日本の医療を支える日医標準レセプトソフト(ORCA)
安全で運用しやすい次世代クラウド版(WebORCA)を AWS で構築

2022

日本医師会ORCA管理機構は、小規模な医療機関でも安価に利用できる医事会計ソフト「日医標準レセプトソフト」を提供しています。そのクラウド版である「日レセクラウド」は従来プライベートクラウドで運用されていましたが、基盤をアマゾン ウェブ サービス(AWS)へ移行し、日レセクラウドの課題を解決した新しい「WebORCA」として生まれ変わりました。20 年のソフトウェア資産を生かしながらシンプルな構成を採用し、医療情報システムに関するガイドラインに則った安全で運用しやすいサービスを低コストに実現しています。

AWS 導入事例:日本医師会ORCA管理機構株式会社
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AWS は医療情報システムに関するガイドラインの順守状況を開示しており、次世代日レセクラウド「WebORCA」の基盤として安心して運用できます。経験豊富な AWS のエンジニアが設計から参画して支援してくれたため、安全性・柔軟性・可用性にすぐれたクラウドサービスをスムーズに開発・構築することができ、初期コストの大幅な削減を実感しています。

福田知弘氏
日本医師会ORCA管理機構株式会社
取締役 営業企画部 部長

安価なレセプトソフトで医療機関の ICT 化を推進

日本医師会が 2000 年に発足した「ORCA(Online Receipt Computer Advantage)プロジェクト」は、医療情報ネットワーク推進委員会によって「医師会総合情報ネットワーク構想」( 1997 年)を構成するツールの 1 つとして認められ、日本医師会の研究事業として推進されてきました。同プロジェクトでは「日医標準レセプトソフト」を開発、オープンソースソフトウェアとして配布しています。

レセプトコンピュータ(ソフト)は、健康保険組合などへ診療報酬を請求するためのレセプト(診療報酬明細書)を作成するためのシステムで、国内の多数の医療機関で採用されています。レセプトコンピュータ(ソフト)は、もともと専門的なシステムとして販売されており、導入や運用・メンテナンスにかかるコストが高止まりしていたため、小さな医療機関などでは負担になっていました。日医標準レセプトソフトは無償で提供されており、さらに、各自治体の医療費助成制度などに幅広く対応しているため、導入しやすく運用やメンテナンスの負荷が小さいというメリットがあります。現在では約 1 万 7,000 もの医療機関で利用されており、国内のレセプトコンピュータ市場でトップクラスのシェアを獲得しています。

日本医師会ORCA管理機構は、日本医師会の指導の下で ORCA プロジェクトを事業として継続・発展させ、国内の医療機関の ICT 化を推進することを目的として 2015 年に設立されました。

「医療機関は、医療情報というセンシティブな情報を扱う組織ですが、一般企業ほどにICT化が進んでいないのが現状です。しかし、これまで以上に質の高い医療を提供するには情報共有が欠かせず、ICT を積極的に採用していく必要があります。今後も“小さなコストで大きなメリット”を得られる製品やサービスを通じて、ICT 活用の選択肢を増やして、医療現場のデジタル化を推進していきたいと考えています」と、日本医師会ORCA管理機構 取締役・営業企画部 部長の福田知弘氏は述べています。

AWS で安全・便利な次世代のクラウドサービスへ

日本医師会が 2016 年に発表した「日医 IT 化宣言 2016」では、プライバシーやセキュリティを重視しながら、医療・皆保険制度および各種機関の連携を ICT で支えていくことを指針として掲げました。クラウドサービス中心の ICT へと変遷していく中、ORCA プロジェクトも日医標準レセプトソフトのクラウド版「日レセクラウド」の提供を開始しました。

当初の日レセクラウドは、データセンターに構築したプライベートクラウド上で稼働していました。オンプレミスシステムの資産を流用しつつマルチテナントを実現させたのですが構造が複雑で、利用者が増えるほどにリソースを追加しなければならないものでした。また冗長化にも課題が残されていました。
「当時の要件に合わせて最適化していたため、複雑でフットワークに欠ける構成であったことは否めません。新しい機能を追加しようとしても、慎重にならざるを得なかったことは事実です。よりシンプルで効率がよく、拡張性・柔軟性にすぐれ、運用しやすいインフラへの転換を考えていました」(福田氏)

こうしたニーズへの最適解はクラウドと言えますが、その際に検討課題となったのが徹底したプライバシー保護とセキュリティ対策をいかに継続するかということでした。医療情報を取り扱うサービスである以上、厚生労働省・総務省・経済産業省の三省二ガイドラインに則ることが必要です。当ガイドラインの確認項目は非常に多く、すべてを順守しているサービスは限られます。

日本医師会ORCA管理機構は、そうして細かに検討を進め、最終的に次世代日レセクラウドのインフラとしてアマゾン ウェブ サービス(AWS)を選定しました。
「AWS は医療情報システムに関するガイドラインの順守状況を開示しており、セキュリティやプライバシーに関する指針が明確です。国内外での実績が豊富で、米国 HIPPA にも対応しており、日レセクラウドの基盤として安心して利用できると考えました。中核であるマネージドサービスは低コストで、開発や運用がしやすく、私たちの要件にマッチしたクラウドサービスだと判断しました」と、日本医師会ORCA管理機構 営業企画部 山口氏は述べています。

シンプルな構成と AWS の機能で安全性・利便性を両立

日本医師会ORCA管理機構は、日レセクラウドをベースに 20 年のソフトウェア資産を生かしつつ、AWS のアーキテクチャで構成した新サービスを「WebORCA」と名付けました。

WebORCA では、当初の目標に合わせてリファレンスに則り、開発・保守のしやすいシンプルな構成が採用されました。これにより、システム全体の軽量化・高速化が果たされ、安定性も向上しました。アクセス数に合わせて柔軟にリソースを増減できるため、運用コストの低減にもつながっています。

レセプトコンピュータは医療機関にとって重要度の高いシステムですから、冗長性の確保が肝要です。そこで WebORCA では災害などのトラブルでもすみやかにシステムを切り替えられる「マルチ AZ 構成」を採り、万が一のサービス障害に備えています。またセキュリティ対策・トラブル対策のために「マルチアカウント構成」を採用し、管理アカウント・ドメイン・本番・ステージング・デモなどを異なる AWS アカウントで運用しています。アクセス制御やセキュリティ設定を各環境で切り離すことで、作業ミスなどによるトラブルの影響を最小限にとどめ、安全性の向上を図っています。一方で AWS Single Sign-On によるシングルサインオン化や、AWS Cloud Development Kit による基盤構築自動化など、利便性の向上にも努めています。
「AWS のエンジニアが企画・設計から参画し、WebORCA の最適化を支援してくれました。最適なマネージドサービスと設計を選択し、開発コストの低減や開発期間の短縮に貢献してくれたと感じています。熟練のプロフェッショナルによる親身なサポートで、安心して利用できるサービスを構築できました」(山口氏)

継続的な機能・品質の向上で医療現場の ICT 化を推進

診療報酬という制度は2年に一度の見直し・改定が定められているほか、各自治体の助成制度も変化していくものです。そのため WebORCA では、各地域の事業者と協力しながら迅速な情報収集に努め、継続的な開発・改修を続けていく必要があります。加えて日本医師会ORCA管理機構では、AWS の最新技術やサービスを活用して開発効率の向上を図り、国策である保健医療のオンライン請求やオンライン資格確認、電子処方箋などにもすばやく対応し、医療現場のデジタル化を支援していきたいとしています。

「今日の医療現場は、レセプトコンピュータのみで成り立つものではありません。WebORCA は、各種情報システムとシームレスに連携し、さまざまな業務をサポートする基盤サービスとなることを目指しています。医療現場の利便性と安全性を両立するために継続的な進化を続け、よりよいサービスを提供していきたいと思います。AWS にはサービスの安定化や情報発信などに努め、どんな医療機関でも安心して利用できるクラウドサービスであり続けてほしいと期待しています」(福田氏)

AWS 導入事例:日本医師会ORCA管理機構株式会社

福田 知弘 氏

AWS 導入事例:日本医師会ORCA管理機構株式会社

山口 翔太 氏