ボランティアを通して社会課題の解決を目指す自治体や外郭団体はボランティア運営に使える予算が限られています。
そこでサービス基盤に AWS を採用し、安価な SaaS として提供することにしました。


橋 直紀 氏 日本電気株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 主任

近年、市民によるボランティア活動は、国際交流、復興支援、社会貢献活動などさまざまな分野に広がり、年々活発化してきています。一方、運営者の課題となるのが、スタッフの募集や選考、適材適所への配置などの運営管理業務です。社会価値創造を掲げる日本電気株式会社(以下、NEC)は、AWS のサービスを用いてボランティア業務の円滑な運営を支援する『ボランティア支援サービス』を開発。SaaS として提供し、共助社会の実現をサポートしています。


社会価値創造型企業として、ICT の力を活用した価値の提供に取り組む NEC。同社は、国内で国際的なパブリックイベントが開催されるなど、ボランティア活動の活性化が進むと予測し、イベント主催者・運営者が効率的に運営できる『ボランティア支援サービス』の企画に着手しました。

「本サービスを通して日本にボランティアを文化として根付かせることに貢献すると同時に、NEC のブランド価値を高めるのが企画の狙いです。」と語るのは東京オリンピック・パラリンピック推進本部 主任の橋直紀氏です。

従来のボランティア管理では、Excel やメールの利用が一般的でした。参加者の募集や登録、登録者のボランティア経験、語学スキルなどは主催者が Excel で管理。人と役割のマッチングやボランティアスタッフの配置も、主催者が手作業でやりくりしていました。「一般的なイベントではボランティアは数十人から数百人程度ですが、大規模なイベントになれば何千、何万人にも及びます。一方、ボランティアの管理は少人数で行うことが多いため主催者の負担は大きく、効率的かつ容易に扱える仕組みが求められていました。」と産業ソリューション事業部 エキスパートの三谷慶人氏は振り返ります。

NEC が新たに開発する『ボランティア支援サービス』は、企画段階からクラウドによる SaaS として提供することを前提とし、複数のクラウドサービスの中から AWS を選定しました。開発を担当した NEC ソリューションイノベータ株式会社 プラットフォーム事業本部 サービス基盤ソリューション事業部 主任の塘恭平氏は「サーバー調達の手間と時間を考えるとクラウドの選択は当然の帰結で、多くの方に安価に利用していただくために月額払いの SaaS として提供することにしました。AWS を選んだ理由は、導入実績が豊富で、ドキュメント類が豊富に揃っていたことです。NEC の社内でも AWS の採用事例は多く、気軽に相談できる環境がありました。」と語ります。

段階的にシステム規模を拡張し、柔軟に機能を追加しながら開発が可能な AWS は、アジャイル的な手法で進めたサービス開発にもマッチしていました。今回、同社では机上での議論・検討をもとにボランティア支援システムのプロトタイプを AWS 上に構築し、試験サービスとして 2017 年 6 月に開催された地域活性スポーツイベントに提供しました。そこに開発チームのメンバーもボランティアとして参加し、実際の運営を支援しながら現場で課題を探り、必要な機能や使いやすい画面など改善を重ねていきました。東京オリンピック・パラリンピック推進本部 主任 石河友香理氏は「アジャイル的なサービス開発は、仕様を固めて設計書どおりに開発することが多かった開発チームのメンバーにとっては珍しいことで、新しいチャレンジになりました。」と振り返ります。

その後、2017 年 11 月に東京湾岸エリアで開催されたスポーツ大会に改善したものを提供し、ボランティアの応募から終了後まで一連の作業を検証。さらなる機能強化と改善を経て、2018 年 6 月に本格リリースとなりました。

『ボランティア支援サービス』はリリース以来、約 4 万人のボランティア応募があった大規模スポーツイベント、地域のスポーツイベント、e スポーツ大会、ボランティア関連の啓発事業など、大小さまざまなパブリックイベントに導入されています。民間企業の CSR にも採用され、日本航空株式会社や NEC 社内における社員のボランティア活動にも活用されています。

「2019 年 10 月の台風 19 号で 当社の玉川事業所(川崎市中原区)が浸水被害に遭い、事業所が一時閉鎖することになりました。その際、当社のエンゲージメント推進室がグループ社員にボランティアの募集を呼びかける際にも本サービスが活用されました。」(橋氏)

『ボランティア支援サービス』を活用することで、管理者はフォームからスムーズにボランティア案件の登録ができ、ボランティア参加者へ説明会の案内や当日の連絡などを通知することができます。管理者は募集画面を作成する際、参加者の要望や保有スキルなどをアンケート項目として設定ができ、アンケート結果や本人属性、役割に必要な経験やスキルをマッチングすることで、適材適所の配置が実現します。ボランティア参加者は Web 上のマイページから参加登録することができ、管理者からのお知らせの参照や登録情報の確認・変更が可能です。

「サービスを利用する管理者からは、登録者に対して手軽にリマインドメールを送ったり、ボランティア情報を発信したりできるようになり、応募数が増えたといった声や、登録者の要望や保有スキルが一元的に管理されたことで、ボランティア人材の活用の幅が拡がったといった声が届いています。」(石河氏)

ボランティア運営者の業務の効率化にも貢献し、運営者はボランティアの企画などに時間とリソースが割けるようになりました。三谷氏は「IT に詳しくない方でも直感的に操作ができるように、機能を絞ってシンプルさを重視しました。一連のボランティア運営業務が 1 つのシステム上で完結する本サービスは、多くの方に評価をいただいています。」と語ります。

システム面では、クラウドの活用でサーバーリソースの追加もわずか数時間と、調達のリードタイムはオンプレミスと比較して大幅に短縮されています。「検証用のサーバーもすぐに立ち上げることができ、テストが終わればすぐに停止ができるので、運用の負担は大幅に軽減されています。現在は、AWS のマネージドサービスや、サーバーレス技術などを用いてメンテナンスの自動化や運用の効率化を進めています。」(塘氏)


 

今後は、『ボランティア支援サービス』のユーザーを増やしながら、さまざまな要望に応えていく予定です。

「現在は汎用的な機能を搭載していますが、今後も個々のニーズを吸収しながらボランティア現場の課題を解決し、豊かな社会作りに貢献していきます。」(橋氏)

さらに、2020 年以降の発展に向け、人材データベースを活用した新たな需要の掘り起こしも検討しています。「ボランティア支援の持続的なサービスの実現に向けて、これからも新たなチャレンジを進めていきます。」と石河氏は話します。

橋 直紀 氏

石河 友香理 氏

三谷 慶人 氏

塘 恭平 氏



AWS での SaaS ソリューション構築についての詳細は、AWS での SaaS ページをご参照ください。