概要
オンライン直販型の生命保険を展開するライフネット生命保険株式会社は、顧客体験の向上を目指し、ユーザー接点となるフロントエンドの基盤をアマゾン ウェブ サービス(AWS)へと移行。マイクロサービスやサーバーレスを中心としたモダンアーキテクチャへと刷新しました。開発スタイルもウォーターフォール型からアジャイル型にシフトした結果、リリースサイクルは従来の四半期に 1 回から 2 週に 1 回へと大幅に短縮。ビジネス部門の要望に素早く応えられるようになりました。

顧客体験の向上と販売力の強化に向け Web システムをモダナイゼーション
オンライン生命保険の生命線である Web システムは、継続的に強化を図ってきましたが、10 年以上にわたって機能の継ぎ足しを繰り返してきた結果、システムが複雑化。経営方針にも顧客体験の革新と販売力の強化を掲げる中、このままではユーザーからの要望に対応できないと判断した同社は、Web システムの刷新プロジェクトを立ち上げました。
「改善スピードと業務効率の向上に向けて、システムアーキテクチャをモダナイゼーションすることにしました。目指したのは、クラウド化とマイクロサービスを中心としたアーキテクチャへの移行、短期間にサービスをリリースするための CI/CD の導入、アジャイル型開発へのシフトです」と語るのは、システム戦略本部 本部長補佐の橋本聡氏です。
同社が最初に着手したのはサーバーの保守期限を迎えるフロントエンドの Web サービス用システムでした。これは、保険の申込みを行う際の入力画面や、契約内容の確認や変更手続きなどを行うマイページなどです。
「まずは顧客接点となるフロントエンドの基盤を刷新してユーザーインタフェース(UI)や ユーザーエクスペリエンス(UX)の改善を図り、同時にスケーラビリティやオンデマンド性の向上を目標としました」(橋本氏)
サーバーレスの活用で運用負荷を軽減。UI のデザインガイドラインも新たに作成
「当社での導入実績、アクセスピーク時のスケーラビリティ、モダナイゼーションに向けたサービスの種類の豊富さを考慮すると、AWS を採用するのは自然の流れでした。パートナーに NCDC を選定したのは、当社内に AWS に関するノウハウが不足している中、マイクロサービスとアジャイル開発の導入実績があり、アーキテクチャの提案内容も具体的でわかりやすかったからです」(橋本氏)
フロントエンドの刷新プロジェクトは 2020 年 3 月にスタートし、2021 年 6 月に稼働開始しました。申し込みフローを改善する別のプロジェクトも同時進行で進めたことで、よりわかりやすい申し込み画面が実現しました。
フロントエンドのアーキテクチャは、サーバーレスの AWS Lambda を使って Amazon S3 に蓄積したコンテンツの表示や、基幹システムとの連携を実行する方式とし、データベースにもサーバーレスの Amazon DynamoDB を採用しました。導入を支援した NCDC のコンサルタント 三浦洋平氏は「当初はマイクロサービスを実現するソリューションとしてコンテナ、Kubernetes、AWS Fargate などの活用を想定されていたようですが、運用管理コストを抑えたいという要望にお応えするため AWS Lambda と Amazon DynamoDB を使ったアーキテクチャを提案し、CI/CD パイプラインには AWS CodeBuild/AWSCodePipeline を、AWS サービス構築の自動化には AWS CloudFormation を活用する構成としました」と語ります。
一方、AWS のサービスを使った開発をスムーズかつ標準を維持しながら進めるため、AWS で実装することを盛り込んだセキュリティガイドラインをライフネット生命保険社内で新たに作成しました。同様に、UI のデザインガイドラインも NCDC の協力を得て新たに作成しました。
「これまで社内に UI デザインのガイドラインがなかったため、同じ色や形を使っても部署や担当者によって微妙にギャップがありました。UX の改善に UI の統一は欠かせませんので、プロジェクトの途中で急きょ NCDC にガイドラインのまとめを依頼し、柔軟に対応していただきました」(橋本氏)
5~6 名のスクラムチームを編成しアジャイル開発で短期リリースを実現
稼働後は AWS Lambda を活用した、高品質なサービス提供を実現。サーバーレス環境を採用したことでサーバーメンテナンスが不要になり、保守の負担も軽減されました。
クラウド移行を機に社内の開発体制も大きく変わり、新たに編成したスクラムチームがアジャイル開発で進めるようになりました。現在、スクラムチームは 2 つのチームで構成され、1 チームあたりプロダクトオーナー、スクラムマスター、開発者数名の 5~6 名体制を取っています。開発スタイルの変化はエンジニアのモチベーション向上にもつながり、新たなことに挑戦する下地が整いつつあります。
「ウォーターフォール開発では四半期に 1度、機能追加や改善の要望をまとめて反映させていましたが、アジャイル開発への移行で小さなリリースが小刻みにできるようになり、現在はビジネス部門から出てくる要望の中から、優先順位が高い機能を実装していくスタイルに変わっています。スクラム体制としたことで、プロダクトオーナーの要望は、チーム内のメンバーに即座に伝達することが可能になり、現在は 2 週間に 1 回のリリースサイクルが実現しています」(橋本氏)
テンプレートを使って機能のデプロイを自動化する AWS CloudFormation は環境構築時の人的コスト・人的ミスのリスク軽減につながり、また AWS CodeBuild/ AWS CodePipeline の導入によって開発の効率化も進みました。
バックエンドの Web システムのモダナイゼーションを継続
マイクロサービスを中心としたアーキテクチャへの移行を果たし、セキュリティや UI デザインのガイドラインを統一したライフネット生命保険では、オンプレミス環境で運用しているバックエンドの Web システムもモダナイゼーションを進めていく計画です。今後は CRM、マーケティングオートメーション、データ分析などの基盤をクラウドにシフトし、顧客接点の最適化による顧客体験の革新や、データ分析の効率化を加速させていくといいます。
「現在はようやく土台ができた状態で、これからエンハンスをかけていく必要があります。AWS と NCDC には引き続き最新情報の提供と、豊富なマネージドサービスを使いこなしていくための支援を期待しています」(橋本氏)


アジャイル型開発への移行で、小さなリリースが断続的にできるようになりました。スクラム体制としたことで、プロダクトオーナーの要望はチーム内のメンバーに即座に伝わり、現在は 2 週間に 1 回のリリースサイクルが実現しています
橋本 聡 氏
ライフネット生命保険株式会社 システム戦略本部 本部長補佐アーキテクチャ図

ライフネット生命保険株式会社
設立:2006 年
資本金:216 億 55 百万円(2022 年 3 月 31 日現在)
事業内容:インターネットを主な販売チャネルとする生命保険会社
AWS 導入後の効果と今後の展開
サーバーレス化による保守負担の軽減
アジャイル開発へのシフト
リリースサイクルの短縮(四半期に 1 回から 2 週に 1 回に短縮)
AWS CloudFormation による環境構築時の人的コストやミスの軽減
NCDC株式会社
AWS セレクトティア サービスパートナー
新規サービスの企画からデザイン、システム開発までを一元的に行う日本発のデジタルイノベーションファーム。クラウドを積極的に活用する先進的なアーキテクチャを実現する知見・技術力と、デザインシンキングやUXデザイン、アジャイル開発などプロセスや方法論を駆使して、クライアントのデジタルビジネス推進を支援している。
