月間 250 万人超※のソーシャルゲームユーザー動向を捉えるデータ分析基盤をサーバーレスアーキテクチャで再構築。システムコストの変動費化と 60% のコスト削減を実現
※2020 年 6 月現在
概要
ドリコム株式会社はゲーム事業におけるデータドリブンな意思決定を目指し、分析基盤をアマゾン ウェブ サービス(AWS)に移行。Amazon Kinesis Data Firehose や Amazon Athenaを活用したシンプルなサーバーレスアーキテクチャにより、システムコストを 60% 削減。またデータ抽出を高速化し、Amazon QuickSight を通じてほぼリアルタイムでゲームプランナーやプロデューサーに必要な情報を提供しています。

データドリブンな意思決定に向けゲーム分析基盤を刷新
『ONE PIECE トレジャークルーズ』『みんゴル』など、人気ゲームアプリの開発を手がけるドリコム株式会社。現在はゲーム会社との協業タイトルを中心に、国内外のソーシャルゲーム 16 タイトルを運営しています。
ソーシャルゲームは、データに基づいて継続的かつ高速な改善を行うことが重要です。同社はゲーム事業開始当初からログ情報を収集/分析するデータ分析基盤でユーザー動向を把握してきましたが、オンプレミス環境の老朽化が進んでいました。
「属人化や冗長化が進んで運用効率が低下していました。バッチ処理はタイトルごとに Jenkins サーバーを立てて管理していたものの、大量のバッチ処理により、不具合が増えてアナリストが要因調査や修正対応に工数を割かなくてはなりませんでした。R 言語をベースにした内製 BI も特殊性が高く、⼀般的な SQL 記述等の技術だけでは、グラフ追加や変更も容易ではありませんでした」と語るのは、データソリューション部 部長の山本守氏です。従来は内製の BI ツールで限られたデータしか扱えておらず、全社に共有するも的確なアクションを起こすには不十分で、かつダッシュボードが重く利便性に欠けていました。ゲーム事業ではユーザーの動向に応じてプロダクトの施策を考えるプランナーから、中長期的にマーケティング戦略を立案するプロデューサー、長期かつ大局的な視点で事業戦略を立てる経営層まで、レイヤーにより欲しい情報が異なります。そこで利用者ごとに最適なデータを提供し、誰でも簡単に利用できるようにすることで、データドリブンに意思決定ができることを目指しました。
Amazon Kinesis、Amazon Athena を駆使したリアルタイム集計と Amazon QuickSight のグラフィカルな表現力を評価
そこでドリコムは AWS の分析サービスと、BI ツールとして Amazon QuickSightを採用しました。
「Amazon QuickSightの BI 機能は Tableau と比較しても遜色ありません。またアカウント管理が簡単で、運用設定も充実しているため運用の手間もかからないうえ、コストパフォーマンスが高く、インメモリの SPICE を使うことで集計スピードの高速化も図れます。さらに大量のデータを標準 SQL で分析可能にする Amazon Athena による効率的な解析、Amazon QuickSight と Amazon Athena との親和性の高さ、グラフィカルな表現力を評価しました」(山本氏)
分析基盤は、2018 年 9 月から 2019 年 11 月にかけて構築。Amazon QuickSight に表示するデータソースは、迅速に環境を立ち上げるため、ゲームタイトルごとにデータレイクを作成しました。
「ゲームタイトルによって規模や分析頻度、欲しい KPI などが異なります。版元企業や開発会社などのステークホルダーも異なり、1 つのデータレイクでは予算按分も難しいことから、複数に分けて機動性を高めています」(山本氏)
さらにリアルタイムに近い解析を目指して、ストリーミングデータをデータレイクにロードする Amazon Kinesis Data Firehose を採用。毎時 10 分程度のタイムラグで BI 上にデータ集計結果を反映しています。また Amazon Athena、Amazon S3、Amazon Kinesis Data Firehose を組み合わせたサーバーレス構成で運用負荷の軽減を図った結果、データエンジニア 2 名で複数タイトルを運用できるようになりました。
また、AWS Glue Crawler によって Amazon Athena のテーブルを作成し、AWS Step Functions がバッチ処理を実行。SQL ファイルを Amazon S3 に配置するだけでエンジニア以外でもバッチ処理を追加できるため運用負荷が軽減されました。データエンジニアの金子大貴氏は次のように語ります。
「当初はログファイルを直接 Amazon Athena で集計して Amazon QuickSight に表示する構成を検討しましたが、リクエストファイル数の増加で Amazon Athena が不安定になりエラーが起こる問題が発生したため AWS Step Functionsを活用し、バッチ実行環境を整備しました。AWS のエンタープライズサポートによる的確なアドバイスにより、速やかに対応することができました」
データをもとにユーザーの反応を検討するアジャイル型のゲーム運営にシフト
新たな分析基盤では、システムコストの変動費化と 60% のコスト削減を実現し、ダッシュボード運用の人的コストも 80% 削減しました。汎用化によりデータアナリストが 1 人で複数のプロダクトを兼務することも可能になりました。R 言語の知識がなくても SQL を理解しているレベルで十分に対応ができるため、分析の汎用化も進んでいるといいます。
現在、分析基盤や Amazon QuickSight は、ゲーム開発に関わる担当者約 200 名に加え、版元企業、開発会社、プロタクト運営のスタッフ、業務委託先などにも公開し、目標達成指標(KGI)や業績評価指標(KPI)を管理しています。
「ログ実装からアナリティクス設計、ダッシュボードの構築までが自動化されたことにより、新規タイトルをリリースする前から必要となる 190 以上の KPI/KGI を定義した分析環境を整えることが可能になりました。その結果、ゲームタイトルのリリース直後から、多くのデータをもとにユーザーの反応を検討するアジャイル型の運営にシフトしています。リアルタイムに近い運用により、初速の反響を捉えたうえで、新たな施策も検討できるようになりました」(山本氏)
新タイトルのリリース時には、最初の 30 分・1 時間のデータの傾向で、順調か否かが直感的に分かるといいます。ゲームは広告とセットになっておりマネタイズ判断が極めて早いため、リアルタイム性があるとより速く対策を打つことが可能です。
Amazon SageMaker と連携し分析から推論までの自動化の実現へ
ドリコムでは現在、データ活用力の強化に向けて、Amazon SageMaker の機械学習による分析結果をリアルタイムに Amazon QuickSight 上で可視化し、ゲーム内の施策決定につながる情報を開発者などに提供するチャレンジも進めています。機械学習による予測によって、エンドユーザーの行動に先駆けて、有効な施策を打っていけるためです。データソリューション部 データサイエンティストの石井雄一郎氏は「今後は、自動的に推論を実行し、その結果を可視化する仕組みを AWS 上に構築していきます」と語ります。
「今後の目標は、分類と予測です。分類は、優良顧客の獲得に向けたセグメンテーションやクラスタリングによるユーザー定義、インストール後の不正アクセスの排除などです。予測に関しては、ゲームユーザーの課金情報は合理的な消費行動ではないため、過去の購買履歴に加え、プラスαとして SNS の情報なども活用し、新たな施策の検討や意思決定につなげていきます」(山本氏)

Amazon Athena と Amazon QuickSight を組み合わせた分析基盤環境により、運用負荷から解放され、経営やマーケティング施策などゲーム事業における様々な意思決定につながるデータを迅速に提供できるようになりました
山本 守 氏
株式会社ドリコム データソリューション部 部長アーキテクチャ

株式会社ドリコム
設立:2001 年 11 月 13 日
資本金:17 億 3,500 万円(2020 年 3 月 31 日現在)
従業員数:326 名(2020 年 3 月 31 日現在)
事業内容:ゲーム事業、メディア事業
AWS 導入後の効果と今後の展開
ダッシュボード運用の人的コストの 80% 削減
分析基盤のシステムコスト 60% 削減、運用の人的コスト 60% 削減
データアナリストによる複数ゲームタイトルの兼務
Amazon SageMaker を活用した解析の自動化・可視化
統計解析による顧客のセグメント化
本事例のご担当者
山本 守 氏

石井 雄一郎 氏

金子 大貴 氏
