3~5 倍
3 分の 1
人の判断を補助する効果的な AI 活用の環境を実現
概要
個人向け投資信託業務や法人向け投資顧問業務を行うニッセイアセットマネジメント株式会社。デジタル技術やデータ活用にも積極的な同社は、投資先企業の非財務情報の分析に Amazon Bedrock などアマゾン ウェブ サービス(AWS)の生成 AI サービスを採用。その結果、分析作業時間を 3 分の 1 に短縮するなど業務負担を大幅に軽減しました。今後は運用業務やマーケティング活動など、生成 AI の活用範囲をさらに広げていく方針です。
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ビジネスの課題 | 生成 AI に注目し、全社で業務効率化に活用
日本生命保険グループのニッセイアセットマネジメントは、個人向け投資信託業務や法人向け投資顧問業務を行う資産運用会社です。同社ではデジタル技術の導入やデジタル人材育成にも積極的に取り組んできました。2022 年頃からは生成 AI に注目し、大規模言語モデル(LLM)が多くの社員に利用されるようになれば業務効率を飛躍的に向上させると判断し、2023 年 8 月に社内向けのチャットサービスを開発しました。このとき開発パートナーとして、個人向け資産運用アプリでの協業実績があり、金融機関向けの専門チームを持つ Finatext を選定しました。「生成 AI の進化は極めて速く、業務の理解に時間をかけていると技術が先に進んでしまう懸念があっため、迅速にキャッチアップし、スピード感を持って形を作り上げられるパートナーを選びました」と、ニッセイアセットマネジメント ソリューション部デジタル&アドバイザリー業務室 デジタルイノベーションヘッドの山田智久氏は語ります。なお、Finatext はサービス開発支援に加え、経営層の理解促進や全社的な推進体制構築に向けたハンズオンレクチャーもサポートしました。
ニッセイアセットマネジメントではさらに、トップ層の理解を深めるとともにボトム層での同チャットサービスの利用を促進し、また業務に特化した新たなツールの種を見つけることを目的に 2023 年 9~10 月、社内の『生成 AI 活用コンテスト』を実施。そこで生まれたアイデアの 1 つが統合報告書の分析・要約ソリューションです。
ニッセイアセットマネジメント ソリューション部 ソリューションリサーチヘッドの鹿子木亨紀氏は、「これは、当社のサステナブル投資推進部のアイデアで、ESG(環境・社会・ガバナンス)の評価に必要な非財務情報を分析するときの課題から生まれました。これまで企業ごとに様式が異なる PDF 文書から情報を抽出する作業に、多くの時間と労力がかかっていたため、その作業効率化を図るものです」と語ります。
この新たなソリューションの環境として、同社は AWS を選択しました。「Amazon Bedrock などの生成 AI サービスが充実しており、新技術を使ったサービスのリリースが早い点に魅力を感じました。また、最大手クラウド事業者である AWS ならナレッジも豊富で情報収集が容易です。さらに、東京リージョンで環境を構築することにより、情報を国内に留められる点も重要でした」(山田氏)
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AWS は、生成 AI を活用した仕組みがすべて完結できる点が大きな強みです。最新テクノロジーやツールの利用もローコストで、学習コストも少なくて済むのが AWS の利点だと感じています"
山田 智久 氏
ニッセイアセットマネジメント株式会社 ソリューション部
デジタル & アドバイザリー業務室 デジタルイノベーションヘッド
ソリューション | 非財務情報分析の課題解消システムを AWS に構築
統合報告書の分析には、チャットサービスを使用しても最終的に各社の PDF を確認する必要があり、検索の質や効率面での課題が残っていました。そこで、ESG の E(環境)に関連する環境分野でエンゲージメント活動を行う約 70 社を対象に、各社 3 年分の統合報告書から情報を抽出し、プロンプトを目視で改善しながら予測精度の向上を図りました。
処理の流れは、独自の評価観点を考慮した検索キーワードを定義し、それをもとに統合報告書に対してベクトル検索を実行。AI が検索結果から関連情報を選択して要約を作成し、その要約をファイルに出力して、チャットサービスのカスタム機能から参照できるようにしています。AWS のアーキテクチャはクラウドネイティブな構成で、情報抽出とサマリー作成を Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)で実装し、テキストデータは Amazon OpenSearch Service で集約・管理。さらに、情報の選択や要約の基盤モデルには、Amazon Bedrock を通じて利用できる Claude 3 Opus を活用しています。
このソリューションはチャットサービスのインターフェースに統合されていますが、分析結果の要約に加え、PDF ビューアーとも連携されました。評価観点ごとのサマリーとともに、元文書の該当箇所へのリンクが表示され、統合報告書の該当部分を参照できます。「当社が作りたかったのは AI が自動的に分析するツールではなく、人間が行う分析を拡張する、人間と AI が協業するようなツールです」と鹿子木氏は語ります。情報抽出の高精度化にこだわりながら、評価観点をそのまま検索するだけでは情報が少なくなってしまうため、クエリを膨らませて異なる表現も検索し、その結果を AI で取捨選択するという工夫を施しました。
この独自の情報抽出手法は、人工知能学会金融情報学研究会でも共有されました。また、開発プロセスにおいては、現場部門であるサステナブル投資推進部から Finatext の担当者まで密接な連携が行われました。
「担当者が普段の業務を言語化して伝えるのは難しく、その要望を仕組みに落とし込むには工夫が必要でした。約 10 回のヒアリングを重ね、業務内容の整理から要件定義まで丁寧に進めました。Finatext は金融業務にも深い理解があり、エンドユーザーと直接対話できるため、非常に助かっています」(山田氏)
導入効果 | 分析業務の効率化により大きく負担を軽減
分析・要約ソリューション導入の結果、統合報告書の分析業務は 3~5 倍に効率化されました。また、キーワード検索では見落としやすい関連情報も生成 AI による意味検索で拾えるようになり、分析の品質向上も期待されています。「統合報告書は各社が同じ時期に新しい文書を公開するため、特定の時期に業務が集中することが部門としての課題ですが、分析作業に要する時間が従来の 3 分の 1 程度に短縮されたことで、担当者だけでなく、部門の役員からも好評です」と鹿子木氏は語ります。この取り組みは新聞などでも報道され、注目を集めました。「資産運用業界における生成 AI 活用の先進的なユースケースとして、発表後も多くの問い合わせをいただいています」(山田氏)
AWS のサービスについて山田氏は、豊富なマネージドサービスが用意されており、生成 AI を活用した仕組みを AWS ですべて完結できる点が大きな強みだと評価します。「実証や部内利用であれば AWS のみですぐに対応できますし、最新テクノロジーやツールの利用もローコストで、学習コストも少なくて済みます」
今回の分析・要約ソリューションの有効性を実感したサステナブル投資推進部では、環境(E)関連だけでなく、社会(S)やガバナンス(G)分野への拡大を計画しています。
ニッセイアセットマネジメント社内でも、株式運用部のアナリストに加え、社債投資を行うクレジット投資部など、他の部門からの利用の要望があり、適用範囲をさらに広げていく方針です。生成 AI 活用の展望について山田氏は、次のように語っています。
「現状では、自分の周辺業務や事務的なサポートに生成 AI の利用が集中しています。しかし、社員にはそれぞれ運用やお客様とのコミュニケーションといった、もっとコアな業務があるはずです。そのような主要業務にも AI を展開し、さらに高度化を進めたいと考えています」
カスタマープロフィール:ニッセイアセットマネジメント株式会社
日本生命保険グループの一員として資産運用業務を担う企業。投資運用業や投資助言・代理業、第二種金融商品取引業を展開している。「ひたむきにその先を見つめ、より良い未来へつなぐ」をパーパスとして掲げ、お客様・社会から長期にわたって信頼・評価いただける資産運用会社であり続けることを目指している。近年は、デジタル技術やデータ活用も積極的に進め、資産運用の効率化・高度化に努めている。
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山田 智久 氏
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鹿子木 亨紀 氏
AWS アドバンストティア サービスパートナー
株式会社 Finatext
「金融を“サービス”として再発明する」をミッションに掲げ、デジタル化が進む金融業界で革新的なサービスを提供するフィンテック企業。従来の金融業界の硬直したシステムや複雑なビジネスモデルが顧客本位のサービスを阻む中、デジタル技術とデータ解析力を活用し、銀行、証券、保険、不動産、カード会社など多岐に亘る金融機関と協業することで、真に生活に寄り添う金融サービスの提供を行っている。
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ご利用中の主なサービス
Amazon Bedrock
Amazon Bedrock は、単一の API を介して AI21 Labs、Anthropic、Cohere、Meta、Mistral AI、Stability AI、および Amazon といった大手 AI 企業からの高性能な基盤モデル (FM) を選択できるフルマネージドサービスで、セキュリティ、プライバシー、責任ある AI を備えた生成 AI アプリケーションを構築するために必要な幅広い機能を提供します。
Amazon OpenSearch Service
Amazon OpenSearch Service は、アプリケーションモニタリング、ログ分析、オブザーバビリティ、ウェブサイト検索などのユースケースにおいて、ビジネスおよび運用データのリアルタイム検索、モニタリング、分析を安全に行うことができるようにします。
Amazon EC2
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、極めて幅広く、奥深いコンピューティングプラットフォームを提供します。
Amazon CloudFront
低レイテンシーかつ高速な転送速度でコンテンツを安全に配信。
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