AWS 採用を掲げクラウド化を前面に打ち出したところ、インフラ部門に関心を持つエンジニアや配属希望者が急増し、人材確保の悩みが解消されました。また、エンジニアにコスト意識が身につき、モチベーションも高まりました。 
菊池 新 氏 株式会社ナビタイムジャパン 取締役副社長 最高技術責任者

位置情報、移動軌跡、経路検索情報などのログを分析する基盤にサーバーレスのクエリサービス Amazon Athena を採用。他社クラウドのビッグデータクエリサービスから乗り換えたことで、Amazon S3 に蓄積していたログを転送する必要がなくなり、インフラコストを 75 %削減しました。また、同時にセキュリティ強化と運用負荷軽減も実現しました。
IT インフラのクラウド化により、リソース調達のリードタイムの短縮やオートスケールが可能になり、降雪時などアクセスが集中するタイミングでの対応力の向上、チャレンジコストの最小化、サービスごとの利用コストの可視化などを実現しています。


コア技術の経路探索エンジンをベースに、ナビゲーションに関するさまざまなサービスを提供するナビタイムジャパン。トータルナビゲーションの『NAVITIME』を始め、移動手段に特化した『自転車 NAVITIME』や『ドライブサポーター』など、個人向けサービスを各種提供しています。2016 年には旅行プランの作成や宿泊予約をサポートする『NAVITIME Travel』を開始し、トラベル事業に参入。インバウンド需要の拡大を受けて多言語対応するなど、そのフィールドは大きく広がっています。法人向けのサービスについても物流会社が運送状況を把握する『動態管理ソリューション』、お客様サイト内で店舗までのルートを案内する『NAVITIME 店舗案内 ASP』など、サービスラインナップを拡充しています。

月間ユーザー数約 4,100 万、有料会員数約 480 万(2017 年 12 月末時点)のナビゲーションサービスを支える IT インフラについて、従来はオンプレミスで運用してきましたが、利用者の増加に伴いクラウド化に舵を切ります。「経路探索のサービスは、季節や天候によってアクセス数が大きく変動するため、オンプレミスでピークを予測しながらサーバーを調達・運用するのに限界が出てきました。そこでアクセスの増減に合わせて柔軟に対応できる AWS を採用しました。」と語るのは取締役副社長 最高技術責任者の菊池新氏です。

 

位置情報、移動軌跡、経路検索情報などのログを分析する基盤についても従来はオンプレミス環境で分析していました。ログデータは、1 日に 100~300GB に達するため、ストレージ容量や処理能力の増強が求められていましたが、オンプレミス環境では短期間に対応することが困難な状況にありました。そこで、柔軟性を高めるためにストレージを Amazon S3、分析基盤をマネージド Hadoop サービスの Amazon EMR に切り替えました。その後に分析処理基盤を他社クラウドのビッグデータクエリサービスに変更し、ログデータを S3 から転送して分析する方法を採用しました。

その結果、ログ集計に要する時間は短縮できたものの、データ転送とデータを二重で保存するコスト、アクセス権限に関するセキュリティ上の課題、運用負荷の増大といった新たな課題に直面することになりました。インフラエンジニア クラウド担当の田中一樹氏は「ログデータを S3 からクエリサービスの基盤に転送して分析するため、分析用のストレージコストや転送コストが必要になりました。それ以上に大きかったのはセキュリティに関する問題でした。インターネット経由でログデータを転送することや、詳細な権限管理ができないクエリサービスであったため、改善が望まれていました。」と語ります。

解決策を模索する中、AWS re:Invent 2016 においてサーバーレスのクエリサービス Amazon Athena がリリースされる情報を入手したナビタイムジャパンは、採用を即断しました。インフラエンジニアの新立和広氏はその理由を次のように話します。「ログデータの転送コストやセキュリティの課題を一気に解決できることが決め手となりました。また、マネージドサービスであるため運用負荷が軽減できることや S3 を単一のデータレイクとして集約し、シンプルな管理ができること、使い慣れたかつ実績のある AWS のサービスであることも評価しました。」

現在は、大量のログデータを EMR で匿名化処理を施してから S3 に保存し、これらのデータに対して Athena で分析しています。「S3 と Athena が同一基盤となることでデータ転送と転送先のストレージが不要となり、インフラコストは全体で 75 %を削減できました。1 日に約 8 時間かけていたデータ転送がなくなったことで、2 日後でなければ見られなかったログ情報が翌日に確認できるようになりました。詳細な権限管理も実現しています。」(田中氏)

Athena を採用することによって、法人向けの交通分析サービス「道路プロファイラー」をリリースできたことも大きな成果です。道路プロファイラーとは、『カーナビタイム』や『NAVITIMEドライブサポーター』などのカーナビアプリから取得した携帯カーナビプローブデータとアプリ利用者の属性情報を組み合わせ、全国の道路を対象に経路分析や渋滞分析、走行車両の属性分布を集計・可視化することができるサービスです。「分析レスポンスが求められるこのサービスを提供するにあたり、さまざまなものを試してみましたが、Athena 以外に要求を満たすものはありませんでした。サーバーレスでスケーラブルな Athena でなければ実現できなかったサービスだと言えます。」と新立氏は語ります。

導入効果はこれだけにとどまりません。インフラ部門における人材確保の効果も生まれています。「オンプレミス時代のインフラ部門はサーバーを 24 時間見守るイメージが強く、配属希望がほとんどありませんでした。AWS 採用を掲げクラウド化を前面に打ち出したところ、エンジニアのモチベーションが一気に高まり、インフラ部門に関心を持つエンジニアや配属希望者が急増し、人材確保の悩みが解消されました。」(菊池氏)

加えて、エンジニア自身がコスト意識を身につけたことも見逃せない効果です。「以前は部門の要求に応じてサーバーを随時調達して払い出すだけでしたが、AWS によって毎月のコストが可視化され、コスト意識が身につきました。その結果、経路探索エンジンの開発部門では、サーバーのパフォーマンスを強化したうえで約 20% のコスト削減を実現しています。」(菊池氏) 

ナビタイムジャパンでは、AWS のエンタープライズサポートを利用して必要なサポートや AWS のソリューションアーキテクトからアーキテクチャのレビューを受けています。田中氏は「些細な疑問点の確認から仕様変更の相談まで、さまざまな問い合わせにおいてレスポンスよく的確な回答がいただけます。私たちのアーキテクチャに対して、AWS Well-Architected Framework に基づく助言や新しいサービスに関する情報をいただき、非常に助かっています。」と語ります。

今後ナビタイムジャパンは、コア技術である経路探索エンジンに磨きをかけ、GPU を採用するなどにより高速で高精度な検索サービスを提供する計画です。「CPU による高速化は限界に近づきつつあります。今後より優れたサービスを提供するため、GPU を使ったエンジンのアルゴリズムの開発を進めています。今後、P3 インスタンス等 GPU を搭載した Amazon EC2 を使った経路検索エンジンを開発とともに、アーキテクチャの変更を進め、2018 年度中にはお客様の利用するサービスに導入したいと思います。」(菊池氏)

菊池 新 氏

田中 一樹 氏

新立 和広 氏


AWS クラウドが ビッグデータ分析にどのように役立つかに関する詳細は、Big Data on AWS の詳細ページをご参照ください。