Amazon VPC と AWS Direct Connect を活用すれば、プライベートクラウドとしても利用できるところを高く評価しました。

AWS なら、開発から運用に至るまでを自分たちで直接携われます。これは IT エンジニアとしての技術的なバックボーンとなる部分を身に付けることにもなります。

池本 修幸 氏 株式会社千趣会 経営企画本部 情報システム部

2015 年に創業 60 周年を迎えた株式会社 千趣会は、「女性を幸せにする会社」「女性に笑顔を届ける会社」をビジョンに掲げている企業です。カタログ通販からビジネスを拡大した同社は、「ベルメゾン」ブランドの通販ビジネスが主力です。通販ビジネスは紙のカタログ、EC サイト、カタログサイトなど多チャネルで展開されており、30 ~ 50 代の女性が主な顧客となっています。

千趣会では通販ビジネスだけでなく、オムニチャネルなど新たなビジネスへのチャレンジも行っています。そのためもあり、2015 年には大丸松坂屋やパルコなどの百貨店を運営する J.フロント リテイリング株式会社との資本提携を行い、共同でのプライベートブランド展開なども開始しています。

また、ブライダル事業や保育園事業などで、顧客層のさらなる拡大にも取り組んでおり、女性の生活ライフサイクルに密着したビジネスを幅広く展開しています。

千趣会では紙のカタログから EC サイトへと、デジタル化というビジネス環境の変化がありました。また、新たなサービスを展開する中では、IT システムには変化に対応できる柔軟性と俊敏性が求められていました。これらビジネス環境の変化に対応するための方策の 1 つと考えたのが、クラウドコンピューティングの活用でした。

「全面的にクラウドに移行するのではなく、顧客の利便性向上を目的に緩やかに活用することを考えました」と、株式会社 千趣会 経営企画本部 情報システム部の池本 修幸 氏は言います。自社で IT 資産を持つと、ハードウェアや OS、ミドルウェアなどの保守切れのタイミングで、新たな環境への移行を余儀なくされます。「素早い変化が求められる時代にも関わらず、保守、保守、保守で情報システム部門は保守切れのタイミングに翻弄されてきました。」(池本氏)

新しい試みの際にも自社で IT システム環境を用意するとなれば、都度ハードウェアを調達し環境を構築しなければなりません。これにはコストも時間もかかり、迅速なシステム開発もままなりません。また、新規チャレンジのビジネスで成果の予測が難しい中では、IT システムに対し大きな初期導入費用を確保するのも難しいものがありました。千趣会では、これらを解決する手段としてクラウドコンピューティングを導入することにしたのです。

まず 2010 年に千趣会で導入したのはプライベートクラウドでした。ここから既存のオンプレミスの業務システムをプライベートクラウドへと徐々に移行を開始します。このプライベートクラウド化は上手くいっていましたが、「クラウドとはいえプライベートでは、無尽蔵にリソースがあるわけではありません。要求に対しこれ以上拡張できないとなれば、それはビジネスのリスクになります。」(池本氏)

問題が起きてから対策を検討するのではなく、千趣会では何か起きる前により柔軟性が得られるクラウドサービスを検討することにしました。

国産サービスを含めいくつかのクラウドサービスを検討し、総合的に判断した結果選んだのが AWS でした。千趣会が選択したポイントの 1 つがコストです。これはたんに安価なだけでなく、業務システムを利用しない時間帯は止めておけば課金されないなど、柔軟な対応ができる点を評価しました。

また、AWS がサーバーリソースだけでなく豊富なサービスがあることも魅力的でした。「AWS には Amazon Virtual Private Cloud (Amazon VPC) と AWS Direct Connect があるので、プライベートクラウドとして利用できるところを高く評価しました。」(池本氏)

千趣会では、2013 年から AWS の利用を開始しました。Amazon EC2 中心に、Amazon S3、Amazon ElastiCache、AWS CloudFormation や Amazon RDS を組み合わせて利用しています。Amazon RDS は、SQL Server、MySQL、PostgreSQL と複数のデータベースを利用しています。さらに Amazon VPC と AWS Direct Connect を活用し、クラウド上に千趣会専用のプライベートな環境も構築しています。

AWS Direct Connect は、千趣会のプライベートネットワーク網と AWS 間、および プライベートクラウドがあるデータセンターと AWS 間の2系統で接続しています。前者は社内クライアントから接続した際のクラウドアプリケーションのレスポンス確保に、後者はプライベートクラウド上のシステムと AWS 上のシステム間における大量データの連携をスムースに行うのに利用されています。

AWS 導入前は、信頼性や可用性、不具合が発生した際のサポート体制など不安もありましたが、これらについては、AWS Summit Tokyo などのイベントに参加し、すでに AWS を利用している多くの顧客事例の話を聞くことで解消できました。「すでにこんなにたくさん AWS を使っている企業がいるのに、自分たちが利用しなければ遅れてしまうとさえ思いました。」(池本氏)

さらに千趣会では AWS の無料利用枠を活用し、実際に Amazon EC2 や Amazon S3 などで事前検証したことも、不安要素を取り除くことにつながりました。

千趣会では経営データ分析環境の Oracle Essbase、EAI ツールの Asteria Warp、統合システム運用管理の JP1、物流管理システムの HITLOMANS、人事システムの COMPANY、認証基盤の Active Directory、などを AWS で利用しています。これらはプライベートクラウドから移行したものもあれば、新規導入時に AWS 上で利用すると判断したものもあります。

AWS を導入したことにより、新しいビジネスのためのシステムでは、明らかに導入時間が短縮されています。たとえばプライベートクラウドで新規に環境を用意する際は、SIer に見積もりを依頼し設定のエンジニアを確保するプロセスが必要となり、2 週間程度の時間が必要になります。それが AWS ならば 1 日か 2 日もあれば開発を開始できるのです。さらに「AWS を利用できるようになり、新規システムの仕様を決める前に試せるのも大きなメリットです。プライベートクラウドでは、仕様が決まらないとリソースの確保は行えません。」(池本氏)

新規システム開発の予算獲得時にも、経営層への説得がやりやすくなったと言います。これは柔軟なコスト管理ができるためです。システム開発中も作業を行わない夜間は止める、本番稼動時には開発環境を最小限だけ維持し他は止めておく、といったコスト効率の良い運用が可能となるのです。

千趣会では、AWS の利用でコスト削減を 1 つの目標にしていました。SIer に支払っていたサーバー構築費用などは、大幅に削減されています。具体的にはメインフレームのバッチ処理を AWS へ移行することで 2014 年 に比べ 20% 程度のコスト削減を見込んでいましたが、移行部分で計算すれば、この目標数値は達成しています。この浮いたコスト分で、移行時の新たな処理要求を追加実装することができるようになっています。

千趣会では AWS が活用しやすいということが分かって以降、現場からの IT システムへの要求が増えるようになったと言います。その結果、情報システム部門はシステムに関する依頼事項を確実にこなすだけでなく、各ビジネス現場の担当者から IT システムの活用方法を相談される立場に変わっています。

もう 1 つ、Architecting、Developing、Operations といったトレーニングコースの利用も、千趣会が AWS を使いこなすのに役立ったと言います。これらを受講して情報システム部門のエンジニアは AWS のスキルを持つことができ、それが千趣会でのシステムの内製化につながっているからです。「AWS を使うと決めた際に、なるべく自分たちでシステム構築ができるようにしたほうがいいと考えました。SIer よりも速く AWS のスキルを身に付けられれば、SIer の都合に左右されなくなります。」(池本氏)また池本氏は、「トレーニングは密度の濃いもので、参加するとクラウドならではの部分が理解できます。講義だけでなくハンズオンも必ず行うので、会社に戻ってからもう 1 度試すのも容易です。」とトレーニングを評価します。

トレーニング結果を社内へフィードバックすることは、千趣会の若手エンジニアのスキル向上にも役立っています。「AWS なら、開発から運用に至るまでを自分たちで直接携われます。これは IT エンジニアとしての技術的なバックボーンになる部分を身に付けることにもなります。」(池本氏)

AWS のスキルを取得した情報システム部のメンバーは、さらに SIer のエンジニアにスキルトランスファーを行います。このように AWS のスキルを持たない SIer を自らサポートすることで、AWS へのシステム移行作業をスムースに進めているのです。

千趣会で迅速に AWS が定着した理由には、AWS のサポート体制の充実もありました。AWS サポートのサービスでは、問題解決に向けて明確な切り分けをして頂きつつ、AWS 以外は対応してもらえないということもありませんでした。「AWS の上で動かすシステムの OS 設定など、一般の IT システムについても AWS のエンジニアが適宜アドバイスをくれます。これも、AWS を使いこなす上では大きなメリットです。」(池本氏)

千趣会では、今後は、グループ子会社の基幹システムの AWS 移行をはじめ、他社が利用し効果を発揮しているようなサービスを中心に積極的に利用を拡大していく予定です。たとえば、AWS CodeCommit や AWS OpsWorks を活用した開発プロセスの自動化や、データ分析では Amazon Redshift の活用も検討しています。また SIer での AWS の利用も始まっているので、AWS のサービスを活用したシステム間連携などの構想もあります。

千趣会の今後の要望としては、開発者のコミュニティだけでなく AWS を活用してビジネスを行っている企業のコミュニティも欲しいと言います。AWS を利用し Web サービスを提供する企業同士の新たなサービス化の動きもあるようなので、それらにも注目しているとのことです。「ビジネスを見据え AWS を利用している企業同士のエコシステムができれば、それには是非とも参加したいと思います。」(池本氏)

- 株式会社千趣会 経営企画本部 情報システム部 池本 修幸 氏

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