産業 IoT による工場のデータ収集から可視化まで、AWS Industrial IoT Workshop で一気に体験 !

2023-11-01
AWS ドキュメント紹介

Author : 菊地 晏南、田村 健祐

builders.flash 読者の皆様こんにちは!ソリューションアーキテクトの菊地と田村です。

近年、工場の IoT 化は製造業における DX の一環として注目されています。工場など産業領域の IoT は Industrial IoT (IIoT) と呼ばれ、工場設備や機器のデータを収集し、管理や監視、データ分析を実施したり、さらには機器の制御もしようという考え方のことです。

そこで本記事では、工場の IoT 化に興味を持っているけれども何から始めるべきかを知りたい IoT 初学者の方や、AWS の IoT サービスについて学びたいという方に向けて、AWS Industrial IoT Workshop をご紹介します ! このワークショップは IoT サービスを使った製造業向けワークショップで、2023 年 9 月に日本語版が公開されました。ハンズオン形式の学習コンテンツとなっており、ページに書かれた手順に沿って実際に手を動かすことで、 AWS の IoT サービスについて学べます。このワークショップは、製造業に携わり工場における Operational Technology (OT) の経験がある方を対象としています。そうした方が、AWS における IIoT の概念や関連するサービスの概要を学ぶ第一歩としてふさわしい内容になっています。

本記事を読んで、 AWS IoT サービスが IIoT の実現にどのように役立つのかを理解し、本ワークショップを実施していただけると幸いです!さらには、読者の方のユースケースにあった IIoT 化が促進されるきっかけにもなれば嬉しいです!

ご注意

本記事で紹介する AWS サービスを起動する際には、料金がかかります。builders.flash メールメンバー特典の、クラウドレシピ向けクレジットコードプレゼントの入手をお勧めします。

*ハンズオン記事およびソースコードにおける免責事項 »

ワークショップ実施の前提条件

本ワークショプを実施するには、AWS アカウントが必要です。AWS アカウントをお持ちでない方は AWS アカウント作成の流れ に従って、作成してください。


1. 本ワークショップでできること

本ワークショップでは、工場機器を制御する PLC と、インターネットに接続されたエッジゲートウェイという工場内のサーバーが OPC-UA で通信を行うような構成を仮想的に構築します。その上で、データ収集や可視化などといったタスクを AWS の IoT サービスを使ってどのように実行できるかを体験できる、という内容になっています。最終的に次のようなダッシュボードで機器のデータを可視化することができます。

ワークショップの詳細に入る前に、まずは産業用設備のある現場における IIoT 化のメリットや実現に向けて必要なステップを改めて整理してみましょう!


2. IIoT を用いたスマート工場のメリット

そもそも IoT とは Internet of Things の略称で、「モノのインターネット」という意味です。例えば製造業であれば工場内の工作機械や生産設備などといったモノがインターネットにつながっていることを意味します。インターネットに接続されたこのようなモノは、エッジデバイスや IoT デバイスなどと呼ばれます。さらに生産設備において機器や設備のデータを収集および一元管理し、それを元に改善や最適化のアクションを取れるようにした工場を「スマート工場」と言います。では、そうすることでどのようなメリットがあるのでしょうか ?

以下ではスマート工場で期待されるメリットを3点挙げてみます。

  1. 機器の異常をリアルタイムに検出可能になる
    機器のデータをリアルタイムに収集・分析できるようになることで、いち早く機器の異常を検出できるようになります。従来であれば突然の故障で製造ラインが止まってしまっていたような現場でも、IoT 化を前提としているスマート工場化が進めば迅速な対応が可能となり、さらには製造ラインの停止を未然に防ぐことも考えられます。
  2. 製品の品質向上・製造ラインの効率化
    稼働している機器のデータを収集することで、データに基づいた製品の品質向上や、製造ラインの効率化なども期待できます。例えばこれまで人が行っていた点検や監視といった業務を自動化することで人件費を削減でき、より効率的な従業員配置が実現できます。

3. デジタルツインによるシミュレーションの実施
機器のデータを収集すれば「デジタルツイン」の実現も可能です。デジタルツインの定義にはさまざまありますが、例えば AWS では「デジタルツイン (DT) は、個々の物理システムの生きたデジタル表現であり、データで動的に更新されて、物理システムの実際の構造、状態、および動作を模倣し、ビジネスの成果を促進します。」と定義されています。例として、こちらの画像のようにバーチャル空間上に工場と同じ環境を再現することが可能です。

デジタルツインでは、工場の状況をバーチャル空間上で監視できるだけでなく、現実世界では難しいシミュレーションもできます。それにより、業務改善のための試行錯誤を素早く行って、製品の品質向上に繋げることができます。


3. IIoT 化に向けたステップ

上述ではスマート工場のメリットについて述べました。それではスマート工場の実現を見据えて工場の IIoT 化をするとなった場合、実際にはどのようなステップが必要になるのでしょうか?実際に必要となるステップは以下の 2 つとなります。

  1. 工場内機器からのデータ収集基盤の構築
    上述したスマート工場のメリットはどれも機器のデータを集めるところから始まります。つまり、なにはともあれ機器のデータを収集できる基盤が IIoT 化に必須と言えます。
  2. データの可視化および分析基盤の構築
    IIoT 化が進めば、場合によっては何百あるいはそれ以上の機器から絶えずデータを収集することになります。こうした大量のデータはそのままでは活用が難しいので、データを可視化してわかりやすくしたり、分析して必要な情報を抽出することが必要になります。

IIoT の構築のためには、「データ収集基盤」や「データの可視化・分析基盤」が必要だと書きました。大量のデータを扱うため、データを集める場所としてはスケーラビリティがあり運用の手間も省けるクラウドは親和性があります。また、クラウドを利用することの別のメリットとして、世界中に拠点を持つグローバルな工場を可視化できる、生産プロセス全体の効率化を図れるといったメリットも挙げられます。


4. 関連する AWS IoT サービスの紹介

ここまででスマート工場のメリットや IIoT 化に必要なステップについて触れてきました。また IIoT とクラウドの親和性にも触れました。しかしまだ「工場内の機器にどんな機能が必要なのだろう ?」、「クラウド側ではどういうサービスを利用してどんな設定が必要なんだろう ?」、「クラウドを使ってデータ分析はどうやったらできるんだろう ?」といろいろと疑問が生じそうです。加えて、IIoT 化のためのステップを実際に行うとなるとコストや時間、さらには人材や IT スキルが必要となります。

今回紹介するワークショップでは、上述で挙げたような疑問を解消する AWS IoT サービスが登場します。これらのサービスは、お客様が一から IoT 化のための仕組みを作る必要がないという点で、コストや時間といった問題点も解消し、その結果、お客様はお客様自身のビジネスややりたい事に集中できます。以下では AWS Industrial IoT Workshop の内容紹介に入る前に、ワークショップで登場するサービスについて、主にデータ収集と可視化・分析に焦点を当てながら紹介していきます !

AWS IoT Greengrass

AWS IoT Greengrass は、オープンソースのエッジランタイムであり、デバイスソフトウェアを構築、デプロイ、管理するためのクラウドサービスです。IoT Greengrass を用いることで、デバイスが生成するデータに対するローカルな動作や、機械学習モデルに基づいた予測、デバイスデータのフィルタリングおよび集計が可能なソフトウェアを構築できます。また、IoT Greengrass にはエッジデバイスの機能を拡張するためのコンポーネントと呼ばれるソフトウェアが用意されています。後述する AWS IoT SiteWise ゲートウェイも SiteWise にデータを送信するための機能を持った Greengrass のコンポーネントとして動作します。

AWS IoT SiteWise

AWS IoT SiteWise は、産業機器データの収集、整理、分析を簡素化するマネージドサービスです。SiteWise にデータを取り込む方法はいくつかあり、例えば SiteWise ゲートウェイと呼ばれるコンポーネントを実際の工場にあるデバイスやエッジゲートウェイなどにデプロイすることで、そこからクラウド上にデータが送られるようになります。さらに SiteWise には取り込まれたデータから必要なメトリクスを計算したり、それを可視化するポータルという機能も備わっています。

AWS IoT TwinMaker

AWS IoT TwinMaker は物理システムとデジタルシステムの運用可能なデジタルツインを構築するための AWS IoT サービスです。AWS IoT TwinMaker を使うことで現実世界のセンサーやカメラ、エンタープライズアプリケーションからの測定結果と分析結果を可視化し、実際の工場や建物、産業プラントの状況を把握するのに役立ちます。この現実世界のデータを使用して、オペレーションの監視、エラーの診断と修正、オペレーションの最適化を行うことができます。

Amazon Managed Grafana

Amazon Managed Grafana は人気のオープンソース分析プラットフォームである Grafana のフルマネージドサービスであり、メトリクスの保存場所に関係なく、メトリクスに関するクエリ、視覚化、理解、アラートの受信が可能です。Amazon Managed Grafana ではさまざまな AWS サービスをデータソースとして、ダッシュボードを作成しデータの可視化や分析を可能にします。本ワークショップでは SiteWise で収集したデータの可視化および、AWS IoT TwinMaker で作成したデジタルツインの可視化を Amazon Managed Grafana を用いて行います。


5. ワークショップの構成

ここまでで IoT 一般の話や IIoT について、また、AWS の IoT 関連サービスについてご紹介してきました。ここからは、本題である AWS Industrial IoT Workshop の内容についてご紹介していきます。ワークショップはこちらからアクセスできます。

このワークショップで作成する構成を下図に示します。

ワークショップでは、工場内のドリルプレス (ボール盤) から OPC-UA でエッジゲートウェイと接続し、SiteWise でドリルプレスの圧力や回転速度などのメトリクスを可視化します。ワークショップの手順は大まかに以下のとおりです。

  1. AWS IoT Greengrass をエッジゲートウェイにインストールし、設定する
  2. AWS IoT SiteWise を PLC と接続し、取得するデータのモデルとアセットを定義する
  3. AWS IoT SiteWise でドリルプレスの圧力などのメトリクスを可視化するダッシュボードを作成する
  4. AWS IoT TwinMaker でドリルプレスのデジタルツインを構築する
  5. Amazon Managed Grafana でメトリクスやデジタルツインを可視化するダッシュボードを作成する
  6. Amazon S3 でデータレイクを構築し、AWS IoT SiteWise でアラームとメトリクスを設定し、ダッシュボードで可視化する

これらの手順について、「IIoT 化に向けたステップ」で紹介した「工場内機器からのデータ収集基盤」「データの可視化および分析基盤」の 2 つの観点から解説していきます。

AWS IoT Greengrass と AWS IoT SiteWise を用いて産業機器のデータ収集基盤を迅速に構築する

このワークショップでは Greengrass と SiteWise を用いて簡単に、かつ迅速にデータ収集基盤を構築する工程を体験することができます。工場内のデバイスからクラウドにデータを送信するために、プロトコルの変換などを行うエッジゲートウェイを工場内に設置します。エッジゲートウェイに Greengrass Core をインストールすることで、Greengrass でエッジゲートウェイを管理できるようになります。マネジメントコンソールからエッジゲートウェイにソフトウェアをインストールすることができるため、わざわざデバイスに直接接続してインストールする必要がありません。今回のワークショップでは SiteWise ゲートウェイをエッジゲートウェイにインストールします。また、SiteWise ゲートウェイを利用することにより、IoT デバイスからエッジゲートウェイを経由して AWS 上にデータを送信できるようになります。このとき、OPC-UA などの産業用プロトコルで通信できるため、エッジ側で変換処理を実装する必要がありません。

AWS IoT SiteWise と Amazon Managed Grafana を用いて産業用データを迅速に可視化する

Greengrass と SiteWise を用いて IoT デバイスから AWS にデータを送信する仕組みが整ったら、収集したデータを分析・可視化するための基盤を構築します。

ワークショップでは、SiteWise と Amazon Managed Grafana でそれぞれダッシュボードを作成します。SiteWise では、設定したプロパティをドラッグ & ドロップするだけでダッシュボード上にグラフを追加することができます。例えば、ワークショップではドリルプレスの圧力や回転速度などのグラフを作成します。Grafana でも同様に、簡単にグラフを追加することができます。Grafana では SiteWise で定義したプロパティの値を参照できるだけでなく、AWS IoT TwinMaker を用いて作成したデジタルツインも参照してダッシュボードを作成できます。

このように、SiteWise と Managed Grafana を使えば、可視化のための専門知識がなくても IoT デバイスから収集したデータをダッシュボード上で簡単にグラフ化できます。また、ダッシュボード上のデータはセンサーデータと紐づいているため、いつでも工場の稼働状況を把握できます。

AWS IoT SiteWise で作成するダッシュボードの例
(画像をクリックすると拡大します)


6. お客様導入事例

本ワークショップを実施すれば、AWS の IoT 関連サービスの利用イメージが湧くかと思います。IIoT 導入へのイメージをより鮮明に持っていただくために、AWS の IoT 関連サービスを用いて IIoT 化したお客様の事例を 2 つご紹介します。

大和ハウス工業株式会社様:AWS IoT サービスを活用して 工場に設置したセンサーから情報を可視化 機器の遠隔監視など、設備の高度な運用保守を実現

大和ハウス工業株式会社様は、本ワークショップでも扱われている Greengrass を中心としたアーキテクチャを採用し、3 ヶ月という短期間でデータ集約の仕組みを構築されています。また、Greengrass を利用することで、ソフトウェアの更新を遠隔で制御できるようにしています。 詳細はこちら »

Coca-Cola İçecek 様:Coca-Cola İçecek 様が AWS IoT SiteWise を利用して運用パフォーマンスを向上

Coca-Cola İçecek 様は、本ワークショップでも扱われている SiteWise や Grafana を利用して分析システムをわずか2ヶ月で構築されています。SiteWise を用いて工場から大量の産業データを取り込み、Grafana ダッシュボードを用いてオペレータがプロセスをモニタリングできるようにしています。 詳細はこちら »

7. 他のワークショップ

本ワークショップでは PLC からデータを収集し、可視化しました。IIoT 化をするうえでは、収集したデータを可視化するだけでなく、データの蓄積や異常検知などのために他の AWS サービスにデータを送信する場合があります。そこで、工場内のデバイスから収集したデータを他の AWS サービスに中継する際に便利な AWS IoT Core というサービスのワークショップをご紹介します。

AWS IoT Core 初級ハンズオン

IoT Core はデバイスを簡単にかつ安全にクラウドに接続することができるサービスで、Greengrass や SiteWise と同様に多くのお客様にご利用いただいています。このワークショップでは、IoT Core を用いて産業機器に限らないセンサー等の一般的なデバイスから取得したデータをクラウド上にアップロードし、活用するまでの流れを体験することができます。ハンズオンはこちら »


まとめ

本記事では、AWS Industrial IoT Workshop をご紹介しました。IIoT を導入することには、機器の異常検出や製品の品質向上、製造ラインの効率化などのメリットがあります。しかし、IIoT を導入してこれらのメリットを享受するためには、データ収集基盤や分析基盤を整備する必要があり、全てを一から構築するには相応の労力が必要となります。

AWS の IoT 関連サービスを使えば、IoT デバイスからのデータ収集やデータ分析基盤の構築を簡単に、かつ迅速に行うことができます。今回ご紹介した AWS Industrial IoT Workshop では、データ収集や分析のためのダッシュボードの作成などを体験することができます。このワークショップを終えた後も、本記事で紹介したお客様事例を見て AWS を活用した IoT 導入のイメージをより鮮明になものにし、他のワークショップを実施して IIoT 化の際に役立つ AWS サービスについて知っていただけるかと思います。

本記事を通してAWS が提供する IoT 関連サービスについて興味を持っていただき、IIoT を導入してスマート工場を実現するきっかけになければ幸いです!


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筆者プロフィール

菊地 晏南 (きくち あなん)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
技術統括本部 ソリューションアーキテクト

ソリューションアーキテクトとして、クラウドを活用されているお客様の技術支援を行っています。
バスケと旅行とカフェ巡りが趣味です。


高野 賢司

田村 健祐 (たむら けんすけ)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
技術統括本部 ソリューションアーキテクト

2023 年 4 月入社のソリューションアーキテクトです。お客様が AWS を活用するための支援を行っています。
音楽が好きで、ギターやベースを弾くことが趣味です。

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