AWS Startup ブログ
【連載】8年連続参加で事業が生まれた。re:Inventを「会いに行く場」に変えたCEOの戦略
AWS Startup ブログでは、AWS re:Invent に実際に参加されたスタートアップのリアルな声をお届けするシリーズを掲載しています。今回は、前職時代から数えて計8回のre:Invent参加経験を持つアンチパターン CEO の小笹氏にお時間をいただき、AWSスタートアップチームの桑原と植本がお話を伺いました。
*本記事は、2026年7月に実施したインタビューをもとに構成しています。
会社紹介 ― 株式会社アンチパターン
「日本のソフトウェアエンジニアは憧れの職業へ」を理念に掲げ、2019年7月に創業。IT企業のプロダクト作り・ソフトウェア作りを支援する「SaaS Platform」事業と、エンジニア組織づくりを支援するダイレクトリクルーティングサービスや実技試験サービス「CloudDriver」などを展開。
話し手プロフィール
- 小笹 氏:代表取締役 CEO。2016年の初参加以来、前職時代を含めて通算8回のre:Invent参加経験を持ち、現地での出会いから複数の事業パートナーシップを構築してきた”re:Inventをビジネスに変える”実践者。
前職時代からの参加 ―― 最初のきっかけは「世界の最先端を見に行け」
桑原: 小笹さん、本日はよろしくお願いします!re:Invent にはこれまで何回参加されているんでしょうか?
小笹: 前職の時代から数えると、もう合計で8回ほどになりますね!一番最初は2016年です。当時、前職でエンジニア組織を内製化して一気に拡大していくフェーズで、当時の上司が「若手を海外に送り込んで、世界の最先端を見て刺激を受けてくるべきだ!」と言ってくれて、僕が行くことになりました。
当時は日本リージョンができてまだ数年で、「本当にAWSにコミットして大丈夫か?」という懐疑的な空気もまだ残っていた時代です。元々はEC2ベースで組んでいたアーキテクチャから、マネージドサービスを使ってモダン化していこうという方針に切り替わったタイミングでした。進化のスピードに取り残されないように世界の最先端を学んでこいという教育的な目的でしたね。
衝撃的だった「巨大トラック」のステージ乱入とカルチャーショック
当時はシアトルツアーがあり、Amazon本社で「Working Backwards」の考え方や企業文化を直接叩き込まれました。「Amazon Freshが日本に上陸するぞ!」と話題になっていた時代ですね(笑)。
さらに基調講演で「Snowball Edge」が発表された瞬間、ステージ袖から本物の大型トラックが「ガガガガッ!」と爆音を立てて突っ込んできたんですよ!派手な音楽と地鳴りのような歓声に包まれて、「クラウドのイベントで本物のトラック走らせるのかよ!?」って、アメリカのスケールの大きさに全身の鳥肌が立ちました。
10年で変わったこと ―― インフラの熱気から「ビジネスを生み出す場」へ
植本: 最初の参加から約10年。re:Invent の空気感やテーマはどう変化したと感じますか?
小笹: 昔はもっと「エンジニアエンジニア」していた熱気がありましたね。Netflixがカオスエンジニアリングを熱弁していたり、レイテンシーやネットワーク接続、大阪リージョンができる前のBCP対策のセッションで熱く議論したり。一緒に行っていたのもネットワーク系のエンジニアが多い印象でした。
それがここ数年で一変しましたね。AWS Marketplaceの活用や「どうビジネスを作るか」「どうプロダクトをグロースさせるか」というアプリケーション・ビジネスレイヤーの話がより強くメッセージングされるようになった。単なる技術のキャッチアップの場から、「グローバルビジネスが交差する場」へと進化したんです。そういう意味では、CEOや事業責任者として参加する価値が以前よりも格段に高まっていると感じます。
re:Invent で生まれた事業 ―― 現地での出会いがビジネスに直結
植本: CEOとして参加する中で、具体的にビジネスに結びついたエピソードはありますか?
小笹: かなり大きく変わった部分ですね!まずAWSのSaaS Factory (AWS上でSaaSビジネスを構築するパートナー企業を技術とビジネスの両面から支援するプログラム) チームとはラスベガスで直接膝を突き合わせ、「日本におけるSaaS化がアメリカほど進んでいない現状をどう打開するか」を議論し、プログラムへのフィードバックも直接行いました。
また、グローバルパスポートプログラムでAWS目黒オフィスでお会いした外資系のコンサルティング会社の方に、re:Inventのホテルの部屋で個別にセッションしてもらったことがきっかけで今も強い関係が続いています。そういった深いご縁もあり銀座のバーで日本法人設立のお祝いパーティーをやったりもしましたね(笑)。
ホテルのラウンジ、30分の立ち話から始まったパートナーシップ
直近では、AWS MarketplaceとCRMをつなぐプロダクトを展開するシアトルベースの企業との出会いがありました。AWSの方から「アンチパターンさんがいいんじゃないか」と紹介していただいて、「現地で会えればミーティング組んであげてください」と言われたので個別連絡して会いました。
混雑する現地で5分〜10分ほど立ち話をして、「日本市場は大きいから進出したい」「じゃあ一緒にやろうか!」と意気投合。帰国後に正式にパートナーシップを結び、今一緒に事業を進めています。
桑原: ただ単に行くのではなく、これまでの活動の延長線上にre:Inventがあって、現地で「じゃあ会おうか」という流れがストーリーとしてつながっている感じですね。
小笹: まさにそうです!直接的に影響できる範囲がグローバルに広がった感覚ですね。周辺の人たちからも「今年re:Invent行くの?」と声がかかって、「行くよ」と言うと向こうから会いたいと言ってくれる。もはや情報収集に行くのではなく、「世界中のキーマンに会いに行く場」になっています。
費用対効果 ―― 100万円かけても元は取れる理由
植本: 1人100万円近くかかる費用に悩む企業も多いですが、それでも行ってよかった理由は何でしょうか?
小笹: 自分のロールで言えば「出会い」が一番ですが、送り出す経営視点で言っても余裕で元が取れます。一番大きいのは「参加者のスクリーニング(質の高さ)」です。
re:Inventに来られる人って、社内で厳選されたトップエンジニアや、予算の承認を得られる事業部長・CTOクラスの意思決定層ばかりなんですよ。「CTO of the Year」の優勝者が無償チケットで行くのもそうですし、普段はローカルのイベントに足を運びにくいマネージャー職やVIP層が、Tシャツ姿で平然と会場を歩いている。国内のイベントよりも圧倒的にネットワーキング相手の質が高く、1対1で深い話ができる。費用がフィルターとして機能しているんです。
「ジュークボックス」と「Apple Music」―― 現地でしか得られない偶発的な学び
桑原: 「オンラインの録画配信で十分では?」という意見もありますが、現地に行く本質的な意義についてはどうお考えですか?
小笹: 面白い例えなのですが、「ジュークボックスとApple Musicの違い」だと思っています。
Apple Music(オンライン検索)だと、自分で選んで聴くから結局大学生の時に好きだったバンドで固定されてしまいがちです。新しいものを受け取る認知コストって年々上がっていくので、実は好きなものしか聴けていないんです。他にもYouTubeであっても検索した瞬間に自分の好みのフィルターがかかってしまうことになります。
一方、現地のジュークボックスは勝手に知らない曲が流れてくる。キーノートは網羅的に話されるし、空き時間を埋めるために関心度がやや低いセッションにも入る。すると「あ、これうちのSaaSや別事業に応用できるじゃん!」と、一見関係なさそうな事柄が紐づいて雷が落ちるような気づきが生まれるんです。リアルな場には、コンフォートゾーンから強制的に出させてくれる力があります。
英語の壁 ―― 「行く」と決めてから焦って学ぶ
植本: 英語が心配で参加を迷っている方に、アドバイスをいただけますか?
小笹: リスニングはまあまあできますが、発話は全然得意じゃないです。翻訳アプリを使ったり、知っている英語を組み合わせたりして現場で頑張っています。でも、喋る機会がないと人は絶対に学ばない。だから「行く」と決めてから焦って学ぶくらいがちょうどいいと思います。締め切りがないと頑張れませんから。
AWS CEO マット・ガーマン氏との冷や汗体験
実は日本のイベントではありますが、AWS CEOのマット・ガーマン(Matt Garman)と対面でお話しした時、私の英語力が足りなくて熱弁したものの伝わりきらず、「ごめん小笹、言いたいことはわかるから、後で僕にメールしてくれ!」と言われて会話が終わったんです(笑)。
で、その日の夜に魂を込めた長文メールを即送ったら、マットさんが本当に対応してくれて、トップダウンで日本の課題が速攻で動き出した!英語が拙くても、直接対面して熱量を見せたからこそ起きたことです。
送り出した社員の変化 ―― ジュニアチャンピオンからトップエンジニアへ
桑原: 昨年は御社から何名参加されましたか?
小笹: 昨年は私含めて3名、今年は4〜5名で行く予定です。昨年送り出したメンバーの変化は凄まじかったですね。
当時「Japan AWS Jr. Champions」として参加した若手エンジニアは、現地でAWSアンバサダーの方々に凄く可愛がられて色々なところに連れ回してもらった結果、完全に目つきが変わりました。帰国後猛勉強して、今年見事に「AWS Top Engineers」を獲得したんです。「次はアンバサダーを獲りに行きます」と力強く宣言してくれています。
もう一人は事業開発寄りのロールで、AI活用のセッション等に参加してもらいました。その刺激が会社全体へのAI活用推進や、いくつかの新規事業アイデアの立ち上げにつながっています。
re:Invent の歩き方 ―― 事前の仕込みとチャレンジ精神
桑原: 8回参加された経験から、これから参加する方へのアドバイスをお願いします!
- 技術者の方へ:食わず嫌いをせずに録音・録画のない「チョークトーク」や「ワークショップ」に泥臭くチャレンジしてほしい。後で動画を見られるセッションだけ行くと「動画でよかったんじゃない」と言われてしまいますから。
- 事業開発の方へ:事前にアポを取ることを強くお勧めします。会いたい人に「紹介してもらえないか」と相談したり、お客様に「re:Invent行きますか?」と聞く。仮に行かないとなっても、「最近どう?」という会話のきっかけになる。re:Inventをマイルストーンとして仕込みをしていくのが大事です。
小笹: コンフォートゾーンの外に出る。居心地の悪いアウェイな空間に身を置くことでしか、本当の学びや成長は生まれません。re:Inventは、それを半ば強制的に体験させてくれる最高の舞台です!
桑原・植本: 小笹さん、リアリティと熱量あふれる素晴らしいお話をありがとうございました!