はじめに
Pairs (ペアーズ) は、株式会社エウレカが運営する恋活・婚活のマッチングアプリで、プロフィール情報だけでなく、価値観や人柄、相手に求める本音まで考慮し、理想の相手を見つけることができるサービスです。
ペアーズは、大規模なユーザーベースを持つマッチングサービスであり、システムの安定稼働が非常に重要です。多くのユーザーにとって、マッチングしたあと、ペアーズが実際に会うときの唯一の連絡手段となっており、障害が発生するとユーザー同士連絡が取れなくなるという重大なデメリットがあります。
過去には、障害発生時の対応に多大な時間とリソースを費やしてきました。特に、障害対応の指揮を取るコマンダーの責務が多すぎることで、新任のコマンダーが対応に苦労する場面が多々ありました。そこで、Amazon Bedrock を活用して障害対応の一部を自動化・効率化し、コマンダーの負担を軽減することで、誰でも対応しやすい環境を整えるプロジェクトを開始しました。
ペアーズでの障害発生時には、社内チャットツールに専用の対応チャンネルが自動で作成され、関係する社内ステークホルダーが招集されて、そこにやりとりが集約されます。そのやりとりのメッセージを活用して中間報告書とポストモーテム文書を自動作成する機能を提供することを、上記プロジェクトの手始めとして取り組むこととしました。
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技術選定
報告書作成シーケンス
ペアーズの報告書作成シーケンスは、以下のようになっています。(ポストモーテム文書作成も同様)
従業員が社内チャットツールにて報告書作成依頼コマンドを実行し、それを Incident Bot が受け付け、LLM API を呼び出します。

障害の要約を生成
LLM API は、Amazon Bedrock を利用して、報告テンプレートと社内チャットツールのメッセージ・障害情報から障害の要約を生成します。 生成された要約を駆使して報告書が作成され、社内のドキュメント、チャットツールに投稿されます。
以下、作成される報告書のサンプルです。(※実際の報告書ではありません)

システムアーキテクチャ
アーキテクチャ図
LLM を利用した API 処理の工夫点
プロンプトのサンプル
以下、データ前処理・プロンプト生成とプロンプトのサンプルです。(※実際の処理とは異なります)
導入効果
Amazon Bedrock を導入した結果、ペアーズでは以下の成果を得ることができました:
- 対応時間/コストの短縮 :障害対応報告書とポストモーテム文書の自動生成により、報告や振り返りにかかる工数が約 60 % 削減され、対応時間/コストが大幅に短縮されました。
- 障害対応の心理的負担軽減 :コマンダーの役割の一部を自動化することで、対応負荷と心理的負荷を下げ、新任のコマンダーをアサインしやすくなりました。
今後の展望
ペアーズでは、今後も LLM を活用した自動化の取り組みを進め、さらなる効率化とコスト削減を目指していく予定です。特に、障害発生時のログを自動で収集し、RCA (根本原因分析) のサポートを行う機能を提供することを計画しています。これにより、障害対応の精度とスピードがさらに向上し、対応時間とコストをより削減していくことが期待されています。
本記事が、Amazon Bedrock を用いた障害対応の効率化に興味を持つ方々の参考になれば幸いです。ペアーズの事例を通じて、他の企業でも同様の取り組みが広がり、システム運用の効率化が進むことを期待しています。
筆者プロフィール
成川 聖 (@fukubaka0825)
株式会社エウレカ MLOps Engineer
2020 年に株式会社エウレカに入社。Site Reliability Engineer としてペアーズのシステム開発・運用を担当。その後、MLOps Engineer として AI チームに異動。機械学習システム基盤の開発・運用に従事しながら、LLM を活用した社内ツールにより開発生産性と運用効率の向上を図り、さらにプロダクション環境での LLM 活用も推進している。最近は筋トレとボルダリングに熱中しているらしい。
