株式会社ヴァル研究所は、日本で初めて電車の乗り換え案内ソフト「駅すぱあと」を開発・販売したソフトウェアメーカーです。現在「駅すぱあと」は電車だけではなく、バス・飛行機・船などを含めた公共交通機関の総合的な乗り換え案内ソフトに成長し、企業の交通費精算や通勤費の支給計算、ポータルサイトへの経路探索サービスの付加、モバイルでの利用など、ビジネス・個人の様々なニーズにお応えするソリューションとして提供しております。

「駅すぱあと」を WebAPI 化した「駅すぱあとWebサービス」を展開するにあたり、不意のアクセス増や、大規模に利用されるユーザー様との契約が発生した場合など、常にキャパシティーの不安がありました。

今回、事例として紹介している「駅すぱあとWebサービス」以外でもキャパシティーのリスクが存在しており、モバイル向けのサービスやアプリでは、自然災害(台風や降雪など)や事故などで急激に負荷が上昇し、サービス提供に支障をきたすこともありました。また、運用面でも自動化による効率化を考えねばならず、既存のオンプレミス環境では限界を感じていました。

こうした背景からスケーラブルなインフラを実現できるクラウドの検討を開始しました。

オンプレミスからの脱却を検討していく段階では、PaaS なども検証しましたが、AWS は構成の柔軟性やサービスの数など、他の追従を許さないレベルでした。また、情報も非常に充実しており、オフィシャルなドキュメントだけでなく、利用者が発信する情報もインターネット上に大量に存在し、学習、問題解決などをしやすいサービスだという印象を持ちました。事実、スライドの情報やクラウドデザインパターン(CDP)というベストプラクティスのおかげで学習効率もよく、AWS 自体を学習しつつ、移行可能かどうかの検証も容易にできました。

検討にあたってはエンジニアが主体となり技術的側面から社内をリードしました。駅すぱあとのエンジンが動作することに加え、十分な速度が出ることが重要でした。同時に可用性や迅速に調達できるかという点が不可欠で、特に急激な負荷上昇に対して極力人手をかけずに素早く対応できるかどうかを重視しました。こうした懸念を AWS はすべてクリアすることが分かり、AWS への移行を決定しました。

AWS は 2012 年初めに初期検証を始め、2015 年現在で3 年半ほど利用しています。現在では「駅すぱあとWebサービス」以外にもデータセンター上で運用していたサービスの移管や、新規サービス、モバイル向けアプリのバックエンドなど幅広い用途で利用しています。新規に提供するサービスはすべて AWS で稼働しており、過去のサービスも、順次移管を進めています。

「駅すぱあとWeb サービス」では、改善を繰り返し、初期から比べると大分シンプルな構成にまとまっています。初期の構成はできること、やりたいことを大量に盛り込んだ構成でしたが、理解を深めていく過程で AWS に任せられる所は任せる構成へとシフトしました。具体的には Amazon EC2 と Elastic Load Balancing だけの最小限の構成から始めて、現在の構成にいたっています。駅すぱあとはその性質上、データの更新頻度が多いので、アプリケーションを Amazon EC2 にシンプルにまとめた AMI を CI から生成することで、リリースやスケールに素早く対応することができています。

株式会社ヴァル研究所様 システム構成図

オンプレミスの制約から抜け出たことにより、単純な構成だけでなく、技術的な実験や GitHub など外部のサービスとの連携なども可能になり、開発の柔軟性も大きく向上しました。また、自動化を促進したことで、より開発に時間を割けるようになり、ビジネス成果として、データの更新、新機能のリリース速度等も大きく改善しています。

Multi-AZ、AutoScaling、各マネージドサービスの利用により、可用性、キャパシティーの改善が実現できたため、環境由来の障害は今のところ発生していません。例えばキャンペーン等を実施する際、アクセスが突発的に増加する傾向がありますが、事前にインフラをスケールできるだけでなく、短期利用のために別環境を用意することも瞬時に可能になりました。

駅すぱあとのみならず、新規サービスの立ち上げの際も初めから AWS を前提とした環境構築を行っているため、オンプレミスの時のように承認や調達を必要とせず、市場へのスピーディーなサービス投入に非常に役立っています。また、AWS 環境での安定したサービス提供はユーザー様からも高い評価を得ています。安定稼働はユーザー様の選定条件の 1 つとなっており、営業もセールストークの 1 つとして利用しています。

更に、AWS の導入以降、当社のサービス・ソフトウェアだけでなく、インフラも常に改善する必要性、オープンソース等を活用することによる時間とコストを削減する姿勢、開発部門とインフラ部門、そして保守部門の協力体制等、社内文化的な点でも変化が生まれました。

AWS の利用がきっかけで、当社では必要なサービスを外部から取り入れることがスタンダードになり、ビジネスが成長していく契機にもなりましたので、クラウドを検討する際はコスト、機能比較だけでなく様々な角度から検討してみると良いのではないでしょうか。



- 株式会社ヴァル研究所 開発部サービスプラットフォームチーム チームリーダー 見川 孝太 様