マネージド型サービスの充実で、インフラの運用管理を AWS 側に任せることが可能になりました。
自社の運用コストの低減が、お客様へのサービス提供価格の低減につながることを考えると、AWS は最良の選択でした。

崎本 高広 氏 ウイングアーク1st 株式会社 技術本部 クラウド統括部 統括部長

主力製品である帳票基盤ソリューション『SVF』の SaaS 化にあたり、AWS のマネージド型サービス、Amazon ECS、Amazon Aurora、Amazon Kinesis などを用いてゼロから開発し、『SVF Cloud』としてリリース。約 3 年でユーザー企業の数は 236 社に達し、ウイングアーク 1st におけるクラウドビジネスの拡大につながっています。


 

ソ フトウェアとサービスを通じて、企業の情報活用を支援するウイングアーク1st。創業以来、自社開発の帳票ツール、データ集計ツール、データ可視化ツールをパッケージで提供してきました。近年はスピード経営や、インフラ運用の負荷軽減などのニーズに応え、クラウドソリューションのラインナップを拡充しています。

同社におけるソフトウェアの SaaS 化の始まりは 2012 年。Salesforce 向け BI ツールの開発要請を受け、AWS 上で稼働する『MotionBoard Cloud for Salesforce』をリリースしました。「SaaS 基盤として自社グループのデータセンターと比較し、調達スピードの速さを評価して AWS を採用しました。スモールスタートができて、徐々に拡張できるスケーラビリティの高さも魅力でした。」と語るのはクラウド統括部MotionBoard Cloud 開発部 部長の原田真行氏です。その後もスケールアップしながら開発を続け、2013 年 12 月には単体サービスとして『MotionBoard Cloud』をリリースしています。

2015 年には主力製品である帳票基盤ソリューションを SaaS 化した『SVF Cloud』を開発し、さらに翌年 2 月にはマルチテナントとセキュリティを強化したバージョンアップ版をリリース。SVF Cloud でも AWSを採用した理由について、技術本部 クラウド統括部 統括部長の崎本高広氏は次のように語ります。「MotionBoard Cloud で AWS を採用してから数年間で自社に活用ノウハウが蓄積され、技術者の育成コストが下がりました。帳票管理に求められる厳しいセキュリティ基準を AWS が満たしていることに加え、重視したのがマネージド型サービスの充実です。Amazon ECS や Amazon Aurora などが登場したことで、インフラレイヤーの運用管理の大部分を AWS 側に任せられるようになりました。運用コストが下がれば、お客様へのサービス提供価格も抑えられるため、AWS が最適という判断でした。」

原田氏も「他社のクラウドサービスも比較しましたが、パフォーマンスとインスタンスコストの面で AWS を上回るものがなく、あえて切り替える理由が見つかりませんでした。技術者としてはツールが豊富で、API を使った組み込みやコマンドラインで簡単に制御できるところを評価しています。」と語っています。SVF Cloud は、帳票を作成するためのライブラリを除き、それらを取り巻く設定や機能はすべてクラウドに最適化する形でゼロベースから設計、開発しました。

アプリケーションの動作基盤には Docker コンテナをサポートする Amazon ECS を採用してコンピューティングリソースを最適化。また、ワークフローの Amazon SWF でデータ取得、帳票生成、帳票配信と役割ごとに処理分散できる環境を構築することができました。SQL ベースのリレーショナルデータベースには Amazon Aurora を採用して可用性の向上、運用コストの低減を実現。請求書や領収書などの帳票類をダイレクトに社内のプリンターへ印刷するダイレクトプリントの機能では、リアルタイムストリーミングの Amazon Kinesis を採用し、ダイレクト印刷するために PC にインストールしたエージェントの台数が大幅に増えた場合にも、エージェント配下の各プリンターの紙切れやカバーオープンなどのプリンターステータス情報を安定して収集できるようにしています。印刷ジョブの有無チェックにはメッセージキューイングサービスの Amazon SQS と Amazon SNS を採用し、1 テナントで数百万台のプリンターへ印刷実行できる構成を実現しました。さらにセキュリティ強化のため、データ暗号化の AWS KMS を用いて帳票を暗号化し、Amazon S3 にデータを一時的に保管しています。

「AWS のテクノロジーをフルに活用したアーキテクチャは、AWS のパートナーソリューションアーキテクトと複数回のディスカッションを重ねながら、コストが最適化できるように構築していきました。開発当時は Amazon Aurora がリリースされたばかりでしたが、検証環境で評価したうえで採用しました。Docker についても大量の端末をクラウド上で制御するためには積極的に活用していこうという考えから、Amazon ECS を採用しました。」(崎本氏)

開発期間は 1st バージョンまでが 3 カ月、マルチテナントとセキュリティを強化した 2nd バージョンまでは、Amazon Aurora や Amazon Kinesis の検証も含めて 6 カ月で終えています。

SVF Cloud をリリースしてから約 3 年で、ユーザー企業数は 236 社に達し(2018 年 8 月時点)、大企業が中心のパッケージ版と比べて大小さまざまな企業に新規採用されているといいます。2016 年には大企業向けの『SVF Cloud Enterprise』をリリースし、さらに 2017 年に AWS PrivateLink がリリースされたことで、閉域網の環境が構築しやすくなり、今まで必要であったサーバー運用コストを大幅に削減することができるようになりました。さらに、安定性やセキュリティを重視する金融業界からも注目され、大手金融機関もユーザーに名を連ねています。

マネージド型サービスを利用して構築した SVF Cloud は運用負荷もかからず、全体の運用コストの低減に貢献しました。現在インフラの運用はわずかな人数で回せている状況で、SVF Cloud のサービス開発やビジネスにリソースが割けるようになっています。「少ない運用メンバーでサービスがスケールできる点に大きな効果を感じています。AWS のマネージド型サービスを利用していること自体がお客様への訴求力にもつながり、AWS ならセキュリティも安心と信頼をいただいています。」(崎本氏)

今後は、業種に特化したサービスをテンプレート化して提供していく計画で、すでに第 1 弾として化粧品/ドラッグストア向けの『スマートカウンセリングサービス』をリリースしています。また、2018 年 7 月にはパッケージで提供しているOCR・文書管理・データ活用製品『SPA』を SaaS 化した『SPA Cloud』を提供し、お客様の社内や社外の文書類もすべてクラウド上で管理ができるようになるなど、今後も新たなサービスを続々と提供していきます。さらに将来に向けて AI による文書管理にも取り組む予定で、崎本氏は「AWS の深層学習や AI 関連のサービスをコンポーネントとして組み込み、お客様のデータに新たな価値を提供することを追究していきます。」と話しています。

崎本 高広 氏

原田 真行 氏


AWS での SaaS ソリューション構築についての詳細は、AWS での SaaS ページをご参照ください。