インフラコストの 30% 削減を目指し、内製化に取り組み
スマートフォン向け決済サービスの AWS 環境をモダン化
大阪リージョンを活用し事業継続を実現
2022
法人向けから個人向けまで、収納代行、決済代行などさまざまな決済サービスを提供するビリングシステム株式会社。従来から利用している AWS 環境と、社内のクラウド技術レベルに課題を感じていたことから AWS プレミアコンサルティングパートナーのクラスメソッドに相談し、最新アーキテクチャに移行して拡張性や柔軟性を高め、インフラコストの削減も図りました。また、AWS トレーニングの受講によりシステム内製化のためのクラウド技術レベルアップを進めています。
新しいアーキテクチャへの移行で、機動力が高まったというメリットを感じています。今後はオンプレミスで展開している他のサービスのインフラも徐々にクラウドへ移行する方針で、より AWS とクラスメソッドとの連携を取りたいと考えています
木幡 徹 氏
ビリングシステム株式会社
取締役 営業本部長
老朽化したアーキテクチャと社内のクラウド技術レベルを見直し
2000 年に設立されたビリングシステムは、航空券チケットの収納代行や銀行や証券会社、保険会社への振り込みサービスなど企業の経理事務効率化、決済サービスを支えてきました。スマートフォンによる QR コード決済などが登場し始めた 2013 年ごろから個人向けの決済サービスに取り組み、訪日観光客が利用する WeChat Pay や Alipay、日本で普及している PayPay などに対応した『スマホ マルチ決済サービス』を提供。2017 年には税金や公共料金などの払込票をスマートフォンで撮影して支払いができるアプリ『PayB(ペイビー)』の提供を開始しています。
「WeChat Pay や Alipay は中国のサービスですが、国内事業者に提供するためのインフラや PayB は当初から AWS 上に構築しており、今後はオンプレミスで展開している他のサービスのインフラも徐々にクラウドへ移行する方針となっています」と語るのは、取締役 営業本部長の木幡徹氏です。同社が AWS を選んだ理由は、クラウド事業者としての実績やコストパフォーマンスの良さでした。
スマホ マルチ決済サービスや PayB は 2016 年ごろ、外部ベンダーに依頼して AWS 上に構築したものでしたが、クラウド技術の発展に従って次第にアーキテクチャが古くなり、拡張や運用が難しくなってきました。そこでサーバー OSの Amazon Linux がサポート期限を迎えるにあたり、AWS のベストプラクティスを取り入れた最新アーキテクチャへの移行を決断します。
これまでオンプレミス環境での開発が主流だった同社は、社内のクラウド知識を高めてシステム内製化の力をつけたいという発想もあり、パートナー候補のなかからクラスメソッドを選定しました。
「設計や構築をすべて請け負うというスタンスのベンダーが多くいる中で、あくまでもビリングシステムが主体となり、裏側からサポートしていくというクラスメソッドのアプローチが、内製力を高めたい当社の志向に合っていました」と、システム本部 システム基盤部 部長の中山優氏は語ります。
システムのモダン化によって柔軟性と可用性を獲得
AWS 環境刷新プロジェクトは 2019 年 12 月に開始し、当初は従来環境の確認や設定内容をすり合わせしながら、移行後のシステムのモダン化による柔軟性の向上や BCP(事業継続計画)強化といった要件を確定していきました。しかし、2020 年 3 月頃から新型コロナウイルス感染症対応のための社内 IT 環境構築を優先することとなり、移行プロジェクトはいったん中断。コロナ対応が落ち着いた 2021 年初頭から再開します。
従来の環境はロードバランサーを中継する Web サーバー、アプリケーションサーバー、データベースの 3 層構造でした。ロードバランサーでセッションを固定化していたため、サーバーを 1 台でも止めてしまうとセッションが消えてしまう仕様となっていました。このためメンテナンスはユーザーへの影響が少ない深夜にサービスを止めて行わなければなりませんでした。新しいアーキテクチャでは、ロードバランサーとしてアプリケーション層で動作する Application Load Balancer(ALB)も採用。新しい環境では、Web API を使うことで中継サーバーをなくした 2 層構造となり、セッションを固定することなく必要なサーバーだけ止めてメンテナンスできるようになりました。
またデータベースを高性能リレーションデータベースの Amazon Aurora に変更したことで、パフォーマンス向上にも寄与しました。従来システムは特定の処理でデータベースを占有することがあり、重要な決済リクエストが遅延してしまうという問題が発生していましたが、この問題も解消されました。システム本部長の七條純一氏は、「以前は処理を遅延させないため、データベースの能力を 8 倍にするなどして対応していたのですが、クラスメソッドの提案で Amazon Aurora によってデータベースのリードレプリカを利用する仕組みにアプリケーションを改修しました。現在はピーク時のデータベース能力は 2 倍程度に抑えられています」と説明します。
技術レベルを向上しシステム内製化を強化
インフラコストの最適化も目指す
新しい環境への移行プロジェクトと並行して、AWS 内製開発のスキル向上のため 2021 年 3~4 月にかけて、システム部門の役員からプロジェクトマネージャー、エンジニアまでの 15 名ほどのメンバーがクラスメソッドから AWS 認定のトレーニングサービスを受講しました。「開発部門として、AWS をさらに有効活用したいと考えました。学んだことを今後の効率良いアプリケーション開発に役立てていきます」と、システム本部 システム開発第二部 部長の浅岡浩二氏は語ります。
また、BCP 対策として大阪リージョンに DR 環境を構築し、バックアップの自動化を行っています。「PayB などの決済システムは AWS 側から AWS Direct Connect を通じてオンプレミス側で処理を行うハイブリッド構成になっています。障害が発生した際に別の経路で事業継続するために大阪リージョンも利用したいと考えました」(中山氏)
新環境は 2021 年 11 月に本格稼働となりました。今後旧環境の整理を行うことで、インフラコスト全体の 3 割程度削減できると試算しています。
クラウドの利点を活かしてサービスの最適化へ
今回のプロジェクトでは、従来よりも柔軟な対応ができるアーキテクチャとなり、負荷のかかっていた処理もコストを抑えて対応できるようになりました。PayB には新しい機能を次々と追加していく計画で、そのためにクラウドを活用していく方針です。「ロードバランサー、データベースはマネージドサービスを利用していますが、現在の PayB のアプリケーションはオンプレミスの Linux 環境にあったものを Amazon EC2 上に移設した段階です。サーバーアプリケーションエンジニアである私自身、今後サーバーレスといったクラウド特有の技術は避けて通れないと感じています。これからも学習を続けながら、徐々にサーバーレスで組み立ていきたいと思っています」(浅岡氏)
決済系サービスでのクラウド利用に関して、顧客からも最近ではメリットへの理解が高まってきたといいます。木幡氏は「新しいアーキテクチャへの移行で、当社の機動力が高まったというメリットは営業面でも感じています。ただし、問題が起きても自分たちで対処できるよう、リスクを分散できる対策は必要です。今後は、AWS とのコミュニケーションのスピードも高めていきたいと思っています」と、信頼性を強化する体制の重要性を強調します。
ビリングシステムでは今後もクラスメソッドのサポートのもと、クラウド活用を推進していく計画です。AWS の利用に関しては、新しいサービスや機能についての情報提供を求め、セミナーなどの学習機会も活用していきたいとしています。
木幡 徹 氏
七條 純一 氏
浅岡 浩二 氏
中山 優 氏
カスタマープロフィール:ビリングシステム株式会社
- 設立:2000 年
- 従業員数:71 人(連結)
- 事業内容:決済代行や収納代行サービスの提供
AWS 導入後の効果と今後の展開
- アーキテクチャのモダン化による機動力向上
- インフラコストの削減
- 柔軟性・耐障害性の確保
- 開発・運用効率の改善
AWS プレミアコンサルティングパートナー
クラスメソッド株式会社
クラスメソッドは「すべての人々の創造活動に貢献し続ける」という理念のもと、クラウド、ビッグデータ、モバイル、IoT、AI/機械学習の企業向け技術支援を展開している。コンサルティングやシステム設計開発に加え、国内有数の情報量を誇る技術ブログ「DevelopersIO」での情報発信も積極的に行っている。
ご利用中の主なサービス
Amazon EC2
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。
Amazon Aurora
Amazon Aurora は、MySQL および PostgreSQL と互換性のあるクラウド向けのリレーショナルデータベースであり、従来のエンタープライズデータベースのパフォーマンスと可用性に加え、オープンソースデータベースのシンプルさとコスト効率性も兼ね備えています。
Application Load Balancer
Application Load Balancer を使用すると、マイクロサービスやコンテナといった最新のアプリケーションアーキテクチャを対象とした高度なリクエストルーティングを実現できます。
Amazon Inspector
Amazon Inspector は、ソフトウェアの脆弱性や意図しないネットワークのエクスポージャーがないか継続的に AWS ワークロードをスキャンする自動脆弱性管理サービスです。