豊富でアクセスしやすい技術資料や、AWS とパートナーの迅速な対応もあり、
他社のクラウドサービスと比較して、インフラ調達におけるリードタイムは半分以下、開発スピードは2倍以上になりました。

 

百津 正樹 氏 PSソリューションズ株式会社 CPS事業本部 e-kakashi事業推進部 部長

ソフトバンクグループで IT ソリューション事業を手がける PS ソリューションズ株式会社は、2015 年 10 月にリリースした農業 IoT ソリューション『e-kakashi』の 2 世代目として、スマホ向けアプリとビニールハウスの窓などを遠隔操作するサービスを AWS で構築。IoT プラットフォームに、サーバレスコンピューティングの AWS Lambda、フルマネージド型 NoSQL データベースの Amazon DynamoDB、GraphQL サービスの AWS AppSync などを採用し、検討から 3 ヶ月の短期間でサービスをリリースしました。


 

AI や IoT などの先端技術を農業の現場に適用し、植物科学に基づく科学的アプローチから、次世代の農業を支援する事業を展開している PS ソリューションズ。その一環として、農業データを活用して、栽培手法や知見を共有する農業 IoT ソリューション『e-kakashi』を 2015 年 10 月にリリースしました。日本の農業従事者の高齢化による後継者不足、農業分野における市場変化への対応などの課題を踏まえ、『e-kakashi』はデータに基づく科学的農業へのシフトによって安定した生産体制を確立するために開発されました。『e-kakashi』はセンサーノードと呼ぶ子機、通信用ゲートウェイの親機と、データの分析を行うクラウドで構成されます。田畑などの圃場にセンサーネットワークを張り巡らせ、温湿度や日射量、土壌内の温度や水分量、二酸化炭素量や電気伝導度などの環境情報や生育情報を子機で収集。通信用ゲートウェイ経由でクラウド上のプラットフォームに送り、植物科学に基づいて構築された AI で分析します。ユーザーは PC やスマートフォンなどからデータを参照し、農作業の品質管理・効率化に役立てることができます。

すでにゲートウェイとセンサーを用いる第1 世代は、営農支援を行う自治体や農業協同組合などを中心に多くの農業事業者に採用されています。こうしたソリューションを個人農家の皆様からも使いたいとの要望をいただくようになっており、さらに分析結果を直接制御装置にフィードバックし制御させれば、農作業の工数が削減でき、農業の働き方改革につながると考えました。そこで第二世代として、センサーなしでも手軽に科学的農業に触れてもらうことができるスマートフォン向けアプリ『e-kakashi Ai (アイ)』や、ビニールハウスの窓や潅水装置を遠隔操作する『e-kakashi Tetori (テトリ)』など新サービスを開発することを決断しました。「『e-kakashi Ai』は、1km メッシュ気象情報 (※) を利用することでセンサーをはじめとするハードウエアの初期投資をかけることなく、農作業に必要な情報が得られるサービスです。『e-kakashi Tetori』はスマートフォンからビニールハウスなどの装置を遠隔操作するサービスです。将来的には『e-kakashi』 の AI と連携し、自動で栽培環境を最適に制御させることを目標にしています。」と語るのは CPS 事業本部 e-kakashi 事業推進部 部長の百津正樹氏です。

※ 1km メッシュ気象情報:一般財団法人日本気象協会が過去の気象情報をもとに独自のモデルで分析し、1km 四方の気象をピンポイントで予測した情報を提供するサービス

第 2 世代の『e-kakashi』を開発するにあたり、コアとなる IoT プラットフォームに採用したのが AWS のサービスです。第 2 世代においても他社のクラウドサービスと比較した結果、第 1 世代に続き AWS の採用を決めました。「開発に有効なサーバーレスのサービスや、品質の高いマネージドサービスにより、開発コストと運用負荷が軽減できることが採用の理由です。他のクラウドサービスと比べてとても使いやすく、AWS のコンソールを使うことで工数の削減や、検討・開発スピードの向上につながります。技術情報などにもアクセスしやすく、しかも豊富です。これにより、技術調査を含む検討事項に費やす時間を短縮することが可能です。」(百津氏)

第 2 世代の『e-kakashi 』では、データ分析、および、IoT デバイス制御の用途で AWS のサービスを採用しています。データ管理では、用途に応じてデータベースを使い分け、スマホアプリで使うデータは AWS Lambda を介して NoSQL の Amazon DynamoDB に蓄積しています。農業データは要件の変更が多く、定型化できないものがあるため、今後予想されるデータ項目の変化や、サービスの追加や変更に対し柔軟かつ高速で対応できるよう考慮し、Amazon DynamoDB を選択しました。ユーザーサービス部分では、Amazon API Gateway と合わせて GraphQL サービスの AWS AppSync を利用しています。これは、電波状況の悪い農業地での利用を想定したもので、AWS AppSync がオフラインの機能を備えていることがポイントになりました。IoT デバイスの制御では、データストリーミングサービスの Amazon Kinesis Data Streams や Amazon Kinesis Data Firehose を採用し、 AWS Lambda と連携してデータの収集を行います。

2018 年 7 月に発表された『e-kakashi Ai』は利用が始まっており、『e-kakashi Tetori』は『e-kakashi』の実証実験を行うハウス農園『BASE(ベイス)』にて、第1弾の専用装置であるビニールハウスの窓を開け閉めする、窓開閉モーターの検証を開始しました。畜産インテグレーションを手掛ける伊藤忠飼料とは、『e-kakashi』の技術をベースにしたスマート養鶏サービスを共同開発し、PoC を実施しています。現在は、鶏舎カーテンの遠隔開閉による自動空調管理の検証を進めていますが、今後も灌水バルブの制御や供給路の選択機能を追加していく計画です。

同社は AWS の採用により、さまざまなメリットを享受しました。技術調査-設計-開発までのスピードは、他のクラウドサービスと比べて 2 倍以上のスピードを実現。インフラ調達におけるリードタイムも、他のクラウドサービスと比べて半分以下になるといいます。百津氏は「リードタイムは、事前の調査時間や AWS の担当者やパートナーのレスポンスも含めたものです。設定方法の調査を含めても 2 日、手順が確立できれば 10 分程度の作業で終わります。」と語ります。

日常の運用では負荷がほとんどかからず、技術的に対応が難しい問題も AWS のパートナーの支援でほぼリアルタイムに解消されます。結果的に問題発生時のリカバリーは他社のクラウドサービスと比べて約 5 倍のスピード感で対応できているといいます。セキュリティについても、権限ごとにテンプレートを作成して管理ができるため、強固なアクセス制御を実現しています。

 

 

「『e-kakashi』は海外からも多くの問い合わせがあります。コロンビアでは、コメの生産性向上を支援するため、国際熱帯農業センターによる実証実験を 2017 年6月より開始しました。『e-kakashi』を活用して、少ない水や肥料で育つ省資源型イネの研究と、栽培技術の確立に活用されています。このような事例が増えていくことで、海外でも『e-kakashi Ai』や『e-kakashi Tetori』の導入が進むものと期待しています。今後も国内外の農業支援に向けて、サービスを進化させていきます。」と百津氏は話します。

百津 正樹 氏

ビニールハウスの窓を開閉するためのモーター


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