AWS Startup ブログ

【連載】絶望から始まった挑戦。社員8人だったCloudbaseがre:Inventに投資し続ける理由

AWS Startup ブログでは、AWS re:Invent に実際に参加されたスタートアップのリアルな声をお届けするシリーズを掲載しています。クラウドセキュリティプラットフォームを提供するCloudbase株式会社は、2022年にわずか社員8人のフェーズで初めてre:Inventへ参戦し、翌2023年には総勢6名のチームでラスベガスへ乗り込みました。今回はAWSスタートアップチームの井上と植本が「スタートアップがre:Inventへ参加する価値」についてCloudbaseの皆さまにお話をお伺いします。

*本記事は、2026年7月に実施したインタビューをもとに構成しています。

 

会社紹介 ― Cloudbase株式会社

Cloudbase株式会社は、2019年創業、東京に本社を置くスタートアップです。AWS・Azure・Google Cloudのマルチクラウド環境におけるセキュリティリスクを統合的に可視化・管理するクラウドセキュリティプラットフォームを提供しています。エンタープライズ企業を中心に導入が進み、大手企業やメーカーなど幅広い業種の顧客基盤を持ちます。シリーズAで累計約20億円を調達し、グローバル市場への挑戦を視野に急成長を続けています。

 

話し手プロフィール

  • 成瀬 真 氏:VPoE。re:Inventでの主なミッションは海外の最新トレンド・競合のブランディング調査、技術戦略のアップデート。
  • 谷口 洋斗 氏:VP of Strategy。re:Inventでの主なミッションはエグゼクティブとのリレーション構築、ビジネス開発戦略の策定。
  • 佐藤 琢斗 氏:Software Engineer。re:Inventでの主なミッションは最先端アーキテクチャのキャッチアップ、AWS開発チームとのディスカッション。
  • 本地 涼香 氏:テクニカルアカウントマネージャー(TAM)。re:Inventでの主なミッションは海外の最新トレンド視察、国内顧客へのナレッジ還元。

 

始まりは2022年。社員8人のスタートアップが下した「50%渡米」の決断

植本: Cloudbase様は、2023年のre:Inventに総勢6名という、創業期のスタートアップとしては異例の規模で参加されました。その原点となった2022年の「初参加」時は、さらに尖ったフェーズでしたよね?

成瀬: そうですね(笑)。2022年はちょうどコロナによる渡航制限が緩和された直後でした。スタートアップの関係者が集まる場で、投資家の方から「クラウドセキュリティの事業をやっているんだから、絶対に世界最先端のre:Inventに行った方がいい!」と熱く勧められたんです。

当時のCloudbaseは、まだ社員がわずか8人のフェーズ。商材的にもAWSと密接に関わる領域だからこそ、組織の中に「海外の最先端の情報を取りに行かなければダメだ」という強い共通認識がありました。

井上: そこからの意思決定のスピードが、まさにスタートアップですね。

成瀬: はい。会社としての承認フローなんて存在しない時代ですから、代表の岩佐も「絶対に行きましょう!」と即決。結果、8人中4人がラスベガスへ飛ぶという、今振り返ればとんでもない比率(50%)で参加を決めました。岩佐自身、それが人生初の海外だったんです。

予算は本当にカツカツでした。旅費を極限まで抑えるために、現地では1つの部屋のキングベッドに男3人で雑魚寝して1週間を過ごしました(笑)。時差の計算を間違えて、見たいセッションの1時間前に現地に滑り込むようなスタートでした。

植本: 佐藤さんご自身は、その「手探り状態」の初参加をどう振り返られますか?

佐藤: 本当に右も左もわからない状態でした(笑)。特に僕は当時英語にそこまで自信がなかったので、基本的には英語が得意な成瀬の後ろにずっとくっついて回っていたんです。現地スピーカーやブースの担当者への質問も通訳してもらいながら回っていたんですが、EXPO会場のスケール感や世界中のセキュリティ製品がズラリと並んでいる光景にはとにかく圧倒されました。

でもそこで「社内に1人でも英語ができる人がいれば、その人にくっついてチームで動くことで、英語力に不安があっても十分に最高の学びとキャッチアップができるんだ」と身をもって実感できたのは大きな収穫でしたね。

Cloudbase株式会社 佐藤 琢斗 氏(Software Engineer)
Cloudbase株式会社 佐藤 琢斗 氏(Software Engineer)

 

なぜVPoEの私が現地にこだわるのか。「風を感じる」ことの本質

井上: 2023年はさらに規模を拡大して6名体制で参加されました。VPoEの成瀬さんは、技術リーダーとしてあえて現地に足を運ぶ意義や、当時の手応えをどのように捉えていますか?

成瀬: 初めて行った時の感想を一言で言えば、「圧倒的な絶望」でした。僕たちは当時、まだ8人の小さなコミュニティです。しかしラスベガスに広がっていたのは、同じクラウドセキュリティのフィールドで、桁違いの規模で戦っているグローバルプレイヤーたちの姿でした。事業のスケールに完全に打ちのめされて日本に帰ってきたのを覚えています。

でも、だからこそ背中に火がつきました。「自分たちがやろうとしているところは、こんなに巨大な領域なんだ」と覚悟が決まったんです。

現地にこだわる最大の理由は、「これから世界で主流になる技術やビジネスの潮流、そして競合の圧倒的な熱量を五感でインプットすること」に尽きます。これがいわゆる、現地でしか得られない「風を感じる」ということです。

Cloudbase株式会社 成瀬 真 氏(VPoE)
Cloudbase株式会社 成瀬 真 氏(VPoE)

植本: 文字情報では絶対に伝わらない「熱量の解像度」ですね。

成瀬: まさにそうです。日本にいると海外の動向はテキストなどの「文字情報」でしか入ってきませんが、現地に立つと、キーノートで会場全体が沸き立つ瞬間や、どのブースに人が集まっているかという「生きたトレンド」を肌で感じられます。

さらに、グローバル市場で圧倒的なシェアとプレゼンスを誇る巨大な競合企業のブースを徹底的に現地視察できるのも大きいです。彼らが巨大な会場でどのような体験設計やブランディングを行っているのかを目の当たりにして、「最先端のマーケティング手法やプロダクトの魅せ方から徹底的に学ぼう」という強い視座を得ることができました。

弊社が業界最大級のイベント「Security Days Spring 2026」への大型スポンサー出展や工夫を凝らしたブース設計に踏み切れたのも、ラスベガスで本物の演出や熱量を体感していたからこそです。

 

得た熱量をそのまま日本へ。国内顧客への強力なナレッジ還元

井上: テクニカルアカウントマネージャーの本地さんは、その現地で得たインプットをどのように国内の業務へ還元されたのですか?

本地: 帰国後の年末に、既存のお客様向けに「ユーザー会向けre:Inventナレッジ共有会」を開催しました。Cloudbaseのお客様には、日本を代表するエンタープライズ企業様が多くいらっしゃいますが、大企業の皆様は予算や社内規定の兼ね合いから、現地に行けるのは選抜された数名だけというケースがほとんどです。

だからこそ、私から現地の熱気や移動距離のリアル、そして成瀬たちと一緒に肌で感じてきたセキュリティの最新トレンドをスライドでお伝えしたところ、約50~60名の顧客の皆様から「現地に行けなかったからこそ、こういうリアルな一次情報が一番ありがたい」と、凄まじく喜んでいただけました。お客様に現地の「風」をそのまま届けることで、信頼関係をより強固なものにできたと確信しています。

Cloudbase株式会社 本地 涼香 氏(テクニカルアカウントマネージャー)
Cloudbase株式会社 本地 涼香 氏(テクニカルアカウントマネージャー)

 

JAPAN NIGHTやAPJ NIGHTでの一体感。ラスベガスで大手企業との「商談」が動いた理由

井上: ビジネス開発を率いる谷口さんは、re:Inventという「技術カンファレンス」を、どのようにビジネスの成果(リード獲得や案件進捗)に変えたのでしょうか?

谷口: 一言で言えば、「日本国内では半年〜1年かかるエンタープライズのエグゼクティブとの関係構築と案件化を、わずか1週間で達成できた」ということです。 昨年、僕たちビジネス側のメンバーは、朝から晩までEXPO会場を回り、夜は「JAPAN NIGHT」や「APJ NIGHT」といったコミュニティイベントや交流企画に毎晩参加しました。

植本: 国内の通常の営業アプローチとは何が違うのでしょうか?

谷口: 日本国内のフォーマルな商談室では、大企業の役員や部長クラスの方とスタートアップの営業が本音でフランクに話すのは簡単ではありません。ですが、ラスベガスの熱気に包まれ、「最先端を求めてアメリカまでやってきた同志」という一体感がある場所では、同じテーマに関心を持って集まった場なので、立場を越えて率直に情報交換ができるんです。

Cloudbase株式会社 谷口 洋斗 氏(VP of Strategy)
Cloudbase株式会社 谷口 洋斗 氏(VP of Strategy)

実際に、国内トップクラスの大手企業のキーマンの方とも現地で深く繋がり、日頃のクラウド管理やセキュリティ運用のリアルな課題を本音ベースで伺うことができました。さらに、現地で意気投合した某大手企業様との商談は、帰国後すぐに一気にドライブし、すでに本番導入に向けた「トライアル(POC)」へと進捗しています。

6名で数百万の渡航費は、スタートアップにとって決して軽い投資ではありません。しかし、エンタープライズ企業の契約単価や、通常なら半年以上かかる営業リードタイムを考えれば、渡航費は十分に見合う投資だと考えています。滞在期間中に国内トップクラスの企業のエグゼクティブと直接つながれただけでも、大きなリターンでした。

 

先行トレンドを自社プロダクトへ。これこそが競合と差をつける最大のポイント

井上: 現場で開発を支えるエンジニアの佐藤さん、実際に現地でAWSチームとコミュニケーションをとってみて、どのような手応えを感じましたか?

佐藤: 現地では「Ask the Expert」などのエリアで、実際にサービスを開発しているAWSのエキスパートやエンジニアの方々と直接議論ができたのが一番の衝撃でした。

ホワイトボードを使いながら自社プロダクトのアーキテクチャの課題をぶつけ、彼らからダイレクトにアドバイスや開発のロードマップ、考え方を聞くことができたんです。僕たちのようなスタートアップのエンジニアが、世界最高峰の開発者と膝を突き合わせてディスカッションできるなんて本当に感激しましたし、「世界基準の潮流を自社プロダクトに組み込むための解像度」が一気に跳ね上がりました。

現地に行く前と後では、英語の一次情報やドキュメントに対する心理的ハードルも全く変わりましたね。

成瀬: re:Inventは、これから2〜3年後に日本へやってくるであろうビジネス・技術のトレンドが、最も早く形になって現れる場所です。2024年のre:Inventではちょうど生成AIやAIエージェントの波が一気に押し寄せたタイミングでした。現地でその熱狂を肌で体感したことで、「生成AIは確実に企業にとってコアな技術になる」と強く確信し、帰国後すぐに「生成AIを活用して圧倒的な業務効率化を実現する」を立ち上げられたのも、あの現地での体験があったからです。日本にトレンドが定着してから動くのでは遅い。世界基準の潮流をいち早く自社のロードマップに反映させ、競合と圧倒的な差をつける製品価値を高めていくことこそが、スタートアップがre:Inventに参加する真のROIだと思います。

 

迷っているなら、コンフォートゾーンを破ってラスベガスへ行こう!

植本: 予算の承認や社内調整に頭を悩ませているスタートアップの皆様へ、最後に背中を押すメッセージをお願いします。

谷口: 6名で数百万円は確かに数字だけ見れば大きな投資です。ですが、そこで得られる①大手企業様との案件の獲得と営業リードタイムの大幅圧縮、②競合や海外トレンドの先取りによるプロダクト価値の向上、③「世界に挑む企業」としての採用・ブランディング効果(エンジニアの夢の実現)まで含めれば、リターンはあまりにも大きいと言えます。

佐藤: はじめて参加するエンジニアの方は、会場の広さや情報量に圧倒されて手探りになりがちです。だからこそ「この技術課題だけは絶対に解決する」「このテーマだけは持ち帰る」という目的を事前に作っていくのが成功のコツです。英語に自信がなくても、話せるメンバーと一緒に「チーム戦」で臨めば何の問題もありません。ぜひ挑戦してほしいですね!

本地: 「英語が喋れないから…」「まだうちのフェーズには早いから…」とコンフォートゾーンに留まるのは本当にもったいないです。居心地の悪い空間、圧倒されるような巨大な空間に身を置くことでしか、スタートアップの本当の成長は生まれません。ぜひ、覚悟を決めて現地へ行き、あの熱量と「風」を感じてみてください!

Cloudbase株式会社 左から佐藤氏、成瀬氏、谷口氏、本地氏
Cloudbase株式会社 左から佐藤氏、成瀬氏、谷口氏、本地氏

 

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