AWS Startup ブログ
【連載】世界のスピード感に「ヒリつく」リアルな体験が、技術選定の解像度を爆上げする ――IVRyが体感したAWS re:Inventの投資対効果
AWS Startup ブログでは、AWS re:Invent に実際に参加されたスタートアップのリアルな声をお届けするシリーズを掲載しています。今回は、昨年末の「re:Invent 2025」に参加した対話AIプラットフォームを運営するスタートアップ・株式会社IVRyのエンジニア3名をお招きし、現地で得たリアルな「ヒリつき(熱量)」と、それが帰国後の技術選定にどう活きているのかをAWSスタートアップチームの桑原と植本が伺いました。
*本記事は、2026年7月に実施したインタビューをもとに構成しています。
会社紹介 ― 株式会社IVRy
株式会社IVRy(アイブリー)は、2019年創業の急成長スタートアップです。電話自動応答から始まり、現在はAIを活用した対話AIプラットフォームへと進化。電話やチャットによる顧客応対業務を効率化するとともに、対話データを活用し、企業と顧客のコミュニケーションをAIで革新するプロダクトを提供しています。累計60,000以上のアカウントが利用し、シリーズDまでにエクイティ・デットを合わせ累計151.1億円を調達。AI時代のコミュニケーション基盤として、急速に事業を拡大しています。
話し手プロフィール
- 町田 氏:Dialogue Groupに所属するSenior Engineering Manager。対話AIプラットフォームのリアルタイム対話開発を担う。昨年のre:Inventが初参加。
- 小宮山 氏:Platform & Infrastructure GroupのSRE Unitに所属するSoftware Engineer。プロダクト開発に深く入り込むエンベデッドSREとして開発をサポート。昨年のre:Inventが初参加。
- Sorah 氏:Platform & Infrastructure Groupに所属するPrincipal Software Engineer。前職時代を含めて過去に6回のre:Invent参加経験を持つベテラン。
re:Inventに行くべき最初の動機:「巨大すぎるスケール感」と「世界の開発速度」を肌で感じる
植本: 皆さん、昨年末はre:Inventへのご参加ありがとうございました!帰国されてから半年以上が経ちますが、今改めて、当時「行こう」と決めた最初のきっかけや、現地に期待していたことを振り返っていただけますか?
町田: わたしたちIVRyは、生成AIを活用したプロダクトを開発しています。当時、AWSをはじめとするビッグテックがLLMやエージェントの領域にどれほどの熱量でコミットしているのか、そしてこれからどの方向に技術が進むのかを、肌で感じたいというのが一番の動機でした。開発の意思決定をスピードアップさせるためにも、世界の最前線に直接乗り込んで解像度を上げる必要性を感じていました。
植本: 過去に6回の参加経験を持つSorahさんから見て、最近のre:Inventのスケール感や空気感はどう変化していますか?
Sorah: 一番驚くのは、「会場は集約されたのに、規模はむしろ拡大している」という点ですね。実は、わたしが最初に参加した頃のほうが、会場となるホテルの”数”は多かったんです。あちこちのホテルにセッションや展示がバラバラに散らばっていて、移動がとにかく大変でした。それが今では、いくつかの大きな会場にうまく集約されて、動きやすくなっている。にもかかわらず、参加者数もセッション数も年々増えていて、イベント全体のスケールは確実に大きくなっている。運営の洗練度が上がっているからこそ、規模の拡大を”渋滞”としてではなく”熱量”として体感できる――そこに、この数年の変化を強く感じます。キーノートの会場に入るだけでも長蛇の列で、街を歩いているだけで世界中のトップエンジニアとすれ違う。この圧倒的なスケール感の中に身を置くだけで、視座が強制的に世界基準まで引き上げられますね。
技術選定の幅が広がる:現地だからこそ生まれる「直感」と「偶発的な出会い」
植本: 小宮山さんは、SREの観点から初めてのre:Inventはいかがでしたか?
小宮山: 実はわたし、最初はそこまで具体的なイメージを持っていなかったんです(笑)。でも現地で触れた新機能が、帰国後の技術選定の引き出しとしてダイレクトに効いていまして。例えば「AWS Lambda Durable Functions」は、現地でハンズオンワークショップに参加して実際に手を動かしていました。
帰国後、音声データの処理基盤を作る際、元々はAWS Step Functionsで組む想定だったのですが、「そういえばre:Inventで触ったあのLambda機能なら、単体でもっとシンプルに複数ステップの長大処理が書けるのでは?」と思いつき、結果としてアーキテクチャの単純化と運用コスト削減を実現できました。
Sorah: その「一度触ったことがある」という体験は本当に強いですよね。ドキュメントを読むだけだと『本当に本番で動くのか?』と不安になって過去の慣れた構成を選びがちだけど、現地で触っていると迷わず最新機能を選択できるようになりますよね。
あと、現地ならではの『予期せぬ出会い』も面白いですよ。例えば、現地でGameDay(本番さながらのAWS環境で、チーム対抗でトラブル解決を競う実践型ハンズオンイベント)に参加する際は、現地でチームをその場で組成することが殆どですが、わたしは日本人や同僚同士でチームを組まないようにしています。業種も様々なエンジニアと会話しながら進めることができるのは国際的、かつ巨大なイベントならではだと思います。
桑原: 海外のエンジニアと現場で即席チームを組んで背中を合わせる体験!まさに現地に行かないと絶対に味わえない価値ですね。
Sorah: もう一つ面白かったのが、自分たちが使っているサードパーティSaaSの海外担当者との出会いです。実はそのベンダー、re:Inventの公式スポンサーではないのに、わざわざラスベガスのレストランを1軒丸ごと貸し切っていたんですよ(笑)。そこに顧客を集めてミートアップを開いていて、わたしたちも招待されてランチを共にしました。公式会場の外でも、街全体がそうした濃密な交流の場になっているのはラスベガスならではですね。
EBC(Executive Briefing Center)のやり切り方:スライドは捨てる。「1-pager」での白熱議論
植本: 現地での個別ミーティング(EBC)やAWS開発チームとのディスカッションでも、かなり深いやり取りがあったとお聞きしました。
町田: はい!わたしたちが現地でお会いした中に、偶然にもAmazonの対話型AIショッピングアシスタント「Rufus(※現・Alexa for Shopping)」の開発を主導されているコアメンバーの方がいたんです。わたしたちが進めている対話プロダクトのアーキテクチャについて、『今後エージェント思想に完全に乗っかるべきか、それとも応答速度を最優先にすべきか』という深い悩みをぶつけました。
彼らからは『速度や低遅延を最優先にするなら、現時点では必ずしもすべてをエージェントに寄せることが正解とは限らない』という、実体験に基づく極めてロジカルな見解をもらい、技術方針に強い確信が持てました。
桑原: 6回参加されているSorahさんから見て、こうしたAWS開発者やエグゼクティブとのディスカッションを成功させるコツはありますか?
Sorah: EBCなどでAWSの開発チームとディスカッションする予定があるなら、Amazonの文化で言う、『1-pager(A4用紙1枚のドキュメント)』に、自分たちの現状、アーキテクチャ図、そして聴きたい質問のポイントだけを凝縮して持っていくのが鉄則です。このあたりの文化を理解して1-pagerで準備をしておくだけで、現地のミーティングをより中身の濃い時間にしやすくなります。実際、わたしたちが案内されたミーティングスペースで、個室ではなくボックス席やバーカウンターのようなオープンな空間だったんです。そのカジュアルで距離の近い場所で、1-pagerを広げながら膝を突き合わせて議論できたからこそ、本音のフィードバックが引き出せたと感じています。
費用対効果と社内調整:「100万円の元を取る」ベテランのサバイバル術
桑原: ここからは、スタートアップの経営陣が最も気にする「1人100万円の投資対効果(ROI)」と社内調整について深掘りさせてください。
Sorah: 正直に言うと、100万円のROIを『帰国後すぐの数字』で証明するのは不可能です。経営陣に説明するなら、『帰国後半年〜1年かけて、技術選定のミスを防ぎ、プロダクトのアーキテクチャの質や開発速度としてじわじわ還元される中長期投資である』という前提を共有しておく必要があります。
その上で、現地で投資を最大化するためのわたしなりのサバイバルルールが3つあります。
- ブレイクアウトセッション(講義)には行く(※ただし録画されないものに限る)
一方通行の座学セッションは、数日後にすべてYouTubeに上がります。時差ボケと戦いながら現地で座って聴く必要はありません。 - ワークショップ・チョークトーク・GameDayに全振りする
録画・録音が一切残らない「双方向の議論」や「ハンズオン」の場に時間を使い、現地エンジニアやAWS開発者にその場で質問しまくること。 - 自社メンバーで同じセッションに被って入らない
複数名で行くなら、別々のセッションやEXPOブースに散らばり、持ち帰る情報量を分散・最大化させること。
桑原: 完璧な攻略法ですね!ちなみにIVRyさんでは、社内での承認や予算獲得はどのように行ったのですか?
Sorah: 代表の奥西にエンジニア経験があることもあり、re:Inventの参加には『エンジニアの成長や海外での刺激が、巡り巡って会社のプロダクト価値や採用につながる』という考えがありました。とはいえ予算が無制限というわけではなく、当初は5名で希望を出しつつ最終的に3名。経験者1名と初参加者、かつAIエンジニアとSREという別領域から出すように設計しました。特にレポート提出等は課していませんが、帰国後には自発的に全社エンジニア向けに各メンバー20分ずつの『熱量を伝える報告会』を実施しました。単なる新機能の箇条書き発表ではなく、『世界は今このスピードで動いている。俺たちもここを目指すぞ』というヒリつきを社内に伝播させたことで、組織全体の視座を上げる成果に繋がっています。
今年のre:Inventに向けて
桑原: 最後に、今年以降のre:Invent参加を迷っているスタートアップのエンジニアや経営者の皆さんに、一言メッセージをお願いします。
Sorah: 初めて行く人は、絶対に1回目では100%満足に立ち回れません(笑)。最初は広大すぎる会場と英語のスピードに圧倒されて終わるかもしれない。でも、その『サバイバルした体験』があるからこそ、2回目以降で本当の価値を引き出せるようになります。迷っているなら、まず1回行って打ちのめされてきてほしいですね。その価値は絶対にあります。
町田: 特に生成AIや先端技術の領域で戦うスタートアップであれば、世界基準の開発速度を肌で感じておくことは不可避だと思います。ぜひ早期割引などを活用して、ラスベガスへ飛び込んでみてください!
植本・桑原: 皆さん、貴重で熱いお話をありがとうございました!今年のre:Inventでも、IVRyの皆さんがさらに世界を驚かせるプロダクトのヒントを掴めるよう、AWSスタートアップチームとして全力でサポートさせていただきます!