概要
IoT プラットフォームを提供する株式会社ソラコムは、生成 AI を用いた IoT アプリケーションがローコードで開発できる『SORACOM Flux』を、アマゾン ウェブサービス(AWS)のマネージドサービス群で構築しました。SORACOM Flux により、数か月はかかる開発期間を数日程度に短縮されるため、クイックに業務に組み込むことができます。すでに製造・物流・小売系の事業者を中心に高い関心を集め、多数の引き合いが寄せられています。

課題・ソリューション・導入効果
課題
生成 AI を用いたローコード IoT アプリケーションビルダーの開発
ソラコムは、AWS 上に構築したセルラー IoT コアにより、700 万台*以上の IoT デバイスを世界中のクラウド環境に接続する IoT 接続プロバイダーのリーディングカンパニーです。近年は IoT プラットフォームのみならず、データや画像でデバイスを制御する IoT アプリケーションの領域にもビジネスを拡大しています。その一環として 2024 年 7 月にリリースしたのが『SORACOM Flux(ソラコム フラックス)』です。
SORACOM Flux は、ローコードで IoT アプリケーションが開発できるサービスです。センサーやカメラなどのデバイスから数値データや画像が送信されるイベントに対してルールを適用し、複数のデータソースや生成 AI を組み合わせてデータを分析・判断したうえで、通知ツールなどの外部アプリケーションに連携します。開発者はコンソール画面上でコンポーネントを操作するだけで、イベントの内容や条件分岐を含むアクションを組み合わせることができます。
生成 AI は、テキスト、画像、音声、動画など複数種類のデータを一度に処理するマルチモーダルに対応し、センサーデータからカメラ画像まで幅広い入力に対応しています。
「生成 AI を活用することで例えば空調制御では外気温と室温の差を考慮しながら人間に快適な温度を設定するといった操作を実行することができます」と語るのは、CTO of Japan の松井基勝氏です。
SORACOM Flux は、お客様の IoT アプリケーション開発を加速させる目的で企画されました。IoT データの活用が進むにつれ、複数のデータソースやデータ形式を組み合わせて AI で分析・判断し、その結果をデバイスの制御に反映させるアプリケーションのニーズが高まっています。しかし、AI を利用するためには AI サービスの API を利用するためのプログラミング知識や開発作業を要します。そこで、生成 AI に渡すプロンプトを自然言語で記述するだけで開発できるサービスとして SORACOM Flux が誕生しました。
「元々は社内のアイデアソンで、1 人のエンジニアが考えたアイデアがベースになっています。構想した 2023 年当時はマルチモーダル対応の生成 AI モデルは多くありませんでしたが、Amazon Bedrock でClaude 3 のサポートや、軽量で安価な Claude 3 Haiku が利用できるようになるなど追い風が吹いたことで、本格的な開発に着手しました」(松井氏)
ソリューション
AWS の豊富なサービス群を活用してサーバーレスアーキテクチャで構築
SORACOM Flux の実質的な開発期間は 5 か月間で、2024 年 7 月にリリースされました。サービス基盤は AWS のサーバーレス/マネージド製品で構築し、生成 AI サービスは Amazon Bedrock を採用しています。同社では、2015 年にリリースした I o T 向け無線通信回線サービス『SORACOM Air』以来、すべての IoT プラットフォームサービスを AWS 上で運用していることから選択肢は AWS 一択で、サーバーレス製品の充実、システム開発のしやすさなどを評価しました。Amazon Bedrock については AI サービスの使いやすさ、複数モデルが選択できること、最新モデルが利用できることを評価しました。
「10 年来 AWS を利用していることから、社内にはサーバーレスアーキテクチャの鉄板ともいえるリファレンス構成があり、それを使ってスピーディにプロトタイピングを開始することができることが AWS を活用する理由です。その流れから Amazon Bedrock を採用するのは自明のことで、API を介して生成 AI モデルを呼び出せる使いやすさや、必要な API が揃っていることが決め手となりました」(松井氏)
SORACOM Flux のアーキテクチャは、AWS Lambda、Amazon Kinesis Data Streams、Amazon DynamoDB などを中心に構成し、スケーラブルな構成としています。開発スピードと拡張性を考慮してマイクロサービス化し、疎結合かつ非同期にデータ処理が実行できるようにしています。
「開発時にこだわったのはシンプルにすることです。最初はミニマムで動くものを作り、そこにデバイス、生成 AI、外部システムと連携することでさまざまな動作を実現するサービスを作るのが当初からの構想で、結果的に 5 か月の短期開発につながりました」(松井氏)
AWS の担当者とは、密なコミュニケーションの中から Amazon Bedrock に関する最新情報の提供やアーキテクチャに関するアドバイスを受けました。
「試作のアーキテクチャを本番用に作り直す際、AWS のサービスチームや IoT スペシャリストにアドバイスをいただき、最適なアーキテクチャを設計することができました」(松井氏)
導入効果
お客様の開発スピードの向上に貢献、多数の引き合いが殺到
SORACOM Flux により、お客様の IoT アプリケーション開発のスピードは大幅に向上し、運用コストも削減することができました。Amazon Bedrock を通じて最新かつ複数の生成 AI 基盤モデルを利用することで AI 活用のハードルも下がり、自然言語による画像処理など高度な分析を迅速に導入できるようになりました。
「これまでは要件定義からデバイスの接続、データストアの用意、生成 AI を活用するためのプログラミングなどで開発期間は数か月かかるのが一般的でした。SORACOM Flux であれば初めてでも数日あるいは数週で開発ができるため、お客様の開発期間を大幅に短縮することができます」(松井氏)
リリースから間もないながら、SORACOM Flux は製造業、物流業、小売業を中心に高い関心を集めており、すでにアプリケーションを作成しているユーザーも出てきています。「DX や安全確保の観点から、カメラの映像を使って生産性を向上させたい、危険を検知したいといったニーズがあり、物流、工場、店舗の管理用途を中心に多数の引き合いが寄せられています」(松井氏)
SORACOM Flux のサービス自体も安定性が高く、インフラレイヤーでのトラブルはありません。そのため、管理者はアプリケーションレイヤーに集中することができ、運用負荷の低減も実現しています。
ソラコムとしては、AWS 上でお客様自身がビジネスロジックを実装できる SORACOM Flux のリリースにより、デバイスや通信サービスだけではないケイパビリティの拡大につながりました。
「現在は、センサーや画像のイベントドリブンで処理を開始するフローですが、過去のデーを参照して IoT デバイスの制御に反映させるなど、より高度なデータ活用が促進できるように機能を拡充していきます。AWS には引き続き、安価で使いやすくスケーラブルなベクトルデータストアサービスの提供に期待しています」(松井氏)
* 回線数・IoT デバイスの台数は 2024年 11 月時点の情報です。

2015 年以来、すべての IoT プラットフォームサービスを AWS 上で運用していることから選択肢は AWS 一択でした。生成 AI の Amazon Bedrock のさらなる進化にも期待しています
松井 基勝 氏
株式会社ソラコム CTO of Japanアーキテクチャ図

株式会社ソラコム
創業以来「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」をビジョンに掲げ、IoT をはじめとする「テクノロジーの民主化」を使命とする。現在、IoT と通信のテクノロジーを軸に IoT プラットフォーム『SORACOM』を提供。提供サービスは、契約回線数が 700 万*を超えるデータ通信サービスの SORACOM Air を筆頭に、IoT 通信、デバイス、ネットワーク、アプリケーション、クラウドカメラ、ビジネス支援など多岐にわたる。
取組みの成果
- 5 か月
開発期間 - 数日あるいは週間単位
IoT アプリケー ションの開発期間 - お客様の開発スピードの向上への貢献
本事例のご担当者

松井 基勝 氏
