株式会社東京証券取引所では、金融商品を取り扱う取引所として、有価証券の売買または市場デリバティブ取引を行うための市場施設の提供、相場の公表および 有価証券の売買等の公正の確保、その他の取引所金融商品市場の開設に係る業務を行っています。これらのサービスを提供するためには、優れたIT技術を駆使 して構築されたシステムを運用していく必要がありますが、ITサービス部はそれらのITシステムを運用管理し、安定したサービスを提供する役割を担ってい ます。

株式会社東京証券取引所では、運用機能やサービス監視機能を実施するためのパッケージの検証環境としてAWSのクラウドサービス利用を開始しました。弊社 では、運用機能の検証環境での利用頻度は多くはありませんが、利便性が求められるため、クラウド環境の活用が適した状況だと思います。現在、Oracleの運用機能パッケージ「EnterpriseManager11g」 をAWS上で展開し検証用に利用していますが、他の運用機能についても試していく可能性はあります。利用しているAWSクラウドサービスの内容は、 Amazon EC2とAmazon VPCとなります。

運用機能やサービス監視機能の展開に際しては、既成のパッケージの使用が一般的なので、当初は詳細にわたるカスタマイズが施された検証環境を用意するとい う想定はしておりませんでした。一方、それらの機能が本番稼働の段階に移ってしまうと、有事の際の検証環境は必須となるため、それならば検証環境を安価に 用意しようということで、クラウドを試しました。クラウド業者は他にも多々ありますが、AmazonEC2がOracle等の商用ミドルウェアへの対応が 最も進んでいたため、選択しました。当初は、「OracleEnterpriseManager11g」の AMIがAWSのUSリージョンで提供されていたため、活用を検討したこともありましたが、実際に使ってみると環境差異もあり、そのままの利用は難しいこ とが分かりました。その結果、最初から自社でマネジメント関連ツールをVPC環境上のEC2にインストールすることとし、そのAMIを東京リージョンに公 開することとしました。

実際にサーバを購入して5年間の保守費用も加味した場合にかかる費用は100万円以上になるかと思いますが、AWSのクラウドサービス上で展開すると、最 終検証も踏まえ数万円で収まったので、コスト効率は圧倒的かと思います。また、物理的に資産を保有しないので、サーバのラッキングも不要であり、電気代も かからず、財務管理上は、固定資産管理をしなくて済む点もメリットになっていると思います。

当社では、AWSのクラウドを使用するまで、ホスティングを使用した経験はあるものの、いわゆる「パブリッククラウド」のような環境を使ったことがありま せんでした。今回の環境構築に際しては、オンプレミスから移行したわけではなく、最初からクラウド上で作成しました。そのような経験から、クラウド特有の 環境、例えばインスタンス起動後のIPアドレス変更等に慣れないうちは戸惑われるかと思いますので、事前に調べVPCやEBSを前提に活用し、また、緊急 度の高い場合に確実に対処できるようにするためは、AWSプレミアムサポートを予め利用すると良いと思います。このような初心者が行き詰る典型的なパター ンについてナレッジとして社内に蓄積して次回利用時に活用するという点も有効的かと思います。

AWSクラウドを使用する上での入口となるAmazon Management Console機能は、初心者でも非常に扱いやすいものでした。証明書管理、通信ポート制御、インスタンス作成・起動・停止、等が一つの管理画面でできま すので、慣れると標準化されていない物理環境の運用管理より、利便性が高いかもしれません。また、仮想ディスクAmazon Elastic Block Store 「EBS」が非常に便利になっており、大量データが永続化され、スナップショットが簡易に取得できる点も気に入っています。
Amazon Virtual Private Cloud「Amazon VPC」については、プライベートIPアドレス指定の機能が非常に便利で、企業用途でのEC2利用に適したサービスだと感じました。 運用管理の視点からは、AWSのクラウドリソースとAWS上でクライアントが実行するアプリケーションをモニタリングする機能「Amazon CloudWatch」も素晴らしい機能だと思います。USの製品ベンダーの運用機能に代表されるような、分かりやすさがあり、例えば、OSが落ちた際の 原因などもすぐに分かりました。今回の検証環境用途では、コスト面と利便性で、弊社のビジネスを大きく支援していただきました。

EC2ではOS以上の管理はユーザー側になるため、その部分の運用機能の利用というニーズはあるのではないかと思っています。 今後の利用予定については、データーベース アドミニストレーターの教育用としてAmazon Relational Database Service 「Amazon RDS」を検討しています。また、S3は弊社で整備しているデファクトスタンダードなバックアップソフトウェアに対応していること、さらに、2012年1 月から東京リージョンでAWS Direct Connectといった専用線接のサービスの提供が開始されていること、課金体系がディスクのアサインベースではなく、完全な利用量ベースである点などか ら、当社では、AWSが提供するクラウドサービスを統合的なバックアップ先として、定期的なタイミングで導入検討をしていきたいと思います。また、ジョブ 管理や自動化の必要性が有る場合は、EMR、運用機能の検証作業の利便性向上のため、外部からWEBアクセス用として、Route53の活用も検討してい ます。

クラウドサービスには、提供するITベンダー固有の技術で構成されるものもあるようですが、ユーザー企業の大半は特定ベンダーの技術のみで構成されている ことは殆どないと思います。その意味で、特定ベンダー製品に依存しないニュートラルなアーキテクチャーと最新のサービスを継続的に提供しているAWSへの 期待は大きいです。また、AWSの技術はAmazonが電子商取引をする際に使用しているインフラ技術をベースに展開されてきたと聞いています。是非、 AWSの運用技術やサービス展開方法について、情報交換できたら幸いです。