3 分でプロレベルの記事が完成 ! 

Amazon Bedrock を活用した AI コンテンツ作成支援機能の実装

2025-05-01
デベロッパーのためのクラウド活用方法

Author : 
鈴木 実紀 (株式会社いえらぶGROUP)、
大城 健史 (株式会社いえらぶ琉球)、
山崎 宏紀 (アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社)

株式会社いえらぶGROUP は不動産業界向けバーティカル SaaS である「いえらぶ CLOUD」を提供しています。いえらぶ CLOUD には不動産業者様 (以下、ユーザー様) のホームページやブログを管理する機能があり、Web 経由での集客力向上に活用されています。

いえらぶ CLOUD ではユーザー様支援の強化のため、 Amazon Bedrock 上で Anthropic Claude を活用した AI コンテンツ作成支援機能をリリースしました。このサービスによって、忙しいユーザー様でもより手軽にブログ作成を始めて、ホームページの集客力向上に取り組めるようになりました。

本記事では AI コンテンツ作成支援機能におけるプロンプトエンジニアリングや生成方法の工夫、Amazon Bedrock の採用理由、導入効果や注意事項、今後の展望についてご紹介します。


不動産業界におけるブログ作成の課題

いえらぶ CLOUD にはユーザー様が自社のホームページやブログを管理する CMS 機能があり、Web 経由での集客力向上に活用されています。当社ではユーザー様に対して 検索流入向上のため、アクティブなブログ投稿を推奨していますが、「書く時間が取れない」などのフィードバックが多く寄せられていました。また、弊社では執筆代行サービスも提供していますが、別料金が発生するため、全てのお客様にご利用いただくことは難しい状況でした。このような課題を解決するため、ユーザー様が最低限の情報を入力するだけで、質の高いブログ記事が作成できる機能を開発しました。


AI コンテンツ作成支援機能の概要

実現できること

AI コンテンツ作成支援機能では、対象読者 (例 : 新宿勤務の 30 代夫婦) と取り入れたい SEO キーワードを入力するだけで、プロレベルのブログ記事のドラフトを自動生成することができます。具体的には、SEO キーワードのレコメンド機能、タイトルやディスクリプションの自動生成、記事の構成 (見出し) の自動作成、そして各セクションの本文生成などが可能です。これまで 3 ~ 4 時間かかっていたブログ記事作成において、わずか 3 分程度で下書きの作成を完了できるようになりました。

AI コンテンツ作成までの流れ

AI コンテンツ作成プロセスは大きく分けて 2 つのステップで構成されています。

AI コンテンツ作成までの流れ

1. 企画作成 (ユーザー様) : 対象読者と SEO キーワードの選定

2. 詳細作成 (生成 AI) : 以下の順で自動生成を行います

a. 全体構成 (見出し) の出力
b. 各セクションの本文生成
c. タイトルとディスクリプションの最適化

この 2 ステップ方式により、人間の意図を反映しつつ、効率的に高品質な記事を生成することが可能になりました。このステップは弊社のライターが記事を執筆する流れを踏襲しています。試行錯誤の結果、このフローを採用することで一貫性のある記事を生成できることがわかりました。

ユーザー様における体験

ユーザー様はまず対象読者と SEO キーワードを入力します。SEO キーワードに馴染みがないユーザー様の方のために、SEO キーワードのレコメンド機能も付属しています。自身で入力・選択したキーワードをもとに、記事のタイトルとディスクリプションが自動生成されます。続いて記事の構成 (見出し) が提案され、各セクションの本文が生成されます。ユーザー様は内容を確認し、必要に応じて編集した後、公開することができます。生成処理開始後はバックグラウンドで上図の処理が行われるため、処理完了後ユーザー様は好きなタイミングで投稿作業に移ることができます。


Amazon Bedrock の採用理由

AI コンテンツ作成支援機能では、生成 AI モデルの呼び出しに Amazon Bedrock を利用しています。Amazon Bedrock を採用した理由はいくつかありますが、最も重要だったのはモデルの選択肢の多さと利用できるモデルの精度の高さです。特に Claude モデルは論理的な記述や整合性、キーワードの扱いにおいて優れた性能を発揮しています。文全体の流れのスムーズさや、ニーズに近いキーワードを出力する能力も評価のポイントでした。現在は Claude 3.5 Sonnet v2 を利用しており、今後は Claude 3.7 Sonnet の採用も検討しています。

また、将来的なデータ活用を見据えていることも理由となりました。弊社ではプロダクトが持つ大半のデータを AWS 上に保存しています。ユーザー様固有のデータや、登録している物件情報の統計データなどを活用して、生成 AI を活用した機能とシームレスに連携できる点も大きな利点でした。


プロンプトエンジニアリングの工夫

プロンプトの作成においては、当社の SEO に関する知見を反映させた工夫を行っています。工夫の一つは、キーワード配置の生成規則です。タイトルではキーワードを前方に配置するよう指示しています。

また、生成 AI は誇張表現が出やすい傾向があるため、適切な表現に調整するプロンプトエンジニアリングも重要でした。一貫性のある内容にするため、記事構成全体をプロンプトに含め、各セクション間の流れがスムーズになるよう工夫しています。文字数の最適化も重要で、文字数の指定を明確にし、適切な長さの記事が生成されるよう調整しました。モデルによっては厳密な文字数カウントは苦手としていますが、現時点では課題にはなっていません。

これらのプロンプト調整は、繰り返しのテストを通じて最適化されました。プロンプトの再現度が高いかどうかは普段執筆業務をしているメンバーが確認し、トレンドや検証結果に合わせて継続的にブラッシュアップできる仕組みを構築しています。

記事の主要テーマの選択も次のようなプロンプトを用いて生成 AI モデル上で判断させています (一部改変)。

以下の#メインキーワード・#ターゲットに対する記事を書く場合、選択肢内のどのテーマに分類することが適しているかを判別してください。
また、#条件 を遵守してください。

#選択肢
-    賃貸
-    購入
-    売却
-    賃貸管理
-    エリア
-    その他

#条件:
-    テーマのみを出力してください。
-    以下の 1-3 のいずれかに当てはまる場合は、【その他】を出力してください
1.    どのテーマにも該当しない場合
2.    該当するテーマが複数あり得る場合
3.    キーワードとターゲットの情報が不足している場合

#メインキーワード:{キーワード}
#ターゲット:{ターゲット}

機能の評価方法

当社では、生成された記事の品質を継続的に向上させるため、SEO コンサルタントによる生成記事の品質評価を継続的に行っています。キーワードの適切な配置や記事構成の最適化を確認しています。また、上位表示されている記事との比較分析も実施しています。

ユーザー様からのフィードバックを収集し、プロンプトに反映する取り組みも行っています。コンサルタントと開発チームが協力し、改善フィードバックループを回すことで、生成記事の品質を継続的に向上させています。


導入効果

現在、既に複数のユーザー様が本機能を利用しており、ブログ作成時間及びコストの両面から導入効果が確認されています。

運用率の向上も見られ、ブログ記事の作成に不安を抱えていたユーザー様がブログ投稿を開始するようになりました。「書く時間が取れない」という課題を抱えていたユーザー様からは特に喜びの声をいただいています。さらに、業界内で珍しいサービスとして評価され、導入社数も順調に増加しています。実際に生成された記事を使用したユーザー様からは、検索順位の向上やセッション数の増加といった具体的な効果も報告されています。


生成 AI 活用における注意点

生成 AI を活用する際には、いくつかの注意点があります。まず、ファクトチェックの重要性が挙げられます。数字や法令面の情報については、ユーザー様による確認を実施していただくよう案内しています。ご利用いただくユーザー様にはあらかじめこの点を理解していただいた上で導入していただいています。

入力情報の質も重要な要素です。生成結果の品質は入力情報に依存するため、適切なキーワード選定が重要になります。また、生成されたコンテンツの内容や正確性に関する責任はユーザー様にあることを明示し、個人情報や機密情報の取り扱いに関する注意喚起も行っています。


今後の展望

機能拡張の計画

現在検討している機能拡張として、画像生成機能の強化があります。人物が写っている画像はエンドユーザー様にとってイメージがしやすく、閲覧者の印象を強める効果が期待できます。特に時間をかけられないライトユーザー様の層からニーズが高いと考えています。

また、多様性のある記事の生成ができるようにするアップデートも計画しており、同じテーマでも異なる切り口の記事を提案する機能の実装を検討しています。ユーザー様からは記事の構成やイラスト、ボタンなどの要素についても機能改善の要望をいただいており、これらの実装も順次検討していきます。

データ活用の可能性

当社が保有する不動産業界の統計データや各ユーザー様の物件情報を活用し、各ユーザー様にパーソナライズしたコンテンツ生成を目指しています。ユーザー様ごとに適したコンテンツの生成や、地域特性を反映した記事作成、物件情報を活用した具体的な提案記事などが考えられます。

技術面での改善

技術面では、Agent や RAG (Retrieval-Augmented Generation) を活用した高度な記事生成を検討しています。外部データソースからの自動取得や検索等を活用することでより顧客ニーズに合ったブログ記事の生成が可能になると考えています。

また、契約者数の増加に対応するため、並列実行数・順序管理の改善によるパフォーマンス向上や、AWS のサービスを活用したアーキテクチャ改善による非同期処理の最適化も課題として取り組んでいます。特に同時に大量生成が必要になった場合の対応や、生成失敗時のエラー頻度を下げる取り組みも重要と考えています。

以下に将来的なアーキテクチャ構成案を示します。現在は Ruby on Rails 上で実装しているジョブ管理を Amazon SQS + AWS Lambda に移行し、既存プロダクト側のデータベースから作成したデータを Amazon Bedrock Knowledge Bases に格納し、RAG に用います。

図 2. 検討中のアーキテクチャ案


まとめ

いえらぶ CLOUD の AI コンテンツ生成支援機能は、不動産業者様のブログ運用における課題を解決し、Web 集客力の向上に貢献しています。Amazon Bedrock の Claude モデルを活用することで、高品質な記事を短時間で生成できるようになり、多くのユーザー様から好評をいただいています。

今後も生成 AI の技術進化を取り入れながら、不動産業界特有のニーズに応える機能拡張を進めていく予定です。


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筆者プロフィール

鈴木 実紀
株式会社いえらぶGROUP
総合商品部 WEB 開発課

2020 年新卒入社。係長としていえらぶGROUP のホームページ作成システムの開発チームをまとめています。学生時代は会計や経営を主に勉強していた文系出身ウェブエンジニアです。 不動産会社向けのホームページ制作・CMS 機能に携わり、ホームページを用いたカスタマーサクセスが実現できるサービスを開発しています。音楽を聴くことや野球観戦、テニスやバドミントンなど身体を動かすことが趣味です。

大城 健史
株式会社いえらぶ琉球
SEM事業部 コンテンツ戦略課

2020 年新卒入社。学生時代は新潟県にて国際政治・経済、地域学の分野を専攻。
入社当時からウェブマーケターとして不動産専門の SEO やコンテンツマーケティング事業に携わり、現在は年間2万件以上の記事制作事業を担当しています。生成 AI の可能性に惹かれ、社内社外問わず妄想を膨らませることが最近のマイブームです。

山崎 宏紀
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
デジタルサービス技術本部 ソリューションアーキテクト

ソリューションアーキテクトとして、SaaS 業界のお客様を中心に技術支援をさせていただいています。最近は Amazon Q Developer CLI に仕事を替わってもらおうと画策中。山手線一周ウォーキングの参加者を募集しています。

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