日本製鉄 情報システム部の若手社員がクラウドでサービス開発するまで

2023-01-05
インタビュー

日本製鉄株式会社 インタビュー

日本最大の鉄鋼メーカーである日本製鉄株式会社。全国 6 カ所に存在する製鉄所には各製鉄所のシステムを安定稼働させ、未来の製鉄所を創り上げていくため、各地に駐在する情報システム室の方々が日々奮闘しています。

日本製鉄のシステム部門は、1960 年代から稼働しているメインフレームでのシステム開発を皮切りに、業務・製造プロセスのシステム開発・保守を様々なハード、ソフトを用いて日鉄ソリューションと共に支えています。また、近年では高度 ICT や AI の活用、クラウド化にも積極的に取り組んでいます。

そのような経緯の中、日本製鉄では 2020 年度、2021 年度採用のシステム室メンバー 9 名が東西 2 チームに分かれ、2022 年 3 月から 9 月までの半年間、AWS を使ったサービス開発にチャレンジしました。今回、9 名の参加メンバーに参加の経緯や研修を通じて学んだことなどを語っていただきました。

司会:
大井 友三 (アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト)
森下 裕介 (アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト)


研修を始めるにあたって

AWS 大井
「皆様、本日はお時間いただきありがとうございます。また、半年間のサービス開発にチャレンジしていただきありがとうございました。今回の研修について色々とお伺いしていこうと思いますが、まずは研修への参加のきっかけについてお伺いできますでしょうか。」

池邉氏
当社はクラウドサービスの活用を推進する方針ですが、私はまだ実際に活用した経験がなかったので、今回、AWSサービスを実際に触ってみることで活用方法や使用感などについて理解が深まると考え、参加させて頂きました。」

高道氏
「社内でも『クラウド化』のキーワードは良く耳にするのですが、システムの利用者側の視点だと、インターネット環境下であれば社内ネットワークに繋がっていなくてもシステムが利用できるぐらいしかメリットを感じられませんでした。今回は、開発者側の視点でクラウドサービスを利用することでメリットを体感したいと思い、参加させて頂きました。」

AWS 大井
「なるほど。Amazon は EC サイトでご利用いただいている方もいらっしゃるかと思いますが、AWS を知ったきっかけや当初の印象はいかがでしたか ?」

湯浅氏
「AWS については詳しいことは知りませんでした。なので当初の印象としては、『基盤だったり、ネットワークの知識が十分にないと使いこなすのは難しいのかな ?』とか『詳しい IT 知識を持った人たちが利用するツールなのかな ?』というような印象を抱いていました。」

森氏
「私は、別の会社で働いている大学院時代の同期から、AWS を活用した業務についての話を聞いたことがきっかけです。印象としては、まず、資格試験が結構充実しているという点と、低コスト、短期間で多くのサービスを簡単に利用できるサービス、という印象を持っていました。」

 


研修中の出来事や進め方について

AWS 森下
「それでは、研修中の出来事や進め方についてお伺いしていこうと思います。まずは、今回の研修で開発されたシステムの概要と、何故そのシステムを作ろうと考えたのかについてお聞かせください。」

宮本氏
「東日本チームでは、AWS が提供しているサービスを活用すればどんなことができるか?を出発点として、出張に関係する業務を便利にするシステムを開発しました。出張者の位置情報を把握して、出張者が出張先に近づいたら受け入れる人に通知し、出張者の入所時には顔認証をします。これを開発しようとした背景は、テーマ選定段階で普段の業務の困っていることを皆で話し合うために各地から君津製鉄所に集まった時に、『出張する側も受け入れる側もちょっと手続きが面倒だったよね』と盛り上がったのがきっかけです。」

東日本チームが作成した出張管理のサービス

松原氏
「私たちのチームでは、共通のインターフェースを通じて従業員からシステム部員に対する問い合わせに対応できるシステムの開発を目指しました。問い合わせ機能の一つとして、当社の従業員の居場所が把握できるようなサービスを開発しました。具体的には、各社員のスマホから位置情報を吸い上げて、その社員が製鉄所内のどのエリアにいるのかという情報に変換し、チャットボットで位置情報を問い合わせた人にそのデータを返すという仕組みを開発しました。過去に、問題を解決するため担当者と席に向かったのに離籍中で、広い製鉄所内で途方に暮れたという経験がありました。緊急対応で止む無く離席し、連絡を忘れてしまった、というのが原因だったかも知れませんが、双方で相手がどこにいるのか確認したいタイミングも異なるため、一番解決効果が体験できそうなテーマだと考えました。」

西日本チームが開発した居場所把握のサービス

AWS 森下
「ありがとうございます。では研修で開発を進めていく中で、印象的だったことや、良いなと思った AWS サービスがあれば教えてください。」

湯浅氏
「開発するために自身の PC の環境設定を変更せずに開発できたことや、クラウドを用いることで自身の PC リソースを消費せずに開発できたことが印象的でした。」

森氏
「本研修で印象的だったのは、AWS のサービスの多様さとそれらを簡単に組み合わせることができることです。新しいサービスを作り込むのではなく、複数のサービスを組み合わせて新しいサービスを作り出せるところに魅力を感じました。特に印象的だったのは Amazon Lex ですね。作りこむことなく誰でもすぐにチャットボットの機能を使用することができ、その入力データを他のサービスに渡せるところが非常に魅力的なサービスだと感じました。」

AWS 森下
「今回の研修の特徴として、皆様が全国各地の拠点で日常の業務を行いながら開発を進める研修であった点が挙げられます。そのような研修の中で苦労した点があれば教えてください。」

甲斐氏
「限られた時間の中でテーマ検討から実装まで完遂する必要があったので、タイムマネジメントに苦労しましたね。『AWS って何 ?』という所からスタートしたので、AWS の基礎についての学習を進めつつ、実装に必要な特定の情報は適宜調査していく必要がありました。そうした中で開発を間に合わせるための工夫として、着手時点で一旦全体スケジュールを決めました。また、チーム内で情報共有や悩み相談の場を設定したことで、皆で相談しながら進められたと思います。」

鶴田氏
「私のチームでも時間の捻出に苦労しましたし、離れた地区とのメンバーとの連携でも苦労しました。今回、私は髙道さん (室蘭) と一緒に画像認識と音声合成のシステムを担当し、外部インターフェース装置として Raspberry Pi を利用していました。ソースコードの共有等はクラウド上でできたのですが、実際に動かす Raspberry Pi は私の手元にしかないため、実際にどう動いているのかはウェブ会議のみでは共有し辛く、共同作業をしていく上でのイメージ合わせに苦労しました。」

AWS 森下
「AWS を用いた開発は初めてだったと思うのですが、開発を進めていく中ではどのようなハードルがありましたか?また、そのハードルをクリアするために何か工夫したことがあれば教えてください。」

高道氏
「初めて AWS を触ったので、色々なサービスを使う中でどうやってサービス間で連携を取るのかが最初は全然分かりませんでした。その中で、 AWS の方々と一緒にハンズオンを行ったり、AWS 公式の記事やユーザーが独自でまとめているブログなどを読んで勉強したりすることで開発に取り組めたかなと思っております。」

森氏
「インターネット上に存在する AWS に関連する記事の多くが英語で記載されていたので、日本語に比べ内容を理解するのに時間を要しました。今回は AWS の方々に適宜質問できる環境を用意して頂いていたため、自身が理解した内容が合っているのかを適宜確認しながらシステム開発を進めることができました。」

AWS 森下
「ありがとうございます。皆様様々な苦労をしながらも最終的に大変素晴らしいものが出来上がりましたが、研修をやる前と成果物を作った後で AWS に対するイメージは変わりましたか ?」

松原氏
「『色々なサービスを組み合わせて作ることができる』というのは事前に知っていたものの、提供されているサービスはそこまで多くないだろうと思っていました。また、サービスを上手く組み合わせるためには、結局スクラッチと同じように沢山コーディングしなければいけないのではないかと、ちょっとハードルが高そうなイメージを持ってました。ただ実際に自分で触ってみて開発してみると、今回作りたいシステムの用途に合ったサービスが思った以上に用意されていたり、GUI を使ってそれぞれのサービスの間を繋げるための設定ができるような仕組みが沢山用意されていたので、自分でも簡単にシステムが作れるんだということが分かり印象が変わりました。」

廣町氏
「今まではクラウドに対して、データ保持に活用する程度しか使ったことがなかったのですが、今回クラウド上でサービスを組み合わせるだけでイメージしていた機能のほとんどを構築することが出来、使い方として選択肢が広がったという印象でした。」

AWS 森下
「仰っていただいたように AWS には多数のサービスがあり、今回研修で触った以外のサービスも調べてみるとさらに面白いと感じていただけるのかなと思います。では、今回の研修で初めて AWS を触っていただいましたが、これから AWS を学んでいきたいと考えている方がスキル向上をする上で、どのようなポイントを重視すべきと感じましたか ?」

湯浅氏
「実装したい機能に対して必要なサービスの組み合わせは一種類ではないということを今回の研修を通じて感じました。そのため何種類もあるパターンを学んでいくために、まずは何かひとつ Web 上で見つけたものを実装してみて、その実装ができたら次は同じことを別のサービスを使って実装できないかなということを考えてみると、色々なサービスの種類や特徴を学べてスキル向上に繋がるではと感じました。」

鶴田氏
「自身が作りたい物のイメージをなるべく詳細まで決めておくことが重要だと思います。今回の研修では、AWS の多種多様なサービスを組み合わせることで最低限の機能を簡単に構築できました。しかし、実際に利用に耐えうるサービスにするためには、細かい機能の追加やコストの効率化、保守の仕組みづくりが必要です。最低限の機能をすぐに構築出来る点は AWS の魅力の一つだと思いますが、こういったスモールスタートの中でも漠然とサービスを組み合わせるのではなく、目標から逆算する視点をもってサービスの内容・コスト・連携方法を検討していくことで、サービスの取捨選択のためのスキルを効率よく学べると感じました。」


今後にむけて

AWS 大井
皆様ありがとうございます。今後御社のシステムへのAWSの活用を推進していくにあたり、AWS に望むことがあればぜひ教えていただけますでしょうか。

宮本氏
「今回自分達でシステムを作る際、開発環境の理解やどのようなサービスが提供されているのか調べるのに時間を要しました。そのため、AWS の方と二人三脚でシステム開発ができるようになると、もっと自社での利用機会が増えるのではないかと思いました。」

AWS 大井
「ありがとうございます。もちろんこれからも御社が開発に取り組まれる際にはご支援させていただきますのでご安心ください。それでは、最後に一言ずつ、今後皆様ご自身が目指すべき姿について教えていただけますでしょうか。」

鶴田氏
「AWS を含む先進的な技術・サービスを積極的に社内のシステムに導入できる人材になることを目指しています。どのシステムにどの技術を適用するべきか検討する上では、特徴や使い方に関する知識が重要なため、今回の研修で学んだように、AWS など様々な技術・サービスを自らの手を動かして学んで行きたいと思います。」

廣町氏
「現場ニーズに合わせて、既存システムの作り変えにクラウド活用の余地を検討したり、自分でアプリ開発を試みるという選択肢を増やし、考えていきたいと考えています。」

湯浅氏
「今回クラウドサービスを利用してみることで、改めて実際に技術に触れ自分の感覚を鍛えていくことが大切であると感じました。世間の技術スピードを理解・体感し、社内に活かす方法を検討して提案したいと思いました。」

宮本氏
「業務の理解だけでなく最新の IT 技術に触れて自らのスキル向上させ、製造工程への適用を検討できるようにしていきたいと思います。」

高道氏
「情報システム部というエンドユーザーに近いところで仕事ができるメリットを生かし、業務部門が使いやすいシステムを提案できる人材になっていきたいです。」

池邉氏
「私が意識していることは、ツールの知識を幅広く得ることです。ツールやソフトで出来ることを知っておけば、改善方法や開発における選択肢を増やすことが出来ると考えています。」

甲斐氏
「私は質の良い鉄鋼製品を提供するための意思決定の質とスピードを上げるシステムの提供ができる人材になることを目指します。業務環境が目まぐるしく変化していく中で、システムの検討や導入を迅速に進められるよう、時には私自身も開発に参加し、システム導入速度を上げられる人材になりたいです。」

森氏
「当社はお客様のニーズに合った鉄を作る製造業の会社です。IT は鉄を作る過程に多々存在する課題を解決するための一つの手段で、目的ではないので、課題解決においては、最も有効な IT サービスを選択する必要があると考えており、その選択肢を自分の中に増やしていきたいと考えています。引き続き、AWS を含めた様々なサービスの強みに関する学習を継続していきたいと考えます。」

松原氏
「AWS など数あるクラウドサービスの特徴を理解するとともに、開発対象に応じて適切な手法を選択できるようになりたいです。本研修では、AWS 開発の拡張性やスピード感を肌で感じることが出来ました。特に予め準備された様々なサービスを自由に組み合わせて目標とするシステムを構築するという方法には可能性を感じるとともに、まだまだ知らないサービスが多数あるということで、引き続き知識習得に励みたいと考えております。」


AWS 大井
「今回は貴重なお時間と率直なご意見を頂戴し、まことにありがとうございました。今回の研修が皆様のシステム変革の一助になればと思います。今後とも宜しくお願いいたします !」


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参加者プロフィール

高道 悠斗 氏
日本製鉄株式会社
情報システム部 北日本システム室
2020 年入社

室蘭製鉄所のシステム室に駐在。稼働計画システム企画開発に従事。今回東日本チームで顔認証機能の開発を担当。

宮本 太志朗 氏
日本製鉄株式会社
情報システム部 名古屋システム室 名古屋システム企画第一課
2020 年入社

名古屋製鉄所に駐在。製造工程のシステム企画に従事。今回東日本チームで出張者の位置情報の通知機能の開発を担当。

湯浅 郁 氏
日本製鉄株式会社
情報システム部 東日本システム室 東日本システム企画第二課
2020 年入社

東日本製鉄所の君津地区に駐在。生産システム企画に従事。今回東日本チームで出張者の位置情報の発信や Web アプリの UI/UX 開発を担当。

廣町 葉月 氏
日本製鉄株式会社
情報システム部 東日本システム室 東日本システム企画第一課
2020 年入社

東日本製鉄所の鹿島地区に駐在。製銑・製鋼の分野でのシステム企画開発に従事。今回東日本チームで出張者の出張情報管理や Web アプリの UI/UX 開発を担当。

鶴田 航世 氏
日本製鉄株式会社
情報システム部 東日本システム室 東日本システム企画第一課
2021 年入社

東日本製鉄所の君津地区に駐在。生産管理システム企画開発に従事。今回東日本チームで Raspberry Pi を使った顔認証の開発を担当。

池邉 祐馬 氏
日本製鉄株式会社
情報システム部 九州システム室 九州システム企画第一課
2020 年入社

九州製鉄所の大分地区に駐在。システムの企画開発に従事。今回は西日本チームで位置情報関連の機能の開発を担当。

甲斐 雄大 氏
日本製鉄株式会社
情報システム部 九州システム室 九州システム企画第二課
2020 年入社

九州製鉄所の八幡地区駐在。生産管理システムの企画開発に従事。今回西日本チームでチャットボットの開発を担当。

森 裕介 氏
日本製鉄株式会社
情報システム部 瀬戸内システム室 瀬戸内システム企画第一課
2020 年入社

瀬戸内製鉄所の広畑地区駐在。製鋼システム企画に従事。今回西日本チームでチャットボットの開発を担当。

松原 冬馬 氏
日本製鉄株式会社
情報システム部 九州システム室 九州システム企画第二課
2021 年入社

九州製鉄所の大分地区駐在。製造計画、実績管理システムの企画開発に従事。今回は西日本チームで位置情報関連の機能の開発を担当。

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