デジタル化時代に向けて、サーバーレスアーキテクチャや機械学習など
最新の AWS のソリューションを活用することで、
製薬業界を変革するための基盤を整えることができました。
医薬品開発支援サービスと IT サービスを手がける株式会社 CAC クロア。業務支援環境や社内システムのクラウド化を進める同社は、インフラのマイクロサービス化を目指して AWS Lambda を用いた『ANKOU』というコードネームの API プラットフォームを構築しました。現在、既存システムの移行を進める一方、医薬品開発に必要な文献査読業務などを支援する推測変換システムを、機械学習プラットフォームの Amazon SageMaker を用いて構築。熟練者のノウハウをデジタル化して業務効率の向上を目指しています。
「人々の健康を支え、誰もが笑顔で幸せに暮らせる社会の実現」を理念に掲げる CAC クロア。CAC クロアの社名には、医薬業務支援(CRO)と情報技術(IT)の相乗力によって、安全で良い新薬を 1 日でも早く患者に届けたいという思いが込められています。
最先端の IT サービスを提供する同社は、医療機関や製薬会社に提供する業務支援システムや、社内システムのクラウド化にいち早く取り組み、Amazon EC2 など利用し 2017 年までには、大半をクラウド化し終えています。
「データの保護に厳しいガイドラインを定めている製薬業界はクラウド化に慎重でしたが、近年はデータの内容によっては容認する方向にあり、クラウドシフトが急速に進んでいます。当社が AWS を選定した理由は、サービスとしての実績に加え、GxP などの製薬業界固有の規制に対応している安心感にありました。」と語るのは ICT 事業部 システム開発部 部長 兼 デジタルトランスフォーメーショングループ グループ長の小寺正記氏です。
一方、開発効率やコストの面では課題が浮上しました。医療・医薬業界向けの情報サービスを提供するためには、24 時間 365 日のサーバー稼働が求められ、一定のコストが発生し続けます。なおかつ単一構成のモノリシックなシステムは新規サービスの追加開発や、既存サービスの部分変更に対してスピード感を欠き、可用性の確保が難しいからです。そこで同社は単機能の小さなサービスを組み合わせて高度なシステムを構築するマイクロサービス化に舵を切る決断を下し、サーバーレスアーキテクチャの導入を検討しました。
「マイクロサービス化は、日々の開発や運用に従事するエンジニアから自発的なアイデアとして浮かんだものです。コンピューター化システムバリデーションが求められる医療業界において、モノリシックなシステムでは世代交代が難しいという側面があります。その点、マイクロサービスであれば API 単位で切り替えができるので、柔軟性は大きく向上します。また、サーバーレス化によってコストを抑えられます。」(小寺氏)
同社が新たに選んだのが、AWS Lambda を中心としたサーバーレスソリューションです。2017 年からシステム開発部のエンジニアが API プラットフォームの設計を進めていました。2018 年 1 月に正式なゴーサインが出てからは、1 カ月をかけずにプログラム実行環境とインターフェース用の API を稼働させました。「アーキテクチャの設計はほぼ独学で対応しましたが、最終的に AWS Well-Architected フレームワークを利用して検証しました。サポートサービスへのソースコードレベルの質問についても迅速に回答をいただくことができ、新しいサービスを不安なく立ち上げることができました。」と小寺氏は振り返ります。
この API プラットフォームは、AWS Lambdaと Amazon DynamoDB を中心に構成されています。ストレージはデータレイクの用途に Amazon S3、分析用のデータマートに Amazon DynamoDB を使い分けています。セキュリティ対策については AWS WAF を採用し、アプリケーションの保護と運用負荷の軽減を図りました。
現在、Amazon EC2 環境で稼働している既存システムを『ANKOU』上に移行するとともに、新規で追加するシステムの構築も『ANKOU』上で進めています。その中の 1 つが機械学習を利用した文献検索や医薬用語検索用の推測変換システムです。営業本部 営業企画部の桜井保浩氏は「市販後の医薬品の安全性情報管理業務において、学術論文から必要な医薬品名および有害事象名の記載箇所を抽出し、薬剤と疾患の因果関係や重篤性を判断する文献査読業務や、有害事象を含む疾患名に対応した適切なコードを国際医薬品用語集(MedDRA)から検索する業務等は人手を介して実施しており、担当者による作業スピードや査読結果のばらつきが課題でした。そこで、業務品質を高めるために機械学習プラットフォームの Amazon SageMaker を活用しています。」と語ります。
さらに、医療業界向けの APIサービスの Amazon Comprehend Medical をいち早く組み込み、検証を進めています。
サーバーレス環境の構築は、コスト面や運用面で大きなメリットをもたらしました。AWS Lambda を活用することで、EC2 と比較してサーバーコストを約 1/10 まで削減でき、運用と保守に関わるコストも約 1/3 になる見込みです。インフラ調達におけるリードタイムも、1 週間程度からゼロに短縮されました。「トラブル発生時の原因切り分けも最小限になったため、運用担当者がサービスの維持ではなく、改善に取り組む時間を持てるようになりました。IT 要員を新サービスの開発に振り分けるリソースが増え、思い付いたプログラムをすぐに作って試すことができます。短期的な費用対効果を考えると予算取りが難しい機械学習の仕組みも、AWS を活用したからこそ最小限のコストで実績を出すことができました。」(小寺氏)
今後は社内の開発者に向けてガイドラインやチュートリアルを作成し、容易にサービス開発が進められるように環境の整備を進めていく予定です。また、『ANKOU』のコア領域をオープンソース化して外部に公開し、多くの賛同者を集めることでプラットフォームとしての完成度を高めて行く活動を実施していく計画です。
さらに、医療従事者に提供している業務支援システムのヘルプデスクにコンタクトセンターソリューションの AWS Connect の導入を検討しているほか、社内の業務部門向けにデスクトップ仮想化ソリューションの AWS WorkSpaces を導入して情報漏洩対策を強化していくことも検討しています。小寺氏は「今回は、デジタル化時代に向けて、サーバーレスアーキテクチャや機械学習など最新の AWS のソリューションを活用することで、製薬業界を変革するための基盤を整えることができました。今後は開発部門と運用部門、開発部門と医薬業務支援部門にある垣根を取り払い、さらに風通しのいい環境を作りながら開発効率の向上と新たなサービスの開発を目指していきます。」と話します。