始までの時間も大幅に短縮できました。ソフトのバージョンアップについても、ほんの数分~数時間のアップデート時間を設けるだけで、実現可能となっており、導入、運用の両面において非常に助かっています。

また、お客様にとって機密事項である解析計算時に必要なCAD関連データ、計算条件ファイル等を安全にクラウド環境に転送することは当社にとって最重要課 題でしたが、Amazon VPC がそういった問題を解決してくれたことで、安全なサービス提供を実現できています。

AWS を採用したことにより、お客様の機密事項を高いパフォーマンスで解析処理できる安全な環境を構築することができました。
今後は、AWS SDKを活用して、お客様環境の条件に応じたインスタンス制御をより簡便にするための仕組みと転送効率化の改善を行っていく予定です。また、さらに解析計算を高速化するために、GPUインスタンスを活用していく予定です。


 

- クオリカ株式会社 西日本事業部 ビジネス第二部 JSCASTチームリーダ 木下 慎一 様


※クオリカ株式会社様の「JSCAST」の詳細はこちらからご覧いただけます。