クラウドや機械学習の専門家がいない中ゼロから顔認証入退室管理プラットフォームを構築
ものづくりと AWS を掛け合わせ新たな価値を創造

2021

精密板金加工による製品とともに、IC キー・カード・生体認証などによる物理セキュリティ商品を展開する東海理研株式会社。自社のものづくり技術と IT を融合する商品開発にチャレンジするなか、スマートフォンを活用した顔認証の入退室管理システムを企画し、Amazon Rekognition を採用。従来のオンプレミス型製品が抱えていた課題を克服しながら、クラウド上に構築したプラットフォームからサービス・付加価値提供を行うビジネス変革を実現しています。

AWS 導入事例  | 東海理研株式会社
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Amazon Rekognition の活用と AWS のさまざまなサポートにより、自社の人員だけで顔認証を使った入退室管理システムを構築できました。今後も、ものづくりの技術とクラウドの活用でさらなる付加価値を提供するため新たなサービスを開発していきます

佐藤 明広 氏
東海理研株式会社
代表取締役社長

従来型の入退室システムの課題と将来を見据えクラウド活用の検討を開始

岐阜県関市を本拠地とする東海理研株式会社は、1968 年の創業当初から板金加工業を展開し、郵便局のバックヤードに設置する組立棚など、特殊什器の開発・製造を手がけてきました。2000 年代からは IT を採り入れた物理セキュリティ商品を数多く開発。非接触 IC カードリーダーからパソコン保管庫、指静脈/顔認証による入退室管理システム、IC キー保管庫、アクセスゲートなど、データセンターやオフィスといった各種施設向けのセキュリティ製品まで、商品の幅を拡大してきました。

同社では以前から顔画像を照合する入退室システムを提供し、クライアント毎にオンプレミス環境を導入/運用していました。しかし、従来の仕組みでは設置環境ごとに個別の画像認証アルゴリズムを構築し、端末側にも認証のソフトウェア処理機能の実装が必要でした。またオンプレミス環境の耐障害性、設備の拡張性、ハードウェアやソフトウェアの保守管理の負荷などに課題を感じていました。一方、潜在的な顧客ニーズとして、データセンターや宿泊施設での鍵の授受に要する人的リソースやコストの削減、施設内アクセスの利便性向上を認識していました。
そこでスマートフォンで撮影した顔写真を事前にオンライン登録し、顔認証だけで入退室できる入退室管理システムのプラットフォーム化を考案。その実現に耐障害性、拡張性、保守管理と開発期間/コストの短縮のため、AWS の画像認証サービスである Amazon Rekognition に着目しました。
「当社では“リアルな世界とバーチャルをつなげる”ことをミッションとして、日頃から情報収集を怠らず、時代の流れを捉えた商品企画を行っています。民泊の発展やサービス業の人手不足を背景に、宿泊施設のフロント業務などの負担軽減に有効な画像認識アルゴリズムとして顔認証システムへのクラウド活用を検討しました」と語るのは、代表取締役社長の佐藤明広氏です。

クラウドや機械学習の専門家がいないゼロからのスタートから

自社で顔認証管理システム開発を実現

東海理研が 2018 年に AWS に問い合わせをした時点では、同社内にクラウドや画像認識のための機械学習の専門家はいませんでした。当初はパートナーを交えての開発も模索しましたが、最終的には AWS のトレーニングや自主学習リソース、セミナーやエンジニアからのサポートを受けながら自社のスタッフを教育し、開発を進めていきました。

開発設計部の武藤嘉章氏は、「当社で考えるシステムの妥当性や、運用費の試算などについても AWS からサポートを受けました。顔認証のクラウドサービスは他社にもありますが、Amazon Rekognition を活用すると圧倒的に低コストで実現できます。AWS の提供する認証エンジンを使うことで、端末自体は最低限のスペックと機能に抑えることが可能になり、コストを抑えることができました」と語ります。
そして 2019 年末、複合リゾート施設を手がける株式会社アクアイグニスが三重県菰野町に展開する宿泊施設「湯の山『素粋居』(そすいきょ)」での採用が決定しました。2020 年 7 月にオープンした同施設は、12 棟の独立したコテージを備え、各棟や館内の入浴施設に顔認証による入退室管理システムが導入されています。施設の利用者が鍵を持つ必要がなくなったため、利用者側も管理者側にもストレスや負担がないサービスを提供可能になりました。
開発設計部 常務執行役員の梅村正美氏は、「最初の 3 ヶ月で仕様策定や設計、実装を行い、すべての機能を動作確認したあと、次の 3 ヶ月で認識率や認識速度の向上などの改修を行いました。外部に依頼した場合 1 年かかり品質も保証されませんが、自分達の力で非常にスピード感を持って開発を進められました」と振り返ります。

実際のサービス提供にあたっては、オンプレミスのシステムと遜色のない認証スピードや、直射日光や逆光といった異なる外部環境での認識が課題でした。多くの社員も認証試験に協力し、検証を重ね、精度や速度を高めていったといいます。
「クラウドを経由する仕組みですので、はじめは認証速度について心配していました。最初のバージョンは認証に 7 秒ほどかかっていましたが、読取リーダー側の切り出しの工夫を重ねた結果、最終的にオンプレミスと変わらない速度を実現できました。アクアイグニスの立花社長をはじめとする宿泊事業関係者や、オープニング式典の来場者からも、認証スピードの速さに対する評価をいただきました」(佐藤氏)
素粋居では、宿泊客が自ら予約時にスマートフォンにて顔写真を登録しておくと、滞在中は鍵を持たずにコテージに入室できます。コテージとは別の建物にある大浴場などに行く際も鍵を持つ必要がなく、とても便利との声が寄せられています。

個別納入型からサービス提供型ビジネスモデルへ

新たなサービスを開発しさらなる付加価値提供を目指す

Amazon Rekognition を活用した入退室管理システムは非常に利便性の高いものとなり、同社ではさらなる付加価値を生み出すサービス展開も視野に入れています。
「たとえば部屋ごとの利用者属性分析、あるいは館内での導線分析も実現可能です。Amazon Go のように、買い物の決済にも顔認証を利用できるようになれば、商品購買の分析も行えます。ものを造って納品し、保守を行うだけの従来のビジネスではできなかったデータの収集と分析が、AWS によって実現可能になります。データによって、新たな価値を提供できる可能性が広がっていきます」と、佐藤氏はサービスの将来性について語ります。

素粋居での導入以降、東海理研ではさらなる付加価値提供を想定した開発が進んでいます。顔認証だけでなく、新型コロナウイルス対策として検温も行う仕組みや、運転免許証と連携した身元確認、車のナンバーの識別と遠距離からの顔認識による施設内の導線分析などです。
「年齢の認証が必要なロッカーや無人入館といった用途を想定し、免許証の IC チップ情報と顔写真とを照合して身元確認ができるシステムも開発中です。顔だけでなく、モノの画像や形を認識するシステムにも挑戦していきたいです」(武藤氏)

AWS の活用はインフラの強化にもつながりました。耐障害性を強化し、データ消失の心配もなく、すぐに状況を確認して対応できる基盤を構築できたほか、運用面も改善されています。「以前は障害が発生すればサーバーの場所まで行かなければなりませんでしたが、その必要はなくなりました。今後は遠隔でさらに細かなメンテナンスができる仕組みを活用してみたいと思っています」(梅村氏)

佐藤氏は、AWS 活用のメリットについて次のように締めくくりました。
「AWS は、ほかのクラウド事業者よりも学習リソースが整っており、テキストやセミナーが豊富です。本気で学ぶ意欲があれば、当社のようにゼロからでもサービスを構築できるのが魅力です。従来は個社ごとにオンプレミスでシステムを販売してきましたが、AWS を活用することでプラットフォームとしてサービス提供を行うビジネスモデルに変革することができました。今後も新たなサービス開発にチャレンジし、さらなるイノベーションを提供していきたいです」

佐藤 明広 氏

梅村 正美 氏

武藤 嘉章 氏


カスタマープロフィール:東海理研株式会社

  • 設立年月:1968 年 8 月
  • 従業員数:90 名(2021 年 7 月現在)
  • 事業内容:金属加工製品、セキュリティ商品の開発・製造・販売

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • ハードウェアやソフトウェアの保守管理負担の軽減
  • 耐障害性の向上および設備の柔軟な拡張性の確保
  • 複合的な宿泊・商業施設へのサービス提供
  • 顔認証だけでなく、モノの認証や身元確認を連携
  • データ分析など、新たなサービスの提供

ご利用中の主なサービス

Amazon Rekognition

Amazon Rekognition では、機械学習の専門知識を必要とせずに、実績のある高度にスケーラブルな深層学習テクノロジーを使用して、アプリケーションに画像およびビデオ分析を簡単に追加できるようになります。

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