AWS を選んだことで、電源容量や空調、床の耐荷重の心配も、データセンターに行く物理的な立ち会いもありませんでした。移行作業では大幅に手間を省くことができました。
オンプレミスと比較すると、ランニングコストよりもメンテナンス面で効果が出ていると感じています。IT システムの専門家がいない部署なので、この差はとても大きいです。
若林 啓明 氏 帝人株式会社 技術本部 エンジニアリング部門 技術開発部 CAE グループリーダー

1918 年 に日本初のレーヨンメーカーとして創業した帝人株式会社は、時代の進展とともに培ってきた化学技術や最先端の研究開発を通じて、事業の拡大、新規分野への進出、グローバル化を推し進め、現在は、高機能素材、ヘルスケア、IT という 3 つの異なる領域において事業を展開しています。
メーカーとして素材提供を行うだけでなく、3 つの領域の優位性ある技術や製品を融合、複合化させて、新たな価値の創造に挑戦しており、例えば IT を活用したソリューションの提案にも力を入れ、昨今話題となっているインダストリー 4.0 への取り組みなど、生産プロセスのさらなるデジタル化などを進めています。

帝人では、製品をいち早く市場投入するための開発や生産計画、また効率的で信頼性の高い製品の開発、製造のために、コンピュータを使った各種シミュレーションを活用してきました。「これまでも自社内に大型計算機を所有し、シミュレーションのための計算環境を運用してきました。」と言うのは、帝人株式会社 技術本部 エンジニアリング部門 技術開発部の勝冶 洋子氏です。

同社では、2015 年 11 月にリース契約期限を迎える自社内のシミュレーション環境の移行を 2014 年から計画していましたが、2017 年にオフィスが移転されるということもあり、将来的に自社内に大型計算機を設置する場所が確保できないことが分かりました。「新たなシミュレーション環境をどう確保するのか、日常の解析作業と並行して CAE(Computer Aided Engineering)部門が主導で新規環境の構築を行うしかありませんでした。」(勝冶氏) それに加え、新規環境の設置場所やネットワークはどうするか、データセンターのハウジングやコロケーションサービスを利用するべきか、あるいはクラウドを選択すべきかなど、目的や要件に合った環境を早急に選択する必要がありました。

新たな環境はコスト、計算性能、運用管理の手間など複数の要件を満たす必要がありました。「ハウジングやコロケーションであれば現状環境をそのまま移行できるものの、その後の運用管理のメリットを考慮すると、クラウドへの移行も 1 つの選択肢でした。」(勝冶氏) さらに、今後はシミュレーション環境をインターネットを通じて外部と接続する可能性も考慮し、クラウド利用はオープンデータなど幅広いデジタルデータの活用という流れにもつながることが期待されました。

また、自社でハードウェアを保有する場合、3、4 年と時間が経過すれば更新が必要になりますが、クラウドであれば途中でリソースを容易に増減させるだけでなく、常に最新の環境を利用することが可能です。これらのことを考慮した結果、同社では新たなシミュレーション環境をクラウドに移行することに決定しました。「まずは、クラウドで必要なシミュレーションの計算ができるかを検討しました。HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)のサービスがある AWS なら、それができると判断しました。」(勝冶氏)

クラウドの導入にあたり、他社のクラウドサービスも合わせて検討しましたが、HPC に対応しており、大容量のストレージサービスのコストも安価なことが AWS 選択の決め手となりました。また、AWS なら Amazon S3 や Amazon EBSなど複数のストレージサービスがあり、これらをうまく組み合わせることでコストは問題のない範囲に収まると予測することができました。「他社のクラウドサービスでは、安価で大規模なストレージが必要なら自前で用意したほうが良いとも言われましたが、AWS では担当者から、ストレージの利用も十分検討に入る事などさまざまなアドバイスを受けることができ、それに加えて CAE のためのハンズオンも実施してくれました。『これなら私たちにもできる』と実感しました。」(勝冶氏)

心配された移行の手間も、移行作業自体が 2 日、データ転送を入れても 1 週間程度、準備期間を加えても、2 週間で完了することができました。「オンプレミスでのサーバー移行であれば、大型計算機を設置するための部屋のレイアウトや耐荷重の確認、空調の調整など、システム移行以外の作業もすべて行わなければなりません。これらの作業には 1 カ月程の時間がかかります。これまでのサーバー移行作業では、本来の解析業務を割いて移行作業を行ってきましたが、AWS を選んだことでずいぶん楽ができました。」と言うのは、帝人株式会社 技術本部 エンジニアリング部門 技術開発部 CAE グループリーダーの若林 啓明氏です。

帝人では、実際のシステム移行に際して AWS パートナーである株式会社ターン・アンド・フロンティアにサポートを依頼しました。「ターン・アンド・フロンティアさんには HPC に関する部分以外の移行作業をすべてお任せすることができ、とても助かりました。」(勝冶氏)

ターン・アンド・フロンティアからは、移行後も 24 時間動かす管理サーバーやファイルサーバーの運用を中心にサポートを受けており、現在も安定稼働を継続することができています。

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Amazon EC2 に Amazon EBS と Amazon S3 を活用した新たな帝人のシミュレーション環境は、2015 年 11 月から運用されています。オンプレミスで運用していた場合、停電やハードウェア障害などで年に数日はシステムを停止し復旧に当てなければならず、その際作業の一部は専門家に依頼する必要がありましたが、AWS であれば、年間を通じ 24 時間以上の停止は基本的にないため、「オンプレミスと比較すると、ランニングコストよりもメンテナンス面で効果が出ていると感じています。IT システムの専門家がいない部署なので、この差はとても大きいです。」(勝冶氏)

また、技術開発部 CAE グループでは、帝人グループ各部署より解析依頼を受け、コンピュータシミュレーションを実施しています。依頼は時期により変動するため、必要となる計算キャパシティの予測はかなり難しく、以前は計算のピークに合わせてハードウェアを用意していました。これが AWS を導入することで、計算量の変動に柔軟に対応することができるようになりました。また、これまではファイルサーバーを二重化し、自社で冗長性を確保していましたが、Amazon EBS と Amazon S3 などのストレージサービスを活用することで、バックアップの心配がなくなったこともメリットとなりました。

AWS のセキュリティ面も高く評価されています。製品設計データのような重要な情報も置くので、セキュリティは重要です。AWS ならばセキュリティ認証でも各種お墨付きがあり、Amazon VPC で環境を分離することもできます。日本の大手企業でも多数の実績があるため、情報システム部門からも AWS の安全性の高さに対する理解が得られました。

同社では多様な解析ソフトウェアが利用されており、ソフトウェアごとに動かす OS は異なります。それらを手元のコンピュータに用意し、テストが終了したらアンインストールして次の環境を用意するというプロセスが必要であったため、かなり手間のかかる作業となっていました。しかし、AWS により環境を用意するのも容易となり、「さまざまなテスト用インスタンスを AWS ならすぐに立ち上げて利用できます。新しいことを気軽に試せて、その上で 1 時間使っても数百円、1 日使っても 1,000 円くらいしかかからない。これからはテスト用にも積極的に AWS を活用したいと思っています。」(勝冶氏)

また解析結果の可視化において、帝人では 2016 年に AWS 傘下のソフトウェアベンダーとなった NICE DCV の技術も活用しています。「NICE DCV があることで、AWS の中で解析から可視化までをワンストップかつリーズナブルに行うことができ、大きなメリットを感じています。」(勝冶氏)

さらに、Amazon WorkDocs も活用されています。従来は解析結果の大きなサイズのデータを他部門とやり取りする際には、セキュリティを確保する必要があるため、セキュアなオンラインストレージが利用されていました。しかしそれでは容量が小さいといった問題もありました。Amazon WorkDocs であれば十分な容量を確保でき、すぐに利用が可能なため、容量を気にすることなくファイルを置くことができるだけでなく、様々な環境から簡単に使えるようになりました。

帝人では、さらなる計算性能の確保のために、新しい Xeon プロセッサを利用する Amazon EC2 の C5 インスタンスの検証が予定されています。また、現状では STAR CCM++ や OpenFOAM など限られたソフトウェアを利用していますが、今後さらに幅広い製品を AWS で利用するため、グラフィックス機能が使える Amazon EC2 Elastic GPU の利用も視野に入れています。また、「将来的には CAE と AI を組み合わせて利用する話もあるので、AI 関連のサービスには期待しています。IoT についても、自分たちの部署で直接利用はしないかもしれませんが、新たなデータソースとして気になっています。」(若林氏)

継続的かつ盛んなコミュニティの活動についても、AWS の大きな価値だと評価されています。「AWS のユーザーコミュニティに HPC 部会があるのはすごいと思います。CAE は会社の中ではそれほど大きな部隊ではなく、同じような仕事をしている他社の人とつながれるのは、とても嬉しいです。」(勝冶氏)

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左から、
- 帝人株式会社  技術本部 エンジニアリング部門 技術開発部
淺田 佳晴 氏
- 帝人株式会社  技術本部 エンジニアリング部門 技術開発部
CAEグループリーダー 
若林 啓明 氏
- 帝人株式会社  技術本部 エンジニアリング部門 技術開発部
勝冶 洋子 氏
- 帝人株式会社  技術本部 エンジニアリング部門 技術開発部
末吉 麻衣 氏
- 帝人株式会社  技術本部 エンジニアリング部門 技術開発部
上田 真一 氏

AWS クラウドがエンタープライズ企業でどのように役立つかに関する詳細は、AWS によるエンタープライズクラウドコンピューティングの詳細ページをご参照ください。