マイグレーションを実現するために - 第 1 回 : 既存システムのマイグレーションはなぜ必要 ?

2020-10-01
ビジネス x クラウド

佐藤 伸広

はじめまして、エンタープライズ・トランスフォーメーション・アーキテクトの佐藤伸広です。ソリューションアーキテクトの中でも主にクラウド移行の上流工程をご支援させて頂いております。

さて、みなさんも在宅勤務やいろいろな理由で生活様式が大きく変わってきていると思いますが、私も以前に比べて家事を担当することが多くなってきます。そんな中、私が担当している洗濯において特に思うのは、洗濯とは「段取りが重要」ということです。我が家は洗濯機と物干しが離れているため一旦洗濯物をカゴに入れるのですが、その際に干す順番を考えながら洗濯物をカゴに入れないと、実際に干すときに、タオルはこっち、T シャツはハンガーに掛けて、パジャマはハンガーに掛けつつズボンはこっちにかけて、とあっちこっちに手を伸ばすことになります。なので、カゴに入れる際に干すときのことを考えて、ハンガーを使うもの、洗濯物干しを使うもの、ベランダに直接干すもの等々、干すときのことを考えてカテゴリー分けをしてカゴに入れないと効率がものすごく悪い、ということの重要性を身にしみて感じている今日このごろです。

同じ様に「段取り」は既存システムのクラウド移行においてもとても重要です。これから3回にわたり私が担当している既存システムのクラウド移行=マイグレーションについてお話をしたいと思います。この記事を読まれているデベロッパーの方の中にはあまりマイグレーションに関連していない方もいらっしゃるかもしれませんが、洗濯同様マイグレーションも段取りを最初に考えておくことがとても重要、ということがお伝えできればと思います。

今後 3 回にかけてマイグレーションについてご説明します。

第 1 回:既存システムのマイグレーションはなぜ必要なのか ? (今回)
第 2 回:移行戦略と移行パスとは ?
第 3 回:具体的な移行方法とは ? 


さて、第1回では、「既存システムのマイグレーションはなぜ必要なのか」を考えていきたいと思います。

システムは大きく分けて3つに分類できます。 

SoR (System of Record)

既存ビジネスの稼動を保証し安定稼働やコスト削減が要求されるシステム。いわゆる基幹システムとその周辺システムで構成される 

SoE (System of Engagement)

顧客接点があり新たなビジネス創出や企業の競争優位性を追求するシステム。ただしシステム構築時にROI (投資対効果) の見極めが困難であり、走りつつ機能追加や改修ができるようなビジネスの変化に対応できる俊敏性が必要

SoI (System of Insight)

SoR と SoE をまたがりデータを繋ぐ連携を行い、お客様の要求や行動を分析しインサイトを導くシステム。構造化されたデータと非構造のデータの両方を取り扱う

特に、SoR の歴史が長く、古くはメインフレームを中心とした中央集権的なシステムに始まり、3 層 Web アプリに業務機能単位でダウンサイジングを実施し、それらを仮想環境に載せ替えプライベートクラウド化し、今はパブリッククラウドで提供される IaaS / PaaS / SaaS が虫食いで利用されている状況ではないでしょうか。またそれらは時代に応じて完全に次の世代のアーキテクチャーに移行することなくゴチャ混ぜになりブラックボックス化して各々今も存在しているというのが実態かと思います。

このような状況では刻々と変化するビジネス環境に対応できるわけがなく、情報システムの複雑性が新しいニーズへの対応やイノベーションの提供などが必要なビジネス環境のドラスティックな変化への対応の足かせになり、言わば IT が負債となってしまっています。

このような状況について、日本の経済産業省も懸念を持っており、2018 年 9 月に DX レポートとして懸念を発表しています。DX レポートによると、2017 年度の IT にかかる予算のうち、8 割が既存システムに費やされているとあり、ビジネスの価値を増大させることに役立つ SoE や SoI への投資は 2 割にとどまっています。

多くの経営者が自らのビジネスの成長や競争力の強化のために、新たなデジタル技術を使ってビジネス価値を最大化させるデジタルトランスフォーメーション (DX) の必要性について理解していますが、既存システムが事業部ごと等に縦割りに構築され全社横断的なデータ活用が出来ないことや、個々に過剰なカスタマイズがされてしまっており、複雑化、ブラックボックス化してしまっていること、加えて経営者が DX を望んでもデータ活用のために前述のような既存システムの問題を解決して経営改革を行おうとしても現場の抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが、課題となっているとされています。

この状況を克服できない場合 2025 年以降、最大 12 兆円 / 年の経済損失が生じる可能性が指摘されています。この DX レポートでは、これを「2025 年の崖」と称してい
ます。 

一方で、システムが扱うデータは IoT の普及や取得できるデータの多様化等により爆発的に増えており、扱うデータが増大する中で、勘・経験・度胸ではなくデータドリブンでの迅速な意思決定が要求される時代になって来ています。

デジタルトランスフォーメーションは急務であり、AI や IoT、ビッグデータ、データレイクなどトライアンドエラーを繰り返して行く実験的要素が高く、データ容量や処理量の増加が容易に予測できない領域においては、従来の初期投資が発生し構築に時間のかかるオンプレミスでのシステム構築はそもそも向いておらず、容易にスケールできて容易に利用を停止できるクラウドが向いているといえます。特にここに記載のあるような AWS のメリットを使い倒して行くことが重要です。

このような新しいテクノロジーを基にした、ビジネスの変化に機敏に対応するためのシステムへの投資を増やし競争力を強化するためには、現状で IT にかかるコストの 8 割を占める既存システムの現状を正しく把握し、分析と評価を行い、システムを仕分けしながら戦略的なシステム刷新を推進していくことで、IT 負債を解消しデジタルトランスフォーメーションによるビジネスの発展を行うことが重要になります。

まとめると、

  • ビジネスの発展にはデジタルトランスフォーメーションが必要である
  • 既存システムにかかっているコストをビジネス環境の変化に対応できるようなシステムへの投資に振り分ける必要がある
  • そのためには IT 負債を解消する必要がある

ということとなります。

既存システムについて、このままではビジネスの発展の足かせになってしまう。であればどの様に変えていけばよいのか、ということを考えて行くことが重要です。

クラウドが普及し日本政府もクラウド・バイ・デフォルト原則や、クラウドサービスの安全性を評価する政府情報システムのためのセキュリティ評価制度 (ISMAP) が公開され、政府の情報システムへのクラウドサービスの円滑な導入が期待される現在においては、コストダウンのために持たない IT = サービスを利用する IT を実現することが前提となります。

さらにデジタルトランスフォーメーションを推進する AI やビッグデータやデータレイクなどの新しいシステム要件を実現するためにはクラウドが前提となっている状況においては、システムの実行環境はクラウド以外の選択肢は無く、クラウドをエンジンとしていかにデジタルトランスフォーメーションを推進していくか、を考えていなかければなりません。そのため、既存システムのクラウドへのマイグレーションは避けては通れないテーマになっているのです。


今回は、クラウドのマイグレーションがなぜ必要なのかを、SoR の現状と、DX レポートで示された経済産業省の懸念も交えてご紹介しました。マイグレーションの必要性を少しでもご理解頂く助けになれば幸いです。

次回は、既存システムのマイグレーションの具体的な段取りを決めるために重要な「移行戦略と移行パス」についてお話したいと思います。お楽しみに !


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プロフィール

佐藤伸広 (さとうのぶひろ)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
エンタープライズ・トランスフォーメーション・アーキテクト

営業、SE、プロジェクトマネージャー、コンサルタントを経て、AWS ではお客様のクラウド移行戦略や構想の策定支援を行う部署に所属。日々お客様のビジネスの発展のためにクラウドをどう使っていただくかを考えている。趣味はテレビ鑑賞。定期的に北の国から、白い巨塔、イデオンの DVD を見直している。最近 PasocomMini PC-8001 を買いました。そんな世代です。

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