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第一三共、創薬を加速するセルフサービス型クラウド基盤を AWS 上に構築 ~モブワークによる内製と人材育成で全社デジタル変革を推進~
ライフサイエンス
概要
背景・ソリューション・導入効果
背景
IT と研究を一体化し、創薬研究の競争力を強化
「病気になっても、自分らしく生きていける」をコンセプトとした薬づくりを目指す第一三共は、がん領域などで革新的な医薬品を創出する研究開発型製薬企業として知られています。医薬品の開発には 10 年以上の時間と数百億から数千億円規模の費用がかかり、新薬の開発成功確率は極めて低く、国内製薬企業の実績では、2015~2019 年の期間において約 55 万個の化合物から24 個しか上市に至っていません※1。このため、より成功確率の高い研究開発手法の確立が急務となっています。
医薬品の研究開発では、最初の段階として「ディスカバリー研究」があります。ディスカバリー研究では、創薬の種を見つけ、それを磨き上げて医薬品の候補となる物質を創出します。この段階のプロセスを変革し、質の高い候補物質をより早期に創出することができれば、新薬を待ち望む患者さんの希望に、一日でも早く応えることができます。
「創薬研究は研究者が白衣を着て実験するイメージがありますが、現在はデジタル技術やデータ活用の重要性が増しています。また、ヘルスケア産業は世界的にみて成長産業であり、テック企業など異業種からの参入も増えています。このように外部環境が変化する中で、当社も競争力をもって、革新的な医薬品をより早く患者さんにお届けできるよう、進化していく必要があります」と語るのは、第一三共研究イノベーション企画部 リサーチ DX 第二グループ長の岡本敦之氏です。
岡本氏が目指したのは、ディスカバリー研究で産生される実験計画などのメタデータと実験データなどが自動的に収集され、関連付けされた状態で保管できるシステム基盤。データが属人化する状況を回避し、再利用時にデータの信頼性を担保することで、AI など最先端のデータ分析手法を最大限に活用できる環境です。そこで、2021 年から研究開発子会社の第一三共 RD ノバーレ株式会社(RD ノバーレ;現在は第一三共に統合)において、データ活用基盤構築のためのワーキンググループを結成し、活動を開始しました。
こだわったのは、研究者が IT リソースをセルフサービスで活用するクラウド基盤です。
「研究者が自分のアイデアを素早く試せる環境がイノベーションを促進します。従来のように IT 部門との調整に時間をかけていては、グローバルのスピードに追いついていけません。研究と IT が一体となった組織を目指し、IT も研究の一部と捉える文化を作る必要があると考えました」(岡本氏)
ソリューション
モブワークによる基盤内製と技術者育成の実現
RD ノバーレでは 2021 年から IT エンジニアの採用を進め、2022 年に DX 創薬部として正式に組織化。AWS 認定資格の取得支援や PoC アカウントでの実践など、クラウド活用に向けた準備を重ねていました。その後、2023 年には RD ノバーレのエンジニアを中心に、第一三共と協働でクラウド活用推進チーム(Cloud Center of Excellence:CCoE)を立ち上げ、AWS プロフェッショナルサービスの支援のもと、セルフサービス型クラウド基盤の構築に取り組みました。
セルフサービス型クラウド基盤の要件には、アプリケーションの開発・運用における俊敏性、個人識別符号を使用するゲノム研究や社外研究者との共同研究などのさまざまな研究ニーズに対応できる柔軟性、さらに社内の他システムと同等のセキュリティ確保に加え、監査対応の実効性を担保する仕組みが求められました。
「AWS プロフェッショナルサービスは私たちが目指すセルフサービス型クラウド基盤を実現するために、多くの提案を行い、非常に柔軟な対応をしてくれました。豊富な知見とスキルを持つ人材が、私たちが重要視する本質的な価値を深く理解した上で、共に試行錯誤しながら伴走してくれる。理想的なパートナーだと判断しました」(岡本氏)
基盤構築に際しては、スケーラブルかつ安全であり、俊敏性を損なわないマルチアカウント AWS 環境である Landing Zone を構築するため AWS Control Tower を採用。さらに、AWS Control Tower Account Factory for Terraform(AFT)を活用して、インフラをコードで管理する仕組み(Infrastructure as Code:IaC)の実現を目指しました。
2023 年 4 月に、CCoE は IT システムの構築経験がないメンバーを含め 13 名でスタート。7 月から AWS の基礎学習を始め、10 月には基盤設計・構築を担当するプラットフォームチームを 6 名で結成。AWS プロフェッショナルサービスとのワークショップで整理した内容に基づき、プラットフォームチームが主体となりモブワークで基盤構築を開始しました。12 月からは AWS プロフェッショナルサービスの知見をより効果的に活用するため、ワークショップ形式をやめ、AWS プロフェッショナルサービスメンバーにモブワークの現場で後方支援してもらう形に切り替えました。
「当初、AWS プロフェッショナルサービスとワークショップで検討内容を資料にまとめ、それをもとにチームで基盤構築を進めていました。しかし、資料に沿った構築作業だけでは、各設定が必要となる技術的背景を理解するのに時間を要し、思うように進みませんでした。そこで、AWS プロフェッショナルサービスと一緒に構築作業をし、チームが必要な情報を必要なタイミングで入手することで、作業効率の向上と技術力の底上げを期待しました」と語ります。この方針への転換は効果的で、12 月からの構築スピードは大きく向上し、2024 年 6 月には本番環境をリリースすることができました。その後も利用者との対話を重ねながら修正を加え、運用が続けられています。
導入効果
研究部門での内製化実現から始まるバイモーダル IT への展開
セルフサービス型クラウド基盤の構築という経験が、第一三共の中にいくつかの変化をもたらしました。その一つが、IT 利用に対する考え方です。今までは外部ベンダーへの委託が中心でしたが、競争優位性の源泉となる領域では内製の有効性が認識され、バイモーダル IT 戦略の検討が始まりました。その中で CCoE はモード 2(俊敏性、柔軟性、そして不確実性が非常に高い領域)をサポートする位置づけとなりました。
このように技術面に留まらない組織全体の変革が進む中、岡本氏は今後の展望についてこう語ります。
「重要なのは技術の導入よりも組織や人の変革です。クラウド活用が進むと、業務そのものが変わります。これまでの自分の役割を見直し、新しいスキルを身につける必要が出てきます。人が変わる必要がある点が一番難しいのです。AWS プロフェッショナルサービスの素晴らしい点は、技術支援に留まらず、ビジネス変革に必要な人材トレーニングやチェンジマネジメントまで支援してくれるところです。これからも、患者さんが待つ薬を一日でも早く届けられるように、第一三共の挑戦を支えるパートナーとして、さらなる協力関係を築いていきたいと考えています」(岡本氏)
創薬のアイデアを素早く具現化することが、患者さんが待つ薬を一日でも早く届ける鍵となります。AWS プロフェッショナルサービスの素晴らしい点は、技術面に留まらず、ビジネスをどう変革するか、人材育成やチェンジマネジメントまで支援してくれることです
岡本 敦之 氏
第一三共株式会社 研究開発本部 研究統括部 研究イノベーション企画部 リサーチ DX 第二グループ長アーキテクチャ
第一三共株式会社
グローバルに医薬品事業を展開する研究開発型製薬企業。「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」というパーパスのもと、2025 年に「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」の実現を目指している。抗体薬物複合体(ADC)技術を強みに持ち、2030 年ビジョンとして「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」を掲げる。デジタルトランスフォーメーションを積極的に推進し、2023 年には経済産業省より「DX 銘柄」にも選定された。
取組みの成果
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自律的にクラウドリソースを利用できる環境の利用開始
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柔軟かつ俊敏な内製開発体制
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内製化スキルの横展開