Amazon SageMaker を用いた異常検知システムにより、
現地に行かなければ確認できなかった設備の状況がリアルタイムに把握できるようになり、
故障予兆を検知した際には、故障前に修理対応が可能になりました。
 
米塚 明央 氏 大青工業株式会社 技術本部 IoT プロジェクト担当 主任

1948 年の創業以来、「冷熱をデザインする」を理念に冷蔵冷凍設備の開発、製造、販売、メンテナンスを行う大青工業株式会社。野菜、果物、水産物等の高品質・長期鮮度保持に取り組む同社は、センサーデータを用いて設備を遠隔監視するシステムを構築。さらに株式会社ヘプタゴンの支援を受け、Amazon SageMaker を用いた異常検知システムを開発しました。これにより、設備の状況が遠隔地でリアルタイムに把握できるようになり、故障予兆を検知した際には影響が出る前に対応することが可能になりました。


 

青森市において、業務用冷蔵冷凍庫の開発、製造、販売、メンテナンスなどを手がける大青工業。農水産物を鮮度良く、長期間保存したいという顧客ニーズに応えるため、ものが凍る寸前の温度「氷温」を ±0.05℃ 以内の誤差で均一に維持する独自のシステムを開発し、青森名産のリンゴをはじめとする果物や野菜の長期保存を支えています。取引先は全国にわたり、近年は長崎県のミカン農家と共同で氷温貯蔵の「早生ミカン」を商品化しました。「生産物の高付加価値化に向けて公的機関や民間企業と連携して研究に取り組んでおり、氷温技術も共同研究から生まれました。」と語るのは、技術本部 IoT プロジェクト担当 主任の米塚明央氏です。

JA をはじめ多くの農水産事業者に大型冷蔵冷凍庫を納入し、その後のメンテナンスも請け負う同社は、これまでは顧客からの連絡で設備の故障や異常を知ることがほとんどでした。冷蔵冷凍庫は製品ライフサイクルが長いものの、故障すると食品の損失に直結するため、緊急の対応が必要です。

「冷蔵冷凍庫は外気温が上昇するほど稼働率が高く、故障は夏に集中します。特に冷凍庫の場合は、庫内で冷凍した食品や氷が溶けたり、機器の汚水が商品に付いたりしたら売り物になりません。規模が大きい設備ほど被害額は大きく、1,000 万円に達することもあります。そのためにも、一刻も早い対応が求められます。」(米塚氏)

しかし、夏場はメンテナンスの依頼が集中し、作業員の確保もままなりません。また、作業員にかかる負荷も大きい状態でした。そこで同社は、冷蔵冷凍設備に各種センサーを取り付け、そこから取得したデータから稼働状況を遠隔監視することで、リアルタイムに異常を検知するシステムの構築を決断しました。

 

同社は 2017 年に、遠隔監視システムの開発に着手。監視・制御データの収集、蓄積基盤に アマゾン ウェブ サービス(AWS)を採用しました。

「地元ベンダーから AWS の提案を受け検討しました。スモールスタートで始められるクラウドのメリットと、サービス停止のリスクが少ない老舗ならではの安心感、IT リソースだけに留まらない豊富なサービスを評価して AWS に決めました。」(米塚氏)

翌年からは一歩進め、AWS 上に蓄積した監視・制御データを機械学習によって学習し、故障の予知を捉えて通知するシステムの開発に取り組みました。導入パートナーには、AWS のコンサルティングパートナーである株式会社ヘプタゴンを採用しました。

「IoT や機械学習を扱う場合、高度な知識と実績を有するパートナーが欠かせません。その点、同じ青森を拠点に活躍しているヘプタゴンは頼りになる存在でした。以前からハンズオンセミナーなどに参加し、AWS では最先端を走っている印象が強くありました。」(米塚氏)

システム基盤はゼロからアーキテクチャを検討。要件や必要な技術要素を整理したうえで 2018 年 12 月から本格的に着手し、2019 年 1 月末には環境構築を終えて稼働を開始しています。ヘプタゴンの代表取締役社長の立花拓也氏は「当初は機械学習用フレームワークの TensorFlow を使って学習モデルを作成する予定でした。ところが Amazon SageMaker に標準実装している組み込みアルゴリズムを使ったところ良好な結果を得たことから、通常は約 2 ヶ月要する学習期間を 2 週間程度に短縮することができました。」と語ります。

同社が構築した冷凍冷蔵設備の異常検知システムは、AWS IoT Core をゲートウェイとして、監視・制御データの蓄積基盤は Amazon Kinesis Data Firehose と Amazon S3 で構築しています。機械学習の学習モデルの作成や予測の基盤は、Amazon SageMaker、AWS Lambda、Amazon DynamoDB などで構築。入力データからの故障の推論や可視化には、AWS Lambda、Amazon RDS、Amazon EC2 を利用しています。アーキテクチャのポイントについて立花氏は「スモールスタートから段階的に拡張することを考慮し、サーバーレスや マネージドサービス をベースに開発しました。」と語ります。

顧客先に設置する冷蔵冷凍設備には、各種センサーを配置し、稼働状況を示す冷媒の圧力や、庫内および庫内周辺の温度などを遠隔制御によって一定間隔で取得します。これらのデータを AWS 上に蓄積し、Amazon SageMaker で学習させることで故障の予兆を捉えます。設備の異常を検知した際には、作業者のスマートフォンに通知。作業者は、庫内の商品が深刻なダメージを受ける前に現地に駆け付けて対策を打つことが可能になります。

「このシステムの目標は 10 程度ある故障箇所の可能性を、3 程度まで絞り込むことです。これによって作業者は事前に準備をしたうえで現場に出向くことができます。結果的に、最小限の故障に留めることで、作業者の負担軽減が実現し、労働環境の改善にもつながります。」(米塚氏)

作業者からの評判も高く、業務効率の向上に貢献しています。そのうえで「アラート前後の圧力値を知りたい」「時系列データをグラフ化して欲しい」といった要望も寄せられているといいます。

異常検知システムは 2019 年 4 月現在、青森県内のリンゴ冷蔵庫 4 ヶ所と、長崎県と沖縄県の試験冷蔵装置の 2 ヶ所に導入し、日々の状況を監視しています。4 ヶ所のリンゴ冷蔵庫は、1990 年代に同社が数百万円かけて構築した遠隔監視システムの代わりに導入したもので、10 分の 1 以下のコストダウンを実現しました。米塚氏は「当時は外注で構築したためにコストがかかり、自社にノウハウも蓄積できませんでした。

AWS の採用によって低コストで導入ができ、故障予兆の検知という大きな付加価値を得ることができました。」と語ります。また、夏に故障によるエンジニアのリソース確保の視点においても、故障予兆により夏以前に事前に対応することができるようになり、エンジニアの作業の平準化を保つことができるようになります。

故障予兆の検知機能は稼働したばかりということもあり、現在はリアルな監視・制御データを用いて学習を繰り返しています。「予兆検知は、軽微な故障の段階で対応できます。そのため修理費用の軽減や、設備を長持ちさせることにつながり、サービスの価値を向上させます。それによって顧客満足度も高まり、継続利用や新たな設備の導入にもつながるので、今後も機械学習の機能を強化しながらより使いやすいサービスに進化させていきます。」(米塚氏)

次の一手として IoT や機械学習を利用した設備の省エネ化、温度制御のインテリジェント化を見据えているという大青工業。その挑戦は今後も続いていきます。

米塚 明央 氏

 

APN コンサルティングパートナー
株式会社ヘプタゴン

東北では初となる APN コンサル ティングパートナーに認定されたクラウド専業のインテグレーター。東北だけで 50 社 100 プロジェクト 以上の AWS の導入実績を持ち、特に、中小規模の企業、サービス向 けのインテグレーションサービスを 得意とし、地方の企業がクラウド のメリットを存分に生かして事業・ サービスを展開するための基盤作りをサポートしている。


AWS が提供する機械学習および AI サービスに関する詳細は、AWS の Machine Learning ページを御覧ください。