オープンイノベーションを加速する全社データ利活用基盤を AWS 上に構築し
デジタルトランスフォーメーションの推進へ 

2021

デジタルの活用でヘルスケア産業のトップイノベーターを目指す中外製薬株式会社は、全社データ利活用基盤『Chugai Scientific Infrastructure(CSI)』に、アマゾン ウェブ サービス(AWS)を採用しました。ゲノムデータなど機密性の高い大容量のデータをセキュアに管理する CSI により、アカデミアや病院、パートナー企業など、外部との共同研究プロジェクトを迅速に推進することが可能になりました。AWS の採用で共同研究に必要な IT リソースの調達期間を 6 ヶ月から 1 週間に短縮するとともに、インフラのプロビジョニングにかかるコストの 90% 削減を実現しています。

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AWS 上に構築したセキュアなデータ利活用基盤は国内外の研究パートナーから注目度が高く、オープンイノベーションによる創薬の加速が期待できます

志済 聡子 氏
中外製薬株式会社
執行役員 デジタル・ IT 統轄部門長

中外製薬のデジタル戦略の柱となる全社データ利活用基盤に AWS を採用

「すべての革新は患者さんのために」という事業哲学のもと、革新的な医薬品とサービスの提供を通じて、世界の医療と人々の健康に貢献を目指す中外製薬。世界有数の製薬会社であるロシュ・グループと戦略的アライアンスを結び、ロシュ・グループの医薬品を国内で販売するとともに、自社で開発した革新的な医薬品を世界に提供しています。

同社は 2020 年 3 月、従来のデジタル化と一線を画すデジタルトランスフォーメーションの推進に向け、『CHUGAI DIGITAL VISION 2030』を発表しました。「CHUGAI DIGITALの基本戦略は、“デジタルを活用した革新的な新薬創出”、“すべてのバリューチェーンの効率化”、“デジタル基盤の強化”です。その中で最初に取り組むべき課題が、大容量のデータをセキュアに取り扱うためのデジタル基盤構築でした」と語るのは、執行役員デジタル・IT 統轄部門長の志済聡子氏です。

同社では、これまでオンプレミスの研究開発基盤やデータ解析基盤が複数稼働していました。研究部門が個別に運用するため共同利用できず、環境構築に時間がかかり、コストも膨らんでいました。そこで社内データの横断的な活用と、社外との共同プロジェクトの促進を目的とした全社データ利活用基盤『Chugai Scientific Infrastructure(CSI)』の構築を決断し、インフラ基盤にAWS を採用しました。
「創薬研究の環境構築に半年、1 年もかかっては意味がありません。初期構築時や更新時に膨大なコストがかかることを避け、早く、安価に、フレキシブルな基盤を作りたいという目的に合致していたのが AWS でした。エンジニアのコミュニティ活性度が高く、情報が広く公開されており、最先端の研究を行っているパートナー企業の多くが AWS を開発基盤に採用していることも優位と判断しました」(志済氏)

CSI の開発を担当したデジタル戦略推進部デジタル基盤グループ グループマネジャーの後藤遵太氏は、AWS の充実した機能を次のように評価します。
「複数の研究者や外部との共同利用を考えた際、最も重視すべきはセキュリティです。AWS は他のクラウドサービスと比べてログ取得などのセキュリティ関連のサービスや機能が豊富で、開発生産性の向上や運用の高度化・効率化に優位と判断しました」

構築期間を 6 ヶ月から 1 週間に短縮

環境構築のコストを 90% 削減

CSI のコンセプト作りは 2018 年 10 月から着手、技術的な Proof of Concept (PoC) を経て 2019 年 6 月より本番化プロジェクトを開始。2019 年 11 月から試験運用、2020 年 8 月より本格利用を開始しています。
CSI は、データ保管環境と研究環境を分離し、研究プロジェクトごとに専用環境を提供します。データ保管環境は Amazon S3、研究専用環境は Amazon VPC と Amazon EC2 を中心としています。デジタル基盤グループの内山博史氏は「各部門が個別に保管していたゲノムデータや診療情報等の機密性の高いデータを集約し、安全な状態で管理できるようになりました」と語ります。

アクセス管理には、AWS Identity and AccessManagement (IAM) を軸に、いくつかのソフトウェア、AWS Direct Connect、AWS との閉域網通信機能を持つサードパーティ製 SaaS を活用しました。デジタル基盤グループの赤松健一氏は次のように語ります。
「CSI では、研究者やデータサイエンティストが不注意に目的外のプロジェクトにデータを利用してしまうことがないように研究環境間のデータ移動を制限して、コンプライアンス対策を強化しました」

研究環境を提供するプロセスでは、Infrastructure as Code (IaC) のコンセプトに基づき作業の共通化・自動化を図り、期間短縮とコスト低減を実現しています。
「作業の自動化により、共同研究に必要な IT リソースの調達期間を、従来の 6 ヶ月から最短 1 週間まで短縮できました。プロビジョニングのプロセスで標準化されたセキュリティ関連サービスや機能を自動的に適用することで、システム環境構築・導入に要するコストは、弊社内で他クラウドサービスを利用していた際と比較して 90% 削減しました」(後藤氏) 

国内外のパートナーと共同研究を推進しオープンイノベーションを加速

CSI の本格利用を開始以降、20 以上の研究環境が構築されており、社内外の創薬研究やリアルワールドデータ (RWD) 解析に活用されています。それぞれの研究環境では、研究者やデータサイエンティストが必要と判断したアプリケーション、R、Python などのライブラリ等を自由に導入して利用しています。
「社内用途では、まずはアプリケーションの評価や PoC に利用し、良好な結果が得られれば、より大規模な検証、あるいは本番化に進みます。予測が難しい創薬のニーズに即し、目的に合わないアプリケーションをすぐに廃棄できる点で、 AWS は非常に効率的なインフラです」(後藤氏)

CSI では、社内研究用途や、アカデミア、病院、創薬系ベンダー、IT ベンダーなど外部との共同研究用途の環境を 100 件構築することを想定した設計を行っており、現在は複数のプロジェクトが並行しています。国内では、バイオテクノロジーに強みを持つ企業とゲノムデータ解析結果のオンライン納品の実運用を開始。海外では、ロシュ・グループや同傘下のジェネンテック社などから RWD を素早く安全に受け取り、共同研究を進めています。今後は、ロシュ・グループやジェネンテック社が持つ AWS 上の解析基盤へアクセスできるよう拡張する計画です。
「AWS 上に構築したオープンなデータ利活用基盤は国内外の研究パートナーから注目度が高く、共同研究が加速することが期待できます」(志済氏)
 

社員の意識や組織の風土を改革し開発の内製化にチャレンジ

中外製薬では今後、CSI の海外展開や、創薬研究・臨床開発関連サービスのクラウド移行を進めていく計画です。また、社内専用の研究環境として、既存のレガシーなシステムと融合する次世代の CSI の構築を検討中です。「第 1 フェーズでは、データをセキュアに管理することを優先して基盤整備を行いました。第 2 フェーズ以降は、コンテナ技術や多様な SaaS を組み合わせ、解析アプリケーション、データレイク、データウェアハウスを普段使いできるように検討しています。AI や機械学習、データ解析が行える研究環境をライブラリとして IaC 化し、社内のデータサイエンティストが気軽にハイパフォーマンスコンピューティング環境へアクセスできるように基盤整備を進める予定です」(後藤氏)

『CHUGAI DIGITAL VISION 2030』の基本戦略は、インフラの構築に留まらず、社員の意識、組織風土、文化の改革も含まれており、AWS には 2030 年に向けたロードマップ作りとビジョン実現にも期待を寄せています。
「IT ベンダー依存体質が残る社内に意識変革を促し、開発の内製化にチャレンジしていきます。AWS にはインフラ周辺だけでなく、資格取得を中心とした人財育成や、イノベーティブなカルチャーへの変革に向けて、ともに歩んで欲しいと思っています」(志済氏)

志済 聡子 氏

後藤 遵太 氏

赤松 健一 氏

内山 博史 氏


カスタマープロフィール:中外製薬株式会社

  • 設立:1943 年 3 月 8 日(創業 1925 年 3 月 10 日)
  • 資本金:732 億 200 万円(2020 年 12 月 31 日現在)
  • 売上収益:7869 億 4600 万円(連結 2020 年 12 月 31 日現在)
  • 従業員数:7,555 人(連結 2020 年 12 月 31 日現在)
  • 事業内容:医薬品の研究、開発、製造、販売および輸出入

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • セキュアな環境での共同研究プロジェクトの実現
  • 社内データの部門横断的な活用の実現
  • インフラ調達期間を 6 ヶ月から最短 1 週間に短縮
  • システム環境構築・導入コストを 90% 削減
  • データ保管環境と研究環境の分離によるデータガバナンスの強化
  • AWS IAM による適切なアクセスコントロールの実現

ご利用中の主なサービス

Amazon Virtual Private Cloud

Amazon Virtual Private Cloud (Amazon VPC) では、AWS クラウドの論理的に分離されたセクションをプロビジョニングし、お客様が定義した仮想ネットワーク内の AWS リソースを起動することができます。

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Amazon EC2

Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。

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Amazon S3

Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) は、業界をリードするスケーラビリティ、データ可用性、セキュリティ、およびパフォーマンスを提供するオブジェクトストレージサービスです。

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AWS IAM

AWS Identity and Access Management (IAM) では、AWS のサービスやリソースへのアクセスを安全に管理できます。IAM を使用すると、AWS のユーザーとグループを作成および管理し、アクセス権を使用して AWS リソースへのアクセスを許可および拒否できます。

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