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アスクル、SAP S/4HANA へのバージョンアップを機に国内屈指の大規模データを AWS に移行し、AI やデータを活用できる基盤を確立
EC・物流サービス
概要
アスクル株式会社は、多彩な EC ビジネスを支える基幹システムの SAP S/4HANA へのバージョンアップを決断。Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)のハイメモリインスタンスを活用し、24 時間 365 日動き続ける EC サイトの稼働を維持したまま、ダウンタイムを 21 時間に抑えながら国内屈指の大規模データを新環境に移行。AI やデータ活用を促進できる基盤を整備しました。
課題・ソリューション・導入効果
Opportunity | 24 時間 365 日動き続ける EC サイトを稼働しながらの大規模移行
1993 年の創業以来、BtoB 向け『ASKUL』と BtoC 向け『LOHACO』を運営する E コマース企業として成長を続けるアスクル。同社の特徴は、物流システムから配送まで自社で運営し、全業務プロセスがシステム化されていることです。「アスクルの強みは、全てのプロセスがデジタル化され、かつ自社で運営しているため、改善のインサイトをそのまま適用できる改善サイクルを実現できることです」と語るのは、テクノロジー本部 執行役員 本部長 CDXO の池田和幸氏です。
同社では 2019 年頃から主要システムについて、クラウドネイティブ環境への移行を段階的に実施してきました。そのうえで基幹システムについては、2022 年から SAP ERP(ECC6.0)のサポート終了を見据え SAP S/4HANA 化への検討を進めるとともに、運用していたクラウドサービスからアマゾン ウェブ サービス(AWS)環境への移行を協議しました。
プロジェクトマネージャーを務めたテクノロジー本部 デジタルエンタープライズ デジタルエンタープライズ1 部長の児玉和寛氏は「既に AWS 上で稼働しているフロントシステムとの連携や利便性を考慮し、計画フェーズからシステム基盤は AWS 移行を前提に進めました」と振り返ります。テクノロジー本部 デジタルエンタープライズ デジタルエンタープライズ1 ビッグデータ マネージャーの小森学氏も「AWS は安定性があり、詳しいエンジニアも多いため、運用後の改善という意味でも最適と判断しました」と語ります。
システム刷新における最大の課題は、24 時間 365 日動き続ける EC 事業の継続性にありました。EC 運営会社として基盤の安定は極めて重要であり、システムが止まってしまうと注文を受けられず、売上損失や業務停止につながってしまいます。「社名の由来でもある『明日届ける』というお客様との約束を守ることが最優先事項でした」(池田氏)
技術的な難易度も高く、長年にわたって蓄積してきた膨大なデータ量と業務プロセスの複雑さ、100 以上のカスタマイズ機能を持つ大規模 SAP システムデータの移行は、国内でも有数の規模となります。一般的な基幹システム移行では数日間のダウンタイムを設けるケースが多い中、アスクルが掲げた「24 時間以内での移行完了」は極めて困難なチャレンジでした。
Solution | ハイメモリインスタンスと綿密な移行戦略でリスクを最小化
AWS 環境について、児玉氏は「SAP 認定インフラとして正式サポートされており、SAP 社との長年の戦略的パートナーシップによる安心感が大きかった」と語ります。技術的な要件として最も重要だったのは、長年蓄積してきた大規模データに対応できるインスタンスでした。アスクルが採用したのは、12TB の Amazon EC2 ハイメモリインスタンスでした。「高スループット、低レイテンシーも求められるため、高性能ストレージも重要な選定要因でした」(小森氏)
膨大なデータ移行に備えて、アスクルではまずデータ量の削減に取り組みました。「ECC 環境のデータは 20TB を超えていましたが、24 時間以内というダウンタイム目標に収めるため、移行直前で 5TB まで削減しました」とテクノロジー本部 デジタルエンタープライズ デジタルエンタープライズ1 オーダーマネジメント マネージャーの原尾一生氏は語ります。
また、目標時間内のダウンタイムを実現するため綿密な準備を行い、4回の移行リハーサルを重ねました。「最初はデータのみ、2 回目でデータと基盤、3 回目は本番と同じ 12TB インスタンスを使用、最後は実際の体制も含めた本番シミュレーションを行いました。各回で手順と時間を検証し、確実性を高めました」(原尾氏)
テクノロジー本部 デジタルエンタープライズ デジタルエンタープライズ2 ロジスティクス&ファイナンスの椎野優人氏は、移行環境の安定性がテスト品質向上に寄与したと語ります。「テストを頻繁に行えたことで、安全かつ速やかに作業ができて非常にありがたかったです。特に後半の評価テストでは実際のデータを使用して移行が速やかにでき、安定して使えるよう、最後の工程で不具合を潰し込むことができました」
また、AWS エンタープライズサポートを契約していたことから移行当日のサポート体制も万全で、24 時間 365 日対応のエキスパートによるサポートや技術担当の継続的なエンゲージメントという支援を活用できました。「AWS の担当者とは事前に緊密に連携して、重要ポイントでの立ち会いと 24 時間の連絡体制をお願いしました。結果的に当日は特に問題も起きず、非常にスムーズに進行しました」(小森氏)
Outcome | 安定稼働を実現し、AI・データ活用による革新の基盤へ
2025 年 8 月の本番移行作業は、特に大きな問題なく完了しました。結果的にダウンタイムは 21 時間となり、24 時間以内という目標も余裕を持ってクリアできました。
移行翌日には一時的なシステムスローダウンが発生したものの、同日中に解消され、その後は安定稼働を続けています。「アプリケーション面ではさまざまな調整が必要でしたが、AWS のインフラは非常に安定して動作しており、基盤の安定性により他の問題にも安心して対処できました」と原尾氏は評価し、小森氏も「CPU やメモリに関して異常は全くなく、安定稼働している状況です。インフラの安定性が全体の安心感につながっています」と語ります。
プロジェクト全体について「当初掲げた 24 時間以内での切り替えを入念な準備によって達成できたことは、非常に良い結果だったと評価しています」と池田氏は総括しています。
アスクルの今後の展望として、最も重要なのはデータや AI を活用したサービス革新です。池田氏は「中期経営計画で、AI によるサービス革新を 3 年かけて進めていく方針を掲げています。今回 AWS 上に構築した基幹システムにより、AI やデータの活用が非常に進めやすい環境になりました。お客様向けサービスとアスクル社内プロセスの両方を、どんどん自動化していく基盤が整ったと考えています」と意欲的に語ります。児玉氏も「AI やアナリティクス機能をフル活用して、現場の業務プロセスを変革し、働き方を変化させてお客様への価値を最大化する取り組みをこれから進めていきます」と語っています。
技術面では、Amazon Q in QuickSight を使った自然言語でのデータ分析検証を開始しています。「すでに PoC を進めています。AWS からさまざまなソリューションが提供されていることが非常にありがたいです」(小森氏)
一方、災害対策の強化も進める方針です。「ディザスタリカバリに対応した AWS のプラットフォームを活用することで、今後災害が発生することがあっても、お客様に安心していただけるサービスを継続していきます」池田氏は語り、サービスの安定化とともに、さらなる価値提供を見据えています。
今回 AWS 上に構築した基幹システムにより、AI やデータの活用が非常に進めやすい環境になりました。お客様向けサービスとアスクル社内プロセスの両方を自動化していく基盤が整ったと考えています
池田 和幸 氏
アスクル株式会社 テクノロジー本部 執行役員 本部長 CDXOアーキテクチャ
About アスクル株式会社
オフィス用品や日用品、医療・介護用品などを法人・個人向けに提供する EC・物流企業として“明日来る”のコンセプトで知られる法人向けの「ASKUL」や、個人向けの「LOHACO」などを運営。物流システムから配送まで自社で一貫運営する強みを活かし、全業務プロセスのシステム化とデータ活用による継続的改善を実施。企業の日々の業務、個人の暮らしを支援している。
取組みの成果
- 国内屈指の大規模 SAP ワークロードを安定移行
- 21 時間:24 時間以内のダウンタイム目標をさらに短縮
- ハイメモリインスタンス採用で将来のデータ拡張と AI 活用を推進
- AWS 移行により基盤安定性が大幅向上
本事例のご担当者
池田 和幸 氏
児玉 和寛 氏
小森 学 氏
原尾 一生 氏
椎野 優人 氏