生活消費領域の DX 加速に向けグループ横断のデータ活用基盤を構築
AI により発注業務を 50% 省力化
2021
伊藤忠商事は、近年のビジネス環境や顧客ニーズの変化に応え、“マーケットイン・SDGs を支えるデジタル戦略”として多様なデータ活用とデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進。グループ横断のデータ活用基盤をアマゾン ウェブ サービス(AWS)上に構築しました。オンデマンドに各種ツールやセキュリティ機能を利用できるメリットを活かし、AI による発注業務の 50% 省力化など、さまざまな DX プロジェクトで先進的な取り組みを進めています。
AWS 上にグループ横断のデータ活用基盤を構築したことで、事業部門・データサイエンティスト・IT 部門の距離が縮まり、ワンチームとして機能でき、新たな DX の可能性が広がっています
海老名 裕 氏
伊藤忠商事株式会社 IT・デジタル戦略部
デジタル戦略室 室長代行
消費者ニーズを起点としたマーケットインの発想を次世代ビジネスで実現
繊維、機械、金属、エネルギー・化学品、食料、住生活、情報・金融といった幅広い領域で事業を展開する総合商社の伊藤忠商事。IoT や AI など先端技術の発展が進む中、同社のビジネス環境も加速度的に変化しています。2018 年~ 2020 年の中期経営計画において“ビジネスの次世代化”を掲げ、データ活用による収益拡大に向けた取り組みを開始しました。2019 年に異業種融合・既存カンパニー横断の取り組みをリードする第 8 カンパニーが設立されたこともその布石で、消費者ニーズを起点としたマーケットインの発想による新しいビジネスの創出や顧客の開拓を目指しています。
「生活消費分野では、食品廃棄ロス問題や CO2 排出量の削減、恒常的な労働力不足などの社会課題の解決に向けて、データ活用や DX を推進しています。2021 年からの中期経営計画においても『マーケットイン』と『SDGs』というテーマを支えるため、IT・デジタル戦略部という新しい組織を立ち上げました。各事業会社の会計データなどはこれまでも蓄積していましたが、一歩取り組みをすすめて、生活消費バリューチェーン全体で活用できるデータ基盤の構築を目指しています。IT やデータを活用した新しい企画の立案から実用化、運用までを一元的に提供可能にすることで、より戦略的・効率的に活動を推進します」と、IT ・デジタル戦略部 デジタル戦略室 室長代行の海老名裕氏は語ります。
強力な IT 事業会社をグループに持つ情報・金融カンパニーとの連携も活かして、自社における DX 推進のみならず顧客企業の DX 推進も積極的に支援していく構想です。
AWS で安定的なデータ活用基盤を構築
食品卸事業における発注業務の AI 活用など DX を加速
伊藤忠商事では、自社の DX を推進するにあたり中核となる IT 基盤として、複数のサービスを検討の上、AWS を選択しました。現在は複数の DX プロジェクトや PoC を進める中でデータレイクや分析基盤、ネットワーク、セキュリティなど、幅広く AWS のサービスを活用しています。
IT・デジタル戦略部 DX プロジェクト推進室 室長代行の土田有彦氏は、「DX の企画から運用まで、IT サービスを安定的にデリバリすることが私たちのミッションです。AWS は、現在最も多くのエンジニアに支持され、人材も情報も豊富であるという強みを持っています」と語ります。
同社が推進している DX プロジェクトの 1 つにグループデータ活用基盤の整備があります。この基盤のデータレイクは、Amazon S3 を利用しており、伊藤忠グループの各事業会社が保有/運用しているデータや外部のデータが蓄積されています。これらを分析用データとして加工して機械学習モデルを作成する AI 開発環境のほか、開発されたモデルを展開・運用する定型処理環境も整備されています。データ蓄積/処理環境には AWS Glue や Amazon Athena、Amazon EMR 等を用いた並列処理機能を組み込み、データベースの作成・処理を高速化。これらの基盤を運用・監視する基盤も AWS 上に構築し、迅速な障害対応を実現しています。Amazon WorkSpaces を介してセキュアな運用・開発環境を提供しているのも特徴です。
「先行して食品サプライチェーンの DX に取り組み、AI を活用して発注量計算を自動化する仕組みを構築しました。在庫の 10~30 % 減、発注業務工数の 50 % 削減という大きな効果を得ており、食品廃棄ロスなどの問題解決に向けて前進しています。AWS は、多くのパートナーソリューションと連携しているので、要件や用途によって自由に組み合わせて、作業効率やサービスレベルを最適化できる点が魅力です。当社は全国に多数の拠点を構えていますので、運用管理効率を向上する機能やサービスも活用したいですね」と、IT ・デジタル戦略部 デジタル戦略室の中丸学氏は、AWS の柔軟性を高く評価しています。
このほかにも同社は、数理モデルを活用した配送ルートの最適化やマーケットイン戦略を支える分析基盤など、多彩な DX プロジェクトで AWS を活用しています。
グループ共通のデータ活用基盤に AWS の各種セキュリティ機能を活用
伊藤忠商事は DX 戦略の IT 基盤に AWS を採用したことで、さまざまな効果を得ています。まず、オンデマンドに利用できる点により、DX 全体のコストを最適化。また、AWS の管理ツールのタグ機能を応用してプロジェクトごとに利用料を集計するなど、予実管理でも工夫しています。インフラ調達のリードタイムがおよそ 10 分の 1 になるなど、目に見えないコスト効果も高く評価しています。
伊藤忠グループの多様な情報を扱うため、セキュリティ機能も重要です。AWS 上ではセキュリティ機能がサービスとして提供されているため、すばやくセキュアな環境を実装できます。また、構成管理に AWS Config を、AWS 上のワークロードや Amazon S3 上に蓄積されたデータを監視するために Amazon GuardDuty が活用されています。
「オンデマンドにリソースを利用できるため、素早く柔軟に地に足の着いた DX を推進できます。データの可視化・分析・検証・AI 開発など統合したグループ共通基盤を構築したことで、事業部門とデータサイエンティスト、IT 部門の距離が縮まってワンチームとして機能するようになったことも、大きな効果の 1 つです」(海老名氏)
伊藤忠商事の DX 推進には、AWS の積極的なサポートも貢献しているといいます。「技術情報やロードマップの提供のほか、アーキテクチャの検討やツールの紹介など、実に幅広く支援してくれました。さまざまな相談ごとも、ときには専門的なエンジニアのアドバイスを含めて迅速に回答していただけ、運用・設計を含めてしっかりとした基盤を構築できたと感じています」(中丸氏)
今後は、このグループデータ活用基盤を中核に、DX の PoC から実用化・本番稼働まで、各事業の現場が高度な技術者に頼ることなく運用できる環境を実現していきたいとしています。
「パフォーマンスやセキュリティをしっかりと確保しながら、グループ各社の業務アプリケーションが安定的に稼働することが重要です。新しい取り組みもいくつか効果が表れており、各社も注視するようになってきました。今後も AWS のメリットを最大限に活かし、各社がシステムオーナーとして容易かつ安全に利用できるサービスを提供したいと考えています」(土田氏)
伊藤忠商事が取り組むマーケットイン・SDGs 戦略の推進を通じて、一般消費者へのメリット提供のみならず、環境面も配慮した新しいサービスや事業の登場が期待されます。
海老名 裕 氏
土田 有彦 氏
中丸 学 氏
カスタマープロフィール:伊藤忠商事株式会社
- 設立:1949 年 12 月
- 資本金:2,534 億 4,800 万円
- 従業員数:4264 名(2021 年 4 月現在)
- 事業内容:繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野における国内、輸出入および三国間取引のほか、国内外における事業投資など
AWS 導入後の効果と今後の展開
- 各社データの収集・加工・蓄積、AI 開発、運用・監視を統合
- 事業部門・データサイエンティスト・IT 部門がワンチームに
- 発注量自動計算など多様な DX プロジェクトによるコスト削減
ご利用中の主なサービス
Amazon S3
Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) は、業界をリードするスケーラビリティ、データ可用性、セキュリティ、およびパフォーマンスを提供するオブジェクトストレージサービスです。
AWS Glue
AWS Glueは、分析、機械学習、アプリケーション開発のためのデータの検出、準備、結合を簡単に行える、サーバーレスデータ統合サービスです。
Amazon Athena
Amazon Athena はインタラクティブなクエリサービスで、Amazon S3 内のデータを標準 SQL を使用して簡単に分析できます。
Amazon GuardDuty
Amazon GuardDuty は、AWS のアカウント、ワークロード、および Amazon S3 に保存されたデータを保護するために、悪意のあるアクティビティや不正な動作を継続的にモニタリングする脅威検出サービスです。