Amazon Web Services ブログ

【開催報告】公共調達にスタートアップが参入しやすくするには?AWS Startup Ramp Meetup vol.2 【後編】

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWS) パブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup)の岩瀬霞です。AWS は、2022年 11月 25日 に公共分野で活躍する AWS Startup Ramp メンバーのスタートアップ企業と、そのスタートアップ企業の活動を支援している自治体の方を招いて AWS Startup Ramp Meetup vol.2 を開催し、その様子をお届けします。本記事は、【開催報告】公共分野でスタートアップが事業拡大するには?AWS Startup Ramp Meetup vol.2 【前編】の続編記事となります。

公共調達にスタートアップが参入しやすくするには?

「自治体xスタートアップのベストプラクティス、難しさ」のパネルディスカッションに続いて、「公共調達にスタートアップが参入しやすくするには?」という実践的なテーマでパネルディスカッションを行いました。スピーカーとして、株式会社Chaintope(以下、Chaintope) 代表取締役CEO 正田 英樹氏、Code for Japan MoCプロジェクトマネージャ 酒井 一樹氏、デジタル庁 企画官 吉田 泰己氏、株式会社自動処理(以下、自動処理) 代表取締役 高木 祐介氏の4名をお迎えしました。AWSジャパンパブリックセクター キャプチャーマネージャー(調達戦略支援)岡野 聡子がモデレーターを務め、公共調達にスタートアップが参入する際のチャレンジや、解決に向けた取り組みについてお伺いしました。本ブログでは、その一部を抜粋してお知らせいたします。

左から、AWSジャパンパブリックセクター キャプチャーマネージャー(調達戦略支援)岡野 聡子、株式会社自動処理 代表取締役 高木 祐介氏、デジタル庁 企画官 吉田 泰己氏、Code for Japan MoCプロジェクトマネージャ 酒井 一樹氏、株式会社Chaintope 代表取締役CEO 正田 英樹氏

スタートアップが公共調達に参加する際の壁

AWS 岡野:スタートアップ側から見ると、公共調達に参加される場合は様々な壁があると思います。まずはスタートアップの皆様がどういった壁に直面されているかお伺いしたいと思います。

Chaintope 正田 氏:弊社はブロックチェーンを活用した街づくりの事業を行っていますが、佐賀市の環境価値の可視化のプロジェクトでは、スーパー公務員の方がいらっしゃって順調に進んでおりました。しかし、市長選の後に、部署異動が行われたタイミングでストップしてしまいました。また、地方創生では関係部署が多いが、縦割りなので連携できておらず、話がストップしてしまうことがあります

また、飯塚市の空き屋解消プラットフォームのデジタル実装プロジェクトでは、4つの業務に分けて、それぞれが入札にかけられていました。採択事業者が決定した後に顔合わせしたところ、4つの業務の統合の難易度が高いことがわかったのですが、複数の異なる部署が携わるプロジェクトを統合・指揮する役割を担う人材が行政には不可欠だと実感しました。

株式会社Chaintope 代表取締役CEO 正田 英樹氏

自動処理 高木氏:弊社は12年中央官庁の様々な調達に関わってきましたが、スタートアップにとっての公共調達の難しさについて、提案前の困難さ、事業執行、事業執行後、次回の公募前、と4つ分けてお話します。

まず提案前の困難さについては、営業方法がわからないことです。営業から入るのが難しいので、調達ポータル等、公開されている調達情報を活用すべきです。自治体のニーズがわからないということもあります。公募ではやりたいことは書いてあるが、どういった経緯かがわからない。このような場合は官民クラウドなどのサイトを活用してニーズの深堀りをするのがよいと思います。

また、入札参加資格などの手続きも煩雑です。全国の自治体をターゲットにする場合は既に複数の自治体様と取引のある大手の法人と組むべきだと思います。

公募がかかった後仕様変更ができないという問題もあります。民間であれば、事業実施しながら調整してくことができますが、行政の場合は仕様が決まっているので、調整ができません。こういった場合は、次回の調達で工夫をしてもらうように提案します。

提案書の書き方がわからないケースも多いです。これについては、やはり大手企業の提案書はクオリティが高いので、まずは大手企業と組んでみるのも良いと思います。どのくらいの提案書を書けばよいか分かれば、後々やりやすくなります。

株式会社自動処理 代表取締役 高木 祐介氏

事業執行時の困難については、まず行政側の担当スキルが千差万別で、2-3 年で人事異動があることです。今携わっている事業でも、担当者が全員異動したということを経験しました。こういった案件は地雷なので、見極めながらやったほうがいいです。

仕様書に記載のない業務の依頼があったり、事業終了後の確定検査に対応できるかという問題もあります。

最後に、入金のタイミングの問題です。事業終了後の入金になるため、事業開始から入金まで 14 か月かかることもあり、スタートアップは特に気を付けなければいけません。私自身も最初の事業で苦労しました。

次回の公募に向けた準備については、一度良い仕事をすれば次の調達に呼んでもらえる可能性が高まりますので、目の前の事業にしっかり対応し、その流れで次の公募に向けて提案をしていく準備をしましょう。

AWS 岡野:官民両方での実務経験をお持ちの酒井さんのお考えもお伺いできればと思います。

行政とスタートアップが歩み寄って、お互いに理解すること

Code for Japan 酒井氏:シンプルにいうと、①仕様書が不明瞭すぎる、②事務手続きが煩雑すぎる、③評価基準が公正とは思えない、の3つです。

①仕様書の不明瞭さについては、仕様書を書いている人もわかっていないで書いていたりします。そもそも政策を作った方が、執行する時にいなかったりします。

②の手続きの煩雑さについては高木さんが詳しく解説していただいたので飛ばしますが、③の評価基準が公正とは思えないという点に関しては、例えば、えるぼし認定、くるみん認定、ユースエール認定など、実質的に大企業しか取得できない認定に対して加算されたりする現状があります。

しかし私が最終的に言いたいのは、不満ばかり言っていても仕方がないので、歩み寄ってお互いに理解をし合うことが重要と思います。「彼を知り己を知れば百戦殆からず」ということで、スタートアップの方もぜひ勉強していただきたいと思います。まずは官公庁の会計実務の本を読んでいただくと、公共調達を行っている側がどういったプロセスを踏んで、どういう想いでやっているかがわかります。ここから入ると、二歩目・三歩目が楽になります。

Code for Japan MoCプロジェクトマネージャ 酒井 一樹氏

改善に向けたデジタルマーケットプレイスの取り組み

AWS 岡野:こういった今ある制度にスタートアップが合わせていくという観点もありますが、スタートアップの皆さんからご指摘があった課題に対し、吉田さんとしてどのように解決していこうと取り組まれているか教えていただけますでしょうか。

デジタル庁 吉田 氏:デジタルマーケットプレイス(DMP)の導入に関して世界経済フォーラム第4次産業革命センターを事務局としたタスクフォースで検討を進めております。通常は一般競争入札という形で公募をかけますが、現状の手続が複雑で長期間を要します。DMPでは、先に事業者の方にサービスを登録していただき、その中から行政機関が最も適切なものを選択し契約するという仕組みです。これによって調達マーケットにおける情報の非対称性をなくし、事業者、行政双方にとって短期間でデジタルサービスを調達できる環境を目指します。

タスクフォースには、行政機関、IT ベンダー、スタートアップの方など、多様なステークホルダーに議論に入っていただいています。調達対象に関しては、SaaS の導入をもっと容易にしていきたいと考えています。業務用ツールの調達のみならず、デジタル化が進んでいる行政機関ではプロフェッショナルの IT 職員を採用し、内部で開発するケースも増えてきていますので、ソフトウェア開発ツールの調達もできるようにしたいと思います。また、直販の形だけでなく、リセラーを経由した販売も想定しています。

仕組みとしてははじめて DMP を導入した英国の事例を参考にしながら進めています。まずサービスを登録していただき、行政機関が登録されたサービスを選びに行くという仕組みにできると、スタートアップの皆さんが各行政機関に個別に営業するコストを下げられるなどのメリットがあります。今後この仕組みの導入に向けて検討を進めていきますので、ウォッチしていただければと思います。

デジタル庁 企画官 吉田 泰己氏

スタートアップも行政も同じコミュニティに入り、よりよい行政サービスを作っていく

AWS岡野:行政側やスタートアップに伝えたいことはありますか?

Chaintope 正田 氏:一定の型がある調達なのか、デジタル田園都市国家構想など今から新しいものを考えていく調達なのかでやり方が異なると思いますが、地方創生など新しいものを考えていくものでは2つのアプローチがあると思います。

一つは、複数部署に跨るプロジェクトを仕様観点からも取りまとめるチームが自治体に必要です。もう一つは、自治体と一緒にやっていこうというコミュニティを作っていくことも重要です。AWSには、人材育成や仲間づくりを含めて期待をしています。

自動処理 高木 氏:行政の調達は1 社入札が多いが、むしろ2 社以上に競争させていくことが望ましいと思っています。スタートアップがいかに気軽に参加できるかが大事なので、DMP 等の仕組みにも期待したいですし、スタートアップの参入も促したいです。

Code for Japan酒井 氏:私はスナック恭子というYoutubeチャネルをやっておりまして、たくさんのゲストを読んで対談スタイルでお話を聞いています。中には政府関係の方も多く、どういった考えで政策を打たれているかがわかります。そういったものを通じて政策側・スタートアップ側それぞれ理解を深めていくことで、身近なものとして参入しやすくすることが大事だと思っています。

デジタル庁 吉田 氏:議論にもあったように行政側の政策立案、予算要求のプロセスなどを知ることも重要です。早い段階から一緒に政策を考えていける関係性を作っていけると、色々な可能性が広がってくると思います。コミュニティでの交流を通じてスタートアップの方々と一緒によりよいサービスを作っていけることを行政側も望んでいますので、ぜひ臆せずスタートアップの方に公共調達にチャレンジしてほしいと思います。

AWS 岡野:ありがとうございます。スタートアップ、行政側で目指す方向は同じですね。今日お話にあったように、お互いを知ることが重要なステップですので、AWSとしてもそういった場を企画・提供していきたいと思います。本日は大変御忙しい中、ありがとうございました。

左から、株式会社自動処理 代表取締役 高木 祐介氏、デジタル庁 企画官 吉田 泰己氏、Code for Japan MoCプロジェクトマネージャ 酒井 一樹氏、株式会社Chaintope 代表取締役 CEO 正田 英樹氏、AWSジャパンパブリックセクター キャプチャーマネージャー(調達戦略支援)岡野 聡子

自治体、政府関係者、スタートアップが繋がる懇親会

最後は懇親会にて、スタートアップや自治体職員の方に交流していただきました。実際に商談に繋がったというお声をいくつかいただいています。AWS Startup Ramp では、引き続きこういった公共分野のスタートアップと自治体・政府関係者が繋がる機会を提供していく予定です。ご参加いただいた皆様、改めましてお忙しい中ありがとうございました!

おわりに:AWS Startup Ramp について

AWS Startup Ramp は、アマゾン ウェブ サービス(AWS)を活用した革新的なソリューションで公共分野の課題解決に取り組むスタートアップを支援するプログラムです。行政、スマートシティ、シビックテック、ヘルスケア、サステナビリティ、宇宙などの公共分野への参入・事業成長に必要な技術支援・トレーニング、コミュニティ、コネクション・Go-To-Market 支援、AWS 無料利用クレジットの提供を通じて、スタートアップの事業成長を支援し、公共分野のイノベーションを加速させることを目的としています。日本では 2022年 2月に発表され、5月より、AWS や公共に特化したテーマで様々なセッションを行いました。詳細は AWS Startup Ramp をご覧ください。

このブログは、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 事業開発マネージャー(Startup)である岩瀬 霞が執筆しました。