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生成 AI で実現する人材マッチング ~ レバレジーズによる職務経歴書入力補助システム ~
2025-11-04 | ブライソン ジェームス (レバレジーズ株式会社), 鈴木 大樹
はじめに
人材紹介を行っている レバレジーズ株式会社 は、採用市場における競争が激化する中、求職者と企業のマッチング精度を高めることは人材業界の最重要課題となっています。特に IT・エンジニア領域に特化した求人紹介を行う レバテックダイレクト では、求職者の職務経歴書の質と量が、企業からのスカウト獲得に直結します。しかし、多くの求職者は自身のスキルや経験を適切に言語化することに課題を抱えています。
レバレジーズ株式会社では、この課題を解決するために、Amazon Bedrock を活用した入力補助システムを開発・導入しました。その結果、職務経歴書のプロフィール記入率が 116% に、入力平均文字数が 128% に増加することができました。また、開発にあたっては AWS ジャパン生成 AI 実用化推進プログラム を活用しております。
本記事では、その取り組みの背景から実装方法、そして導入効果までを詳細に解説します。
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1. 採用業務における職務経歴書プロフィール作成の課題
求職者側の課題
レバテックダイレクトは、キャリアアドバイザーを介さずに求職者と企業が直接やりとりするスカウトサービスです。このサービスモデルでは、求職者自身が職務経歴書を作成する必要がありますが、以下のような課題がありました。
- 自身のスキルや経験を適切に言語化できない
- どのような情報をどの程度詳細に記載すべきかわからない
- 企業側が注目するポイントを把握できていない
ビジネス上の課題
レバテックダイレクトでは、企業担当者は、スカウトを送るかどうかの判断材料として主に職務経歴書を参照します。つまり、職務経歴書の質と量は、求職者のスカウト獲得の可能性に直結します。そのため、以下の目標が設定されました。
- 職務経歴書の入力率向上
- スカウト受信者数の増加
2. Amazon Bedrock を活用した生成 AI 入力補助システムの設計と実装方法
システム概要
開発したシステムは、求職者がスキルや職種、経験した業務などを選択していくと、生成 AI がそれらの情報を基に職務経歴書を自動生成するというものです。
技術スタック
- フロントエンド : Amazon Elastic Container Service (Amazon ECS) + AWS Fargate
- バックエンド : Amazon ECS + AWS Fargate
- DB : Amazon Aurora (MySQL)
- 生成AI : Amazon Bedrock (Claude 3.5 Sonnet)
アーキテクチャの解説
このシステムでは、フロントエンド、バックエンドの両方に Amazon ECS と AWS Fargate を利用しています。職務経歴を生成するためのユーザーデータは Amazon Aurora から取得し、その内容をもとに Amazon Bedrock で 職務経歴書を作成しています。また、継続的なプロンプトエンジニアリングのために Dify を活用しています。求職者と対面する職種であるキャリアアドバイザーが、 Dify のアウトプットを見て、それを評価し、足りない観点やいらない箇所、フォーマットなどの指摘することでプロンプトエンジニアリングを行いました。基盤モデルとして Claude Sonnet にした理由は、その他モデルと比較して少ない情報から何かを生成することを得意としていること、PoC をしていた当時に Claude 3.5 Sonnet が最新モデルであったことの 2 つです。
実装のポイント
プロンプトエンジニアリング
選択された各項目をプロンプトに適切に埋め込み、一貫性のある職務経歴書を生成するための工夫を行いました。特に、IT・エンジニア領域の専門用語や役割の説明が適切に行われるよう調整しています。また、一般的な職務経歴書のベストプラクティスをも入れ込み、構造化された職務経歴書のテンプレートを埋める形で作成しています。
プロンプト例 (簡略化)
あなたは経験豊富な IT キャリアアドバイザーです。以下の情報を基に、技術的に正確で採用担当者の目を引く職務経歴書を作成してください。
- 職種 : {selected_job_type}
- 技術スキル : {selected_skills}
- 業務経験 : {selected_experiences}
- 役割 : {selected_roles}
特に以下の点に注意して作成してください:
- 具体的な技術スタックと、それをどのように活用したかを明確に
- 定量的な成果を含める
- チーム内での役割を明確に
- 簡潔かつ読みやすい文章で
* プロンプト例については、実際に使われているものとは異なります。
ユーザーインターフェース設計
求職者の負担を最小限に抑えるため、段階的に情報を入力できるウィザード形式の UI を採用しました。各ステップで適切なサジェスト機能を実装し、選択肢から簡単に選べるようにしています。
レスポンス最適化
Claude 3.5 Sonnet を使用することで、高品質な文章生成と素早いレスポンスを両立させています。Claude Sonnet を選定した理由の一つである、少ない情報から整合性の取れた職務経歴を生成する点で入力トークン数を最適化し、コスト効率も考慮した設計となっています。
3. 導入前後の比較データと効果測定方法
主要 KPI
実際の導入効果として、以下の指標で改善が見られました。
- 職務経歴書プロフィール記入率 : 116% に増加
従来のフリーテキスト入力方式と比較して、入力補助システム導入後は大幅に記入率が向上
- 入力平均文字数 : 128% に増加
生成 AI による文章作成支援により、より詳細な職務経歴書が作成されるようになった
効果測定方法
- 職務経歴欄の入力率の増加
- 機能のリリース前後 1 ヶ月で比較
- 新規登録ユーザーが経歴を登録するフローにおいて、自動生成対象の項目の入力率が上昇
- 職務経歴欄の文字数の増加
- 機能のリリース後 1 ヶ月で、自動生成機能の利用者と非利用者で比較 (1 文字以上入力しているユーザーが対象)
- 平均文字数 (≒ 情報量) が利用者の方が多い
4. システム導入におけるチャレンジと解決策
5. まとめ - 生成 AI がもたらす採用の未来
レバレジーズの事例は、生成 AI が採用業界にもたらす変革の一例です。職務経歴書入力補助システムの導入により、以下の成果が得られました。
- 求職者の職務経歴書作成負担の軽減
- より詳細で質の高い職務経歴情報の獲得
- スカウト数と成約率の向上
この成功事例をもとに、レバテックキャリアなど他サービスへの横展開の展開を計画しています。
採用業務を行っている企業にとって、生成 AI の活用は大きな可能性を秘めています。本記事で紹介した手法やチャレンジは、皆様の組織での実装の参考になるでしょう。特に以下の点に注目いただければ幸いです。
- 明確な課題設定と効果測定方法の確立
- ユーザー体験を中心に据えたシステム設計
- 継続的な改善サイクルの構築
筆者プロフィール
ブライソン ジェームス
レバレジーズ株式会社
データアナリスト
2022 年に受託のデータ分析会社にデータサイエンティストとして新卒入社。主に、小売系企業に対して、データ分析基盤の保守運用や、データ分析の支援を担当させていただきました。2024 年にレバレジーズにデータアナリストとして中途入社。全社の AI 推進担当として、数多くの AI 関連プロジェクトを立ち上げたり、生成AIの啓蒙活動などに取り組んでいます。スパルタン出場のために筋トレとランニングをしたり、フットサルをしています。
鈴木 大樹
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
ソリューションアーキテクト
Web 業界のお客様を中心にアーキテクチャ設計や構築をサポートしています。データベースや機械学習の領域を得意としています。趣味はフットサルと麻雀です。