133 時間
200 時間
2 倍
概要
食品宅配のサブスクリプション事業を展開するオイシックス・ラ・大地株式会社。同社は生成 AI 環境を構築するため、アマゾン ウェブ サービス(AWS)が OSS(オープンソースソフトウェア)として提供している「GenU(Generative AI Use Cases JP)」を活用して Amazon Bedrock によるメルマガ作成・校正ツールを開発。メルマガ作成で月 133 時間、校正で月 200 時間の工数削減を実現し、CVR(コンバージョンレート)においても人力対応と比べて 2 倍の結果を獲得しました。

ビジネスの課題 | GenU を活用した生成 AI による業務効率化
安心・安全に配慮した農産物、ミールキットなどの食品の定期宅配事業をはじめ、法人向けのソリューション事業を展開するオイシックス・ラ・大地。食品流通の変革に取り組み、健康的で持続可能な食生活を提案しています。
食の社会課題をビジネスの手法で解決することを目指す同社では、社内活動の一環として 2024 年 2 月に生成 AI 検証プロジェクトを立ち上げ、社内から参加メンバーを募りました。するとコーポレート部門、事業部門、ロジスティクス部門など複数から非エンジニアを中心に 50 名のボランティアスタッフが集まり、同年 4 月より GenU をベースに業務への適用に向けた検討を開始しました。
「50 名のスタッフは、食の社会課題を解決するべく自発的に手を挙げて参加し、業務プロセスや顧客接点の改善につながるユースケースの発掘に取り組みました。3 か月のプロジェクト期間中、AWS には非エンジニア向けの基礎勉強会やワークショップを開催していただき、プロジェクト参加者を支援いただきました」と語るのは、ソフトウェアエンジニアリング本部 技術戦略室の伊藤晶子氏です。
プロジェクト終了後も一部の参加者は業務への適用に向けたトライを重ね、事務局が行ったアイデア募集に対して多数の企画書が寄せられました。その中からユースケースとして採用されたのがメルマガ作成・校正ツールの開発です。企画者で、業務本部オペレーション構築部 Oisix 事業サポートセクション 生成 AI 活用プロジェクトリーダーのユセコ美里氏は次のように語ります。
「文書の作成や校正を支援するユースケースを検討している段階で、事務局の担当者からメルマガを担当するマーケティング部門が業務効率化を検討しているという案件を紹介されました。そこからメルマガ作成の担当者と課題を深掘りし、要件を整理していきました」プロジェクトの立ち上げに先駆けてユセコ氏は、GenU を活用して 5 万件の A/B テスト(複数の手法を比較して成果を判定するマーケティング手法)を実施。人と GenU が作成したメルマガの文面それぞれでコンバージョン率(CVR)を計測した結果、GenU が 2 倍近い結果を得ました。
「プロンプトを作成しながらテストを重ねる中、CVR に関して AI が圧倒的な結果を残したことから“これならいける!”と確信しました」(ユセコ氏)

GenU を活用したユースケースの開発プロジェクトを通して、必要なリソース、プロジェクト体制、外部からの支援、人材育成などを把握するきっかけとなり、生成 AI の社内展開に向けたイメージを明確につかむことができました"
長尾 優毅 氏
オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 ソフトウェアエンジニアリング本部 本部長/CTO
ソリューション | Prototyping Program を活用してメルマガ作成・校正ツールを開発
開発に際しては、AWS のソリューションアーキテクトがシステムのプロトタイプ開発を支援する Prototyping Program を活用しました。さらに同社内部のエンジニアリング支援として、執行役員でソフトウェアエンジニアリング本部 本部長/CTO の長尾優毅氏が青木芽衣氏をメンバーにアサインし、業務本部のユセコ氏と共同で開発に取り組む体制を整備しました。
ソフトウェアエンジニアリング本部 Oisix エンジニアリング部 SRE セクションの青木氏は「私自身も生成 AI に関心があり、検証プロジェクトのメンバーの一員として、参加者の技術支援を中心に担当していました。GenU を社内に本格展開するのであれば、自分自身もスキルを身に付けたいと思い、プロジェクトに加わることにしました。元々、当社のメインサービスである宅配サービスを AWS 上で運用し、私自身も日頃から AWS による開発に従事していることから、スムーズに Amazon Bedrock を使った開発に入ることができました」と語ります。
2024 年 7 月からスタートしたプロジェクトは設計、開発、テストなどを経て同年 10 月に完了しました。最大の目標をメルマガ作成の効率化と品質向上として、プロンプトエンジニアリングを中心にチューニングを重ねてきました。
「過去のメルマガ文章を参考情報としてインプットし、同様の文章が自動生成できるようにチューニングを重ねました。例えば、タイトルの文字数を指定したり、お客様の声は要約しないように制限を設けたりと、細かく設定しています。メルマガの校正においては、景品表示法や薬機法を踏まえて専用の辞書機能をもたせたプロンプトを作成しながら、社内のマニュアルに則って、NG 表現のチェックができるように工夫し、最終的には法務部門からもお墨付きをいただきました」(青木氏)
開発するメルマガ作成・校正ツールは、LLM に慣れていないユーザーも利用することから、生成 AI に慣れていなくても直感的で使いやすい専用のユーザーインターフェース(UI)も併せて開発しました。画面上でターゲットの性別や年代、おすすめ商品など設定された項目に沿って入力し、最後に「生成ボタン」をクリックするだけでメルマガの文章が自動生成されます。
同社が Amazon Bedrock による生成 AI の開発を 3 か月で終了できたポイントは、社内の有志メンバーによる主体的な取り組みと、部門を超えた協力体制にあります。さらに、GenU と Prototyping Program を効果的に活用したことも、開発の加速に大きく貢献しました。ユセコ氏は「汎用的なプロンプトを作りたいといった難しいリクエストに対しても、AWS の担当者からは豊富な経験とノウハウをもとに業務に落とし込むためのアイデアをいただきました」と振り返り、青木氏も「普段からインフラ開発を中心に担当している中で、プロンプトエンジニアリングのノウハウやフロントエンドへの実装に関する知識を教えていただき、エンジニアとしても一歩成長することができました」と話します。
導入効果 | メルマガ作成・校正の工数削減と文章表現力の向上
ユースケースとして開発したメルマガ作成・校正ツールは現在、同社のマーケティング部門で本格的に活用されています。その結果、メルマガ作成で月 133 時間、校正で月 200 時間の工数削減を実現しました。
業務での使われ方はさまざまで、担当者からは多くの反響が寄せられています。
「メルマガ作成に慣れていない経験の浅い方にとっては、指定された項目を埋めていくだけで文章が作成できるので、圧倒的に工数の削減につながっているようです。ライティングスキルがあるベテランの方にとっては、新しい表現が発見できたといった感想が寄せられています。今後、それぞれで使いこなしながら、新しい活用が拡がっていくことを期待しています」(ユセコ氏)
同社のソフトウェアエンジニアリング本部においても生成 AI を活用した業務効率化に関するノウハウが蓄積され、次に向けた第一歩を踏み出すことができました。
「GenU を活用したユースケースの開発プロジェクトを通して、必要なリソース、プロジェクト体制、外部からの支援、人材育成などに関することを考えるきっかけとなり、生成 AI の社内展開に向けたイメージを明確につかむことができました」(長尾氏)
「ボランティアスタッフでユースケースを検討した成果は着実に社内に浸透しています。技術戦略室として今後も引き続き、生成 AI で業務効率化を進める流れを見守っていきます」(伊藤氏)
カスタマープロフィール:オイシックス・ラ・大地株式会社
「これからの食卓、これからの畑」を企業理念に「食に関する社会課題を、ビジネスの手法で解決する」という志のもと、安心・安全に配慮した農産物、ミールキットなどの食品のデリバリー事業・サービスを提供。一般のお客様向けの宅配事業として『Oisix』、『大地を守る会』、『らでぃっしゅぼーや』の 3 つのブランドを展開。事業運営で培った独自のソリューションをご提案する法人向け事業として保育施設向け給食サービスなどのソリューション事業、海外事業などを展開する。


長尾 優毅 氏

ユセコ 美里 氏

伊藤 晶子 氏

青木 芽衣 氏
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Amazon Bedrock
Amazon Bedrock は、単一の API を介して AI21 Labs、Anthropic、Cohere、Meta、Mistral AI、Stability AI、および Amazon といった大手 AI 企業からの高性能な基盤モデル (FM) を選択できるフルマネージドサービスで、セキュリティ、プライバシー、責任ある AI を備えた生成 AI アプリケーションを構築するために必要な幅広い機能を提供します。
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