「約 2,600 万人の LINE 登録者への配信によって発生する
瞬間的なバーストアクセスにも耐える Web システム基盤が安価なランニングコストで構築でき、
大規模な LINE メッセージ配信が気軽に実施できるようになりました。

中嶋 直樹 氏 キリンホールディングス株式会社 デジタルマーケティング部

長期経営構想「キリングループ・ビジョン 2027」において「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界の CSV 先進企業となる」を掲げるキリングループ。顧客の多様化が進む中、主力のビール・酒類・飲料事業における BtoC 市場において、モバイルデバイス、Web、SNSなどオムニチャネルを中心としたデジタルマーケティングの重要性は増しています。その中核となるのが、40 社近くあるキリングループのコーポレートサイト/ブランドサイトや、顧客とのコミュニケーション基盤となる Web 会員サイトです。キリングループの Web 会員サービス『My KIRIN』の会員数は 2019 年 9 月現在、 約 330 万人に達しています。

従来のコーポレートサイト/ブランドサイトや Web 会員サイトを管理する Web 共通基盤の IT インフラは、外部のデータセンターサービスで運用を続けてきました。その環境では、メールや SNS のメッセージ配信に伴うバーストトラフィックに備えて高スペッ クなサーバーを用意しておかなければならず、IT インフラのランニングコストは高止まりしていました。「特にメッセージ配信効果が大きい LINE は、お友だち登録をいただいているお客さまが 2,600 万人近くいらっしゃいます。メッセージ情報を配信した直後は通常の数十倍近いアクセスがあるため、それに耐える IT インフラを維持するのがネックとなっていました。」と語るのはデジタルマーケティング部の中嶋直樹氏です。

こうした課題を抱える中、利用しているデータセンターサービスが終了することになりました。後継サービスへの移行か、新たな IT インフラへの移行かを検討した結果、 2018 年の春からデジタルマーケティング部門のインフラ運用を支援していた NTT データの提案を踏まえて、AWS への移行を決断しました。AWS を提案した理由を NTT データ 製造 IT イノベーション事業本部の吉澤貴志氏は「AWS は業界でのシェアが高く、当社の採用実績も豊富です。社内有識者の確保も容易でコストも安価なことから、迷うことなく AWS を提案しました。」と語ります。デジタルマーケティング部では特に安定性を重視し、運用負荷を軽減する目的で Web 共通基盤での AWS の採用に踏み切ったといいます。

プロジェクトは 2019 年 1 月にキックオフ。既存環境の精査、設計、構築、テストを経て 5 月末にシステムの移行を終え、6 月より AWS での運用を開始しました。移行した仮想サーバーの台数は検証環境も含めて約 25 台。事前に既存サーバーを整理して、必要なものだけを移行することで台数を削減しました。

各システムは原則としてアプリケーションを改修することはせず、IT インフラのみを移行しました。 「設計、構築、テスト、課題解決などの IT 領域を NTT データに主体的に進めていただけたおかげで、自社要員の負荷がかなり軽減でき、スケジュール通りに移行を終えることができました。」(中嶋氏)

刷新した Web 共通基盤は、Amazon EC2 をベースにシステムを構築しています。 Web システムは複数のアベイラビリティーゾーンに分散配置することで可用性を確保。Web 会員システムのデータベースサーバーにはマネージドサービスの Amazon RDS for Oracle を採用し、運用負荷を軽減。バックアップや可用性を AWS の機能として実現しています。また、BCP 環境として、シンガポールリージョンに大規模災害発生時用の Sorry サーバーを構築し、手動で切り替えられるようにしています。

AWS への移行により、当初の課題だった急激なアクセス増への対応が容易になり、LINE を使った大規模なメッセージ配信もより積極的に実施できるようになりました。メッセージを配信する際は、ピークを想定してあらかじめリソースをスケールアウトしておき、終了時に平時のリソースに戻して運用しています。

運用では従量課金の特性を活かし、深夜に利用しない管理環境や検証環境のインスタンスは自動的に停止させています。さらにインスタンスのリソース状況をモニタリングし、インスタンスのタイプを変更することでコストの最適化を図りました。中嶋氏 は「AWS への移行により、月額のランニングコストは従来から最大で 25% 削減することができました。バーストアクセスへの不安からも解放され、運用負荷も軽減されました。」と話します。

もうひとつの効果は、今まで曖昧となっていた性能限界を見極めることが可能になったことです。従来は十分な性能テストを実施することができませんでした。今回、 AWS への移行によって本番環境相当の環境を、性能テストの実施期間だけ用意することが可能になりました。「結果としてアプリケーションの性能限界を理解した上で、メールや SNS のメッセージ配信を設計することができるようになり、状況により性能限界までハードウェアのリソースを利用できるようになりました。これによりサービスの安定化につながります。」と NTT データ製造 IT イノベーション事業本部の坂本良平氏は語ります。

既存の SSL 証明書を AWS Certificate Manager(ACM) に切り替えたことも今回の変更点のひとつです。2018 年以降、セキュリティの強化を目的に Web サイトの SSL 化を積極的に進めている同社において、無料かつ簡易な手続きで SSL 証明書が発行できる ACM はメリットが大きいといいます。

「証明書自体の発行費用が下がるのはもちろんですが、何よりも社内調整の手間がなくなり、迅速に証明書を発行できるので助かっています。」(中嶋氏)

その他、検証環境の迅速な構築、セキュリティ対策の省力化など、IT 運用の負荷軽減にも AWS は効果をもたらしています。


 

Web 共通基盤の IT インフラの移行を終えた現在、デジタルマーケティング部ではデジタルプラットフォームのリニューアルに向けて要件定義や設計を進めています。

「今後もクラウドサービスを積極的に活用してデジタルマーケティング全体の基盤を進化させていく考えです。特に AWS で構築した IT インフラ基盤には、SaaS と連携する役割を期待しています。」(中嶋氏)

また、コンテンツ配信の CDN や、アプリケーションファイアウォールの WAF などに、AWS のサービスの適用も検討中です。

中嶋氏は「ユーザーとしては旬のサービスの最適な組み合わせを設計することが難しいため、AWS や NTT データにはデジタルマーケティングに効果的で、より使いやすいサービスがあれば積極的な提案を期待しています。」と話します。

中嶋 直樹 氏


APN プレミアコンサルティングパートナー
株式会社NTTデータ

大規模 SIer として保持する実績を活かし、コンサル・構築・移行・運用まで一気通貫での支援をご提案。これまで多数のお客様の AWS 導入に貢献した実績あり。2016 年に AWS プレミアコンサルティングパートナー認定を受け、顧客に優れた AWS ソリューションを提供する能力を有する事を証明する「AWS マネージドサービスプロバイダプログラム(MSP)」認定も取得。



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