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【開催報告】 エンジニアが紡ぐ ファーストリテイリングの デジタル変革 〜 グローバルへの挑戦 〜 (Part 1)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社は 2024 年 7 月 24 日に株式会社ファーストリテイリングをお招きし、「エンジニアが紡ぐ ファーストリテイリングの デジタル変革」というテーマで、4 時間半にわたってご講演いただきました。本ブログでは、3 回に分けてその内容をレポートします。

本文中の役職はイベント開催当日のものです。

オープニング :ファーストリテイリングにおけるビジネスの変革とデジタルの取り組みについて

株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革サービス部 執行役員(CTO 兼 CSO) 大谷 晋平 氏

はじめに、大谷氏よりファーストリテイリングのビジネスコンセプトと、デジタル変革に向けた「有明プロジェクト」についてご説明いただきました。

ファーストリテイリングでは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というミッションステートメントのもと、ユニクロ、ジーユー、プラステ、セオリー、コントワー・デ・コトニエ、プリンセス タム・タムなど 8 つのブランドを展開しています。現在 約 30 の 国・地域で約 3,600 店舗を構え、世界のアパレル製造小売りでは第 3 位の規模となる売上収益 2.7 兆円(2023 年 8 月期)の企業グループです。特にユニクロが海外事業の牽引役となり、売上の 6 割が海外からのものです。お客様一人ひとりの毎日の生活を良くするための「究極の普段着」としての「LifeWear」の提供を目指しており、高品質の服を手に取りやすい価格で届けることをコンセプトとしています。また、「PEACE FOR ALL」の活動を通じて、平和を願う著名人とコラボレーションした T シャツの利益を紛争や差別など、戦争で被害を受けた人々に還元するなど、社会貢献にも力を入れています。

ファーストリテイリングはデジタル変革の取り組みとして有明プロジェクトを推進しています。これは製造小売業から「情報製造小売業」への転換を目指すもので、お客様の本当に欲しいものだけを届けるための変革です。お客様の声を起点に、商品企画、生産・物流、販売までをデジタルでつなげ、必要な分だけ、必要なタイミングで商品を届けることを目指しています。約 11 万人の従業員が世界中でワンチームとなり、データを駆使してお客様のニーズを的確に捉え、そのニーズにスピーディーに応えられるよう業務改革に取り組んでいます。

企画から販売までの一連のプロセスをデータで可視化し最適化することで、無駄を排除しお客様満足度向上とコスト削減を両立させようとしています。エンジニアはこの中心に位置し、デジタル業務改革サービス部という名前のとおり IT の中だけに閉じずに、業務のやり方を変革することが根幹にあるとご説明いただきました。

具体的な取り組みとしては、店舗と e コマース(EC)でシームレスな買い物体験を実現すべく、RFID を活用したセルフレジの導入も進めています。また、自動走行ロボットの導入による物流の自動化・効率化の推進も行なっており、ソフトウェア・ハードウェアの双方において幅広い取り組みがあります。

有明プロジェクトは、デジタルの力を最大限活用してビジネストランスフォーメーションを実現し、「情報製造小売業」への変革を成し遂げることを目的としています。先端技術を取り入れながら AWS 上に最適なプラットフォームを構築し、お客様への付加価値提供を実現する大規模な挑戦です。デジタル変革を通じて、ファーストリテイリングは「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」ミッションを実現していこうとしているのです。

ファーストリテイリングの内製化の進化

株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革 サービス部 コアエンジニアリングチーム 部長 村田 雄一 氏

続いて、ファーストリテイリングの内製開発を推進するコアエンジニアリングチームの村田氏より、同社のデジタル変革の歴史と内製化の取り組みについてご紹介いただきました。

同社は早くから業務にデジタル技術を取り入れることの重要性を認識しており、1988 年の POS システム導入に始まり、1990 年代から自社で商品情報や販売情報のデジタル処理を行うようになりました。2000 年代にはオンラインストアを開設し、2010 年代の店舗スタッフによるデジタルデバイスの活用など各種のデジタル変革を進めてきました。そして 2016 年から始まった全社改革プロジェクトである有明プロジェクトの中で、本格的にエンジニアリングの内製化を開始しました。この内製化の取り組みにより、RFID を活用したセルフレジや在庫管理の改革、グローバル展開のための EC プラットフォームの構築などが実現されています。

内製化の背景には、情報の力を活用して製造小売業から本格的な情報小売業へ転身するという戦略があり、そのためにはプラットフォームを自社で作る必要があったことが挙げられます。また、「業務 = システム」という考え方に基づき、現場を深く理解し、単純明快なトータルシステムを組み、将来の方向性と矛盾しないシステムを構築することが重要視されていました。内製化の推進にあたっては、まず EC の領域から着手し、会員基盤の構築、カタログサイト開設、オンラインストア機能の拡張など、段階的に機能を拡張していきました。新規事業国から始め、日本、そしてグローバルへと展開範囲を広げていった点も特徴的です。

組織面では、グローバル人材を積極的に登用し英語を公用語とするなど国際化を進めています。また、正社員とパートナー企業が一つのスクラムチームを組むハイブリッド体制を採用しています。エンジニア人材の育成においては、ビジネスを理解し技術的な意思決定に反映できるシニアエンジニアを戦略的に育成することに注力しています。具体的には、アーキテクチャレビューボードを設置し、さまざまな業務要件を理解してアーキテクチャに落とし込む訓練を行っています。ボードメンバーをローテーションすることで、継続的な人材育成を図っています。

内製化による主な成果としては、トラブル発生時の解決スピードの向上とシステムに対するコントロール力の獲得が挙げられます。自社で作った仕組みなので問題の所在がわかりやすく、迅速な対応が可能です。技術の選定やビジネスロジックの理解など、重要な意思決定を迅速に行えるようになったことも大きな成果です。一方で、もともと持っていた服屋としてのカルチャーと IT エンジニアリングのカルチャー、日本的なカルチャーとグローバルのカルチャーの橋渡しや、グローバル展開に伴うスケール対応が課題となっています。今後は年間売上高 10 兆円を目指し、世界最高水準のグローバルエンジニアリング組織を日本発で作ることを目標としています。そのためには、ビジネスを理解し技術的な意思決定ができるシニアエンジニアの継続的な育成が不可欠であり、エンジニアにとって世界で最もやりがいのある職場を提供していく考えです。世界レベルのビジネスにチャレンジできる貴重な機会を提供し、困難に立ち向かうことでエンジニアが最も成長できる環境を整備していきたいとのことでした。

グローバル展開×店舗と EC の融合×売上 10 兆円への事業成長を支えるマイクロサービスプラットフォーム

株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革 サービス部 コアエンジニアリングチーム リーダー 佘 嘯 氏
株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革 サービス部 コアエンジニアリングチーム 井上 夏樹 氏

続いて、ファーストリテイリング コアエンジニアリングチームの方々より、グローバル展開を支えるマイクロサービスプラットフォームと、EC・店舗を融合するための取り組みについてご紹介いただきました。まず佘氏よりこれまでの取り組みの概要をご説明いただきました。

従来は各ブランドや地域ごとに異なる EC システムを使用していたため、機能開発や運用にかかるコストが高く、非効率な部分がありました。そこで 2017 年から世界で一つの EC ソリューションを提供すべく EC の刷新に着手し、2020 年には日本で、2021 年にはアメリカで、そして 2024 年に韓国でもグローバル EC パッケージをリリースしました。新しい EC プラットフォームでは、デザインだけでなく機能面でも統一されています。グローバル EC プラットフォームの展開に際しては、マルチブランド対応や各国の言語・支払方法・法制度への配慮、グローバル標準化とローカライズの両立が基本方針とされています。今後もファーストリテイリングの事業拡大にあわせて、世界各地域への継続的な導入を進めていく計画です。

ファーストリテイリングの EC は、実店舗と連動する点に特徴があります。EC には一般的な購入履歴や通知、チャットボットなどに加え、実店舗と EC の融合のための O2O (Online to Offline、Offline to Online)の機能が搭載されています。O2O サービスには EC で購入した商品を店舗に配送して受け取る「店舗受取り」、EC から元々店舗にある在庫を受け取る申し込みができる「ORDER & PICK」、店舗在庫から自宅への直接配送「店舗発送」の 3 つのモデルがあります。これにより配送料の無料化や配送時間の短縮、店舗への顧客誘導、倉庫キャパシティの最適化が実現できます。

続いて、井上氏より EC システムの構成やアーキテクチャについてご紹介いただきました。ファーストリテイリングでは EC システムをグローバルなプラットフォームとして開発・運用しています。そしてフロントエンドとバックエンドの責務を明確に分離し、バックエンドはブランド横断的なマイクロサービス群を構築し、フロントエンドはブランド別に作られています。

リクエストフローで見るとユーザー端末→フロントエンドクライアント→ BFF (Backend for Frontend) →バックエンドマイクロサービスという構成になっています。 BFF の役割は、複数のマイクロサービスを呼び出してデータを集約し、クライアントが使いやすい形式でレスポンスを返すことです。合わせてデータキャッシュや認証・認可の処理も行います。バックエンドは特定のビジネスドメインを担うマイクロサービスが独立した API として提供さ れています。具体的な例を挙げると、ユーザーが商品を購入する場合には、買い物かご、商品情報、金額計算、クーポン、在庫、決済、注文管理などのマイクロサービスが呼び出されます。フロントエンドはウェブのレスポンシブな SPA (Single Page Application) とモバイルネイティブアプリから構成されます。SPA は共通のデザインシステムと国際化の仕組みを活用することで、仕組みは整えつつ各国にローカライズできるようにしています。モバイルアプリは Flutter で共通のコードベースを作りつつ、一部 Android/iOS のネイティブコードも使用します。
技術スタックとしては、インフラストラクチャ、ミドルウェア、プログラミング言語、フレームワークのすべてにおいて標準化を重視しています。バックエンドに Go や Java Spring Boot、フロントエンドに TypeScript や React、モバイルに Kotlin や Swift などを採用しています。

今後はグローバル展開を加速させる予定です。現地の言語、決済方法、物流、法制度などさまざまな要件をクリアしながら、段階的にロールアウトを進めていきます。また、年間売上高 10 兆円を目指すにあたり、トラフィック増加への対応が課題となっています。End to End での性能計測と改善に注力し、スケーラビリティの確保を図ります。 EC と実店舗を融合した O2O の取り組みも重要です。店舗と EC がシームレスに連携し、いつでもどこでも欲しい商品を購入できる体験を実現することが目標です。システムの高度化と店舗網の強みを生かし、お客様の利便性向上を追求していきます。

(Part 2 に続く)

本ブログは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 阿南、三好が執筆しました。