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少数精鋭・高創造性への転換:Amazon Q Developer CLI を活用したオフショア開発の効率化

2025-09-04 | Author : Sankame (株式会社 プロトソリューション), Shuhei Kunikane

はじめに

オフショア開発は今、大きな転換期を迎えています。従来の「大人数・低コスト」モデルから、「少数精鋭・高創造性」を重視する新たなアプローチへのシフトが急速に進んでいます。この変化の背景には、日本国内の IT 人材不足の深刻化と、オフショア開発先国でのエンジニア人件費の上昇があります。

大手中古車ポータルサイトの開発を手がける PROTO SOLUTION 社のベトナムオフショア開発チームも、この変化への対応を迫られていました。16 名の開発者が常時 5-6 つのプロジェクトを進行する同チームでは、限られた人的リソースを創造的な業務に集中させるため、開発タスクの多くを AI に任せる取り組みを始めました。

本記事では、Amazon Q Developer CLI のコーディングエージェント機能を活用し、より価値の高い業務に注力できるよう変革を進める PROTO SOLUTION 社の事例をご紹介します。

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Amazon Q Developer CLI の導入背景

PROTO SOLUTION 社のベトナムオフショアチームは、2024 年 11 月頃から開発における AI 活用を目指し、Amazon Q Developer を含む複数の AI 開発支援ツールの試験導入を開始しました。

2025 年に入ると、各社から自律型 AI コーディングエージェントが次々とリリースされ、開発現場での活用が広がりました。同チームもこれらのツールを積極的に取り入れてきましたが、特に 2025 年 3 月にリリースされた Amazon Q Developer CLI のコーディングエージェント機能は、高い自律性と柔軟性から現在の主力ツールとなっています。

既存の WEB プロダクトへの機能追加プロジェクトでの活用

海外向け国産中古車情報サイト (コードボリューム約 13 万行) への機能追加プロジェクトでは、Amazon Q Developer CLI が大きな力を発揮しました。

開発者がチャットで機能追加の指示を行うと、Amazon Q Developer CLI は自律的にプロジェクト内のファイル構造や既存機能の実装状態を確認し、整合性の高い実装をしてくれました。これにより、大規模なコードベースを持つプロジェクトにおいても、開発タスクを効率的に消化するだけでなく、一貫性のある開発をすることができました。

コンテキスト設定による品質向上

AI コーディングエージェントは自律的に動作しますが、企業やプロジェクト特有のルールは理解していないため、事前に与えて理解させる必要があります。Amazon Q Developer CLI では「コンテキスト」の機能を使って、こうした情報をエージェントに読み込ませることができます。詳細は 公式ドキュメント を参照してください。

PROTO SOLUTION 社では、以下のような工夫をしてコンテキストを準備し、生成するコードの品質と一貫性を向上させ、開発者がレビューや修正に費やす時間を削減できました:

  • チームで蓄積したコーディング規約と設計パターンをテキストに整理
  • AI と人間が役割分担するワークフローの確立   
        ◦ (人間) コンテキストや作業指示書を用意   
        ◦ (AI) 作業計画を生成   
        ◦ (AI) 作業計画のセルフレビューを実施   
        ◦ (AI) 人間に作業計画のレビューを要求   
        ◦ (人間) 作業計画をレビュー、問題なければ承認   
        ◦ (AI) 人間の承認があったら作業開始   
        ◦ (AI) 作業結果レポートを生成   
        ◦ (AI) 作業結果レポートのセルフレビューを実施   
        ◦ (AI) 人間に作業結果レポートのレビューを要求   
        ◦ (人間) 作業結果レポートをレビュー、問題なければ承認   
        ◦ (AI) 人間の承認があったら作業終了 
  • インフラ関連のコマンドや Git コマンド実行を制限するセーフガードの設定
  • チーム共通で利用するコンテキストは Git リポジトリで管理し、全メンバーに配布することで一貫性のある開発環境を実現しています。

例 : 共通コンテキストからの抜粋 ①

例 2 : 共通コンテキストからの抜粋 ②

工数削減効果の測定

PROTO SOLUTION 社では、Amazon Q Developer CLI の導入効果を定量的に測定するため、以下の方法で開発工数の削減効果を計測しています:

  1. 開発タスクのチケット起票時に、従来型の開発を前提とした見積もり工数を入力
  2. タスク完了時に、AI を利用した実際の開発工数を入力
  3. 両者を比較して削減効果を算出
2025 年 5 月現在の計測結果によると、従来型の開発と比較してチーム全体で 21.74% の工数削減 を達成しています。特に Amazon Q Developer CLI の利用頻度が高い開発者では、 40% 以上の工数削減 という顕著な効果が出ています。
 
この結果から、以下のことが明らかになりました:
  • AI コーディングエージェントは実際の WEB プロダクトの開発の現場でも、工数削減効果が期待できる
  • ツールの習熟度によって効果に大きな差が生じるため、ナレッジ共有や教育が重要
Amazon Q Developer CLI で出力されるメトリクスから利用頻度の低い開発者を特定しヒアリングしたところ「思い通りの結果が得られなかった (プロンプトがうまく作れなかった)」という声が多く聞かれました。こうした開発者は結果として開発工数が大きくなり、それがチケット上で如実に現れていました。  
AI コーディングエージェントを利用した開発の習熟度を上げることが工数削減効果をさらに引き上げることがわかったため、チーム内で熟練者からサポートが受けられるような体制を整えました。

その他に工夫したこと

複数の AI コーディングエージェントを使用する際に、ツールごとにそれぞれコンテキストファイルを用意していました。しかし内容が冗長になり管理が煩雑になってしまったため、より効率的な管理を目指して、GitHub 上で公開されている project-rules をフォークし、privateリポジトリで新しい仕組みを構築しました。  

この仕組みでは、目的別に分割された複数のコンテキストファイルを、状況に応じて柔軟に組み合わせて配布することができます。基本的なコーディング規約、プロジェクト固有のルール、セキュリティガイドラインなどをそれぞれ個別のファイルとして管理し、必要に応じて組み合わせてコンテキストファイルをビルドし、必要なディレクトリに配布します。

新しくチャレンジしていること

Playwright MCP Server を活用した E2E テスト開発の効率化

Amazon Q Developer CLI と Playwright MCP Server を組み合わせ、以下のワークフローによる E2E テスト開発の効率化にも取り組んでいます:

  1. Amazon Q Developer CLI が Playwright MCP Server を介してブラウザテストを実行し、実行したテストを Playwright スクリプトとして保存
  2. 生成された Playwright スクリプトを Git 管理し、リリース前にローカル開発環境で実行
生成されたテストコードには若干の修正が必要なケースもありますが、手動作成と比較すると格段に効率的です。従来の E2E テスト開発ではプロダクトコード改修 1 人日あたり、テストコード改修に 0.3 人日程度を要しており、この方法による大幅な改善が期待されています。

Playwright MCP Server の利用例

プロンプト

Backlog MCP Server を活用した運用管理タスクの効率化 / チケット駆動開発

プロジェクト管理ツール「Backlog」と Amazon Q Developer CLI を連携させることで、運用管理タスクの効率化やさらなる開発効率化にも取り組んでいます:

1. 管理者視点での効率化

  • Amazon Q Developer CLI がチケットの内容やステータスを分析し、優先度の高いものを特定して報告    
  • Amazon Q Developer CLI が開発者ごとのパフォーマンスを分析し、個々の成果や課題を整理して報告
2. チケット駆動開発の実現   
  • 開発者が開発タスクのチケット URL を AI に伝えると、Amazon Q Developer CLI が Backlog MCP Server 経由でチケット内容を読み取り、記載された要件に従って実装    
  • 実装完了後、Amazon Q Developer CLI が実績時間や作業履歴をチケットに記録し、人間にレビュー依頼を送信

Backlog MCP Server の利用例

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開発プロジェクトの見積もりの効率化

現在進行中の、古い PHP フレームワークで開発された CMS を Laravel へ移行するプロジェクトでは、Amazon Q Developer CLI を調査・見積もり作業にも活用しました。約 2 万行のコードを Amazon Q Developer CLI に分析させることで、機能ごとの詳細な工数見積もりを効率的に作成できました。

具体的には、管理画面の機能一覧 (設計ドキュメント) とコードを分析し、基本機能、コンテンツ管理機能、ファイル管理機能、システム設定機能などのカテゴリ別に詳細な機能リストを作成し、さらに、Laravel 12 への移行に必要な工数を週単位で見積もり、約 5 ヶ月間の人員計画を立案しました。  
立案後に人間のレビューや修正は必要となりましたが、ゼロから人間が計画するには何日もかかったところを数時間で達成できました。
同チームでは指示の与え方を工夫することでさらに改善できる部分があると考えており、新しい案件が発生するたびに試行錯誤しています。

まとめ

PROTO SOLUTION 社の事例では、Amazon Q Developer CLI を活用した WEB プロダクトの開発効率化がオフショア開発の課題解決に大きく貢献しています。
「大人数・低コスト」から「少数精鋭・高創造性」へのシフトが進む中、Amazon Q Developer CLI の活用は競争力維持のための重要な戦略となっています。

Amazon Q Developer CLI はコーディング作業だけでなく、テスト開発、運用管理、さらには調査や見積もりといった上流工程にまで活用の幅を広げています。特に最近は MCP を活用した他ツールとの連携により可能性が広がっています。

筆者プロフィール

Sankame

株式会社 プロトソリューション
ソリューション開発オフショア課長

IT 業界歴 約 25 年 (受託開発 10 年、⾃社サービス 10 年、オフショア開発 5 年)
現在ベトナム ハノイ在住
趣味:個⼈でのアプリ開発‧保守

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Shuhei Kunikane

Amazon Web Services Japan
Solutions Architect

WEB サービス業界担当
最近自宅の庭で焼鳥をするのにハマっている

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