新しい働き方への変化。地方で開発に携わるために必要なこととは ?

2021-01-05
インタビュー

影浦 義丈氏
株式会社 HB ソフトスタジオ 代表取締役

リモートワークが新しい働き方の常識になった 2020 年。通信回線と PC さえあれば働く場所を選ばないデベロッパーにとって、物価の安さ、自然豊かな地方生活は魅力的なはず。リモートワークの広がりの中で、都市を離れ、地方に拠点を移すことを検討しはじめた方も多いのではないでしょうか。とはいえ住み慣れた都会を離れても継続的に仕事が得られるのか、不安を感じている方は少なくないでしょう。今回ご紹介するのは愛媛県松山市で 20 年以上にわたり、ソフトウェア開発会社、HB ソフトスタジオを経営するエンジニアの影浦義丈氏です。同社は四国に拠点を置きながらも、全国から寄せられる数多くの開発案件にフルリモート体制で対応しているといいます。影浦氏に地方のソフトウェア・デベロッパーが生き抜く秘訣を聞きました。


手探りの起業から下請け脱却を経て、全国から受注が集まるデベロッパーに

—愛媛県松山市で長年ソフトウェア開発を行っていらっしゃいます。起業の経緯を聞かせてください。

影浦氏
専門学校でプログラミングを学び、1999 年にパソコンショップの販売員を経て起業しました。父親も自分で商売をしていたので会社を立ち上げること自体に抵抗感はなかったものの、開発系の仕事に就いたことがなかったので、最初は完全に手探り状態からのスタートでしたね。まずは地元に根ざしたプロバイダー事業からスタートして、3 年で撤退。それ以降はソフトウェア開発事業に移行して、いまに至っています。

—ソフトウェア開発に軸足を移されてからは、どのような案件に携わられたのでしょうか?

影浦氏
「企業の基幹システムから産業機器の制御ソフトウェアまで、本当にいろいろな仕事に携わりました。12、13 年くらい前から徐々に Web 開発案件が増えてきて、新しいことにも挑戦できるようになったのですが、当時は客先常駐を前提とした下請け案件がほとんどでしたから、できることは限られていました。このままの状態を続けていたらせっかく起業した意味がありません。それでこの 10 年ほど前から、お客様と直接お取引できる受託開発案件だけに絞って仕事を請けるようになりました。」

—営業方針を変えるとなると大変なことが多かったのでは ?

影浦氏
「そうですね。ただ、そもそも数名規模の小さい所帯ですし、かつてのお客様からの直接ご依頼いただいたり、ご紹介いただいたりしてなんとか乗り越えられました。当時からお付き合いが続いているお客様も少なくないですし、以前ご紹介いただいたお客様から、さらに別のお客様を紹介していただく機会もありますし、こうした記事やイベントでの講演をご覧になった方からお声がけいただくことも多いので、自分たちから積極的に営業をかけなくても済んでいます。」

—顧客満足度と人のつながりを大切にされることが、案件獲得につながっているんですね。

影浦氏
「そうですね。下請け時代は、仕様書通りに開発して、テストして、納めて終わりでした。なので自分たちの仕事がその後どうなったか知るよしもありません。それが直請けの受託案件になると、お客様が目指す成果にコミットすることが仕事のゴールになります。納品はむしろスタートになるわけです。結果を残せば自ずとお客様との関係も長くなっていきますし、開発者自身のやる気や向上心も高まります。それが結果的に次の仕事のご依頼やご紹介につながっているのかも知れません。開発すること、それ自体が仕事の目的にせざるを得なかった頃とは大違いです。」

—最近はどのような開発案件に携わられていますか ?

影浦氏
「創業当初は中国地方や四国地方のお客様から依頼していただく開発案件が中心でしたが、この 10 年ほどは地元企業だけでなく東京や大阪、福岡のお客様、ここ数年は、岐阜や岩手など、都市圏以外からも受注をいただくようになりました。とくにプリント基板の光学検査装置を開発されている岐阜県のお客様とは、AI をテーマにした社内ベンチャーを一緒に立ち上げ、現在私自身も CTO として関わらせてもらっています。この数年でお客様は全国に広がり、対応できる業務も格段に増えました。」


「もしコミュニティに参加していなかったらいまの自分はなかった」

—影浦さんは JAWS-UG の愛媛支部の立ち上げや一時休眠状態だった岐阜支部のリブートにも携わっていらっしゃいますね。開発者コミュニティとはいつ頃から関わりをお持ちなのですか ?

影浦氏
「2009 年頃、愛媛情報セキュリティ勉強会に参加したのが最初のコミュニティ体験で、その後オープンソースカンファレンス愛媛の運営などにも関わっていました。JAWS-UG との出会いは高知支部のイベントでした。2013 年のことだったと思います。その流れで JAWS-UG 愛媛支部の立ち上げに参加し、いまは愛媛支部のほか、先ほど申し上げた岐阜の AI ベンチャーに通うようになったご縁で、JAWS-UG 岐阜支部の運営にもかかるようになりました。」

—影浦さんは、どのようなところに開発者コミュニティに関わる意義を感じていらっしゃいますか ?

影浦氏
「私自身、業界経験がないままこの世界に飛び込んだので、下請け案件にしか携われなかった頃は、自分の置かれた立場に不満を感じながらも、どこかで仕方ないと思っている節がありました。でも、勉強会やコミュニティ参加してみると、楽しそうに開発している方が大勢いらっしゃいますよね。そういう方々と接するなかで『お客様に価値を届けるってどういうことなんだろう』と考えるようになりましたし、クラウドやアジャイル、リモートワークを仕事に取り入れ、下請けから脱却することができました。自分の知らない世界や新しい価値観に触れられるのがコミュニティに参加する最大の魅力。もしコミュニティに参加していなかったらいまの自分はなかったと断言できますね。」

—勉強会やコミュニティに参加することで気持ちがモチベートされ、それが新しい仕事につながっていったわけですね。

影浦氏
「そうですね。結果として仕事に活かせたり、受注につながったりすることはありますが、あくまで個人的な興味、関心で参加しています。経営者として、もっと戦略的に会社が取り組むべき技術領域を決めるべきだと思うこともあるのですが、AI にしても IoT にしても、面白そうだから勉強してみる、実践の場で試してみたいから追求してみるという面が強いのは否めません。何事も興味が持てなければ身に付きませんからね。」


新しい働き方の広がりと共に、地方で開発する意味が改めて問われている

—テレワークが当たり前になり、地方に拠点を移そうと検討しはじめているデベロッパーが多いと聞きます。こうした方々に、20 年以上にわたって愛媛でソフトウェア開発に携わっている影浦さんからアドバイスはありますか ?

影浦氏
「そうですね。私が起業した当時と比べたら、通信環境も開発の環境も格段によくなっています。お客様に関してもリモートワークに対する理解も進んでいるので、お客様と真摯に向き合い成果を出すことにこだわれば、地方にいるからソフトウェア開発は難しいという時代ではなくなっていくでしょう。ただ今後、より一層場所を問わない働き方が当たり前になると、地方で開発する意味が改めて問われることになるのではと感じています。」

—詳しく聞かせてください。

影浦氏
「地方に拠点を置くソフトウェア会社が、地元企業に対して新しい価値を提供する『 IT の地産地消』を謳う意味が問われはじめるからです。お客様と直接顔を合わせる必要がなくなれば、極端な話、開発会社が松山市内にあろうが、東京都内にあろうが関係ありません。情報や人が集まる都市と地方が同じ土俵で戦うことになれば、地方にチャンスが巡ってくる一方で、東京の会社と比べて技術的に遜色がないことを証明できなければ存在意義が薄れてしまう危険もある。それは地方におけるコミュニティ活動も同じで、オンラインイベントがこのまま根付くなら、地方に根ざしたリアルイベントの価値や意味をもう一度考え直さなければならなくなるでしょう。」

—解決策は見えていますか ?

影浦氏
「それは私たちにとってもこれからですね。ただ都市圏を経由せず地方同士が直接つながったり、四国 4 県の JAWS-UG が連携して運営している「 JAWS-UG 四国クラウドお遍路」のように、同じエリアの開発者や企業が力を合わせたりすることによって、新しい価値が生まれる可能性はあるでしょう。考え直す時期に差し掛かっているのは確かですが、解決策はきっとあると信じています。

—これからどんなことに挑戦していきたいですか ?

影浦氏
「おかげさまで中四国エリア以外からの仕事のご依頼が増えているので、人員を増やしてお受けできる仕事のキャパシティを広げることが当面の目標です。いまは完全リモート体制で開発を行っており、すでに愛知と埼玉で仕事をしているメンバーもいます。案件の幅も広がっているので、新しい技術に挑戦することに積極的な方と一緒に働けたらうれしいですね。」

—最後にメッセージをお願いします。

影浦氏
「プロバイダー事業をやめたときもそうでしたし、下請けをやめたときもそうでしたが、長年事業を続けていれば苦しい時期は必ず訪れるものです。そんなとき助けになってくれるのが、自分とは異なる知見を持つ人が集まっているコミュニティです。私の場合、情報を吸収することに加え、自分の経験を外に向けて伝えることで人とのつながりが生まれ、状況を打開するきっかけになりました。ですから新しいことに挑戦したいと思うのであれば、ぜひ関心のあるコミュニティに参加してみてください。コミュニティはきっとみなさんの力になってくれるはずです。」


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プロフィール

影浦 義丈氏
株式会社 HB ソフトスタジオ 代表取締役

1973 年生まれ。河原電子ビジネス専門学校卒業。1999 年パソコンショップの販売員を経て、HB ソフトスタジオを創業。プロバイダー事業を皮切りに、ネットワークインフラの構築・運用、産業機器制御ソフトウェア開発、Web システム開発、スマートフォンアプリ開発、クラウド導入支援など、幅広い開発案件を手掛ける。2015 年中四国地方に本社を置く企業としては初となる AWS Partner Network スタンダードコンサルティングパートナー認定を獲得。現在はフルリモート体制で、全国から寄せられるソフトウェア開発ニーズに応えている。2018 年から岐阜県の AI 開発会社マンゴシードの取締役 CTO を兼任する。JAWS-UG 愛媛支部、JAWS - UG 岐阜支部の運営メンバー。AWS Samurai 2018 としても知られる。

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