青森発のクラウドインテグレーターが教えてくれる、エンジニアが自分らしく働くために必要なこと

2020-07-02
インタビュー

立花 拓也 氏
株式会社ヘプタゴン 代表取締役社長 

「顔を知らない 100 万人の幸せよりも、自分たちの身近な 100 人をテクノロジーで幸せにしたい」。 そう話すのは、青森県三沢市に本拠を置くクラウドインテグレーター「ヘプタゴン」の代表を務める立花拓也氏。ヘプタゴンは東京で実績のあった成功事例をそのまま東北地方に持ち込むのではなく、地域に根ざした形にアレンジすることで「ビジネスの地産地消」を実現しています。東北初の APN アドバンストコンサルティングパートナーに認定されるなど、活躍の幅を広げるヘプタゴンは、どのようにして東北地方でクラウドビジネスを成立させているのでしょうか。立花氏に話を聞きました。

サービスの質にこだわれば売上は後からついてくる

「東北に限ったことではありませんが、地方はヒト、モノ、カネが集まる首都圏に比べれると市場規模が小さく、IT 投資も限られています。そのためこれまではビジネス市場としての魅力が乏しいと見られがちでした。しかしクラウド技術の登場によって、その状況は大きく変わろうとしています。」

立花氏はその理由を「 AWS をはじめとするクラウド技術の普及により、最先端のテクノロジーを活用したシステムをどこでも安価に構築できるようになったから」と、指摘します。

「クラウドを前提とした開発であれば、初期投資や運用コストを抑えながら、AI や IoT を活用した最先端のシステムを開発できます。それはつまり私たち自身が経営や開発にかかる無駄な固定費をなくし、短期間で開発できる力量があれば、お客様から預けていただける予算が少なくてもやりようがあるということ。エンジニアに首都圏並みの給与を支払いながら、お客様の身の丈に合った予算で最先端の技術を用いた課題解決だって、十分可能なんです。」 

事実、ヘプタゴンは創業から約 8 年の間に 50 を超える顧客に対し、100 を超えるプロジェクトを提供していますが、そのほとんどが IT 部門を持たない小規模事業者です。

「お客様のご紹介があれば、東京や大阪などの大都市圏の仕事もお受けしますが、それでも全体の案件数に対して 1 割程度。収益の柱はあくまでも顧客の 9 割以上を占める東北地方の案件です。こうした地場のお客様から毎月いただく保守・構築フィーで十分に会社を回せるだけの収益を上げているので、あえて都会の大きな案件を獲得する必要がないのです」

経営や開発の効率化、顧客のビジネス環境に根ざしたソリューションを提供することが、東北地方でクラウドビジネスを手掛けるのに必要なポイントだといいます。

「ヘプタゴンは、地元のお客様との息の長いお付き合いからビジネスを生み出していくことを重視しているので、無闇に会社を大きくすることは考えていません。クラウドをうまく活用して業務の自動化と経営の効率化を推し進め、労働集約的な働き方から脱却すれば、少人数でも質の高いサービスを数多くのお客様に提供することは十分可能。さらに私たちの仕事のやり方やノウハウは、これから人口減少や高齢化が進み、労働集約型の産業比率が多い東北地方の他の産業へも還元できると思っています。これは最先端のクラウドテクノロジーと地元をよく知る私たちだからこそできることだと思います。」

ヘプタゴンにとって、売上は質の高いサービスを提供した結果であり、経営の KPI (重要業績評価指標) ではないといいます。それは立花氏にとって『顔を知らない 100 万人の幸せよりも、自分たちの身近な 100 人をテクノロジーで幸せにしたい』という思いを実現するほうが、はるかに大切なことだと考えているからです。

「お客様にご満足いただくサービスを提供できれば、お客様が新規のお客様をご紹介してくださいますし、評判を聞きつけてくださった企業からの問い合わせも増えます。そうすれば、見込み客獲得やコンペへの参加、お客様との信頼関係構築にかかるコストも不要となり、浮いたコストをお客様へのサービス向上やエンジニアの待遇に還元できます。やり方さえ間違えなければ、規模の拡大を追わなくてもお客様に喜んでいただくことができるのです。」

だからこそ、サービスの質には徹底してこだわると立花氏はいいます。

「ローカルで仲間を集め、グローバルなテクロノジーを使って、東北リージョンで仕事をしようと思いヘプタゴンを創業しました。そのためエンジニアのスキルとサービス品質の向上にはこだわりを持って取り組んでいます。社員のコミュニティ活動への参加/登壇を会社としても応援しており、実際に多くの発表を行っておりますし、先日弊社エンジニアが 2020 APN AWS Top Engineers にも選出されました。」

大青工業様での IoT/機械学習を使った異常検知システムの事例
全国に納品した冷蔵冷凍設備にセンサーを設置し、冷蔵冷凍機器の稼働状況を遠隔監視するシステムを構築するとともに、AWS 上に蓄積したデータと Amazon SageMaker によって、故障の予兆を捉える機械学習モデルを構築。メンテナンスにかかる負荷を減らしながら、顧客満足度の向上を実現している。

クラウドコミュニティとの出会いが未来を切り拓く

立花氏は、現在の数や規模を追わない経営スタイルの確立するにあたって、2つの事柄によって方向づけられたと振り返ります。1 つは東日本大震災をきっかけに着想を得た、身近な人たちをテクノロジーで支えることで故郷をよりよくしたいという強い思い、そしてもう 1 つが、JAWS-UG (AWS Users Group – Japan) など、クラウドコミュニティに参加することで知り得た数えきれないほどの知見でした。

「とくにコミュニティから得たものは少なくありません。三沢に戻ってから 1 年、2 年ほどは、前職時代からお付き合いのあったお客様からのご紹介で、ウェブサイトのサーバー管理を任せていただいたり、三沢市の特産品である生ごぼうの販売サイトを立ち上げたりしながら、今後進むべき道を模索していましたが、コミュニティとの出会いがなければ、もしかすると本格的にクラウド専業で開発に携わることはなかったかもしれません。それぐらい大きな影響を受けました。」

コミュニティから得たものは、もちろん最新の技術やノウハウだけではありません。

「起業する前、サーバーホスティング会社でインフラエンジニアをしていたころから、漠然、都会で大きなサービスに携わることだけが、エンジニアにとっての唯一の成長の道という先入観や風潮に対して違和感があった私にとって、コミュニティに参加されているみなさんの多様な生き方、働き方にはずいぶん勇気づけられました。」

AWS Summit Beijing での登壇の様子。日本の JAWS-UG イベントのみならず、海外の AWS Summit や AWS ユーザーグループでもコミュニティへ参加し、多様な生き方、働き方を知るきっかけとなったという。

ひょんなことから当時 AWS にいらっしゃった玉川憲氏と出会い、JAWS-UG の青森支部の立ち上げにかかわるようになった立花氏でしたが、コミュニティとのかかわりを深めるなかで、優れたエンジニア同士が自分たちの経験やノウハウを惜しげもなく共有する姿に感銘を受け、感化されるまでにそれほど時間はかからなかったといいます。

「JAWS-UG の全国代表や JAWS DAYS の実行委員長などを経験させてもらうなかで、地方でユニークなビジネスを展開しているエンジニアや経営者に出会うことができました。みなさんから得た知見やご支援があったからこそ、自分らしさを失わず、お客様にも受け入れていただけるビジネスの方法をみつけることができたと思っています。」

いまや立花氏のコミュニティ活動は国内だけに留まりません。2016 年、韓国のソウルで開かれた AWS ユーザーグループでの登壇をきっかけに、中国、インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナムのイベントに出向き、いまもご自身の経験やノウハウを伝える活動を続けているのは、コミュニティから得た恩恵を返したいという純粋な気持ちからにほかならないと、立花氏は言います。

地元で活動して生まれる課題に対する様々な技術や解決策が、コミュニティに参加・貢献することで得られ、その知見が東北でのビジネスに活かされていく流れが出来上がったという。

「海外に出るようになって、少子高齢化による労働力の減少や都市と地方の格差は、日本だけの問題ではないことがよくわかりました。東北地方をはじめ、地方はこれから多くの国々が直面するであろう都市化による人口減少、産業の衰退がもたらす課題を一足早く経験している地域という見方もできます。地方ならではのクラウドの使い方や成功事例を紹介するたび、みなさんが共感を持って聞いてくださるのを見て、自分たちの取り組みが海外の課題解決のためのヒントになることに気づけたのは、私自身にとって大きな発見でした。」 

海外の AWS ユーザーグループでも、日本だけの問題ではない地方格差や少子高齢化といった課題への解決のヒントを提示している。

「私たちにできたのだから、あなたにもきっとできる」

会社設立当初からしばらくは、システム開発会社や制作会社など、一定の IT スキルを持つ「プロ」を挟んだ依頼が中心だったというヘプタゴンにも、ここ 1 ~ 2 年、新たな顧客層からの問い合わせて増えているといいます。

「コミュニティでの活動やお客様からの紹介などを通じて、私たちのことを知ってくださった事業会社さんから直接ご依頼をいただく機会が増えています。みなさんの抱える課題は多様です。技術力と同様、コミュニケーション力や課題発見能力、課題解決力の大切さを痛感します。」

IT について詳しくない顧客と向き合う機会が増えたぶん、ビジネスや業務に対する理解を深め、顧客の理解度や IT 受容度に合った提案が必要になるからです。しかし立花氏はいくつかの乗り越えるべき課題はあるにせよ、会社が進むべき道に迷いはないと断言します。

「これまでの経験で、正しいことを愚直に積み重ねていけば、サービスを継続的に提供できることがわかりました。志を同じくする人が集まり、上下の隔てなく自由に議論を重ねるからこそ新しい価値が生み出せる。そうした信念を持てたのも、コミュニティから得た恩恵の 1 つといえます」

最後に、昨今東京一極集中の働き方に疑問を抱き、地方で働くことに興味を持つ方も増えているということで、builders.flash 読者の皆様へのメッセージをいただきました。

「東京はエンジニアにとって魅力的な場所です。でも少し意識を変えてみると、誰もが東京でキャリアを積まなければならない理由なんて、どこにもないことがわかるはずです。青森県の三沢市でヘプタゴンを起業して感じるのは、誰かが決めた働き方に合わせなくてもどこにいても、技術は磨けるし、お客様に喜んでいただけるということでした。クラウド技術を必要としない場所もありませんし、コミュニティからの支援を受けたり、運営に回ったりすることだって可能です。地方は IT 導入がまだまだこれからということもあり、IT エンジニアにとって宝の山。私たちにできたのですからきっとみなさんにもできるはず。自分のなかにある先入観を捨てて、本当に自分のやりたいことと向き合ってほしいと思います。」


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プロフィール

立花拓也氏
株式会社ヘプタゴン 代表取締役

東北大学経済学部卒。大学在学中から仙台市にある ISP・サーバーホスティング会社のインフラエンジニアとして活躍。東日本大震災を機に地元である青森県三沢市に戻りヘプタゴンを起業。現在は東北地方の中小企業向や自治体などに対し、クラウドを活用したサービス開発支援やコンサルティングサービスを提供している。国内外のコミュニティとの関わりも深く、地方に根ざしたクラウドの活用を広げる活動にも積極的に取り組んでいる。

株式会社ヘプタゴンの詳細はこちら »

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