概要
コンサルティングと IT ソリューションを中心に事業を展開する株式会社野村総合研究所(以下、NRI)。複数会計基準への対応を進める同社は、会計システムと情報活用基盤として、SAP S/4HANA Cloud を核とする RISE with SAP とデータ統合基盤 SAP Datasphere を採用し、アマゾン ウェブ サービス(AWS)上に新システムを構築しました。2023 年 4 月の本稼働以降、SAP データを活用した DX を推進しています。

課題・ソリューション・導入効果
課題
IFRS を含めた複数の会計帳簿への対応を推進
「未来創発」を理念に新たな社会価値の創造と社会課題の解決に取り組む NRI。現在、長期経営ビジョン「NRI Group Vision 2030」のもとで社会変革に向けた「DX3.0」を掲げ、行政サービスなどのソーシャル DX、循環エコノミーや脱炭素などのバリューチェーン DX、持続可能な社会インフラを目指すインフラ DX を推進しています。社内の IT 戦略としては DX3.0 の方針に準じてシステムの SaaS 化を推進し、社内 DX の実現を目指しています。
経営基盤となる財務・管理会計システムは、1990 年代半ばにスクラッチで開発したシステムを強化しながら利用してきました。しかし、同社は中期経営計画の財務戦略としてグローバルスタンダードを意識した開示強化に取り組んでおり、IFRS を含めた複数会計基準への対応や制度変更への追随が求められていました。
「既存システムは、会計基準の計算から実行予算の管理まで、会計業務に必要な機能を網羅した先進的なシステムでした。しかし会計帳簿が日本基準でしか持てなかったことから、IFRS を含めた複数の会計帳簿に対応したシステムに刷新する必要がありました。また、今回の刷新に合わせて、上場企業で広く利用されている SAP を導入し、業務をシステムに合わせることで、弊社特有の業務プロセスを極力排除したかった」と語るのは、経理部 経理システム企画課長の中島功二氏です。
IT インフラに関して従来システムはオンプレミス環境で運用されており、管理負荷の軽減が課題となっていました。そこで新システムはクラウドを前提に検討を開始しました。ERP システム事業部 ERP ソリューショングループ チーフエキスパートの窪田隆史氏は「NRI の DX 戦略への対応、必要な分だけ IT リソースが利用できて短時間に調達できる柔軟性と俊敏性、常に最新技術の恩恵が受けられる鮮度維持などを考えると、クラウドの選択は必然でした」と振り返ります。
ソリューション
周辺システムや業務システムとの連携を考慮して AWS を採用
新システムについては、同社の会計業務に対する適合率の高さに加え、ソリューションベンダーとして同社自身が客先への導入支援を手がけている実績などを考慮して SaaS 型の SAP S/4HANA Cloud Private Edition(以下、PCE)を含む RISE with SAP の採用を決定し、併せて管理会計用のデータウェアハウス(DWH)としてデータ統合基盤の SAP Datasphere を採用しました。
SAP Datasphere については、多様なデータを 1 つのデータアクセス環境に統合し、エンドユーザーの利便性を担保しながら最新の技術を用いてデータ活用を高度化していく狙いがありました。経理部 経理システム企画課 エキスパートの一條岳人氏は「既存の DWH では、さまざまな部署でエンドユーザーコンピューティング(EUC)を行っていました。今回はこれを継続することを前提に PCE と親和性の高い SAP Datasphere を採用し、BI ツールとして SaaS 型の SAP Analytics Cloud を導入することにしました」と語ります。
PCE と SAP Datasphere が稼働するクラウド基盤については、同社での実績を考慮して AWS を採用しました。マルチクラウドインテグレーション事業本部 産業基盤サービス部 産業基盤第一グループ エキスパートテクニカルエンジニアの高野一成氏は「NRI では 2010 年代当初から AWS を採用しています。すでに周辺システムやその他の業務システムが AWS 上で稼働していることから、連携性を考慮すると AWS がベストでした。加えて、今後の事業展開を見据えた時、AWS 上で SAP および周辺システムの構成パターンの経験値を高めておくのが有益と判断しました」と振り返ります。
2020 年 6 月より構想に着手したプロジェクトは、2021 年 6 月にキックオフ。ビジネス設計、実現化、総合テスト・受入テスト、並行稼働のフェーズを経て 2023 年 4 月に本稼働を開始しました。
PCE の導入時は業務を標準機能に合わせる Fit to Standard の方針のもと、業務改革を並行して進めました。中島氏は「スクラッチからの移行ということで、業務フローの設計が最大の山場でした。コードの登録方法も変わるため、ルール設計を入念に実施しました」と説明します。DWH と BI ツールについては EUC への影響を最小限に留めるために旧来の環境を踏襲する方針としました。
IT インフラ領域では、PCE と連携する各種サーバーの環境を、NRI が独自に AWS アカウントを取得した AWS VPC 上に構築しました。また、NRI 社内の拠点やセンターとは AWS Direct Connect と AWS Transit Gateway によりセキュアかつ効率的に接続しています。
導入効果
経営層レベルや現場レベルで業務に応じたデータの利活用が加速
2023 年 4 月のリリース以降、PCE と SAP Datasphere は安定して稼働しています。
「1、2 か月程度で新システムにも慣れ、1 年後には業務もこなれてきました。2024 年 4 月の稼働後初となる年度切り替えと組織改正も、無事に乗り切ることができました」(中島氏)データの利活用も進み、経営層レベルや現場レベルで業務に応じた分析を行っています。
「今回、SAP Analytics Cloud で新たにダッシュボードを開発しました。これまではクロステーブルベースのデータしか提供できませんでしたが、グラフベースのビジュアル化した分析環境が提供できるようになりました。経営層や各本部の部長クラスには経営情報を可視化したダッシュボードを提供し、現場レベルには利用者の業務特性に応じたより粒度の細かい情報を提供しています」(一條氏)
NRI では今後も BI の高度化に向けて、会計領域以外への拡大やグループ情報の分析などに着手しています。
「プロジェクトにかかる工数等の労務情報や、調達関連の情報など、会計の近接領域にも BI の活用を拡げていきたいと思います。現在のところ会計情報については、NRI 単体での利用となっていますので、グループの会計情報を蓄積した連結会計システムと SAP Datasphere と SAP Analytics Cloud を連携させ、グループ一体の情報が見られるように BI 環境を改修していく予定です。また、今後でてくる SAP のビジネス AI によるアナリティクス機能の進化にも期待しています」(一條氏)
さらに、NRI の IT 方針に則り PCE と連携する周辺システムの SaaS 化を進めていく構想で、SaaS 化後にはグループへの横展開も検討しています。
「連携する周辺システムの中でも大きいのが、フロントエンドで受発注を管理する業務プロセス管理システムです。現在は、スクラッチ開発のシステムを利用していますが、これらもパッケージベースに切り替えて SaaS 化を進めていきます。将来的には RISE with SAP と併せて規模の大きなグループ会社に展開することで、グループ全体の業務効率化にも貢献していきます」(中島氏)

AWS 上に構築した SAP S/4HANA Cloud Private Edition と SAP Datasphere は安定しており、稼働後初となる年度切り替えと組織改正も、無事に乗り切ることができました
中島 功二 氏
株式会社野村総合研究所 経理部 経理システム企画課長アーキテクチャ図

企業概要
日本初の民間シンクタンクの「野村総合研究所」と、システムインテグレーターの草分け的存在の「野村コンピュータシステム」が、1988 年 1 月に合併して誕生。強固な顧客基盤のもと、コンサルティング、金融 IT ソリューション、産業 IT ソリューション、IT 基盤サービスの 4 領域で事業を展開する。
取組みの成果
- 複数の会計基準(IFRS)への対応
- SaaS 化による社内 DX の実現
- SAP データを活用した経営分析の推進
- AWS 上で稼働している周辺システムとのシームレスな連携
本事例のご担当者



