現場に負荷をかけずにデータを収集
安心安全な PHR 基盤
市民の健康意識の向上
概要
「すべての人が健康でいきいきと笑顔で暮らせるまち」を目指して『いいづか健幸都市基本計画』のもと、事業計画を推進する福岡県飯塚市。さまざまな取り組みによって市民の健康増進に効果は出ている一方、活動の広がりには課題もありました。そこで同市は、民間企業が運営する健康増進コンソーシアムと共同で、PHR*1
基盤と各社のアプリケーションを活用した実証事業を実施しました。
*1 PHR (Personal
Health Record) : 個人の健康診断結果、服薬履歴、日常生活でのバイタルデータ等の保健医療情報

課題 | 健康増進計画を広げていくための PHR データ活用
飯塚市は、個々人が健康かつ生きがいを持ち、安全安心で豊かな生活を営むことのできること(健幸)を「まちづくり」の中核に位置づけ、「すべての人が健康でいきいきと笑顔で暮らせるまち」を目指しています。同市は 2014 年 3 月に『いいづか健幸都市基本計画』を策定して以降、5 年単位で事業を実施してきました。1 次計画では主にトレーニング施設やウォーキングコースなどのハード面の整備、2019 年 4 月策定の第 2 次計画では、外出頻度の向上や相互交流を促す健幸イベントやポイント事業を実施しました。
同市は、健康寿命を延ばすためフレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)予防にも取り組んでいます。市民自らが「フレイル予防サポーター養成講座」を受けて、フレイル予防の活動を支援する形も生まれてきました。このような 10 年の取り組みで健康増進に取り組む人が増えた一方、依然として健康に無関心な層にもアプローチすることが課題です。そこで 2024 年 3 月に策定された『第 3 次いいづか健幸都市基本計画』では、「個から集団へ」、「点から線へ」と、より「ひろがり・つながり」を重視した計画が立てられました。
「第 3 次計画においては、健康無関心層を巻き込んだり、企業の健康経営を進めたりするには、デジタル活用が必須だと考えました。アプリやデータなどのデジタル活用は自治体としてこれまで不得意としてきたため、日本ウェルビーイングコンソーシアム(以下、JWBC)の協力を得て実証事業を行いました」と語るのは、飯塚市 経済部 経済政策推進室の榊敏江氏です。
JWBC は、日立システムズ、インテグリティ・ヘルスケア、ANA X、サワイグループホールディングスによって設立されたコンソーシアムで、PHR 基盤と各社のアプリケーションを組み合わせ、自治体、健康保険組合、企業に対して健康経営や健康増進などをテーマにしたウェルビーイング支援を実施しています。今回は、JWBC が実証先を探して自治体に提案をする中で、飯塚市が手を上げ、事業の実施が決まりました。
実証事業で JWBC が提案したのは、「企業に所属しない自営業の方など、健診を 3~4 割しか受けていない健康無関心層へのアプローチ」「企業の健康保険に加入していた頃から節制することなく、不健康な状態で国民健康保険に移ってくる 60 歳以上の方への意識喚起」「健康増進策に高額な費用をかけずに実施したい」といった自治体の共通課題の解決です。その内容に沿って使用するサービスを確定して、事業が進められました。
「システムの構築には、JWBC の支援があったので苦労することはありませんでした」(榊氏)

実証事業を通じて、健康増進に向けて市民の行動変容が起きることが確認できました。次は企業を巻き込んで、すべての人が健康でいきいきと笑顔で暮らせるまちを実現していきたいです"
榊 敏江 氏
飯塚市 経済部 経済政策推進室
ソリューション | AWS でデータを連携し、3 省 2 ガイドラインにも準拠
今回の実証事業で扱った PHR は、個人の健康診断結果、服薬履歴、日常生活でのバイタルデータ等の保健医療情報です。要配慮個人情報であり、個々のデータの扱いには厳しい管理が求められます。JWBC の 4 社それぞれのアプリケーションサービス基盤には、アマゾン ウェブ サービス(AWS)が採用されており、連携が容易です。また、AWS のプラットフォームを活用することで、医療情報を安心・安全に運用できる 3 省 2 ガイドライン(厚生労働省、総務省、経済産業省が定めた、医療情報システムを安全に管理するための 2 つのガイドライン)に対応できることもポイントとなりました。
また、コンソーシアムの取りまとめ役である日立システムズは、このガイドライン遵守に向けたコンサルティングサービスも提供しており、豊富な対応実績を有しています。
飯塚市では、日々の移動でマイルが貯まる『ANA Pocket』(ANA X 提供)と、PHR を管理する『SaluDi』(沢井製薬提供)の 2 種類のアプリを市民のスマートフォンにインストールしてもらい、利用者のデータを収集することにしました。
当初は、実証に十分な参加者数を集めることに苦心したと榊氏は振り返ります。2023 年 12 月~ 2024年 3 月末の実施に向け、前もって市民向け説明会を実施したほか、飯塚市のみんなの健幸・福祉のつどいなどのイベントにも出展して参加を募りましたが想定人数にはなかなか達しません。それでも最終的には、2024 年 1 月に 190 名の参加者を集めることができました。
参加者から取得したデータは、一度、各アプリケーションに集約されます。このデータを日立システムズが管理する Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)に集約し、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールの Amazon QuickSight のダッシュボードで分析できる環境を構築。日立システムズの担当者は、分析手法は理解していたもののダッシュボードの構築は不慣れな面があったため、AWS に依頼して開催した Amazon QuickSight のワークショップと、AWS の手厚いサポートが役立ったといいます。
導入効果 | 市民の健康増進につながる行動変容に貢献、企業にも対象を拡大
実証期間中は、飯塚市独自の限定チャレンジを設定して、市民の行動変容につなげることができるかがテストされました。具体的には、市内商業施設「イオン穂波」や「ゆめタウン飯塚」をチェックポイントとして移動の促進や、1 日で 2~6km を歩こうというもので、クリアするとポイントがもらえる仕組みでモチベーションを高めました。
実証事業に参加した市民からは「チャレンジやポイントが外出や運動のきっかけとなった」との声があがっています。ほかにも「市内の商業施設に出かける機会が増えた」「近所の人とウォーキングするようになった」など、スマートフォンアプリの利用が健康行動につながったとの意見が多数得られています。
また、2024 年 1~3 月の参加者の平均体重は 0.6kg 減となり、なかでも健康無関心層においては 1.6kg 減という結果が得られました。これにより、今回の取り組みが健康無関心層の巻き込みにつながっていることが明らかになりました。
一方、この仕組みを導入したことによる飯塚市側の業務負担はほとんどありませんでした。むしろデータの分析業務についてはかなりの省力化が実現されています。集められたデータは Amazon QuickSight のダッシュボード上で分析できるため、日々の健康行動を動的に把握できるようになっています。
飯塚市での実証事業を通じて JWBC が構築した仕組みは、ほかの自治体や企業にも展開されていく予定で、自治体からの問い合わせも増えているといいます。
榊氏は今後の展望について、次のように語っています。「今回の実証事業は、個人を対象に行いました。この結果をもとに、企業や事業所単位の健康経営にも役立てていくことを検討しています。この仕組みをさらに展開して、健康増進を広めていきたいと考えています」
カスタマープロフィール:飯塚市
2006(平成 18)年 3 月に 1 市 4 町(飯塚市、穂波町、筑穂町、庄内町、頴田町)が合併して誕生した市。福岡県のほぼ中心に位置する同市には、南北に流れる遠賀川に沿った平野が広がり、東は関の山、西は三郡山地等に囲まれ、日本経済の成長を支えた筑豊炭田の中心都市として、重要な役割を果たしてきた。2014 年 3 月からは「いいづか健幸都市基本計画」のもと、「すべての人が健康でいきいきと笑顔で暮らせるまち」を目指して事業が実施されている。

榊 敏江 氏

相樂 泰弘 氏

小島 久美子 氏

明石 泰 氏

田平 正行 氏
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