1915 年創立の横河電機株式会社は今年(2015 年)でちょうど 100 周年を迎える制御/計測機器メーカーです。現在では売上の約 7 割を海外から上げており、グローバルブランドとしての「YOKOGAWA」を世界により拡大するため、さまざまな改革にグループをあげて取り組んでいます。

日本のお客様も最近は Web サイト経由でのサポートが増えてきていますが、海外のお客様の場合、その比率はもっと高くなります。ただし日本のサイトに比べて海外のサイトはスピードが遅いというクレームをお客様から多数いただいており、Web サーバーのパフォーマンス改善は大きな課題となっていました。

2013 年ごろ、ある国内製造業の方が話していた「Amazon CloudFront」の導入事例を聞き、グローバルにコンテンツを配信するにはちょうど良いソリューションであるとすぐに気づきました。海外のお客様にご満足いただけるパフォーマンスをお届けするには、お客様の近くにそれぞれサーバーを立てないといけないと思い込んでいたのですが、いまから考えるとそれは"オンプレ脳"での思考だったのかもしれません。世界中にエッジロケーションをもつ Amazon CloudFront なら、北米、欧州、アジア、etc. と各地に拠点を抱える当社のニーズに最適です。しかもハードウェアの調達を必要とせず、データ転送に利用した分だけを支払えばいいのでコスト面でも大幅な削減効果が期待できました。

実際に Amazon CloudFront を導入した結果、1 年でおよそ 50 % のコストを削減することができました。その後構成を見直し、さらに 20 % の削減を上乗せできています。でも効果を実感したのはコストだけではありませんでした。たとえばハードの調達がまったくいらないことは、実際に体験してみると大きな驚きでしたね。

オンプレミスでこの規模のプロジェクトなら、最低 5 年は使うことを前提にハードを導入して、半年から 1 年かけて実装して、それからテスト/本番へ、と順を追って進んでいきますが、Amazon CloudFront はハードの調達は当然いらないですし、導入作業も 2 カ月程度で済みました。いってみれば"クラウド脳"へのシフトが Amzon CloudFront で始まったという感じでしょうか。いったんローンチしたあとに再度構成を見直せる柔軟性もオンプレ脳では考えられないことだと思います。「設計当時は必要だと思っていたリソースが実は必要なかった、だから削除したい」というオンプレミスでは難しい注文にもクラウドなら簡単に応えられます。

横河電機 経営管理本部 YGSP部 山下 じゅん子 様、横河電機 経営管理本部 YGSP部 吉田 政幸 様 写真

「IT 部門とビジネス部門が同じ基盤をベースにお客様への提案について話ができるようになった、これは組織的にも大きな進歩だと感じています。」
- 横河電機 経営管理本部 YGSP部 山下 じゅん子 様
- 横河電機 経営管理本部 YGSP部 吉田 政幸 様

Amzon CloudFront を導入してしばらくしてから、サイトのセキュリティを高めるために WAF(Web Application Firewall)の導入を行うことになりました。我々が選んだのは米国に本社を置くセキュリティベンダ Imperva 社の製品です。Imperva の WAF は Web サイトへの標的型攻撃を防ぐソリューションとして定評がある製品ですが、我々にとって大きな決め手となったのは AWS クラウドに対応しているところでした。当時、オンプレミスにもクラウドにも同じように対応できる WAF はまだ少なかったからです。

ただ WAF を導入するにあたって大きな課題がひとつ出てきました。当時の Imperva のライセンスでは VPC ごとに WAF を入れなければならなかったのですが、事業部がサイトをひとつ公開するたびに WAF を揃えていくのは正直、コストや負荷の面で課題がありました。単独で導入した WAF の下にそれぞれのシステムをぶら下げることができれば、VPC の構成に関わらず、別々に運用されるサイトを取りまとめて、ひとつの WAF で保護する構成ができれば、というのが我々の理想形でした。

結果的には、この課題は解消されました。というのは、AWS と Imperva 間のコミュニケーションの結果、WAF を導入した単独の VPC に対して、複数の VPC を接続する構成が可能となったからです。これもある意味、グローバルなクラウドベンダーである AWS を利用するメリットといえるのかもしれません。

Imperva は外部からの攻撃を防ぐために導入した製品ですが、当然、ログが溜まってきます。それまではこの手のログは一定の期間が過ぎたら捨てていたのですが、AWS のストレージサービスである Amazon S3 を使うことで、ログの収集がより簡単になっただけでなく、1 GB/月約 4 円という低額な料金によりコストが大幅に削減でき、毎日流れてくる Web のトラフィックログをどんどんためられるようになりました。これは物理的な容量を常に気にしなければならないオンプレミスのストレージでは絶対に無理なことです。これもオンプレ脳にとっては衝撃でした。

せっかく容量を気にせずにログを溜められるようになったので、外部から受けている攻撃や不正アクセスの概要をつかみ、セキュリティを向上させるために、クラウド上でのビッグデータ分析サービスを提供する Splunk 社の製品を利用することにしました。AWS 上での稼働実績も多く、ログ分析サービスも提供されていて、我々のシステムとの親和性も高いと判断したからです。

ところが、本来セキュリティのために導入したこの分析サービスが、意外な副次効果を示したのです。当然ですが Amazon CloudFront と Imperva のログデータには攻撃者だけでなく、すべての WEB アクセスのログが含まれています。つまり、これまではわからなかったアクセス傾向が可視化できるようになり、最適な提案ができるようになったのです。もともとは捨てていたはずのデータが、実は営業に役立つデータがぎっしり詰まっていた宝の山だった - クラウド脳になったからこそわかった事実でした。

アクセス傾向データを分析すると、背景、動機もみえてきます。たとえば、古い製品の情報について何度も検索をかけているとします。もしかしたらこの製品のサポート窓口を探しているけれど、サイトのどこにも見つけられないので何度も検索しているのかもしれない。あるいは関連ドキュメントを探しているのかもしれない。それとも本当はこの製品のアップデート版が欲しいのではないだろうか…。いずれにせよ、サイトに検索をかけてくるお客様は何か悩みをもっているはずだと気づいたのです。

実は当社には公式サイトのほかに、基幹システムとも連携している会員サイトが存在します。現在利用中の製品に関するサポートは会員サイトを経由して行っています。ここでは、会員 ID と Web の行動履歴を連携することができるので、会員ニーズを掘り起こすことができます。こうしたせっかくの良いアイデアも思いついてから実現までに何カ月もかかると、そのプロジェクトへの情熱も冷めてしまいます。今回のように、思いついたアイデアをすぐに試すことができるようになったのもクラウド脳へシフトしたおかげだと思います。

この"すぐ動く"というポイントはクラウドを活用していく上で欠かせない視点です。もし我々が AWS の導入を検討している企業にアドバイスするとしたら、フットワークの軽いパートナー企業の選定、そして今回活用させていただいた常に適切な提案をいただける AWS プロフェッショナルサービスのご利用をまずお勧めします。クラウドの専門知識と技術をもっていることももちろん大切ですが、アイデアをすぐに実行するための迅速かつ的確な提案と、実現に向けたフットワークの軽さが一緒に動くスタッフにも求められるからです。

現在ではログ分析から知り得たお客様の声を世界各地と共有しています。この情報を活用することで、効率的で具体的なアクションが取れるようになり、売上増にも確実に貢献していることを実感しています。IT 部門とビジネス部門が同じ基盤をベースにお客様への提案について話ができるようになった、これは組織的にも大きな進歩だと感じています。

横河電機株式会社様 システム構成図

Amazon CloudFront から始まった AWS 導入ですが、現在、AWS 上で OpenText を活用した生産・製品ドキュメントシステムを構築し、さらにそれをシンガポールリージョンの VPC と同期させています。これもオンプレミスなら、シンガポールに 1 セット環境構築するなんて手間とコストから考えられないわけですが、AWS クラウドなら何の問題もなくすぐに立ち上げることができました。最近では我々のケースを見て、生産やサービス部門などの部署でも AWS を試したいという声が上がっています。当社の販売、生産拠点は世界中にあるので、やはり海外で幅広くサービスを提供している AWS はそうした条件もクリアできますから。今後、社外ベンダとセキュアでスムーズに仕事を進めていくうえで、Amazon WorkSpaces に期待をしています。

AWS の最大のメリットはもちろんコストです。先ほども触れましたが、たとえば Amazon S3 のコスト等は従来の物理ストレージに比べたら破壊的な低価格です。経営層に提言するときも、大幅なコスト削減というのは大きな説得材料になるでしょう。考えてみればこれまでハードウェア調達でベンダとの間で行っていた金額交渉にそれほど大きな意義はなく、それよりも稼働率やお客様にとっての使いやすさのほうがずっと大事なはずです。でもオンプレ脳だとなかなかそこに気づけません。そう考えると、実は我々にとってコスト以上に大きかったのは、オンプレ脳を脱却し、クラウド脳で物事を考えられるようになったことかもしれません。クラウドのアプローチで捉えれば、ゴミだと思いこんでいたログデータが宝の山に変わる、これからはこういう経験を数多くできるのではないかと期待しています。

IT インフラがコスト削減だけではなく、納期短縮、品質向上、ビジネス貢献までも実現できるようになったのです。活用範囲、考え方を変えるとまだまだ応用範囲は広がるのではないかと確信しています。