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デジタルトランスフォーメーションのゴールを明確にするためのメンタルモデル パート2
このブログは、”Mental Models to Clarify the Goals of Digital Transformation, Part 2” を翻訳したものです。
前回のブログでは、デジタルトランスフォーメーションという言葉を理解しようとするのではなく、ビジネスの進め方における8つの新しいメンタルモデル(向き合い方や価値観)について考えていこうと提案しました。そのブログでは最初の4つのメンタルモデルについて取り扱ったので、ここでは残りのものを取り扱います。
モデル 5: データ駆動型
残念ながら、このメンタルモデルは、多用されたことによって急速に無意味な言葉になってしまいました。しかしながら、大きな変化が起きていることも事実です。かつてはトランザクション(1つ以上の一連の処理の塊)を実行するために構成されたデータベースの中にデータが閉じ込められていたため、限られた運用レポートや分析しかできませんでしたが、現代では、広範な分析のためにデータは解放され、音声やビデオなど従来とは異なるタイプのデータも加わってきています。そして、新しく強力な方法で分析を可能にする機械学習などのツールも利用できる状況になっています。
組織は、顧客サービスの改善、新しい収益機会の特定、コスト削減、そして、創造力や直面するビジネス上の課題、機会に左右されますが、考えられる限りのあらゆる目的で、データを活用することができます。その結果、企業の持つデータの価値は幾何級数的に大きくなりました。
しかしながら、データが多くなればなるほど、データを誤解する可能性も高くなります。真のデータ駆動型企業は、データから推論(予測や洞察)を導き出すために専門的なアプローチを用いており、そのためデータサイエンスのスキルが非常に重要になってきています。人間の洞察は、デジタルの世界でも依然として重要(おそらくアナログの世界に比べてもさらに重要)であり、データから得られる洞察だけでなく、さらなるデータを収集することによって検証される洞察が重要なのです。
また、データへの関心が高まるにつれてデータの管理方法に関する技術的な疑問も生じてきています。リレーショナルデータベースがデータを保管する最良の方法なのか?、データと分析に使用するツールにどのようにプライバシーコントロールを組み込めばよいのか?、データベースなどの資産に財務的価値をどのように結び付ければよいのか?、適切なアクションの実行につなげるために膨大な量のデータをどのように迅速に処理すればよいのか?といったことです。
このメンタルモデルにおけるデジタルトランスフォーメーションとは、データの収集、保管、分析というだけに留まらず、効果的にデータを活用する術を学んでいくことを指しています。
モデル 6: レジリエンス(回復力)の向上
デジタルの世界は、常につながっている世界であり、そのためには情報システムは平常時あるいは災害時でも、おおよそ100%利用可能であることが求められています。これは、色々な意味合いでデジタルトランスフォーメーションと呼ぶ、あらゆるものの基盤となります。企業におけるテクノロジーは、社員の誤った操作やハッカーによる攻撃、ウェブサイトのトラフィック急増などの日常の問題に耐えるだけでなく、パンデミックや洪水などの危機にも耐えなければなりません。
継続的な可用性に対する期待は、ITなしには企業運営ができないと言えるほどの企業運営におけるITシステムの重要性の高まりや、サービスが常に利用できることに対する多くの人々の期待の高まりから来ています。情報サービスは、もはや営業時間の間だけで利用されるものではなく、消費者がスマートウォッチに目を向けるたびに利用されると言ってよいほど、複数のタイムゾーンでグローバルにビジネスが行われる世界において24時間、常に利用されます。「すみません、システムがメンテナンスのためダウンしています。数時間後にもう一度確認してください」という時代は終わり、「おっと、それはバグです。 バグ追跡システムに入力していただければ、将来のリリースで対応します」という時代になったのです。
システムは常に稼働しており、常に接続されているため、常にハッカーの標的になっているとも言えます。デジタルサービスにとって攻撃を受けることは自然なことです。セキュリティは、レジリエンスと同じように、あとから追加するものではなく、設計上の考慮事項や品質の考え方として最初から実装されるべきものです。
デジタルトランスフォーメーションは、停電に対して脆弱であることを許されない社会インフラと同じように、情報サービスを常に利用可能にしていくことを意味しているのです。
モデル 7: 将来への備え
デジタルトランスフォーメーションは、未来の需要に対応できるようにすることでもあります。未来について最も注意すべき重要なことは、それが未知であるということです。知らないことが何かを知らないように、どんなに理解していると思っていてもおそらく驚くことになるでしょう。デジタルトランスフォーメーションとは、未知のものに対処するために組織的に備えることを意味します。競合他社の価格変更や新製品の導入、消費者行動の変化、英国のEU離脱(Brexit)、貿易戦争や実際の戦争、法律・法令の急増など、予期しないことが起こった場合、それに対処する準備はできていますか? あなたの会社は、混乱を乗り越え、新しい競争環境に適応する姿勢をとれていますか?
デジタルの世界において将来に備えるための鍵は、俊敏に、素早く、柔軟になることです。これらの言葉は、使いやすい言葉を選んで使っていただければよいです。私にとって俊敏性とは、適切に、迅速に、安価に、そして低リスクに、変化に対応できる能力です。多くの企業は俊敏になるための準備ができていません。自らの今の形を変える必要があるのです。例えば、ITに関して言えば、古いレガシーシステムを置き換え、クラウドに移行し、技術的負債を減らし、新しいスキルを習得する必要があるかもしれません。また、ガバナンスや投資の監査プロセス、組織構造、文化を変える必要があるかもしれません。
このメンタルモデルは、驚くべき未来に組織が対処する準備を整えるプロセスとして、デジタルトランスフォーメーションを捉えるということを意味しています。どのように使われるか分からない機能に対して投資することは、気持ちが悪いものだと思います。しかしながら、現実的な選択肢に投資するだけでなく、スピードと柔軟性を持って未来を創る無形の能力へ投資するという異なる投資戦略が必要なのです。
モデル 8: 未来の企業創生
デジタルトランスフォーメーションは、現在のビジネスのあり方に加わる要素ということだけでなく、違った観点でビジネスとは何かを理解する道のりでもあります。それは恐ろしく複雑に聞こえるかもしれませんが、日々の取り組みやビジネス戦略の策定において、大きな変化が必要という意味ではありません。
これまで挙げてきたデジタルトランスフォーメーションにおける7つのメンタルモデルをすべてまとめていきます。望むだけ速く動くことができ、イノベーションの急速な流れを実現でき、膨大な量のデータを効果的に活用でき、止まることなくいつでも利用できるとしましょう。また、根本から物事を変える新しいテクノロジーがあり、それがもたらす、すべての変化をまだ誰も知らないとしましょう。そして、これは競合他社も同じだとします。
これは、どの企業も競合他社に対して真の優位性を持つことが不可能な、コモディティ化された超効率的な市場に存在しているということを意味するでしょうか?私はまったく逆だと思っています。 すべての企業が簡単にイノベーションを起こせるからといって、同一のイノベーションが起きるとは限りません。企業は様々な異なった分野にフォーカスし、顧客サービスや価格を強調する企業もあれば、これまでと同じような競業上の立ち位置を維持する企業もあるでしょう。ペースの速い環境でこういった決定を下す唯一の方法は、原則、価値観、信条について事前に合意しておくことです。
こういった世界は、まさに芸術の世界のようなものです。文学の世界で言えば、作家は常に他の作家の影響を受け、アイデアを借り、学び、教師や聡明な先人を見習おうとします。イェール大学の評論家であり、学者でもあるHarold Bloomは、「The Anxiety of Influence」(影響の不安)というテーマに関する本さえ書いています。しかしながら、これらの影響にも関わらず、偉大な作家はそれぞれユニークです。同じことが絵画の世界にも当てはまります。それぞれの画家は芸術史の一部ともいえ、過去の画家や当時の社会的風潮の影響を受けています。
デジタルの世界は、新規スタートアップの参入障壁を下げるだけでなく、既存企業が創造性を発揮するための障壁も低くしています。便利な世界になったと、または少なくともそういった方向に向かっていると考えてください。ツールはそれほど重要ではなく、社員の心と顧客が繋がることが大切なのです。芸術家と同じように、企業も歴史、競合他社、社会環境の影響を受けます。そして、芸術家と同じように、それぞれの企業は異なる戦略と異なる製品、顧客に対する異なる価値訴求を生み出していくのです。
ある意味で企業の「個性」と言える、それらの違いはどこから来るのでしょうか?雇った人材、掲げている価値観や原則、現実世界における強み、選んだ市場もあるかもしれません。ただ、おそらく最も重要なのは、組織の創造力がメンバーの創造力の合計を超えるような、多様なチームを形成する能力だと思います。
あなたは、こういった新しい変化を既に目の当たりにしているでしょう。企業は、(すべての社員をランク付けする客観的な物差しがあるかのように)「最高の」人材を惹きつけるのではなく、調和でき、情熱と多様性を備えた適切な人材を惹きつける必要があることをますます認識しています。
まとめ
デジタルトランスフォーメーションは、様々なことを意味するため、一意に定めることが難しい言葉です。この2つのブログでは、人々がデジタルトランスフォーメーションについて異なった切り口で話したり書いてきたことを理解しやすい8つのメンタルモデルとして提示しました。
1. スピードの向上
2. デジタルテクノロジーの活用
3. デジタルインタラクション
4. 顧客中心
5. データ駆動型
6. レジリエンス(回復力)の向上
7. 将来への備え
8. 未来の企業創生
これらのメンタルモデルひとつひとつが、デジタルトランスフォーメーションについての考え方と言えます。すべて実践と組織文化に基づいていますが、異なる目標に焦点を当てています。
デジタル企業とは、素早い企業であり、デジタルテクノロジーを活用して、顧客とのデジタルインタラクション(デジタルを活用した相互作用や交流)を実現しています。デジタルインタラクションを通じて顧客と親密になり、確かなデータを用いてアイディアの検証を行なっています。そして、その俊敏さ故に予期せぬ事態にも対処することができます。また、待つことを好まない顧客とのやりとりが決して終わらないことを理解しています。そういったあらゆることを踏まえ、競合他社も同様ですが、今、我々は「変革」から生まれる企業の新しい在り方について考えようとしているのです。
このトピックの詳細
デジタルトランスフォーメーションのゴールを明確にするためのメンタルモデル パート1, Mark Schwartz
Digitally Transforming What Exactly?, Phil Le-Brun
Mental Models for Your Digital Transformation, Joe Chung
Tuning Up the High-Frequency Enterprise, Phil Potloff
The Future of Faster Enterprises, Miriam McLemore
翻訳はカスタマーソリューションマネージャーの田代 靖貴が担当しました。原文はこちらです。