国内サーバーでの生成 AI 利用が可能に
自治体業務の効率向上
自治体独自の情報検索機能で高い精度を実現
概要
ふるさと納税事業の支援をはじめ、自治体や関連事業者向けのシステム提供/業務委託、コンサルティングを提供するシフトプラス株式会社。同社は宮崎県都城市の協力のもと、自治体向けの生成 AI プラットフォーム『自治体 AI zevo(ゼヴォ)』をアマゾン ウェブ サービス(AWS)で開発。このサービスでは LGWAN(地方公共団体を相互に接続する行政専用のネットワーク)環境およびインターネット環境の両方で複数の AI モデルを利用可能であり、セキュリティ対策を施しつつ業務の負担軽減に繋がっています。
ビジネスの課題 | 人手不足に悩む自治体に生成 AI サービスを提供
シフトプラスは、全国 500 以上の自治体に採用されているふるさと納税の管理システム『レジホーム』をはじめ、自治体からの要望に応えて各種システム開発を手がけています。
同社は、LLM(大規模言語モデル)を使ったテキスト生成 AI の活用が自治体業務の負担軽減につながると考え、2023 年から LGWAN 環境で利用できる生成 AI チャットサービス『自治体 AI zevo』の開発に乗り出しました。この開発には、以前から関わりの深い宮崎県都城市からの協力が大きいといいます。
「都城市の方々とは、デジタル活用についてよく情報交換させていただいています。『生成 AI を使って自治体業務を効率化できるのでは』という話をきっかけに、実証しながら開発を進めることになりました」と語るのは、シフトプラス 取締役の杉谷良氏です。
都城市は、「日本 DX 大賞」の「行政機関・公的機関」部門において 2 年連続(2023、2024 年)で最優秀賞となる大賞を受賞するなど、積極的なデジタル施策で知られる自治体です。都城市 総合政策部デジタル統括課主幹の佐藤泰格氏は「少子高齢化や労働人口の減少は大きな課題です。公務員の人員不足が深刻化する一方、自治体の業務は以前よりも多様化・複雑化しています。確実に効率化につながるツールを導入することで、多様な業務に対応していく必要があります」と語ります。
生成 AI の技術は日進月歩ですので、複数の AI モデルを選択できる Amazon Bedrock などを利用して開発効率を高めています"
杉谷 良 氏
シフトプラス株式会社 取締役
デジタル施策の浸透は、技術面だけでなく、使う人に配慮し『まず使ってみよう』と感じてもらうことが重要です。生成 AI が自然で精度の高い回答をすれば、良い効果につながるファーストコンタクトになるのではと思います"
佐藤 泰格 氏
都城市 総合政策部デジタル統括課 主幹
ソリューション | セキュリティと最新の AI 技術を両立できる AWS を採用
LGWAN で利用するには、データの保管場所が日本国内にあることが必須となります。そこで選択したのが AWS でした。
「以前は自治体専用のシステムをオンプレミス環境に構築していましたが、メンテナンスなど費用がかかるため AWS などのクラウド環境に移行しています。AWS なら国内にデータセンターがあり、セキュリティ面も含めて LGWAN で利用できると考えました。また、生成 AI の技術は日進月歩ですので、複数の AI モデルを選択できる Amazon Bedrock などを利用して開発効率を高められるのも理由の 1 つです」と杉谷氏は語ります。佐藤氏も「1 つの AI モデルだけにしか対応できないと、時代に取り残される恐れがあります。常に最適なものを取り入れることをコンセプトとしました」と付け加えます。
2023 年 4 月から『自治体 AI zevo』の開発を始め、6 月には都城市で検証を実施。同市では個人情報や機密情報の入力を禁止するルールを策定。それでも入力されてしまうヒューマンエラーに対応するため、シフトプラスでは個人情報が入力された際にアラートを表示する個人情報マスキングの機能を用意し、市のルールと本機能により、生成 AI の運用における情報セキュリティ対策を徹底しました。
生成 AI の利用が広がる中、LLM によるテキスト生成では誤った情報の出力という問題も認識されるようになりました。そこで注目されるのが、外部情報の検索結果を組み合わせることで精度を高める検索拡張生成(RAG)です。『自治体 AI zevo』では、インテリジェント検索サービス Amazon Kendra を利用し、2023 年 12 月には RAG に対応。杉谷氏は「自治体のトライアルが一巡したあと、固有のデータを活用した検索ニーズが高まり、AWS の RAG が日本でも使えるようになった時期にすぐに対応しました」と語ります。佐藤氏も、「都城市のマニュアルを読み込ませることで、それに従った回答を得られるようになり、間違いが少なくなりました」と評価しています。
2024 年 3 月には高い文章生成能力を備えた Anthropic 社の生成 AI モデル「Claude 2.1」を『自治体 AI zevo』の本番環境にローンチ。さらに 4 月、Amazon Bedrock の Claude 3 対応について、都城市での検証を実施しました。
「LLM によって生成された文章は少し特徴があり、人が書いたものと比較してやや違和感がありました。特に挨拶文などはあとから手を加える必要がありましたが、Claude 3 を使ってみると自然な文章になっていることに驚きました。年度末や年度始めなどの文書作成業務が増える時期の大きな効率化を期待しています」(佐藤氏)
導入効果 | RAG を活用した生成 AI サービスを全国に拡大
『自治体 AI zevo』は現在、広域自治体を含む約 60 自治体で利用されています(取材時点)。「当社の新サービスとしては、比較的早く導入が進んでいます。AWS サービスの利用や担当者の適切な提案により、生成AI のトレンドにうまく乗ることができたと実感しています」(杉谷氏)
総務省の地域情報化アドバイザー・経営財務マネジメント強化事業アドバイザーとしても活躍する佐藤氏は、生成 AI の導入においても事例を周知する立場にあります。
「よく聞かれるのが、『デジタルツールをどう広めていけばいいですか?』ということです。普及させるには、良い事例ができたらそれを他の部署に共有する横展開や、使い方を体験するワークショップ開催が有効です。都城市では部門ごとにデジタル化推進のキーパーソンを配置しており、生成 AI の使い方もその担当者たちに伝えて浸透させていく予定です。さらに、自治体同士のコミュニティを作り、知見を共有し『共創』していきたいと思っています。テクノロジー自体のレベルが上がっていくことにも期待しています」(佐藤氏)
『自治体 AI zevo』は、自治体からのフィードバックを取り入れてさらに進化しています。LGWAN からの利用に加え、インターネット側からのアクセスにも対応し、新たな AI モデルも追加していく計画です。
「私たちは自治体の業務を想定してサービスを最適化していますが、自治体によっては固有の環境や業務フローがあり、私たちの想像だけでは理解が難しいケースもあります。個別の業務に対応するサービス開発には苦労するところもありますが、佐藤さんの行動の根底には、自治体の方々の業務を楽にしていきたいという強い意志があります。都城市とこのような共創ができるのも、そのリーダーシップがあるからこそです。これからも協力させていただきたいです。また、これから自治体 AI zevo を導入したい自治体には研修プログラムなどもご用意して、導入と活用のサポートを行っていきたいと考えています」(杉谷氏)
カスタマープロフィール:シフトプラス株式会社
システム開発を中心とした事業を展開する企業。国のふるさと納税政策を契機に、一元管理できるシステム「レジホーム」を開発・提供。現在では全国 500 以上の自治体が同システムを利用し、ふるさと納税の年間寄付額の約 50% を管理するほどの事業に成長した。クラウドサービスを活用した開発効率、高い信頼性、柔軟な対応力を特徴とし、自治体のデジタル活用を支援している。
杉谷 良 氏
シフトプラス株式会社
取締役
佐藤 泰格 氏
都城市 総合政策部デジタル統括課 主幹
ご利用中の主なサービス
Amazon Bedrock
Amazon Bedrock は、単一の API を介して AI21 Labs、Anthropic、Cohere、Meta、Mistral AI、Stability AI、および Amazon といった大手 AI 企業からの高性能な基盤モデル (FM) を選択できるフルマネージドサービスで、セキュリティ、プライバシー、責任ある AI を備えた生成 AI アプリケーションを構築するために必要な幅広い機能を提供します。
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Amazon Kendra
Amazon Kendra を大規模言語モデル (LLM) と組み合わせて使用することで、エンタープライズコンテンツに加えて、ユーザー向けに安全な生成系 AI を活用した会話体験を迅速に作成できるようになりました。
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