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【開催報告】AWS GenAI Catapult ! 〜生成 AI を活用した顧客起点でのユースケース創出イベント〜

2025年7月に、AWS 品川オフィスにて「AWS GenAI Catapult ! 」を開催いたしました。本イベントは、Amazon のイノベーション創出メカニズム「Working Backwards」手法を活用し、顧客起点での生成 AI 活用したユースケース創出イベントです。金融領域の企業 10社 40名の皆様にご参加いただき、活発な議論と創造的なアイデア創出が行われました。本記事では、イベントを企画した背景から実際のイベントの様子、参加者の声をお届けします。

企画の背景

日本の生成 AI 利用率の状況

総務省の 令和6年版 情報通信白書 によると、日本における生成 AI 利用率は 9.1% となっており、他国と比較して低い水準にあります。生成 AI を使わない理由として、40% 以上の人が「自分の生活に必要ない」と回答していますが、これは「自分たちの業務にどう活用できるか分からない」という具体的な適用イメージが描けていないことが大きな要因と考えられます。金融業界においても、生成 AI 技術の発展により顧客体験の革新と業務効率化への関心は高まっているものの、多くの企業が技術起点でのアプローチを取りがちで、顧客価値創出に課題を抱えているケースが見受けられます。生成 AI を導入したものの、期待した効果が得られないという声も聞かれるのが現状です。

Amazon 流・顧客起点のイノベーション創出メカニズム「Working Backwards」によるアプローチ

こうした現状に対して、 Amazon が実践してきたイノベーション創出のメカニズム「Working Backwards」手法をご紹介させていただきます。この手法は、Amazon Echo、Amazon Prime、AWS などのサービス開発に活用されてきたアプローチで、顧客の理想的な体験から逆算してサービスを設計することにより、顧客が求める価値に焦点を当てた開発を可能にします。具体的には企画段階から顧客体験をプレスリリースという形に詰め込むことで実現します。「Working Backwards」は知識として学ぶだけでは習得できません。実際にプレスリリースを書き、発表しフィードバックを受ける体験を通して身につけることができます。

イベント概要

【開催日時】
1日目:2025 年 7 月 1 日(火)9:30–18:00
発表準備期間:2025 年 7 月 2 日 〜 25 日
2日目(発表日):2025 年 7 月 28 日(月)13:00–19:00

【会場】 AWS 品川オフィス
【参加者数】 約40 名
【参加企業】 金融関連企業(事業会社、サービサーなど)10社

AWS GenAI Catapult ! とは 〜「Working Backwards」で実現する生成 AI ユースケースの創出

「AWS GenAI Catapult !」は、顧客起点での生成 AI ユースケースを創出しリリースしてもらうための発射台(カタパルト)としての位置づけとし、その意図をイベント名の「Catapult」に込めています。「AWS GenAI Catapult !」では、生成 AI の学習やスキルの習得に留まらず、サービスを利用するユーザーの課題や体験に焦点を当て、 Amazon 流イノベーション文化を理解し、「Working Backwards」手法を用いた実践的ユースケース創出に繋げられるイベントを目指しました。また、生成 AI をテーマに World Café 形式による企業横断での交流と知見の交換セッションを実施し、参加者同士の活発な議論と学びの共有を促進するネットワーキングの機会も提供しました。

このイベントでは、参加者が顧客起点でのアイデア創出プロセスを体験し、AWS の生成 AI サービスを学び体験しながら、ユースケースを作成・整理する手法を習得できます。また、創出したアイデアをプレスリリース形式で発表し、参加者同士の交流を通じて多様な視点からのフィードバックを得る機会も提供します。技術部門とビジネス部門の両方から参加いただくことで、部門を越えた連携が生まれ、さらに自社内では得られない新たな気づきや実装アイデアの発見にもつながります。優秀なチームには表彰トロフィーとメダルの進呈に加え 検証用の AWS クレジットを提供してイベント後の継続的な取り組みも支援いたします。

イベント開催報告

参加企業・チーム名・参加者属性

1日目:Amazon Session [Amazon Innovation & Culture]

1日目は Amazon のイノベーションを支えるカルチャーとテクノロジーについての紹介から始まりました。Amazon は「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」を使命とし、徹底したお客様志向、あくなき挑戦、辛抱強さを基本理念としています。1994年の創業以来、本の販売から始まり、現在は Eコマース、クラウド、AI、ロボティクスなど多様な事業を展開しています。イノベーションを生み出す源泉は「f(innovation) = (org * arch) * (mechanisms * culture)」という方程式で表現され、お客様から逆算して考える「Working Backwards」というメカニズム、「Every day is still Day One」という常に初日の心構えを持つカルチャー、小さく権限委譲された「Two-pizza チーム」という組織構造、そして急速な成長や変化に対応できるマイクロサービスアーキテクチャが支えています。Amazon Go に代表される新しい顧客体験は、失敗を恐れず、Builder 精神を持った社員が、顧客中心主義に基づいて創造していることが説明されました。

1日目:AWS Session [AWS GenAI Service Intro] & AWS Dojo Session [AWS GenAI Hands-on]

続いて参加者は、AWS の生成 AI サービスの全容と実践的活用法へと視野を広げました。特に AWS の生成 AI サービスの中でも注目すべきは Amazon Bedrock を中心とした包括的な機能群です。多様な基盤モデルへの単一 API 接続、企業データを活用した RAG(検索拡張生成)、AI エージェント構築、そして安全対策機能、これらを組み合わせることで企業特有の課題に対応した生成 AI ソリューションを構築できることが紹介されました。

ハンズオンセッションでは、参加者自らが生成 AI のモデルに入力するプロンプトを書き、実際に動作する簡単なユースケースを構築しました。すぐに業務で活用できる様々なユースケースを1つのアプリケーションとして提供している OSS である Generative AI Use Cases (略称: GenU) を利用しました。GenU の目玉機能の1つ、独自のユースケースを簡単に追加できる「ユースケースビルダー」機能を体験頂きました。理論と実践の橋渡しとなる貴重な体験に、参加者からは「具体的なイメージが湧いた」「自社でもすぐに試せそう」といった前向きな声が聞かれました。

1日目:Amazon Working Backwards Experience Workshop

Working Backwards 体験ワークショップでは、参加者は各企業ごとのチームに分かれ、生成 AI を活用したユースケースの開発に取り組みました。このワークショップは Amazon のイノベーションの源泉となる「Customer Obsession(お客様へのこだわり)」「Think Big(広い視野で考える)」「Bias for Action(行動へのこだわり)」という3つのリーダーシッププリンシプルに基づいて進めていきます。ワークショップの流れは、まず「お客様は誰か」を特定し、その顧客の課題を明確にします。次に課題を解決するソリューションとその目玉機能を考案し、最終的にはプレスリリース形式でアイデアをまとめます。このプロセスを通じて、参加者は顧客視点からのサービス設計を体験し、生成 AI を活用した革新的なソリューションを創出することを目指します。プレスリリースは「導入部分」と「お客様の声部分」で構成され、チーム内で分担して作成します。アイデアの創出等はハンズオンセッションで利用した GenU で生成 AI もうまく活用しながら実施していきました。完成したプレスリリースは他のチームに発表し、建設的なフィードバックを受けることで、アイデアをさらに洗練させていきました。

2日目:参加チーム プレスリリース発表 & QA

1日目 から約3週間、各チームは熟考を重ねたプレスリリースを完成させ、いよいよ発表の時を迎えました。審査は有用性、創造性/WoW体験、実現可能性、PR/FAQ完成度、プレゼンテーションの5項目で厳正に評価され、ストーリーボードやプロトタイプの提示には加点が与えられました。

10チームが抽選で決まった順番で登壇し、持ち時間の中でプロトタイプを作ってくる、生成 AI で作った動画を用いる等、各社それぞれの工夫を凝らした内容で熱のこもった発表を展開しました。未来を変える可能性を秘めた提案の数々、特に Q&A では他チームの提案や考えを積極的に理解しようとする姿が印象的で会場は熱気に包まれました。特に印象的だったのは、単なる業務効率化にとどまらない、顧客体験を根本から再定義するような大胆な提案の数々でした。生成 AI の技術的可能性と顧客価値創造が見事に融合した発表に審査員からも高評価が相次ぎました。

2日目:AWS World Café [GenAI Use case Share]

生成AIの活用をテーマにした参加者交流セッション「GenAI World Café」が開催されました。3人1組の少人数グループで対話を行い、「ホスト」と「旅人」の役割を交代しながらメンバーの組み合わせを変え、議論を深めていく独自の形式です。
「生成AIの活用」というテーマのもと、目的・ツール、人材・役割、組織・文化の観点から多角的な議論が展開されました。このセッションでは結論を出すことよりも、多様な意見の共有と相互理解の深化が重視され、参加者たちは「対話を楽しむ」「話をよく聞く」「質問して広げる」というグラウンドルールに従って活発な意見交換を行いました。
「同じ課題に直面していることがわかって安心した」「他業種の取り組みが参考になった」「組織文化の重要性を再認識した」など、業界や立場を超えた対話からは、多くの共感や気づきが生まれていました。

2日目:Networking Party & 表彰式

プレゼンテーションと World Café セッション終了後、会場は和やかなネットワーキングパーティーへと移行しました。参加者たちは軽食とドリンクを片手に、2日間の学びや気づきを熱心に共有し合い、企業の垣根を越えた新たな繋がりが次々と生まれていきました。

表彰式では、審査員による厳正な審査の結果、チャンピオンには株式会社ジェーシービーの「Synap Spark」が選出されました。2位は株式会社トレードワークスの「Tango-Wango」、3位は株式会社トランザクション・メディア・ネットワークスの「GGPT Revo」が受賞し、それぞれ革新的な顧客体験の創出に挑戦する意欲的な提案が表彰されました。
受賞チームには記念メダルと AWS クレジットが贈られ、参加者全員にも AWS オリジナルグッズが配布されました。会場は受賞チームへの祝福と拍手に包まれ、和やかな雰囲気の中で表彰式は締めくくられました。

参加者の声

本イベント全体の CSAT(お客様満足度)は、4.6 / 5.0 となり、参加された皆様にご満足頂けるものであったと考えております。参加者からは、「他社様の課題感などの共有できる場がありすごく貴重な体験ができました」「PRでの企画提案の文化に目からウロコでした」「学んだ内容をその場で活用しているので学んだ内容含めて印象に残っている」「今回体験した顧客起点の考え方は今後も弊社内で参考にさせていただきます」といった多くの熱意のあるフィードバックが寄せられました。

まとめ

「AWS GenAI Catapult !」は、単なる技術セミナーではなく顧客起点でのイノベーション創出プロセスを学び実践する場として、参加者の皆様に新たな気づきとスキルをご提供することができました。本イベントにより参加者からは「実体験を通して、有用なフレームワークとして体に染み付けることができました」との言葉を頂いています。生成AIという革新的技術を真に価値あるものにするためには、技術の可能性を理解しつつも、常に顧客価値を中心に据えたアプローチが不可欠です。参加者の皆様がこの本質を体感し、自社での実践に活かしていただけることを心から願っています。AWS では今後もお客様のイノベーション創出を支援するためのプログラムを継続的に提供してまいります。

最後に、2日間にわたり熱心にご参加いただいた皆様、そして革新的なアイデアを創出してくださった各チームの皆様に心より感謝申し上げます。皆様の挑戦が、日本の生成 AI 活用を加速し、新たな顧客価値の創造へとつながることを確信しています。