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株式会社タイミー様の AI-DLC Unicorn Gym 開催レポート: 全社横断で挑む開発生産性の変革
本稿は株式会社タイミー様と AWS Japan の共同執筆により、AI 駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)Unicorn Gym の実践を通じて得られた学びと今後の取り組みをお伝えするものです。
はじめに
株式会社タイミー様(以下同社)は、スキマバイトサービス「タイミー」を展開しているスタートアップ企業です。同社では個々のチーム/エンジニアが独自の方法で AI を活用し生産性を高めている一方で、次のステップとして組織全体でどう活用していくかが課題となっていました。
この課題に対して、同社と AWS は 2026 年 1 月 26 日から 28 日の 3 日間にわたり、AI-DLC Unicorn Gym を共同で実施しました。AI-DLC は、要件定義からリリースまでの開発プロセス全体に AI を深く組み込むことで、従来のアジャイル開発を大幅に加速する開発手法です。本記事では、その実践から得られた成果と学びを共有します。
AI-DLC の詳細については、AI-DLC のホワイトペーパーと日本語の解説ブログをご覧ください。
これまでの課題
同社では、すでに多くのメンバーが AI ツールを活用していましたが、その活用は個人レベルにとどまっていました。各自が独自の方法論を編み出し、それぞれのやり方で生産性を高めていたものの、組織全体として最適化できているとは言えない状況でした。
特に以下のような課題が顕在化していました。
まず、チーム間での開発手法のばらつきです。個々人もしくは特定チーム個別でAI最適化をしているが、組織的な最適化ができていませんでした。
次に、既存コードベースへの AI 適用の難しさです。事業成長とともに大きくなったコードベースに対して、AI がどこまで有効に機能するのか、手探りの状態でした。
これらの課題を解決し、組織全体での AI 活用を加速させるため、同社は AI-DLC Unicorn Gym への参加を決定しました。
AI-DLC Unicorn Gym の実施内容
今回の AI-DLC Unicorn Gym では、同社から 11 チーム、約 69 名のメンバーが参加しました。参加者の構成は、エンジニア(Backend、Frontend、Mobile、データエンジニア)、PdM、デザイナー、QA、EM/GM と多岐にわたり、職種を超えた会社横断的な取り組みとなりました。各チームは実際にプロダクション環境に搭載予定の機能をテーマとして持ち込み、開発に取り組みました。
以下は各チームの取り組み内容と成果の一部です。
| チーム名 | 取り組み内容 | 参加者構成 | 成果 |
|---|---|---|---|
| A | モバイルアプリ機能追加 | Mobile、Backend、Design、PdM、その他(計 7 名) | デモ環境へのデプロイ、Unicorn Gym 実施翌週にリリース |
| B | 自然言語での分析エージェント | データエンジニア、EM/GM(計 4 名) | ステージング環境での動作確認 |
| C | コスト算出パイプライン | データエンジニア、PdM(計 5 名) | ステージング環境での動作確認 |
| D | アップロード画像の OCR | Backend、Frontend、QA、PdM、EM/GM(計 6 名) | MVP 構築完了 |
| E | 新規画面追加 | Backend、Mobile、Design、PdM、その他(計 7 名) | デモ環境へのデプロイ |
| F | マッチングアシスト機能 | Backend、Mobile、PdM(計 6 名) | MVP 構築完了 |
| G | 既存機能のサブシステム化 | Backend、QA、EM/GM、その他(計 6 名) | MVP 構築完了 |
| H | アカウント管理機能 | Backend、Frontend、QA、PdM(計 8 名) | MVP 構築完了 |
| I | 既存機能の制約解除 | Backend、QA、PdM(計 6 名) | プロダクション環境へのデプロイ |
| J | 既存機能改修 | Backend、Frontend、Design、PdM(計 9 名) | デモ環境へのデプロイ |
| K | 既存システム改修 | Backend、Mobile、Design、PdM、EM/GM(計 6 名) | ステージング環境での動作確認 |
AI DLC を通した開発生産性向上に関して、参加者の 5 段階評価のアンケートから得られた同社における示唆は以下の通りです。従来の開発方法と比較して改善効果を感じた方は、Inception フェーズで平均 4.16 と高い値であった一方、Construction フェーズでは 3.30 という結果を得ました。
この結果は、Inception フェーズでモブワークや AI との対話によって要件を決める速度/精度が向上した一方、Construction フェーズではすでに個々人の AI Agent 活用の最適化が一定程度進んでいたため、Inception と比較して低いアンケート結果となったのではないかと考えています。また、今回は既存プロダクトへの追加をテーマとしていましたが、新規開発/既存機能への追加/リファクタリングなど、開発対象によっても Construction フェーズによる開発生産性への貢献度が変わると考えています。
AI-DLC Unicorn Gym からの学び
3 日間の実践を通じて、多くの貴重な学びを得ました。参加者のフィードバックから AI-DLC の知見を共有します。
モブワークの効果と課題
AI-DLC の特徴の一つは、複数人が同期的に作業を進める「モブワーク」です。今回の Unicorn Gym では、オフラインでの同期的作業の効果を強く実感しました。
参加者からは「モブワークが濃密で、チームの結束が上がった」「普段からやっていることと対して変わらなかったが、オフラインで集まることで議論が加速した」という声が上がっています。チーム間の結束力が向上し、組織全体の一体感が生まれました。
一方で、課題も明確になりました。最も多く挙がったのが、体力的な負荷の高さです。「常に脳をフル回転させ続ける必要があり、大きな疲労感を伴う」「めちゃくちゃ疲れた」という声が複数ありました。また、同社はフルリモート環境を基本としているため、「同時に一人しか話せないのでオンラインでのモブワークが難しそう」という指摘もありました。
今後は、オンライン環境に最適化したプロセスの構築や、疲労マネジメントへの対応が必要となります。
職種を超えたコラボレーション
AI-DLC のもう一つの特徴は、PdM、デザイナー、エンジニアが同期的に作業を進めることです。従来の非同期なプロセスでは、PdM がビジネス要件を詰めて開発に調査を依頼し、フィードバックを待つ必要がありました。AI-DLC ではその場で技術的な実現可能性を確認しながら要件を詰められるため、リードタイムが大幅に削減されました。
特に Inception フェーズでの多職種参加の効果が顕著でした。参加者からは「普段なかなか開発レビューを見る機会が少なかったので、どんな風に開発を進めていくのかが大きな学びになった」「PdM として Inception の中の、特にユーザーストーリー作成の部分を参考に取り入れてみたい」という声が上がりました。
一方で、Construction フェーズでは役割分担の最適化が課題となりました。「作業が本格的なコーディングフェーズへ移行すると、エンジニア以外のメンバーがプロセスの詳細を追いきれず、議論から距離ができてしまう状況も発生した」という指摘がありました。フェーズごとに適切な参加メンバーを調整する必要があることが明確になりました。
参加者の声
ポジティブな声
AI を中心にすることで人間のファシリテーションを不要にできる兆しを感じました。Inception フェーズで AI が人間に問いを投げて『人間は意思決定に集中する』という経験ができたのが貴重でした
モブワークが濃密で、チームの結束が上がった。全体的な話で、同期的に集まって開発することが組織としてもほぼ初めてだったが、概ね好評のように感じたし、組織・チームの結束が上がるのがわかった
AI の並列性と、ユーザーストーリーに対する AI がフォローしてくれるやり方が素晴らしい
課題として挙げられた声
既存システムの仕様調査に時間がかかった。既存のコードがあまり綺麗じゃなく設計思想があまりない状態なので、その上で開発させるのが難しそう
コンテキストの分散、属人化のリスク。PO のみが持っているコンテキストが多かった
体力的な負荷が高い。常に脳をフル回転させ続ける必要があり、大きな疲労感を伴う
今後の取り組み
AI-DLC Unicorn Gym で得た知見を単なる体験に留めず、実務へ還元していくために、同社では以下の取り組みを検討しています。
組織への展開
各チームでの AI-DLC 適用を推進していきます。各チームが行った AI-DLC で良い取り組みがあれば、社内でナレッジシェアをしてより良い方法に洗練化していきます。実際に、参加チームのうち 7 チームが Unicorn Gym を実施した次の週から更なる精錬化/施策として AI-DLC を実践しています。
また、同社はフルリモート環境を基本としているため、オンライン環境に最適化したプロセスの構築が重要な課題となります。「オンラインでのモブワークが難しそう」という声を踏まえ、リモート環境でも効果的に AI-DLC を実践できる方法を模索していきます。
ナレッジの蓄積と共有
AI-DLC の効果を最大化するためには、AI が参照できる形でのナレッジ蓄積が不可欠です。Docs-as-Code の推進により、ドメイン知識をドキュメント化し、AI が常に最新の設計方針や規約を参照できる状態を整えていきます。
「コンテキストの分散、属人化のリスク」という課題に対応するため、AI が参照できる共通ガードレールの整備を進めます。これにより、チーム内/間でのナレッジ共有が促進され、組織全体の開発効率が向上することが期待されます。
まとめ
今回の AI-DLC Unicorn Gym を通じて、同社は個人レベルの AI 活用から組織レベルの活用へと大きく前進しました。3 日間で 全てのチームが MVP を実装しました。加えて、一部チームでは、ステージング環境やプロダクション環境へのデプロイ、リリース計画に取り入れました。
一方で、既存コードベースの複雑さ、オンライン環境での適用、疲労マネジメントなど、実務適用に向けた課題も明確になりました。これらの課題に対して、同社は継続的な改善と適応により、さらなる生産性向上を目指していきます。
AI-DLC は単なるツール導入ではなく、開発プロセスそのものを再設計する取り組みです。この学びを社内に展開し、より多くのプロジェクトで AI-DLC で得た経験や考え方を取り入れ、タイミー様の更なる開発文化の洗練化に貢献できることを願っています。

鈴木 大樹 (Daiki Suzuki) はAWS Japan のソリューションアーキテクト。データベース領域を得意としており、主に toC 向けのサービスを行っているお客様を支援している。


