「一瞬も 一生も 美しく」をコーポレートメッセージに掲げる株式会社資生堂では、お客さまの毎日のキレイにお役立ちする Web サービス「ワタシプラス」を展開しています。ネット上の資生堂の“顔”として美容情報を提供するにとどまらず、各種ブランドサイトを束ねた EC 機能、店舗検索、そして Web カウンセリングなどを提供し、化粧品や美容についての質問やお悩みに、様々なデジタルコンテンツを通じて総合的に応えています。

「ワタシプラス」という名称には、お客さまに豊かな化粧生活を提案させていただくために、一人ひとりのニーズにあわせて開発した「プラスになるサービス」を提供したいという思いが込められています。2012 年 4 月のサービス開始以来、ウェブとリアル店舗での体感を一つにして、お客さまと化粧品販売店さまと資生堂をつなぐ新たなサービスを追求し続けてきました。特に、資生堂で長年培われたノウハウを持ったビューティーコンサルタント(美容部員)に、自宅にいながら美容法や商品について相談ができる「Web カウンセリング」などはその一例です。

会員数 200 万人を突破し、LINE 公式アカウント友だち数 1,700 万人の突破も目前に控え、拡大を続ける次世代美容 Web サービスを安定的に支えていくためには、最先端で弾力的な IT インフラが必要不可欠な状況です。つまり、ワタシプラスにとって、IT インフラの高度化は、今後のデジタルビジネスにおける差別化戦略の一翼を担う武器になると捉えています。

ワタシプラスは、2012 年のサービス開始以来、様々なソーシャルメディアとの連携強化等、サービスの拡充とともに IT インフラを増強してきました。サービス開始後しばらくの間は、初期のロードマップから大きく外れることなくインフラを拡張してきました。しかし、サービス開始から1年あまり経過した2012年の秋頃、「LINE」配信を活用したキャンペーンを展開してから、新たなITインフラの課題に直面しました。

「LINE」を活用した マーケティングでは、集客力の高いキャンペーンを企画するほど、アクセス数の変動性が高くなってしまい、様々な IT インフラリソースの不足や不安定を誘発する状態が発生しやすくなってしまいます。結果的に、新規会員獲得や商品購入、あるいは Web カウンセリングといった各種サービスの機会損失にもつながってしまう可能性もあるため、販売促進施策の内容を調整せざるをえない状況がありました。次世代美容 Web サービスを支えるための IT インフラを見直す必要がありました。

もちろん、既存のオンプレミス環境においても可能な限りのリソース増強を図りましたが、ワタシプラスは LINE で多くの方の支持をいただき、友だち数は、それをはるかに超えて増え続けました。オンプレミスの環境だけでスパイクアクセスに耐えうる IT インフラリソースを調達するには相応のコストとファシリティが必要となります。しかし、LINE マーケティングのような変動性の高いキャンペーンサイトでは、アクセスが収束してしまえば、そのコストもファシリティも余計な負担となってしまいます。このような特性に応じた弾力的な IT インフラの調達とコスト最適化の課題を解決するためには、クラウドの活用は不可避でした。

株式会社 資生堂 デジタル事業部長 笹間 靖彦 様写真

「 現状の運⽤は極⼒変えずに、必要なときに必要な分だけクラウドに拡張したい。AWS ならば、そのような特別なニーズを満たしてくれると感じました。」
- 株式会社 資生堂 デジタル事業部長 笹間 靖彦 様

AWS の採用については、2013 年頃から検討を開始しました。選定のポイントは下記の 5 つでした。

  1. コスト
  2. スピード
  3. 拡張性・将来性
  4. サポート
  5. インテグレーション

他のクラウドサービスも含めた数社の比較検討を行いましたが、今回の課題解決においてすべての点において AWS が最適であると評価しました。特に、1. のコストと 3. の拡張性・将来性については、絶え間ない価格改定とサービスアップデートが行われており、他のサービスに比べて優れたスケールメリットがありました。

また、ビジネス課題を早期に解決するためには、既存資産を可能な限り活用することが望ましいと考えていました。ゼロから新たに キャンペーンサイトを構築していたのでは、サービス開始までの時間もコストもかかるうえ、システムのメンテナンス負担や、サイト運営に関わる業務負担が増します。それでは、また新たなビジネススピードの阻害要因となる課題を生じてしまいます。しかし、AWS には、VM Import/Export や AWS Direct Connect といった既存資産の移植やオンプレミスとの相互運用性を実現するためのサービスも充実していました。

「現状の運用は極力変えずに、必要なときに必要な分だけクラウドに拡張してスパイクアクセスを吸収したい」。AWSならば、そのような特別なユーザーニーズを満たしてくれると感じました。

今回は、APN プレミアコンサルティングパートナーである株式会社野村総合研究所(以下、NRI)に構想段階から参画してもらい、共同 POC(Proof of concept)として、AWS と既存オンプレミス環境を組み合わせた「ハイブリッド環境基盤」の実現性や可用性、性能を検証・評価してから、実際のインテグレーションを進めました。

その後、約 2 ヶ月の POC 期間を経て、AWS 導入方針を決定し、約 3 ヶ月間でオンプレミスと AWS を連携したクラウド環境の新規構築と、既存オンプレミスで稼働するアプリケーションの移植対応、関連システムを含めたテストを実施しました。これらのプロセスを経て、2015 年 2 月より本番稼働を開始しています。

POC 後に Amazon CloudFront の全面活用を決断しましたが、導入にあたっては AWS サポートのビジネスプランを利用したことにより、動作の確認や、これまでの利用実績を踏まえてのアドバイスなど、質の高いサポートをご提供いただくことができました。深く感謝しております。また、キャンペーンサイト特有の大量アクセス発生時に備えた、上限緩和対応の相談にも応じていただけた点も大変助かりました。

コスト面での削減効果を検証するにあたり、AWS が提供する TCO Calculator for Web Applications で試算を行った結果、大きなTCO 低減効果があることがわかりました。

拡張する IT インフラの調達費用は、オンプレミスに比べて大幅に削減することができました。また、性能検証を重ねながら、適宜インスタンスタイプを変更してスペックをチューニングできたことも、予定外のコスト超過を回避できたという点で削減効果があったと感じています。

導入にかかる期間については、サイジングに要する時間や、サーバー購入およびデータセンター導入に要する時間を約 3 ヶ月以上は短縮できたと考えています。

導入後の効果としては、スパイクアクセスも含めたアクセス数の変動性を AWS で吸収できたことにより、オンプレミス環境の負荷を大幅に軽減することができました。その結果、これまでオンプレミス環境において、必要に応じて稼働させていたサーバー増強運用の一部が不要となりました。こうした運用費や、増設と縮退のたびに要していたやりとりの時間、労力といったコストを削減できたことは、非常に大きなメリットです。

また、既存オンプレミス環境のバックエンドをそのままに、フロントエンドを AWS で拡張したことで、高可用で高性能、かつ、俊敏なスケーラビリティを兼ね備えた IT インフラを実現できました。この点は、お客さまに対してより安定したサービスを提供できるようになったことに加え、ワタシプラスのマーケッターがこれまで以上に魅力的な施策を実行できる環境を整えたという点においても、SLA の改善につながったと感じています。

こうした AWS の利点により、ワタシプラスのサービス開始時と比べて約 10 倍以上のアクセスに耐えうるインフラを手に入れることができました。当初の企画・構想段階では、AWS Direct Connectを介した DB アクセスによるネットワークレイテンシーの発生に懸念がありました。しかし、実際に構築を終えてみると、AWS Direct Connect のレイテンシー影響は軽微であり、むしろ静的コンテンツ配信に Amazon CloudFront を採用したことで、画像等の配信を伴うリクエストが大幅に改善され、トータルレスポンスを約1秒近く改善できました。

ワタシプラスでは、お客さまに安心してご利用いただけるようサイトの安全性には全力で取り組んでおります。セキュリティ面についても、AWSでは、サーバーやストレージサービスだけでなく、Web Application Fire Wall(WAF)や、AWS Identity and Access Management のセキュリティグループ、Amazon EBS 暗号化といったセキュリティソリューションのラインナップが充実しています。今では、業界標準の WAF が AWS のマーケットプレイスで調達できる時代です。それらを活用することで、オンプレミス環境と同等のセキュリティ対策を「早く、安く」実現できました。第三者機関によるセキュリティ診断テストにおいても、安全性について高い評価をいただきました。もちろん、オンプレミス環境においても、日々、予防や検知など更なるセキュリティの強化に努めています。

さらに、サイトの可用性についても AWS では、各リージョン内に複数のデータセンターで構成されているアベイラビリティゾーン(AZ)が 2 箇所以上設置されており、東京リージョンにおいても 2 箇所の AZ が提供されています。通常、オンプレミスでディザスターリカバリー(DR)の対策を考えようとすると、物理的なファシリティの制約条件が発生しますが、 AWS であれば、ユーザーはそのような点を意識することなく、論理設計のみで広域災害をも考慮した DR を実現することが可能です。この点も、24 時間 365 日安心安全のサービスを提供するワタシプラスのインフラ環境に AWS を選定した決め手となりました。

これからは、システムへの負荷を気にして施策内容を手加減することなく、ワタシプラスの価値を高めるお客さまプロモーションを続々と展開して、資生堂らしい美容と化粧品の Web サービスをお客さまひとりひとりに合わせてご提供し続けたいと考えています。

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今後も、効果を見ながら他サービスへの適用を検討していきます。また、フロントエンドのシステムだけに留まらず、厳しい費用対効果を求められる社内向けの管理システムや BI/DWH システム等、「ワタシプラス」を支えるバックエンドのシステムについても AWS 環境への移行も検討しています。各システムの特性を踏まえて、オンプレミスと AWS の使い分けを見極めながら、あるいはハイブリッドに利用することで、継続 的に IT のコストと効果の最適化を図りながら経営に貢献していく予定です。

今や世界中で認められている クラウドサービスの一つだと思います。導入を検討されている方は机上の比較や議論に時間を費やすよりも、まずは POC で AWS の良さを実感してみてはいかがでしょうか。

 

-株式会社 資生堂 デジタル事業部長 笹間 靖彦 様