Amazon SageMaker を用いた画像認識システムにより、今まで買取ができなかった店舗でも対応が可能になり、
“買取実績がゼロの店舗をゼロにする”という目的を達成することができました。

加久保 健 氏 株式会社キタムラ EC事業部 ECマーケティング部 部長

写真用品店チェーン『カメラのキタムラ』を全国に展開する株式会社キタムラ。中古カメラの買取業務において、査定の前段階に当たるカメラやレンズの機種特定に Amazon SageMaker を採用。自動的に機種を特定する画像認識システムを開発し、2019 年 9 月より全国 707 店舗で利用を開始しています。検証段階で認識率 90% 以上の精度を実現した画像認識システムにより、全店舗での買取が可能になり、査定に要する時間の短縮や業務効率の向上が期待されています。


新たな写真体験を提案し、お客様の写真生活をサポートするキタムラ。全国 707 店舗の『カメラのキタムラ』では、カメラやレンズの販売をはじめ、写真プリント、フォトブックなど多彩なサービスを提供しています。また、記念日スタジオ『スタジオマリオ』を 361 店舗、Apple 正規サービスプロバイダ認定店を 63 店舗を運営しています。EC 事業にも力を入れ、ネットから店舗への送客を促進しています。

写真市場を取り巻く環境はスマートフォンの普及によって大きく変化しています。デジタルカメラの出荷台数は減少傾向にある一方、ミラーレス一眼のブームやスマートフォンからのステップアップなどで買い替え需要は堅調に推移しています。こうした変化に対応するべく、カメラのキタムラでは中古販売の強化を進めています。

CM やキャンペーンの効果により同社のカメラ買取の認知度は高まったものの、新たな課題となったのが買取店舗の対応です。「ショッピングモールの一角を借りてパート社員だけで運営している店舗では、買取ができていませんでした。買取を本格化していくためには、全店舗での対応が不可欠でした。」と語るのは EC 事業部 EC マーケティング部 部長の加久保健氏です。

全店舗での買取を実現するうえでポイントとなるのが、機種特定と査定の 2 つです。特に膨大な種類のカメラやレンズの中から、お客様が持ち込んだ機種を正確に特定する作業は、正社員でも容易なことではありません。そこで同社は AI に着目し、店舗で撮影したカメラの写真から機種を自動で特定することを検討しました。

中古カメラ・レンズの機種特定に AI の活用を検討した同社は、2018 年 10 月に複数のベンダーに声をかけ、実際の商品画像を用いた自動認識のデモの実施を依頼しました。最終的に 2 社に絞った中から同社が採用したのが AWS の Amazon SageMaker でした。選定の理由を情報システム部 荒井康延氏は次のように語ります。

「認識精度を確認したところ、1 社が 70% 程度であるのに対して Amazon SageMakerは 90% 以上となりました。機械学習用データベースの容量に制限があった 1 社に対して、無制限に近い容量を扱えることも選定の後押しになりました。」

その後、2019 年 4 月に導入パートナーを選定して 5 月よりプロジェクトをスタート。同年 9 月に画像認識システムとしてローンチし、全店舗での利用を開始しました。導入時は、教師データとして約 10 万点の商品画像を用いて機械学習用データベースを構築。導入を支援したアクロクエストテクノロジー株式会社の鈴木貴典氏は「システムの運用負荷を最小化したいというキタムラ様の要望に応えるため、Amazon SageMaker をはじめフルマネージドサービスで構成しました。画像認識の対象機種が今後増加していくことを考慮して、柔軟なスケールが可能で、かつ、システム改修も最小限となるよう、サーバーレスアーキテクチャを積極的に採用しています。機械学習では、買取時に店舗で撮影した写真も学習用に再利用し、使えば使うほど認識精度が上がるようにしています。」と語ります。

現在、買取対象としている中古カメラは、高価なアンティークカメラから最新のデジタルカメラまで約 2 万機種にのぼりますが、初期段階では混乱を避けるため画像認識の対象機種を発売から 3 年以内の新中古モデルに絞って運用を開始しました。

「現在はカメラで 791 機種、レンズで1,024 機種と、全体の 2 割程度です。今後は対象機種を拡大し、より経験と知識が求められる高級カメラの自動特定に利用していきます。」(加久保氏)

導入した画像認識システムは、既存の買取用システムと連動しています。まず、店舗に持ち込まれたカメラやレンズは、店員が専用のタブレット端末で撮影します。写真は即座に画像認識システムにアップロードされ、機械学習用データベースを参照して機種や型番を特定します。AI が認識して答えが返ってくるまでは 2 ~ 3 秒ほどです。その後、買取用システムを利用し、店員がマニュアルを参照しながら評価を行います。画像認識システムは稼働して間もないものの、徐々に店舗に浸透しつつあるといいます。

「今まで買取ができなかった店舗でも対応が可能になり、“買取実績がゼロの店舗をゼロにする”という当初の目的を達成することができました。査定時間は、1 時間あたりの査定個数の 25% 向上を目標に効率化を進めていく予定です。」(加久保氏)

一方、運用を開始してみて課題として浮き彫りになったのが、店頭でのカメラの撮影環境に認識率が左右されることでした。

「受付カウンターの周囲にある別のカメラが写り込んでしまったり、お客様の顔が映り込んでしまったりすることがありました。こうした場合、対象の製品が特定できずにエラーになってしまうので、画像認識システムの利用を定着化するうえでオペレーションの改善が必要なことが把握できました。」(荒井氏)

認識率のさらなる精度向上に向けて、初期の教師データとして用いた商品写真に加え、買取時の写真も用いて学習を重ねており、教師データは約 3 万点増えて現在は約 13 万点に達しています。


 

今後は、画像認識システムの利用促進と、自動認証の対象機種の拡大に加えて、取得したデータの活用を検討しています。

「自動化前は、買取に至らなかったお客様の情報は残りませんでしたが、システム化ですべてのログが残るようになりました。今後はデータを分析することで持ち込まれる機種の傾向を把握し、買取価格の設定や、販促キャンペーンなどに利用していきたいと思います。」(加久保氏)

機械学習を用いた画像認識については、買取以外にも同社が提供しているプリントサービスや写真館のサービスへの応用が期待されています。荒井氏は「現像時に異物の写り込みなどで使えない写真を自動で排除したり、写真からお客様の笑顔を自動で判定してより表情が豊かな写真を選定したりする用途に AI が活用できると考え、実証実験の準備を進めています。」と話します。

加久保 健 氏

荒井 康延 氏


APN テクノロジーパートナー
アクロクエストテクノロジー株式会社

「テクノロジストチームとして、ビジ ネスの革新的価値創出に挑戦する」をビジョンとし、先端技術をいかにビジネス価値に転換できるかを目指して、システム開発、サービスを提供。現在は、リアルタイム・ ビッグデータ解析から、IoT プラットフォームの提供、サーバーレスアーキテクチャの利用、機械学習・AI 活用などのサービスを展開。



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