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Enel が Amazon Bedrock を活用してスタッフの生産性を向上
本記事は、「Improving staff productivity at Enel using Amazon Bedrock」を翻訳したものです。
Enel は、32 か国に拠点を置き、82 GW の発電容量を持つ大手総合電力会社です。また同社は、7,600 万人の顧客に対して広大な送配電網を提供し、4,650 万台のスマートメーターを管理する大手送配電事業者としても極めて重要な役割を果たしています。Enel は、Amazon Web Services (AWS) を利用して、生成 AI の企業レベルの活用を推進した強力な社内内製化ノウハウシステムを開発するなど、2014 年以来、AI に多額の投資を行ってきています。この技術の進歩により、以前は手動で実行されていたタスクをシームレスに自動化することが可能になりました。
背景
Enel は ServiceNow をベースにした高度な IT サービスデスクを運営しており、ユーザーはビジネスアプリケーションのサポートなど、さまざまなニーズに対応するチケットを作成および追跡できます。ビジネスアプリケーションに関連するサービスデスクチケットは、ユーザーアカウントの作成や権限管理から、アプリケーションのエラーやパフォーマンスの問題まで、さまざまなトピックをカバーしています。これらの問題は、専任のアプリケーション管理サービス (AMS : Application Management Service) チームによって管理されます。
Enel は長年にわたり、必要な品質と顧客満足度のレベルで自動化が容易に達成できるような一般的な問題や些細な問題に対するチケット管理タスクを自動化してきました。ただし、ビジネスアプリケーションに関する非標準的な IT サービスデスクへのリクエストについても、その多くは反復的であり、文書化された手順に関連しているため、自動化することができます。通常、これらのチケットは AMS チームによって手動で分析および処理されるため、スタッフの労力を最適化したり、より複雑な問題に割り当てたりする必要があります。さらに、ワークロードのピーク時には、優先度の低いリクエストがキューに入れられるため、解決に時間がかかり、エンドユーザーの不満も高まります。
Enel は、生成 AI を使用して IT サービスデスクの効率を高める機会を特定しました。基本的なトラブルシューティングに関して自動化を重要なタスクにまで拡張し、人間の関与しない形で解決手順やチケットルーティングを提供できるようにすることで、IT サービスデスクの効率を高めることができると考えました。 Enel にとってこのプロジェクトの目標は、依頼者への指示を生成して自動的に要求に応えるか、または要求と作業メモを最も適切な対応グループにルーティングすることによって、ビジネスアプリケーションに関するチケットの一次対応を自動化することでした。立ち上げ当初の対象範囲は 3 つのビジネスアプリケーションに限定され、1 か月あたりのチケット数は合計 2,000 件でした。今後の目標は、このソリューションをビジネスアプリケーションのポートフォリオ全体に拡大することです。Enel は、一次対応を自動化することで、AMS サポートチームの作業負荷を軽減し、問題解決をスピードアップしながら、AMS スタッフをより複雑で価値の高いタスクに集中させることができます。
解決策
このソリューションは、検索拡張生成 (RAG : Retrieval Augmented Generation) アーキテクチャを中心に設計されており、Amazon Bedrock を使用しています。Amazon Bedrock は、大手 AI 企業が提供する高性能な基盤モデル(FM)と、セキュリティ、プライバシー、責任ある AI を備えた生成 AI アプリケーションの構築に必要な幅広い機能を提供するフルマネージドサービスです。
このソリューションでは、Amazon Bedrock 専用のモデルファミリーである Amazon Titan を使用しています。具体的には、Amazon Titan Text Embeddings モデルを使用して Enel のナレッジベースからエンベディング (テキストのセマンティクスをキャプチャするベクトル、訳註:単語や文章をベクトル空間上の座標として表現) を生成します。ナレッジベースは、インシデントクラス、前提条件、根本原因、解決ステップ、およびアプリケーションに関するオペレーション情報を含む一連のランブックで構成されています。エンベディングは計算され、類似検索をサポートするベクトルデータベースインスタンス (MongoDB Atlas Vector Search) に保持されます。
次に、ソリューションは Anthropic Claude を使用して、チケットの説明と、ベクトルデータベース内の一致によって提供される追加のコンテキストに基づいて、最も適切なチケット応答を生成します。考えられる対応としては、問題を解決するための指示の提供、詳細情報の要求、作業メモの作成と適切な二次対応のサポートチームへのチケットのルーティング、チケットのクローズ、システムが利用できないことのユーザーへの通知などが含まれます。ソリューションを強化するために、Enel はアプリケーションをホストしているシステムの動作ステータスを確認するための包括的なヘルスチェックを実装しました。
Enel は複数の国と言語にまたがって事業を展開しているため、このソリューションは生成 AI を翻訳にも活用し、ケースの作成に使用された言語を使用して依頼者とやり取りをします。
Enel は、Enel Digital Platform (EDP) に統合されたマイクロサービスを通じてソリューションを開発しました。EDP では、コンテナオーケストレーションに Kubernetes のマネージドサービスである Amazon Elastic Kubernetes Service (Amazon EKS) を使用しています。これらのマイクロサービスは、一連のバッチプロセス (インデックス作成プロセス) とトランザクションユーザーインタラクションプロセス (解決プロセス) という 2 つの主要なプロセスをカバーします。以下の図 1 に示すバッチプロセスは、Atlassian Confluence にホストされている Enel ナレッジベース (ランブック) からドメイン固有のデータを取得し、取得したデータをトークン化し(訳註:①)、エンベディングを生成し(訳註:②)、ベクトルデータベースインスタンス(訳註:MongoDB)にエンベディングを保存または更新します(訳註:③)。Orchestration Microservice は、インデックス作成バッチプロセスのさまざまなアクティビティをすべて調整します(訳註:④)。
図 1: Enel Digital Platform におけるインデックス作成バッチプロセス
トランザクションユーザーインタラクションプロセスを図 2 に示します。このプロセスでは、Enel が構築した ServiceNow を利用した連携機能を使っています。新しいチケットが作成されるとすぐに解決プロセスがトリガーされて、まずトークン化されます(訳註:⑤)。このトークン化されたチケットのテキストが Amazon Bedrock 経由で Amazon Titan Text Embeddings を使用して、エンベディングに変換されます(訳註:⑥)。 前に説明したように、この初期段階では、ソリューションはビジネスアプリケーションのシステムヘルスチェックを実行します。ビジネスアプリケーションが正常に動作している場合、プロセスはベクトルデータベースから関連するコンテキストを取得し(訳註:⑦)、Amazon Bedrock 経由で Anthropic Claude を使用して解決応答を生成します(訳註:⑧)。生成されたテキストは ServiceNow のチケットに直接追加され、チケットは Runbook にリストされている解決手順に応じて、クローズされるか、ユーザーに返答されるか、適切な対応グループにルーティングされます(訳註:⑨)。Orchestration Microservice は、マイクロサービスやヘルスチェックなど、インタラクティブな解決プロセスのさまざまなコンポーネントをすべて調整します(訳註:⑩)。チケットリクエストのテキストが英語でない場合、このプロセスはさらに複雑になります。この場合、解決プロセスがトリガーされるとすぐにチケットのテキストが翻訳され、解決応答はチケット依頼者の言語で生成されます。
図 2: Enel Digital Platform におけるインタラクティブな解決プロセス
ビジネスの成果
サービスデスクのチケットに対する生成 AI を活用したチケット解決の実装が成功した後、Enel は、ケースの解決に必要な時間が 1 日から 2 分未満に短縮されたことを確認しました(注記 1)。さらに、実装されたソリューションにより、チケットの約 15 % が人手を介さずに自動的に解決され、ユーザーへの初回応答に必要な時間が 9 時間から 1 分に短縮されました(注記 2)。これらの結果は Enel の期待に沿ったものであり、同社が次の目標とする、ソリューションの改良とより広範なビジネスアプリケーションポートフォリオへの拡張を後押しします。
長期的な目標
Enel は将来を見据えて、Amazon Bedrock を自社のプラットフォームにさらに深く統合することで、FM と大規模言語モデル (LLM) の使用を既存および将来の製品に拡大する予定です。
“Enel では、効率性の追求はプロセスの合理化とスタッフの生産性の向上から始まります。この取り組みに沿って、私たちは Amazon Bedrock の力を利用して、生成 AI を活用した支援機能のサービスサポートプラットフォームへの統合をテストしました。暫定的な結果から、ケースの解決に必要な労力の大幅な削減に向けた有望な道筋が示されました。” と Enel の ICT Industrial Delivery 責任者である Fabio Veronese 氏は述べています。
結論
この投稿では、エネルギー業界の大手企業である Enel が、生成 AI と Amazon Bedrock を活用して既存の確立された手動プロセスを最適化し、人的労力を軽減しながら主要業績評価指標 (KPI) を改善する取り組みについてご紹介しました。生成 AI を使用してプロセスを最適化し、既存のアプリケーションを変革する方法の詳細については、Amazon Bedrock をご覧ください。
注記
1. この結果は、生成 AI によって完全に解決されたチケットのみを対象としています。
2. これらの結果は、最初のサブセットとして選択された 3 つのアプリケーションに対するチケットについて計算しています。
本記事は、ソリューションアーキテクトの宮城 康暢が翻訳しました。原文は「Improving staff productivity at Enel using Amazon Bedrock」を参照してください。