株式会社ガリバーインターナショナルは、全国の営業担当者が利用する iPad による査定システムの刷新に伴い AWS を採用。AWS のマネージドサービスを活用することで、運用の効率化を図ると共に、AWS プロフェッショナルサービスのサポートによる開発企業のマルチベンダー体制における標準化も実現しています。
当社は創業当時から通信衛星を活用した独自の画像販売システム「ドルフィネット」を展開してきました。お客様に現車ではなく画像を見せてクルマを販売するというビジネスモデルは当時の中古車業界においては新たな試みでしたが、こうした改革をやってのけた背景として、経営層の間に「システムと事業を融合させる」という考えが定着していることが挙げられます。そういう意味では、クラウドのような先端的な IT を受け入れる下地が創業からの企業文化として根付いています。
クラウドの本格導入を最初に検討したのは 2010 年後半でした。販売店の店頭で iPad を活用した中古車査定システム(販売店と本社で画像を含む査定情報のやりとりをリアルタイムに行うシステム)を構築することになったのですが、オンプレミスで構築しようとするととにかく何事も時間がかかりすぎることが課題となりました。たとえばハードウェアの見積もりを依頼するだけでも 1 週間以上かかってしまうため、ビジネスに大きな遅れが生じることになってしまいます。また、一度決めた開発/運用方針を転換することが難しく、これも変化への対応を難しくしていました。
「海外展開に限らず、今後の事業拡大はクラウドなしでは考えにくいと思います。」
- 株式会社ガリバーインターナショナル IT チーム 月島 学 様
そうしたビジネス上の課題からクラウド上のシステム構築を検討開始したのですが、当時はいわゆるクラウドベンダーと言えるような会社は数社しかなく、さらに当社が望んでいたような、サーバインスタンスの従量課金を提示している企業は AWS だけでした。すでに当時から AWS のサービスは利便性が高く、外部の手を借りずに社内だけでワンストップで構築できる点も大きな魅力でした。
もっとも当時は国内におけるエンタープライズ企業のクラウド導入事例は数えるほどしかなかったのですが、先に経営層の理解について触れたとおり、企業文化として先進的なITを受け入れる下地が整っていたこともあり、よく周りから聞かれることの多かったセキュリティに関しても、「新しい技術を使うのだから、それにあわせて新しいセキュリティを我々が作っていこう」という意気込みで取り組んでいたので、必要以上にクラウドへの不安を抱くこともありませんでした。また、AWS でシステムを構築する前から、クラウドベースの SaaS を活用していたことも、クラウド導入への敷居が低かった理由のひとつかもしれません。
AWS を導入してまず感じたのは、柔軟性の高さと拡張のしやすさです。システム作り変えやリソースの変更が容易にでき、事業の規模にあわせて拡大や縮小も可能です。中古車業界は繁忙期と閑散期の差が大きいのですが、そういったニーズに合わせた調整も非常に柔軟に行えるので、利用実態に沿った使い方ができるのはクラウドならではのメリットではないかと感じています。
もうひとつ、導入後の変化として顕著なのが業務ユーザーからのシステムに対する声が上がりやすくなったこと、そしてそれらへのフィードバックを迅速に行えるようになったことです。ユーザの声を取り入れた細かな変更や改善をスピーディーに、かつ低コストで回していけるのも、オンプレミスでは実現できない、クラウドならではの大きなアドバンテージだと思います。
当社では現在、Amazon EC2 や Amazon VPC をはじめとする数多くの AWS サービスを活用していますが、その運用方針も現在は少しずつ変化しています。その代表例が先に紹介した iPad による査定システムの刷新です。最初の査定システムは Amazon EC2 上に構築していましたが、これを現在、Amazon DynamoDB AWS Lambda といったマネージド型のサービスや、Amazon Cognito 等を組み合わせたシステムに APN パートナーのクラスメソッド社の支援のもと、刷新する予定です。直営店などの現場と本部を 2 層構成でつなぐシステムです。
刷新に踏み切ったのは、それまでのシステムにおける運用負荷およびコストを軽減することが主な目的です。当社は事業会社なので、IT も可能な限りアプリケーションレイヤー中心で考えたい、もっといえばデータの流れを追う作業をはじめとしたビジネスに直結する業務にに専念していきたいのが本音です。AWS を導入したことにより、オンプレミスと比べると格段に運用負荷については改善しましたが、現在では、さらに、Amazon EC2 からの脱却が不可欠だと判断しました。前回が「オンプレミスからクラウド」への移行だとしたら、今回は「クラウドからさらに一歩先のクラウドへ」の移行だといえるかもしれません
さらに一歩先のクラウドへ -プロフェッショナルサービスの効用
このシステム刷新プロジェクトを進めるにあたり、当社では AWS のコンサルティングサービスである AWS のプロフェッショナルサービスを利用しました。現在、当社のクラウドプロジェクトでは複数の開発企業を入れたマルチベンダー体制をとっていますが、標準化されていないとまず言葉が通じません。もちろん社内の IT チームでも標準化は進めていましたが、クラウド化が急速に進んだために追いついていないという状況でした。AWS のアーキテクトやエンジニアといったクラウドのプロによるアドバイスは、当社の標準化に大きく貢献してくれたと思っています。
また、当社のスタッフや開発企業の中にはさまざまなクラウドスキルに長けているエンジニアがいるのですが、誰をどこに配置すれば効率的なのかがなかなかわかりにくかったという課題がありました。この点もプロフェッショナルサービスの方のアドバイスによって大きく改善でき、とても助かりました。プロジェクトマネジメントやコンサルティング、クラウドに関する知見といった「パズルをつくり上げるスキル」がプロフェッショナルサービスは非常に高いと評価しています。
当社の IT チームは現在 17 名ほどですが、その中でもインフラにかけられる人数はわずかです。少ないスタッフで構築する以上、開発企業のクラウドに対する知識の底上げは我々にとっても欠かせません。そうした面での支援もプロフェッショナルサービスが大きな助けとなりました。何か質問をしても回答が明瞭で的確なのはもちろんのこと、プロフェッショナルサービスの方の回答のスピードが非常に速いため、「(クラウド関連の)調査に時間がかかる」ということがすっかり嫌になってしまいました(笑)
インフラの世界ではクラウドとともにアジャイルやリーンといった言葉を聞くことも多いですが、そうした言葉を概念ではなく、肌感覚で理解しているエンジニアはまだ少ないのではないでしょうか。プロフェショナルサービスはそれらのぼんやりした概念を、自分たちが使えるレベルまで落とし込んでくれた存在だといえます。
現在、当社は海外展開にも力を入れていますが、AWS が世界各地にリージョンをもっていることで非常に助けられています。先日もベトナムの企業とオフショアでやりとりする際、オンプレミスに接続しなくていいということの快適さをあらためて感じました。海外展開に限らず、今後の事業拡大はクラウドなしでは考えにくいと思います。
当社では多くのレガシーシステムを AWS クラウドに移行してきましたが、さらにそれを推し進める一方で、今後は基本的に新しいシステムはクラウド上に構築していくつもりです。典型的な"クラウドファースト"といえるかもしれませんが、積極的にクラウドにするというよりも、クラウドにしない理由が見当たらない、というのが正直な考えです。
当然ですが、クラウドにしたからといって運用がゼロになることはありません。しかし運用のスタイルは確実に変わっていくでしょう。たとえば監視の仕組みは以前は有人だったものが自動化されていく、そうなると今度はそれをベースに標準化していく必要が出てきますし、求められるスキルセットも変わっていく、そうしたことの繰り返しになると思っています。運用担当者はより上流のスキル、さまざまなパーツを組み替える能力が求められるはずです。
AWS に望むサービスとしてはまず、ジョブコントローラー的なスケジューラーです。多くの事業会社には何十、何百ものスケジュールが存在しますが、これらを可用性をもって運用できるサービスを期待しています。 また今後は API 化も進めていく予定なので、Amazon API Gateway を活用していきたいと考えています。このため、このサービスの継続的な機能拡張も期待しています。
今後、クラウドへの移行を検討している企業の皆様は、まず、「クラウドに行けない理由」を言語化してみてください。これほどクラウドが普及した以上、少なくとも現場の方々は漠然とでも「クラウドのほうがいいのでは」と思っているはずです。同様に漠然と「リスクやセキュリティは…」と考えているかもしれません。まずは不安を言葉として書き出して"標準化"してみてください。きっとそれらのほとんどが解決可能とお分かりいただけると思います。
- 株式会社ガリバーインターナショナル IT チーム 月島 学 様