AWS に移行したことにより、これまでインフラにかけていた時間が大きく削減されました。これにより開発者は、よりサービスの開発に力を入れられるようになります。
画像データの増加に合わせたストレージサーバの増設の心配もなくなり、アプリケーションの実装もシンプルにすることができました。
AWS を使えることが、ミクシィが今後より良いサービスを作るための武器になります。
北村 聖児 氏 株式会社 ミクシィ オレンジスタジオ mixi システム部 部長

「新しい文化を創る」をミッションに掲げる株式会社ミクシィは、1997 年に Web 系求人情報サイト「Find Job!」の運営からビジネスをスタートしました。2004 年 2 月には日本におけるソーシャル・ネットワーキング サービス(SNS)の草分け「mixi」の運営を開始。2006 年には社名をミクシィに変え、東京証券取引所マザーズ市場への株式上場もはたします。

現在は SNS の mixi をはじめ、子どもの写真や動画を無制限無料で家族だけにカンタン共有できるスマホ時代の家族アルバム「みてね」、好きなアーティストやアイドルと 1 対 1 のライブコミュニケーションを行える Web サービス「きみだけ LIVE」、美容室やネイルサロン、まつげサロンなどにお得に行けるビューティアプリ「minimo」、そして誰もが簡単に楽しめる爽快アクション RPG として世界中で大ヒットしている「モンスターストライク」など、多彩なサービスを展開する企業へと大きく変化しています。

ミクシィでは、Find Job! や mixi に加え、2011 年頃から新たなサービスが徐々に増えていきます。株式会社 ミクシィ オレンジスタジオ mixi システム部 部長 北村 聖児 氏は「イノベーションセンターと呼ばれる組織が社内にあり、社員によるさまざまなアイデアや企画がここに申請されます。その内容が役員により承認されれば、予算や担当役員がつき事業化を進めます。

こうした活動により、多くのプロダクトを運営する事情からインフラエンジニアの負荷が増大し、全社的にインフラに対する運用負担軽減が急務となっていました。

また 2004 年にサービスを開始して以来、SNS の mixi のインフラは一貫してオンプレミスで構築してきました。その間、何度かサーバーやネットワーク機器などのリプレイスを実施してきましたが、この時もリプレイスの時期に差し掛かっていました。使い続けてきた IT リソースは徐々に老朽化し保守更新も行えなくなる期限が迫ってきていました。

そこで mixi のインフラのリプレイスが検討されます。しかしながら、オンプレミスのままシステムを入れ替えると、ハードウェア調達から導入、各種設定などの作業を自らの手で行わなければなりません。これらには多くの技術者リソースが必要となります。「ただでさえ手薄な体制の中で入れ替えの作業が発生すると、他のプロジェクトの運用にも手が回らなくなる可能性がありました」(北村氏)

限られたインフラ技術者体制でも、安定、安全な運用を実現する。さらには、老朽化したオンプレミス環境を、効率的に新たなインフラへとスムーズに移行する。これらは、mixi を運営するうえで、大きな課題でした。

SNS の mixi では、長年かけて様々な機能やサービスを開発し、提供してきました。そのため、「サーバー台数もおのずと多くなり、AWS への移行を始める前には約 1,000 台の物理サーバーで構成されていました」(北村氏)

これらのサーバー群をスムーズにリプレイスし、同時にインフラの人的運用負担軽減も実現する。そのためにミクシィが選んだのが、AWS の活用でした。AWS を選んだ理由の 1 つは社内外の導入実績です。当時、すでに AWS は東京リージョンでサービスを開始しており、それを活用している他社事例が多数ありました。同じようにミクシィ内でも新しく立ち上げたサービスのいくつかで、AWS を利用している実績があり、AWS の多彩なマネージドサービスを組み合わせることでサービスのリリース速度を向上できることも分かっていました。mixi を担当するアプリケーション開発者からも AWS を使いたいという声があり、これもまた AWS の採用を後押しすることとなりました。

また、AWS はマネージドサービスでありサーバー運用の手間が少なく、管理のためのツールも揃っています。そのため、これまでインフラに関わってこなかったようなアプリケーション開発者中心でも、システムの移管や運用が可能だとミクシィでは判断したのです。

約 1,000 台の物理サーバー上には仮想サーバーも動いており、移行対象はおよそ 2,000 サーバー。アプリケーションサーバーの種類も 100 種類以上、データベースサーバーも 100 種類以上ありました。

移行にあたっては、AWS Direct Connect でデータセンターとプライベート接続し、徐々にオンプレミスのサーバーを、Amazon EC2 に置き換えていきました。

実際の移行は 2015 年 3 月から開始し、半年ほどの時間をかけ初期フェーズの作業を終了しています。この移行ではデータベースサーバーと管理サーバーの一部をミクシィのデータセンターに残し、そのほかのサーバーは AWS への移行を完了しています。

移行後の mixi の環境では、DNS に Amazon Route 53 を、画像コンテンツの配信には Amazon CloudFront を利用しています。一部では Amazon RDS の MySQL を活用しており、Hadoop クラスター環境の Amazon EMR も使っています。

さらに検索エンジンでは Amazon CloudSearch を、監視・モニタリングでは AWS CloudTrail や Amazon CloudWatch を活用しています。10 年オンプレミスで開発し、運用してきた仕組みなので AWS という環境を活かしきれていないところがまだまだあります。マネージドサービスを検証し、メリットがあると判断できたところには積極的に切替を行っています。

ミクシィでは AWS Direct Connect と Amazon VPC を組み合わせて、プライベートクラウドの環境を構築しています。課金システムはネットワークを分離するとのセキュリティポリシーがあり、Amazon VPC を使ってサービスとは別のネットワーク空間を作っています。これで課金システムの安全性と信頼性も担保しています。

AWS への移行で大きく変わったことの1つが、画像データの管理です。SNS においてコミュニケーション活性化のために画像データは極めて重要です。蓄積されている画像データは、優に 100 億を超えています。従来ミクシィでは、これらの管理に大規模なストレージサーバーを導入していました。「当時はデータセンターにたくさんのストレージサーバーを並べ、どのストレージにどの画像が格納されているかをアプリケーション側で認識する必要がありました」(北村氏)

移行後は mixi の大量な画像データは、いくつかの Amazon S3 のバケットに集約されました。これにより、どのストレージサーバーに画像データが入っているかを意識する必要はなくなり「アプリケーションの実装もかなりシンプル化できました」と北村氏は言います。さらに、画像データの増加に合わせたストレージサーバーの増設の心配もなくなり、ストレージサーバー設置スペースや消費電力も削減されています。

オンプレミスに残したデータベースへのレスポンス速度についても Amazon ElastiCache を活用し、頻繁に利用するデータベースのデータをキャッシュすることで、アプリケーションサーバーからの参照系処理を、ほぼ AWS 内で完結できるようにしています。この工夫により、移行後も十分なアプリケーションレスポンスを確保しています。

コスト面では、「アプリケーションサーバーやストレージ等の多くを移行したことにより、結果的に、ラック数は従来の約 30% にまで縮小されました」(北村氏)

AWS のサービス活用で、mixi のインフラ運用の人的負担は大きく低下しました。「サーバー調達やセットアップの手間がないのは大きな違いです。AWS によりインフラ構築と運用にかかっていた時間は大幅に減っています」(北村氏)

ミクシィでは、AWS への移行により、マネージドサービスによる開発スピード向上や管理コスト削減、人的運用コスト削減を果たすことができただけでなく、アプリエンジニア中心の運用が可能になるといったメリットを得ることができました。

「単純なインフラコストという視点だけでなく、マネージドサービスを活用することによって得られる開発スピード向上や、見えないコストへの効果等、AWS という環境を得られたこと自体が大きなメリットとなっています。今後も AWS をフル活用し、よりよいサービス開発、提供をしていきます」(北村氏)

ミクシィでは現時点ではデータベースをオンプレミスで運用していますが、データベースを AWS に移管することを検討しています。「移行先として Amazon RDS for MySQL や、 Amazon RDS for Aurora の利用も検討しています。データベースをオンプレミスから AWS に移管することでアプリケーションサーバーとデータベースの通信距離が短くなるため、まずは、データベースの中でも、高いレスポンス速度を期待されるようなものを優先して移行していきたいと思っています」(北村氏)

「AWS の活用は、ミクシィが今後より良いサービスを提供していくための武器になります。AWS により、これまでインフラにかけていた時間が大きく削減されました。これにより開発者は、よりサービスの開発に力を入れられるようになります」(北村氏 

- 株式会社 ミクシィ オレンジスタジオ mixi システム部 部長 北村 聖児 氏

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